概要
ドラゴンの年(The Year of the Dragon)とは、イギリスの作曲家フィリップ・スパーク(Philip Sparke)の作曲によるブラスバンド(英国式金管バンド)のための楽曲である。作曲者自身による吹奏楽編成向けの編曲版も1985年に出版されている。
この曲は1984年、イギリス・ウェールズの名門ブラスバンドであるコーリー・バンド(Cory Band)の結成100周年を記念して作られた委嘱(いしょく)作品であり、曲名にある「ドラゴン」とはウェールズ国旗に描かれた赤い竜『レッド・ドラゴン(Y Ddraig Goch)』を指す。これまでに数多くのブラスバンド団体や吹奏楽団で演奏されており、今日では強豪団体のスタンダード・レパートリーのひとつとして選ばれている。
曲は全3楽章で構成され、全曲演奏すると14分程度を要する。本来は全4楽章であったものの、作曲の過程で最終的に第1楽章が割愛され現在の構成になっている。また、最初の吹奏楽編曲版が出版されてから32年後の2017年には、シエナ・ウインド・オーケストラ(SIENA Wind Orchestra)の委嘱により楽器編成とアーティキュレーションを見直した新編曲版が作られている。
余談だが、まれに常軌を逸した超絶技巧を超高速で見せつける演奏が存在し、「鼻血ドラゴン」なる名称で語り継がれている。
曲の構成
第1楽章「トッカータ」(Toccata)
Molto allegro, con malizia(♩=168)
スネアドラムとテナーホーンにリードされた16分音符のリズムによる鋭利で不気味なサウンドと、これを受け止める低音楽器とバスドラムの重厚な強打による、緊張感の高い幕開けで曲は始まる。
ベルトーンによる各楽器の応酬、コルネット、トロンボーンによる鮮烈な打ち込みを経て、中間部にきらびやかで躍動的なモチーフが挟まれる。
そしてさらにスケールを増した再現部分が現れると、深みに沈むようなアンサンブルを奏でつつ徐々に遠くへと消え去っていく。
第2楽章「間奏曲」(Interlude)
Con moto(♩=72) ma rall.
壮大で印象的な下降音型の冒頭から緩やかに収まっていき、直後、静かにくすんだ伴奏のなかからトロンボーン(編曲版ではコールアングレ)の憂いを秘めたしみじみとしたソロが響く。その優美さをはらんだソロが締めくくられると、フリューゲルホルンとコルネットがそれぞれうつろうフレーズを受け継ぎ、その流れの終わりに微かな予兆を匂わせる。
中間部からはトゥッティによる荘厳で美しいコラールが現れる。曲の進行とともに高揚を増す旋律は、やがて楽章の高まりの頂きでこれでもかといわんばかりの輝きを放ち、華やかに散っていくような終わり方でふたたびトロンボーンに主役の座を明け渡していく。
第3楽章「終曲」(Finale)
Molto vivace(♩=138)
16分音符の細かいパッセージによる衝撃的な入りで幕を開け、超絶技巧によるスリリングかつエネルギッシュな展開がそれに続く。
各パートによるソリスティックな旋律の交錯、躍動する激しいフレーズの幾重もの波を経たのちに、曲はやがて壮大でヒロイックな凱旋を高らかに歌い上げる。
クライマックスでは急速なアッチェレランドの高まりのなか、すべての管楽器と打楽器が渾然(こんぜん)一体となって壮大・華麗な締めくくりを見せる。
主な演奏団体(関連動画)
ブラスバンド版
ブリタニア・ビルディング・ソサエティ・バンド(Britannia Building Society Band)
イーラ・ブラスバンド(Ila Brass Band)
吹奏楽編曲版
東京佼成ウインドオーケストラ(Tokyo Kosei Wind Orchestra)
ルクセンブルグ・ウインドオーケストラ(Luxembourg Wind Orchestra)
ブリッツ・フィルハーモニックウインズ(Blitz Philharmonic winds)
関連タグ
イギリス ウェールズ ドラゴン レッドドラゴン Y_Ddraig_Goch
外部リンク
参考文献
- 秋山紀夫『吹奏楽曲プログラム・ノート』 株式会社ミュージックエイト 2003年6月18日発行 495~496ページ
- 樋口幸弘(解説) ブリーズ・ブラスバンド『マーキュリー』CDブックレット 株式会社佼成出版社 1995年10月21日リリース 9ページ