隣座席の学生が読んでいるスポーツ新聞を盗み見ながら
駅を5つほど乗りすごし
虹ヶ丘駅に着くと
わたしは まず駅前の花屋で3分ばかり花の香りをかいだ
概要
「オールマン」1999年12号・14号にて掲載。
『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」の登場人物である吉良吉影の死後、幽霊としての物語を描く。登場する幽霊の設定などに、同時期の第6部「ストーンオーシャン」に通じた部分が見られる。
荒木飛呂彦短編集『死刑執行中脱獄進行中』の他、後に出版されたコンビニコミック版の「ダイヤモンドは砕けない」シリーズ最終刊にも収録されている。
あらすじ
記憶を失い彷徨い続ける幽霊・吉良吉影は、心の平穏を求めて殺し屋をしていた。しかし幽霊であるがゆえに行動に制約が多く、思うように遂行出来ないことに苛立ちを感じていた。
そんな中、依頼主の尼から「『軍人の家に住む者』の殺害」として、幽霊屋敷ならぬ「屋敷の幽霊」に住む者の殺害を命じられ、S市杜王区を訪れる。
登場人物
主人公
心の平穏を求めて殺し屋をしている幽霊。詳しい過去や生前の人物像等の詳細は【吉良吉影】を参照。
第1話
山岡
吉良が侵入した『レジデンス虹ヶ丘』504号室に住む女。
ロッキー
山岡が飼っている犬。吉良が見えており襲い掛かってくる。
男
山岡と同棲している男。
正体は15年前に起こった殺人事件の犯人で、時効までマンション奥の部屋に身を潜めている。
時効間際に「俺のとこまで来れるもんなら来てみやがれってんだァァァーー!」と叫んだことが「許可」となってしまい、部屋に侵入した吉良に刺殺された。
第2話
女坊主(あま)
吉良への殺人の依頼を仲介している若い尼僧。吉良に「軍人の家に住む者」の殺害を依頼する。
用語
幽霊
死んで霊魂だけとなった存在。
霊であるため壁を透過したり、逆に任意の物体を持ったり動かしたりすることが可能。自分の意志によらず生物に接触するとその部分の霊体がちぎれてしまう。
後述する「結界」と「許可」の法則により、吉良含む多くの幽霊たちは路上での生活を余儀なくされている。
「結界」と「許可」
人間が居る家や部屋は幽霊が侵入することのできない「結界」となっており、入るには中の者の「魂の許可」を取らねばならない(中に居る者が幽霊でも「結界」は発生する)。
「許可」は当人の招き入れるという明確な意志は必ずしも必要ではなく、宅配便の伝票を確認する為にドアの新聞受けを開けたり、誰に向けたわけでもない独り言を言った場合でも「許可」として認識され幽霊が侵入できる。
屋敷の幽霊
生物ではなく建物が霊体としてこの世に留まり続けている存在。
女坊主は九州地方で2軒、和歌山県と徳島県でそれぞれ1軒ずつ学校や旅館の屋敷幽霊を見たことがあるという。
軍人の家
S市杜王区片平町に存在する屋敷幽霊。
太平洋戦争中に爆撃を受け焼失した将校の家(家人は全員無事だった)。建物と建物の狭い隙間に薄く圧縮されたように屋敷が存在している。家の中の家具や道具も全て霊体。
この近辺で過去に56件の自殺や変死が発生しており、依頼を受けた吉良は家の中に潜む何者かの抹殺に向かうが…。
魂の掃除屋
軍人の家で吉良が遭遇したもの。
台所の戸棚にあった無数の卵のうち吉良が触れたものから孵化した。両生類のような恐竜のような外見の小動物。
触れた霊の体を侵食し別のものに作り替える性質を持ち、吉良の左腕からは植物が生え、テーブルの霊からは蜂に似た虫が発生していた。
吉良は彼らの正体をこの世が死者の魂で溢れ返らぬように清掃する「掃除屋」だと推測している。