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ながい窖

ながいあな

手塚治虫の読み切り漫画作品。短編集『空気の底』に収録されていたが、現在の印刷版では欠番(封印作品)となっている。
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注意書き編集

この漫画作品には、当時の時代背景をもとにして作られたフィクション作品です。ショッキングな描写や記述があるため、閲覧する際は自己責任でお願いします。


概要編集

手塚治虫氏が、戦後の日本社会を背景に、在日朝鮮人(帰化朝鮮人)の大企業専務の男を主人公に据え置いて物語を描いていく。その主人公は、戦時中の辛酸を舐め続け、その苦難を乗り越えて幸福な人生を送っているが、戦時中の出来事が現在にまで尾を引くトラウマとなっており、その苦悩・葛藤に苛まれる人間的心理行動を描いていく「非常に重い話」をテーマにしている。


フィクション作品であるとはいえ、当時の在日朝鮮人の事情を垣間見ることができる貴重な資料と言えるのだが、内容が内容なだけに初期に発行された文庫本『空気の底』の下巻にしか掲載されておらず、後に新装された上下巻を1巻にまとめた文庫本では封印作品扱いになってしまった。


あらすじ編集

長浜軽金属の専務取締役である主人公・森山尚平は、部下にも慕われるほどの善人であり、妻子にも恵まれ家庭環境も良好で、充実した日々を送っていた。しかし、実は森山は「趙」という名の朝鮮人であり、帰化して日本国籍および日本名を取得していた。そのことによる差別や迫害を恐れ、周囲にはそのことを隠していた。


第二次世界大戦中、日本軍に地下壕(ながい窖)を掘らされていた。そこで受けたむごい扱いと、自身が朝鮮人の血を引いていて、戸籍上朝鮮人であったことが深いトラウマとなっている。そのトラウマが原因で、部下に朝鮮料理や焼肉屋に誘われるだけで眩暈を起こしたり、永住権を取得した朝鮮人を、自分がそうだと思われたくないがために会社の面接で落としたりしていた。


ある日、夜の街で戦時中に辛苦を共にした親友で在日同胞の朝鮮人・金文鎮と再会。それに喜んだ2人は酒を酌み交わすが、金からある頼み事をされる。「妻の親戚にあたる除英進を匿って欲しい」と森山に持ちかけたのだ(※本来の表記は「徐」だが、この記事では「除」で表記する)。


その除という男は、生き別れの母親との再会を望んで日本へ密入国しては母国へ強制送還されることを繰り返しており、今回はついに入管から脱走したのだった。森山は除を匿うことを拒否し、金から「除は北朝鮮から来た」という事実を突き付けられ、さらに拒否する。だが、最終的には同胞のよしみによって森山は折れ、除を暫く匿うことになる。


森山家で匿われた除は、自身が日本に来た目的である「母親との再会」を話し、その親を想う心に、森山の娘である亜沙は惹かれていく。むろん、森山自身はこれを不快に思っていた。森山は朝鮮語が話せない(話せなくなった?)上に、森山の子供も話すことができない。その前で日本語が話せないために朝鮮語を介す除に対して、森山は苛立ちを募らせていた。


その後、亜沙の協力によって除は母(オモニ)の居所を知る。しかし、除の母が勤めているといわれる託児園に近づくと、除を捜査していた刑事が待ち伏せしていた。そこからひたすら逃亡する2人は、トラックの前に飛び出してしまい、非業の死を遂げてしまう。


その訃報を聞いた森山夫妻は、遺体の搬送先の病院の霊安室に駆けつける。検視官から森山の娘であるかどうか確認されるが、悲嘆にくれる妻に対し、森山は涙一つ流さずあろうことか「知人の娘」だと嘘をついたのだ。その嘘に亜沙の弟・久は、そこまでして”帰化朝鮮人であること”を隠す父親を許さず、「亡くなった姉はきっと、『なぜ自分を娘だと呼んでくれなかったのか?』と泣いている」と非難する。森山は激昂するが、それが同時に久の逆鱗に触れ、父親への反抗心および「朝鮮民族としてのアイデンティティ」が覚醒し、久は朝鮮高校への転入を強固に決意することになった。


久は「朝鮮民族と日本人とはある程度理解しあってる」からこそ堂々と朝鮮人だと名乗るべきだと考え、朝鮮学校で朝鮮語および「愛国教育」も受けていく。しかし、久は朝鮮人であることを周囲に明らかにしたために、日本人の不良から言い掛かりをつけられ袋叩きの目にあい、生死を彷徨う。


久が搬送された病院からの知らせに、森山は亜沙が死んだときと同じように「息子ではない」と涙ながらに嘘をついた。久を袋叩きにした不良の通う学校の校長に責任を追及したが、先述の除と亜沙の死にあたって無責任な対応をしたことが仇となり、校長に出自を見抜かれ、「朝鮮人が1人、2人殴られたぐらいで調べられるか!」、「そのことで責任もてだなんて冗談じゃない!」 と突っ撥ねられ、最終的に「なんならあなたの会社へ電話してあなたの素性をバラす」と脅される。


そのことで遂に森山は自暴自棄になって開き直り、「かけるならかけろ!! 私はやましいことはない」、「わしは朝鮮人だ! それがなぜわるい!!」と、主人公にとって救いようのない結末で物語は終わる。


関連タグ編集

手塚治虫 封印作品


外部リンク編集

ガジェット通信 手塚治虫が描いた「在日」

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