淡い記憶の裡に静止する
過ぎ去りし仲間との日々
友に選ばれし恍惚に酔い
未来に続くと信じた栄光
すべて虚しい夢と消えて
ぬくもりさえ彼方に霞み
死せる紫煙が無言で漂う
これは、一歩を踏み出すことのできない者たちの物語
概要
正式タイトルは「恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-」。
上遠野浩平による、『ジョジョの奇妙な冒険』第5部「黄金の風」からスピンオフした小説作品である。2011年9月発表。ファンの間での主な略称は「恥パ」。
ジョジョ連載25周年の記念企画「ARAKI 30th & JOJO 25th / 2011-2012 JUMP j BOOKS Presents Special Project“VS JOJO”」の第一弾として企画された。
第5部の本編から違和感なく繋がる内容となっており、原作の補完としての完成度もあってジョジョのスピンオフ作品の中でも高い評価を得ている一作。
物語はジョルノ・ジョバァーナら護衛チームがボスとの死闘を終えてから半年後、すなわち第5部本編終了時から半年後のイタリアが舞台。
戦いの最中、彼らと決別しながら組織には残ったパンナコッタ・フーゴが、今や新生パッショーネの幹部となったグイード・ミスタに、無人のジュゼッペ・メアッツァへと呼び出される所から物語が始まる。
登場人物
パンナコッタ・フーゴ
本作の主人公。16歳の少年で、元ブチャラティチームの一員。スタンド使い。
黄金の風本編でボスを恐れ、恩義あるブチャラティの元を去った事に負い目を感じている。護衛チームからは離反したものの、言い換えると「パッショーネを裏切らなかった」ため宙に浮いた立場に立たされている。
ジョルノの率いる新生パッショーネへ自らの信頼と忠誠を証明すべく、組織にとって無用の長物となった『麻薬チーム』抹殺の任務を受け、シーラE、ムーロロらと行動を共にする。
スタンド『パープル・ヘイズ』
近距離パワー型。フーゴ自身すら制御できない殺戮ウイルスを振り撒く、凶悪極まりないスタンド。詳しくはパープル・ヘイズの記事を参照。
シーラE
15歳の少女で、スタンド使い。ジョルノの命を受けフーゴと共に任務に挑むパッショーネの一員。
姉の敵を討つため10歳でパッショーネに入ったが、その敵が護衛チームに倒されたことを知り現在はジョルノに忠誠を誓っている。
ディアボロ政権下では親衛隊に属しており、親衛隊と暗殺チームの連絡役を担っていた事がある。
スタンド『ヴードゥー・チャイルド』
近距離パワー型。人が持つ警戒心や物体にしみこんだ人の陰口を暴くことができる。
カンノーロ・ムーロロ
32歳の男で、スタンド使い。フーゴと共に行動するパッショーネの一員。
古臭いギャングファッションで着飾り、格好をつけたがるだけの薄っぺらな男と評される。
旧体制時は情報分析チームの所属で、ボスと暗殺チームの両方に情報を売っていた事から、信頼を取り戻すため今回の任務に挑んでいるらしい。
スタンド『オール・アロング・ウォッチタワー』
トランプカードに憑依した群体型のスタンド。舞台劇風に敵の居場所などの情報を「占う」ことができるとされる。
麻薬チーム
本作における敵。旧パッショーネ体制において麻薬の製造で組織に従事してきたが、ディアボロ亡き後に裏社会の浄化を進めるジョルノらに狙われることになる。
ヴラディミール・コカキ
70歳の男で、スタンド使い。麻薬チームのリーダー。
パッショーネが結成される遥か前から暗躍している大物マフィアで、ディアボロが服従させるより交渉で味方につける事を選んだほどの凄腕。チームの排除を目論むジョルノからすら一目置かれる程の人物。
スタンド『レイニーデイ・ドリームアウェイ』
広範囲に降る霧雨状のスタンド。相手の「思い込み」や「錯覚」のイメージを植え付け定着させる能力を持つ。その力の前で「勝てない」と思わせられた相手はもう絶対に勝つことはできなくなり、「死ぬかもしれない」というイメージを植え付けられるとそのまま本当に死ぬことになるほど。
マッシモ・ヴォルペ
25歳の長髪の男で、スタンド使い。没落貴族の出身で、フーゴとは大学の同級生であった。
後述のスタンド能力により麻薬の生産が可能な事から、麻薬チームの中核を担う最重要人物であり、チームの存在意義は彼のためにあると称される。そのため他のメンバーを全員取り逃しても、ヴォルペだけは始末するよう指令されている。
第4部で登場したとある人物の弟であり、兄のスタンドとは似ているとも正反対とも言える能力を持つ。
スタンド『マニック・デプレッション』
白骨化した餓鬼のような姿をしたスタンド。針で刺した対象の生命力を過剰に促進させ、それと引き換えに身体を蝕んでいく。この能力は物質(本編内では塩)に込めることも可能で、この性質を活かして麻薬を製造することが可能なことから、麻薬チームの最重要ターゲットとされている。この能力によりドーピングを施された肉体はスタンドエネルギーを纏っており、スタンドと直接戦闘を行うことが出来るようになる。
ビットリオ・カタルディ
16歳の少年で、痩せこけ全身に自傷の跡がある。スタンド使い。
退廃的で後先を考えない思考を持つが、チームへの仲間意識は非常に強い。
スタンド『ドリー・ダガー』
刀剣に憑依した実体化スタンド。本体が攻撃を喰らった際、そのダメージの7割を刀身に映り込んだものに転移させることが出来る。本人の自分は悪くない、責任転嫁したいという想いから生まれたスタンド。
アンジェリカ・アッタナシオ
14歳の少女で、スタンド使い。麻薬中毒患者。
不治の奇病からなる激痛をヴォルペの麻薬によって誤魔化しており、麻薬なしでは生きられない。
スタンド『ナイトバード・フライング』
遠隔自動操縦型。小鳥のような姿をした半自律型のスタンド。他人の魂を追跡して末期の麻薬中毒患者と同じ症状を引き起こす。使い方によっては、相手を操り人形のように出来る。
その他の登場人物
ジャンルッカ・ペリーコロ
ジョルノに忠誠を誓うパッショーネの幹部。原作で、秘密保持のため拳銃自殺したヌンツィオ・ペリーコロの息子。
ズッケェロとサーレー
黄金の風本編にて、ポルポの遺産を狙いブチャラティ達を襲ったスタンド使いのコンビ。
両名とも生き残り組織に属していたが、本編でジョルノと敵対してしまった過去からフーゴと同様に新しい組織への信頼を示す事が求められており、彼らにも【麻薬チーム抹殺】の任務が与えられている。
本作独自の設定
原作の設定の空白部分に無理なくはめ込んだ、本作独自の設定がいくつか存在する。原作のオマージュである遊び心あふれるセリフもある。
また、本作の発表後に製作された5部のアニメ化に際して原作には存在しない描写が追加されたことから、アニメ5部と「恥知らずのパープルヘイズ」の間には一部設定の食い違う箇所が存在している。
- ヴォルペは、第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場するトニオ・トラサルディーの弟である。
- フーゴの実家は祖父が違法スレスレのあこぎな手法で成り上がったものであり、凡庸な兄2人に比べて才能のあったフーゴは幼い頃から英才教育を強要され続けていた。13歳でボローニャ大学に入れたのも、実家が金で権利を買ったためであった。
- フーゴが百科事典で殴打して重傷を負わせた教師は、フーゴのことを『マンモーニ』呼ばわりした。これはフーゴが最愛の祖母の死を引き摺っていたために成績不振となった事に起因する。しかし祖母を罵倒されたことがフーゴの怒りを買い、上述の暴行事件に発展した。
- アニメ版と明確に設定が異なる部分の一つ。
- ポルポはディアボロが組織の禁じ手としていた麻薬で勢力を拡大しつつあることを知っていたらしいが、それを突き止める事が逆鱗に触れると恐れてフーゴに麻薬捜査を中断させた経緯がある。
- ムーロロは原作で名称だけの登場だった情報分析チームの所属。暗殺チームの依頼で、燃えた写真を復元した。サンタ・ルチア駅前のライオン像が写っている写真だった。
- また暗殺チームがディアボロに反旗を翻す決定的な要因となったソルベとジェラートの処刑は、ムーロロが2人の動向をディアボロに密告したことで実行された。さらに遡ると最初にこの2人にボスの秘密を調べることを唆したのもムーロロである(つまり本編で暗殺チームに起きた悲劇はほぼこの男が原因)。ムーロロはディアボロとリゾットを天秤にかけて対立を煽りつつ、どちらが勝っても自分が利を得られるよう双方へ協力と裏切りを繰り返しながら立ち回っていた。
- シーラEの姉を殺したのはイルーゾォで、シーラEは姉の仇を取る為にパッショーネに入団した。
- ブチャラティがチームの中で最初にスカウトしたのはフーゴ。暴行事件の後家族すら面会に来ず、留置所で放置されていたフーゴのところにやって来たのがブチャラティで、フーゴは初対面で彼の事をギャングと見抜いている。また、ブチャラティの私室には亡き父が使っていた漁網が飾られてある。
- アニメ版と明確に設定が異なる部分の一つ。最初にフーゴをスカウトした点は同じだが、その場所は留置所ではなくレストラン。フーゴは家族に金を積んで罪を帳消しにしてもらえたが、その後実家から締め出されてチンピラになり、ブチャラティと出会っている。
- 組織の中でブチャラティには「大勢の敵を一瞬で皆殺しにする能力の持ち主を部下に持っている」という噂が流れており、それが若手の彼に箔をつけ一目置かれる立場にあったらしい。
- パープル・ヘイズの殺人ウィルスがフーゴ自身にも感染するという事実は過去にブチャラティと行った実験で確認している。脇腹に少量のウィルスを付着させ、肉体への浸食を確認した後スティッキィ・フィンガーズのジッパーで患部を切り離した。劇中でジョルノはこれに関して「能力が目覚めたとき君が死ななかったのは実に運が良かった。普通ならとっくに死んでいたはず」と述べている。
- アバッキオの同僚であった警官を射殺したチンピラは、拘置所内で真夏なのに凍死した。ギアッチョに始末されたものと推測される。
- アバッキオが組織への入団を決意した最初のきっかけがフーゴ。フーゴが自分と同じく「挫折した人間」であると見抜いた上で、その彼が自信を持って生きていられる理由が「組織への忠誠」と聞き、それに倣ったとされる。また、ブチャラティに向かない任務(幼い子供が対象に含まれる暗殺など)が命じられた際にはアバッキオと共に密かに任務に当たることがしばしばあり、半ばコンビのような関係でもあったという。原作本編でアバッキオがパープル・ヘイズについて妙に詳しかったことへの理由付けにもなっている。
- アニメ版とは少し設定が食い違う。アニメ版ではフーゴとの出会い以前にブチャラティと会い、直々にスカウトされたような描写になっている。
- ナランチャはフーゴに助けられた後、組織に入るためにフーゴと再び会っている(ポルポのところへ行ったのはこの後らしい)。この頃からスタンド使いとしての資質が芽生え始めており、さりげなく出現させたパープル・ヘイズもしっかり見えていた。
- ムーロロがメタリカ、バッド・カンパニー、ハーヴェストといった、過去の群体型スタンドについて言及している。スピードワゴン財団の研究によれば、群体型能力の持ち主は心に大きな空洞を抱えているとの事。
- トリッシュは第5部本編以前から母親とともに歌手として活動しており、ディアボロ戦後、組織に関わる事無く独力でCDデビューを果たした。
- 後書きには「『根掘り葉掘り』という言葉が許せない人」への回答が書いてある。
- 本書の地名について、「シラクサ」「シチリア」など日本語表記で収まりのよいものが用いられているが、文庫版のあとがきでは「『ベニスの商人』『ベニスに死す』という邦題が許せない人」に謝罪する文言が書かれている。
余談
- 主人公のフーゴのスタンドがアメリカのロックギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの代表曲「パープル・ヘイズ」からとられていたためか、本作に新登場するスタンドの名前もすべてジミ・ヘンドリックスの楽曲名から採られている。
- シーラEの「ノックして、もしもぉーし」は、第2部でジョセフがメキシコ入りした際、絡んできたゴロツキに対して言ったセリフ。
- オールスターバトルではフーゴの技に本作オリジナルのものが採用されている。しかしアイズオブヘブンでは変更された(ゲームはifストーリーであり本作に繋がらないものとなっている影響だろうか)。
- 本作と、同じく第5部を舞台としたスピンオフ作品「ゴールデンハート/ゴールデンリング」では、特にフーゴの扱いが全く異なるオリジナル設定になっており、この2つの世界線は両立しない。(一応、アニメ版の方は統合してもさほど違和感がない様に描かれている)。
関連タグ
オールスターバトル:ストーリーモードのエクストラシナリオで、本作のラストが再現されている。
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