概要
『エイリアン3』とは、1992年のアメリカ映画。シリーズ第3作。前作『エイリアン2』の続編。監督はこの映画が初監督作となるデヴィッド・フィンチャー。2004年に未公開シーン追加などが行われた完全版が公開されている。
今作は刑務所として機能する辺境の惑星を舞台にしている。そのロケーションゆえに武器の類が存在せず、人間が非武装の状況でエイリアンと戦わなければならないという第1作目を彷彿とさせるシチュエーションへ回帰している。
また今作では新種のエイリアン「ドッグ・エイリアン」が登場。今までのエイリアンと違い宿主が犬(完全版では牛)のため、四足獣の特徴を基礎にした驚異的な能力を備えている。
ストーリー
前作でのエイリアン殲滅作戦後、冷凍睡眠についたリプリーら生存者達を乗せて地球に帰還するはずだった植民地海兵隊の宇宙戦艦スラコ号に謎の事故が発生。スラコ号から自動的に切り離された脱出艇は、辺境の流刑惑星「フィオリーナ161(通称フューリー)」へと不時着した。しかし、脱出艇が不時着に失敗したため、ヒックスとニュートは死亡、アンドロイドのビショップも損傷を受けて機能停止し、リプリーただ一人が生き残って保護された。
フューリーは罪人たちが送り込まれ労役に服している刑務所でもあり、居住する者全てが男性だった。そこに現れた女性であるリプリーの存在は惑星の秩序を乱すと所長のアンドリュースは敬遠し、リプリー自身も囚人たちに襲われかけるが、囚人たちのリーダーであるディロンがその場を収めた。
そんな中、脱出艇に潜んでいたフェイスハガーによって新種のエイリアンが生まれ、活動を始めた。次々と囚人たちが犠牲になる中、リプリーは一時的に蘇生させたビショップからスラコ号の事故の原因と衝撃の事実を知ることになる。
登場人物
吹替版を演じた声優は、前者がVHS・DVD版、後者が完全版DVD・BD版
吹:幸田直子
主人公。スラコ号で仲間たちと共に冷凍睡眠について地球に向かっていたが、事故によって脱出艇で「フィオリーナ161」へと不時着したところをクレメンスたちに保護される。共にエイリアンとの戦いを生き抜いたヒックスやニュートの死を知り悲嘆にくれた後、事故の真相を探るうちにエイリアンの影が浮かび上がり、やがてまたもそれと対峙することになる。劇中、この星に居着く宇宙シラミへの対策として、囚人たち同様頭髪を剃り落としている。
リプリーの関係者
ビショップ
前作の生存者の一人で、人間でなくアンドロイド。脱出艇の着陸時に破損して機能停止し、ゴミ捨て場に捨てられた。その後リプリーによって回収され、修理を経て再起動し、スラコ号で起こったことの真相を話す。修復不可能なほど不時着時のダメージが深刻だったため電源を落とすことをリプリーに懇願し、それを聞き入れた彼女によって完全に機能停止した。
ドウェイン・ヒックス
演:マイケル・ビーン
前作の生存者の一人。植民地海兵隊伍長。序盤の脱出艇の着陸失敗時に、頭部が安全装置に串刺しになり死亡した。本来は彼がエイリアンを産み付けられていたという設定で(本人に無許可で)人形まで作成されていたが演者のマイケル・ビーンに拒否されてしまいお蔵入りとなった。
ニュート
演:ダニエル・エドモンド
前作の生存者の一人。エイリアンに占拠された植民地の住民でただ一人生き残った少女。序盤の脱出艇の着陸失敗時に溺死する。遺体はヒックスと共に溶鉱炉に葬られた。
刑務所の職員
ジョナサン・クレメンス
演:チャールズ・ダンス
刑務所職員。刑務所付の医師。過去に医療ミスで患者を死なせた元囚人(自分自身に使っていた薬物の副作用で正常な判断を欠いた状態で急患の患者たちの治療にあたった結果、患者たちを死なせてしまった)。
自分のやったことを悔いている誠実な性格。リプリーにも優しく接して、刑務所に関することを教えていく内に親しくなるが、エイリアンに襲撃され、第二の顎で頭部を貫かれて死亡。
ハロルド・アンドリュース
演:ブライアン・グローヴァー
吹:富田耕生/佐々木梅治
刑務所の所長。事なかれ主義的な人物。刑務所の秩序が乱れるという理由で、リプリーを快く思っていない。天井から現れたエイリアンに捕らえられて、リプリーたちの目の前で惨殺された。
フランシス・アーロン
演:ラルフ・ブラウン
刑務所の副官。所長の死亡後はリプリーたちとも協力して事にあたり、リプリーの身体の異変が発覚したときは彼女に同情していた。
しかし救援要請を送るときに、リプリーが「会社(ウェイランド・ユタニ社)はエイリアンを捕獲するために生存者を使い捨てる」と言った主張を信じず、事態を会社に報告する。通常は、通信を送っても数週間かかる返信がすぐに来たこと(エイリアン殺害を許可するように送ったら、会社から救援を待つようにすぐに指示がきた)に不審を抱くが、会社を疑わず、会社の救援が来るのを待った。
終盤、惑星にやって来た会社の者の挙動を目の当たりにしてリプリーの主張が正しかったことをようやく悟り、激怒してマイケル・ビショップをレンチで殴打するが、会社のコマンド隊員に射殺された。
刑務所の囚人
レオナルド・ディロン
演:チャールズ・S・ダットン
囚人たちのリーダー。過去に殺人と強姦の罪を犯しているが、囚人たちにレイプされそうになったリプリーを助けたり、ゴリックを庇ったりするなど、人情に厚く囚人たちからの人望も厚い。中盤にリプリーの異変を逆手に取りエイリアンをおびき出して倒す作戦をたてる。大勢の囚人たちが犠牲になる中、作戦どおりにエイリアンを鋳型に押し込んだ後、そこに残って自らエイリアンを足止めし、流し込まれた鉛に共に沈み死亡。
ロバート・モース
演:ダニー・ウェッブ
吹:池田勝/伊藤昌一
囚人の一人。終盤、ディロンによって鋳型で足止めされたエイリアンに鉛を浴びせたり、鋳型から脱出したエイリアンに水を浴びせて熱疲労を起こすようリプリーに叫ぶなど、エイリアンを倒すのに大きな活躍を見せた。終盤に刑務所の閉鎖が決定し、隊員たちに連行される形で地球に連れていかれ、結果的に囚人で唯一の生存者となった。
ウォルター・ゴリック
演:ポール・マッギャン
囚人の一人。狂気じみた性格と言動で他の囚人たちからは嫌われている。エイリアンに襲われるが、一緒にいたボッグスたちだけが殺され、偶然生き延びる。このときエイリアンに親しみを感じるようになる。中盤のエイリアンを閉じ込め作戦が成功した後、エイリアンを見るために、エイリアンを閉じ込めた倉庫の見張りをしていたアーサーを殺害して倉庫の扉を開けてエイリアンを解放するが、ゴリック自身はエイリアンに襲われて死亡した。
ピーター・グレゴール
演:ピーター・ギネス
囚人の一人。終盤の作戦の最中にエイリアンに襲われ死亡。
アラン・ジュード
演:ヴィンチェンゾ・ニコリ
囚人の一人。常に帽子を被っている。終盤の作戦の最中、エイリアンから必死に逃げるが、ディロンが待機していた扉の直前で捕らえられて死亡。
デヴィッド・ポスルスウェイト
演:ピート・ポスルスウェイト
吹:堀之紀/水野龍司
囚人の一人。終盤の作戦の最中にエイリアンに襲われて死亡。
テッド・"ジュニア"・ギレス
演:ホルト・マッカラニー
囚人の一人。他の囚人たちとリプリーを襲おうとしたが、ディロンによって阻まれた。完全版では、中盤のエイリアン閉じ込め作戦では、自ら囮となってエイリアンを核廃棄物用の倉庫におびき寄せ、一緒に閉じ込められた直後に殺された。
エドワード・ボッグス
演:レオン・ハーバート
吹:笹岡繁蔵/斉藤次郎
囚人の一人。死亡したマーフィーの弔いの最中に上から襲ってきたエイリアンに捕らえられ、ゴリックの目の前で惨殺された。
ダニエル・レインズ
演:クリストファー・ジョン・フィールズ
吹小形満/佐々木健
囚人の一人。死亡したマーフィーの弔いの最中にエイリアンに襲われ死亡。
トーマス・マーフィー
演:クリストファー・フェアバンク
吹:津田英三/斉藤次郎
囚人の一人。通気口の掃除中にエイリアンに襲われた後、足を滑らせ換気扇に巻き込まれて死亡。
ヨーシ・トロイ
演:ポール・ブレネン
囚人の一人。終盤、待ち伏せしていたエイリアンに襲われて死亡。
ケヴィン・ドッド
演:フィル・デイビス
囚人の一人。終盤、待ち伏せしていたエイリアンによって致命傷を負わされて、そのまま死亡。
フランク・エリス
演:カール・チェイス
吹:宇垣秀成/村治学
囚人の一人。エイリアンを核廃棄物の倉庫に閉じ込める作戦の決行中に、エイリアンに襲われて死亡。
クライヴ・ウィリアム
演:クライヴ・マントル
囚人の一人。直接描写はないが、終盤の作戦の最中に、エイリアンに襲われて死亡。
アーサー・ウォーキングスティック
演:デオビア・オパレイ
囚人の一人。エイリアンに襲われて死亡。
エリック・バギー
演:ナイオール・バギー
吹:???/???
囚人の一人。終盤の作戦の最中にエイリアンに襲われて死亡。
ウェイランド・ユタニ社の社員
マイケル・ビショップ
演:ランス・ヘンリクセン
吹:麦人/古川登志夫
ウェイランド・ユタニ社の社員。ビショップの開発者であり、外見は彼と瓜二つ。終盤にコマンド隊員を引き連れ、ある目的で刑務所に姿を現す。
ビショップの生みの親であると主張したことや、アーロンに殴られた際に赤い血を流していることから人間であると思われたが、エンドロールでは「ビショップII」と表記されている等、アンドロイドともとれる描写もあり、詳細は不明である。
エイリアン
ドッグ・エイリアン
新種のエイリアン。今までのエイリアンと違い、宿主が四足獣のため、四足歩行で素早く移動でき、強い脚力を活かし天井を逆さまに走ったり壁にへばり付くことができるなど、様々な能力を備えている。本作に登場するエイリアンはこの一体のみだが、殆どの囚人や刑務所職員たちを虐殺した。撮影の際には野生の不気味さを出す為本物の犬にスーツを着せるという案が検討され、実際にテストされたがどうしても愛らしい動きになってしまいボツになったというエピソードがある。
余談
前作『エイリアン2』は多数の犠牲者が出たものの、主要人物たちは戦いを生き延びて地球に向かう宇宙船の中でコールドスリープについたという、大団円とまではいかないが明るい幕切れだった。しかし本作はリプリー以外の生存者が全員死亡している上、唯一難を逃れたリプリーにも過酷な運命を背負わせているなど、無情な展開となっている。この事もあってか、興行収入的には悪い結果ではなかったがファンや批評家の多くから否定的な評価を受けた。編集への不満などもあり、監督のフィンチャーは次作となる映画セブンに着手するまで、暫く映画制作から離れることとなる。完全版に収録されている本作のメイキングではいきなり本編の悪口から始まり、監督のフィンチャーも脚本が未完成なのにセットが続々と製作されていくなど「上」の都合に振り回されて終始不機嫌で現場の空気もギスギスで当時の関係者が口を揃えて「あの時はヤバかった」と言う怪作になっている。
準備稿脚本
本作は、決定稿に至るまで、複数の脚本が書かれている。
ウィリアム・ギブスン版
最初に書かれた脚本。2の登場人物は全員生還を果たす。
2の惑星から宇宙船スラコで帰還中、スラコのエラーでとある軍事組織「UPP」の領域を侵犯。UPPのコマンド部隊がスラコ内部に侵入するも、内部はエイリアンが発生していた。半壊したビショップを奪取し、UPPコマンド部隊はそのまま退散する。
地球圏の宇宙ステーション(2の冒頭に登場したステーション)に帰還したスラコ。ニュートはリプリーが目覚める前に地球の祖父母の元へ向かうが、直後に地球のステーション内部で実験中のエイリアンが増殖する。リプリーを救助艇で脱出させたヒックスは、UPPから修復され返送されたビショップとともに、ステーション内でエイリアンと交戦する。
ヒックスを主人公としており、2の生存者全員は生き延びる。そうする事で、リプリーを主役にすることなく、新たな展開を狙っていたものと思われる。しかし当時の上層部は、「2の焼き直し」と思ったらしく、没の憂き目に。
ビショップもまた重要なキャラとして活躍し、クイーンエイリアンの口内に銃を突っ込んで頭部を吹き飛ばし、
「Androids don't miss.(アンドロイドはハズさない)」
と決めるシーンがあったりする。
近年になり、「オリジナル・スクリプトコミック」として、この内容そのままにコミカライズされた。日本でも邦訳版が発売している。
なお、3の決定稿にて。フューリーの囚人たちの頭部に刻まれたバーコード入れ墨は、本稿から採用されたアイデアである。
エリック・レッド版
舞台は、ウェイランド湯谷の運営する農業用スペースコロニー「ノーススター」。
コロニー出身のサム・スミスは、幽霊船のように漂流する宇宙船スラコに対し、救援部隊隊長として乗り込む。が、船内は血まみれで、「リプリー」と書かれたネームプレートが発見されるのみ。エイリアンの大群に襲われ、サム以外は全滅、サムも重傷を負う。
コロニー内部は、広大な農地が存在し、一見すると地球上のそれに見える。しかしコロニー地下部分には科学施設が存在し、そこでエイリアンの細胞が分析され、人間以外の生物も宿主にする事が判明する。
実験で様々な生物にフェイスハガーを放ち、様々な形態のエイリアンが誕生。しかし脱走して、コロニーの要人たちに襲いかかり、大量発生の準備を行うエイリアン。
加えて、無機物も同化が可能である事も判明した。半身をサイボーグ化させて復活したサムは、村人たちを率いてエイリアンを迎撃せんとする。激しい交戦の中、エイリアンは互いに合体し、巨大なブロブ状に。果てはコロニー自体とも融合する。
上記二稿は、当初の予定だった「リプリーをあまり登場させない」という、製作側の要望があった。ゆえにリプリーの出番は殆どない。
本稿における舞台は、大型のスペースコロニーであり、内部には広大な農地や荒れ地が存在。戦いも、西部劇のような様相を見せている。
「寄生する対象により、異なる形体のエイリアンが誕生する」という設定が為され、イヌやネコ、牛や豚や鶏のエイリアンが登場。更にはマッハで飛ぶ蚊のエイリアンといった、今までになかった亜種が登場する。
決定稿に登場した「ドッグ・エイリアン」は、この準備稿のアイデアを用いたものである。
ヴィンス・ウォード版
上記の脚本が、スタッフが降板するなど二転三転したために没となったため、新たに呼ばれたヴィンス・ウォードが執筆した脚本。こちらはリプリーが主役を務める。
スラコから射出された脱出艇、それに乗っていたリプリーが漂着したのは、木製の小型人工惑星「アルケオン」。そこでは修道僧たちが、テクノロジーを拒絶し、中世時代よろしく、宗教に則ってつつましい生活を過ごしていた。
外部からの闖入者であるリプリーを、リーダーのアボットは疎ましく思う。運悪く、家畜小屋の羊から、純毛のチェストバスターが誕生してしまった。
撃退したものの、これを口実にアボットにより宗教裁判にかけられたリプリーは、地下牢に閉じ込められる。そこには入植者のアンドロイド・アンソニーが幽閉されていた。そして、唯一のリプリーの理解者である医師・ジョンの説得を受け、リプリーはアルケオンからの脱出を決意。リプリーはアンソニーとジョンとともに脱出艇を目指す。
リプリーの体内にはクイーンのチェストバスターが存在しており、ラストでリプリーは自らガラス炉に身を投げようとするが、ジョンが中世の医師のようにハーブを使って吐きださせようとする。が、リプリーは喉に詰まらせてしまい、ジョンが口移しで自身の体内に引き込ませ、リプリーの代わりに自身がガラス炉へと身を投げる……というラストになっている。
本稿が決定稿脚本に最も近く、舞台や作風など、様々なアイデアを決定稿へと反映させている。
決定稿舞台のフューリーは、本稿のアルケオンから、登場人物が丸刈りなのは、本稿のアルケオンが宗教惑星で、住民が修道士である事からである。また、リプリーにクイーンのチェストバスターが寄生しており、それをガラス炉(決定稿では鉛の溶鉱炉)に投身してともに殺そうとするところも、本稿のアイデアからである。
本稿は非常に宗教色が強く、アルケオンも中世キリスト教における、天界や地獄などに該当する階層に分かれている。
本稿でも様々な形状や亜種のエイリアンが登場。アルケオン内に存在する「海」に登場するジョーズ・エイリアンの他、麦畑に紛れる麦畑エイリアンや木目エイリアン、ガラスと化するクリスタルエイリアンといった、擬態機能が発達した亜種が登場する。
また、チェストバスターの亜種で、胸部でなく頭部を食い破る「ヘッドバスター」も登場。
ウォードが降板した後、製作者ウォルター・ヒルとディヴィッド・ガイラーにより脚本改稿が何度も為され、クランクイン後も改訂。決定稿に至る。
ALIEN3:THE GUN
1993年にセガがこの映画をベースにした業務用ガンシューティングゲームを発売している。宇宙海兵隊の装備品パルスライフルをモデルにした、当時の同ジャンルとしては異例な程巨大な銃が筐体に添え付けられているのが特徴で、連射の利く銃弾と横に配置されたボタンで投擲する手榴弾で敵と戦う。
ストーリーはオリジナルで、リプリーやビショップなどの主要人物は一切登場せず、2人の宇宙海兵隊視点で物語が進められる。エイリアンも原作と違って冒頭から無数に繁殖しており、それらをプレイヤーが銃火器で薙ぎ払う内容のため、どちらかと言えば前作エイリアン2に近い展開が繰り広げられる。しかし中盤の囚人たちと協力しエイリアンを退けるステージや、終盤にユタニ社の回し者と思しき人物が現れる場面など、要所は原作を踏襲している。また舞台もスラコ号内部・惑星フィオリーナ表層・囚人収容所・溶鉱炉と、原作の流れを汲んでいる。
因みにこのゲーム中に登場するドッグ・エイリアンの名称は、当時出回っていた呼称のドッグバスター表記となっている。