概要
巨匠石川賢先生が『ゲッターロボサーガ』の礎となる『ゲッターロボ號』の連載開始前に描いていたロボット漫画。
実は、この作品以前に石川先生は、「少年キャプテン」の編集者側から『オリジナルで新作のゲッターロボをやりましょう』と何度か話を持ち掛けられていた。しかし、当の先生本人は『今更ゲッターでもないだろう』と思っていたこともあって断っており、更にダイナミックプロ側も「テレビアニメやるんだったら……」とあまり乗り気ではなかった。
しかし、またロボット漫画は描きたいと思っていた石川先生は、『進化するロボット』をコンセプトに全く新しいロボット漫画を描くことにした。
それがこの邪鬼王であり、後の真ゲッターロボなどにコンセプトが受け継がれていく。
ストーリー
主人公『島本瞬』ら島本一家は一人一人のキャラが強烈ながらも仲の良い家族だった。
そんなある日、瞬の父親であり天才科学者である平八郎は、自身の夢である『正義の為に働く、鉄人28号やジャイアントロボのようなロボット』を作ろうとする一環で組み込めばその機械の構造を学習し、独自に進化をしていく「セルフ・オーガナイズ・チップ(S・O・C)」の開発に成功する。
しかし、それから間もなくS・O・Cを狙った産業スパイが研究所を強襲。瞬の愛犬である「ジャッキ」は殺されてしまう。
実はこの産業スパイは人間ではなく、太古の昔に栄えたムー帝国の刺客であるサイボーグだったことが発覚。それと同時にムー帝国は海上へ浮上、総統『ルイ・イオナ18世』が日本中に向けて「元々日本は、ムー大陸の一部であるから明け渡せ」と要求し、侵略を開始する。
瞬は、平八郎が開発した意思のあるロボット「ジャキオー(邪鬼王)」と共にムー帝国と戦うことになる。
登場人物
島本一家
全員キャラがとても強烈である反面、家族の絆は深く、ロボットである邪鬼王を家族の一員として温かく見守ってる。
島本瞬
メイン画像の少年で本作の主人公。年齢は不明だが描写を見る限り、少なくとも高校生辺りだと思われる。性格は無鉄砲で熱血漢。戦闘の際には邪鬼王の肩に乗って命令を出す(後に右目のコックピットに移動)と同時にどんなに邪鬼王が動き回っても振り落とされないといったずば抜けた身体能力を持っている。
サーガ版『ゲッターロボ號』の一文字號に似ているがおそらく彼が元ネタだと思われる(そもそも邪鬼王は號の前の連載作品のため)。
島本平八郎
瞬の父親でダイナミック作品ではよく見られる破天荒な天才科学者。
邪鬼王の生みの親で見た目がどう見ても男塾に出てきそうなゴッツいおっさん。
「正義の為に働くロボット」作りたいという子どものような一面も見られる一方で息子が戦っている最中に酒を飲んで観賞してたり、「みごと死んでこい!」と言ってみせたりと、ややズレた思考をしている(おそらく邪鬼王が守ってくれると考えてかも知れないが)。
瞬の母
何故か一家の中で唯一名前がない(モブじゃないのに)。
何よりも家族を愛する古き良き「日本の母」なのだが平八郎同様にズレたところがある。
例を挙げるなら
・平八郎の研究所がムー帝国のロボットに攻撃される⇒「近所迷惑だから止めなさい!」と諭す。
・戦闘でご近所さんの家が壊される⇒「弁償します」とフォローを入れる
と言ったところ。
それでもある回で瞬が邪鬼王と共に捨て身で敵のロボット止めようとする際に平八郎が死んで来いと促していた際は、彼を殴りつけて「戻ってきなさい!」と怒鳴りつけると言った常識的なところがある。
チィ子
瞬の妹で年齢は恐らく小学校低学年くらい。
見た目が強烈な邪鬼王を怖がることなく「邪鬼ちゃん」と呼んで可愛がるなど母親と並んで肝が据わっている。
ジャッキ
島本一家に変われている犬で瞬からは弟のように扱われている。大型犬で気性は荒いが島本一家の言う事はちゃんと聞く。ムー帝国扮する産業スパイにより射殺されるが、最後の力を振り絞って敵に襲い掛かり、瞬の活路を切り開いた。
邪鬼王(ジャキオー)
本作の主役ロボット。
平八郎が開発した「S・O・C」を組み込んでおり、戦闘の応じて学習すると同時に敵を捕食するなどして進化していく。
初登場時は、下半身が未完成などで10数メートル程度しかなかったがムー帝国のロボットとの戦闘で進化・捕食を繰り返したことで物語後半では瞬が右目の操縦席に乗れるほどの巨大に成長する。
見た目はエイリアンのような機械的で鋭利、グロデスクだがおとなしい時は「キュィン」「キュゥン」「クォオン」などと犬らしい声を出すなどとても可愛いらしい一面がある。
詳細は明かされていないがこのような行動をしていることから「平八郎が射殺されたジャッキを未完成の邪鬼王に組み込んだのでは?」一部のファンから推測されている(実際、行動パターン事態戦闘時を除けば飼い犬そのものであり、瞬を守ろうとするなど生前の記憶を受け継いでいるような素振りがある)。
食事は、車や電気製品と言った無機物で基本は一家の友人である自動車解体業者から廃車をもらって食べている。
ラストではなんと東京を取り込んで巨大な魔人のような姿になった(正確には巨大な外殻の中にジャキオー本体がいると言った形)。
ムー帝国
かつてムー大陸を支配していた古代文明。
現在は、最高責任者であるルイ・イオナ18世を指揮の下で手始めにかつて大陸の一部であった日本を奪還しようと目論む。
文明は高水準に発達しており、邪鬼王よりもロボットらしいロボット軍団や超振動、超重力発生装置などの技術も持ち合わせている。
全員美形で顔を傷つけられることを極度に恐れるナルシストである一方で醜いものを悪としており、作中の描写では人肉食を平然として行うカニバリズムな側面が見られ、彼らにとって醜い人間は食料としか見ていないのかもしれない。
ルイ・イオナ18世
現ムー帝国を治める男で数千年の眠りから覚めたことで手始めに日本を侵略しようと動く。障害となる邪鬼王を「醜い化け物」と称して幾度となく自軍のロボットを送り込む反面、ある回で不手際があったとはいえ日本を救って宇宙空間で機能停止していた邪鬼王を運用している空母に回収した上で解放した瞬を自らの食事の場に招くなど礼儀正しい一面がある(但し、前述の食文化で瞬の驚愕と同時に邪鬼王が再起動して大打撃を受けてしまうが)。
この被害は流石に彼も怒りを抑えられず、終盤は無数のロボットを率いて本格的に侵略に乗り出す。
突然の打ち切り
新しいロボット漫画というコンセプトで連載された本作であるが多くの伏線を残したまま突然の打ち切りとなってしまう。
これは、東映アニメで『ゲッターロボ號』が放送開始すると同時にコミック版が連載されることが決定した皺寄せによるもので「第一部・完」と言う形で終了する形になった。
因みにこの経緯に関しては石川先生の自伝漫画「ゲッターと私」において触れられており、元々ゲッターロボの続編をあまり描く気がなかった先生が発売予定の玩具の出来に感動したことでゲッターをもう一度を描く気になったことが大きい。
尤も、本作の「進化するロボット」は號の終盤に引き継がれ、その後他のロボット漫画にも影響を与えたのは間違いない。
余談
- 石川作品の集大成と言える「虚無戦記」の終盤ではジャキオーが登場し、本作は2002年に正式にシリーズに組み込まれた。
関連タグ
ゲッターロボ號:次回作。
インベーダー:元ネタとしてほとんど紹介されていないが顔をよく見ると生物化した邪鬼王に見えなくもない。
ゲッターロボアーク:こちらも「第一部・完」と言う形で連載を終了している。但し、こちらは掲載雑誌が廃刊になってしまったため。
EVA初号機:覚醒時の戦闘スタイルが初期の邪鬼王を連想させるスタイルを取っている。監督があの人であるため、意識していた可能性がある。