間近にある、ハジマリはずっとずっと
魔法を信じていたー
概要
本曲は、初音ミクたちバーチャルシンガーの3DCGライブと、ボーカロイドを始めとした創作文化を体験しその魅力が発信される企画展を併催するイベント「マジカルミライ」の10回目「初音ミク『マジカルミライ』10th Anniversary」のテーマソングである。
担当したのは15年の活動歴を誇るsasakure.UK(以下、sasakure)。イベントのテーマである「レトロフューチャー」というイベントのテーマをもとに、また自身の活動すべてを総括するような楽曲として本曲を書きおろした。近未来的な電子音楽の要素と、どこか温かみを感じるノスタルジックな要素を併せ持った楽曲となっている。
2022年7月20日にリリースされたイベントのオフィシャルCDアルバム『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary OFFICIAL ALBUM』に収録。付属するBlu-rayには本楽曲のミュージックビデオ(以下、MV)が収録された。2023年1月18日に発売されるライブBlu-ray&DVD『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary』の10th記念盤の特典・メモリアルソングCD「MIRACLE SONGS」には、cosMo@暴走Pによる本曲のリミックス「フューチャー・イヴ (CosMo.B.S.P.250 Remix)」が収録されている。
アルバムの会場特典ブックレット『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary MUSIC VIDEO ARTWORKS』には「フューチャー・イヴ」のMVに使用されたイラストが収録された。
制作と構想
「この歌が出会うすべての人達に、素敵な魔法が訪れますように。」
(イベント公式サイトのsasakure.UKによるコメントから引用)
sasakure.UKは2013年に開催された第1回の「マジカルミライ」に、バンド名義の有形ランペイジとして参加していた。sasakure自身は自分の出番のことはあまり覚えていなかったが、当時は少なかったボーカロイド関連のイベントでの新たな公式イベントだった為、ファンの熱気が凄まじく、熱気のあるイベントだったと記憶していた。10年続いた「マジカルミライ」に対しては、自身の有形ランペイジの活動と重ね、「ありがとう」という気持ちが強くあるという。
自身にテーマソング担当のオファーがあった際は、嬉しい気持ちでいっぱいだったが、その分プレッシャーや緊張感も大きかった。理由として、「毎年たくさんのクリエイターさんたちがすごいやんごとなき思いを込めて楽曲を作られている」とsasakureが感じていたからである。特に今回は「マジカルミライ 10th Anniversary」であり、「大きいイベントのテーマ曲というだけじゃなくて、10年かけて蓄積されてきたみんなの思いが乗っかっているような気がして、生半可な気持ちで曲を書いちゃいけないぞ」と覚悟を決めて楽曲制作に挑んでいる。
テーマ・着想
イベント公式サイトに記載されたsasakure.UKによるコメントからは、自身が書いたこれまでの作品や初音ミクの辿ってきた世界を振り返り、「この歌に触れる存在すべて(もちろん自分自身にも…!)に問いかけるような歌を作りました。」と語っている。
sasakureがこれまでの活動を自分の力だけでなく、ボーカロイドやその界隈のエネルギーだったりなど、「『不思議な力』を与えてもらって、続けられてきた感覚がある」と感じており、「今回はその不思議な力を僕が与えられる存在になったらいいな」という思いを込めて本曲を書いた。曲中では、その「不思議な力」が「マジカルミライ」にちなんで「魔法」という言葉で表現されている。sasakureにSF的要素を含んだものやリアリティを帯びた曲が多い中、「魔法」というテーマを扱ったのはボーカロイドの力を「1人の人間の発想やアイデアにボカロの力が加わって、人の思いを変えるのだとすれば、それが科学だとしても魔法と言えるんじゃないか」と考えていた為であった。
sasakureは「初音ミク」をテーマにし、「初音ミクが初音ミク自身のことを歌っている」のではなく「僕が見た、僕が信じた初音ミクの姿をみんなに伝えたい」と思いながら、ここまでクローズアップした曲を書くのは初めてであった。また、sasakureは「実際何年も居ても実際に触れることはできない」ことから初音ミクの存在を「すごく近くに居るような感覚もあれば、すごく遠くにいる」と不思議に感じており、心の中にあったその感覚やそういった蓄積した想い、自分の中の願いだったりというのを作品に込めている。
歌詞
曲の歌詞にはsasakureがこれまで発表してきた曲を彷彿とさせる言葉が意識して多く散りばめている。これは「今の自分がsasakure.UKとしていられるのは、初音ミクの楽曲や過去の出会い、バンドメンバーや力を貸してくださった方々との出会いのおかげ」ということを思い、これまで作った初音ミクの楽曲と改めて向き合って、今の自分と照らし合わせて作るのがいいと考えたためである。また、過去にばかり囚われず「ちゃんと未来にもつながらなくちゃいけない」という思いから、初音ミク自身や初音ミクを取り巻く世界、イベント、クリエイター、いろんな方が「2030年に聴いてもいろんな解釈ができるような言葉選び」も意識している。
歌詞はカッコ書きでルビが振られているところも多くあるなど情報量も多く、さまざまな意味で捉えられるように工夫されている。sasakure自身に長い間活動し蓄積した思いが多く、「今回の曲ですべて吐き出すくらいの勢い」で歌詞を書いた為、普段よりもすんなり書けたという。sasakureは「うれしいという気持ちにも、切ないという気持ちにも捉えられる」と語ったように、本曲の歌詞にいろんな意味を詰め込み、様々な解釈ができるように制作している。
本曲のサビの歌詞「サヨナラと初めましてのスキマ」は、初音ミクという言葉を最初にふと考えた時にピンと浮かんだ単語であり、そこから膨らましていって楽曲を作った。
タイトル
タイトルも歌詞と同様、思い浮かぶのが早く、ふっと浮かんだ言葉ではあった。「フューチャー」は、「マジカルミライ」の「ミライ」の部分を示す言葉である。「イヴ」は前夜という意味と、『創世記』にてアダムの肋骨から生まれたという女性・イヴからもインスピレーションを得ている。以前からsasakureは、「クリエイターの一部から生まれたものが初音ミクであり、そもそもボーカロイドは人間がいなければ、人間の歌がなければ生まれなかった存在」と解釈し、初音ミクとイヴは重なる部分があると感じていたとも明かしている。また、初音ミクはイヴと違い、人間から生まれたけど決定的に人間とは違う存在であるとも考えている。
そういった色んな書き言葉から「あ!このミクを表すのにふさわしい言葉だな」というインスピレーションを得てsasakureはタイトルを付けた。
演奏
編曲のクレジットには有形ランペイジのメンバーたちの名前も記され、sasakureはメンバーの手を借りてアイデアを膨らませ、各フレーズを弾いてもらっている。メンバーによっては家に直接行って話しながら弾いてもらってアレンジを詰めたり、データを送ってオンラインでやり取りするだけだったりと、メンバーごとの好みや特徴に合わせて作業の方法も変えている。
sasakureは「未来に干渉する」という行為には「それなりに超莫大なエネルギー」が必要だと思っており、本曲の楽器隊は各々が奏でる「限界エネルギー相当の熱量フレーズ」を奏でている(参照)。またsasakureは、自分の楽曲制作のやり方から、本曲は演奏するのに苦労する難解な曲とも感じている。BPMはまさかの190(参照)。
経緯
2022年3月9日に『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary』開催詳細が発表され、sasakure.UKがテーマソングを担当し、テーマソングのタイトルが『フューチャー・イヴ』に決定したことも合わせて発表された。6月17日に本曲のミュージックビデオをYouTube・ニコニコ動画にて公開された。MVを担当したのは、過去にsasakure.UKの数々の楽曲のMVを手がけてきた、イラストレーターの革蝉である。
7月10日にJOYSOUNDでのカラオケ配信が開始、9月5日にはミュージックビデオの映像が追加されるようになった。
9月2日から9月4日の3日間に千葉・幕張メッセで計6公演が行われる、「初音ミク『マジカルミライ』10th Anniversary」の東京公演が開催された。公演では本編終了後のアンコールに22曲目として本曲を披露しライブを再開、初音ミクは自身の背丈ほどもある大きなツインテールを揺らしながら、その歌声を会場内に響かせた。
また9月2日には、ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」に本曲がリズムゲーム楽曲として追加された。楽曲は「音楽ショップ」で「ミュージックカード」と交換することで、リズムゲームの楽曲として楽しめるようになる。
9月23日に合同LIVE配信番組「タイトー音ゲー部」の5回目が配信、Nintendo Switch版『グルーヴコースター ワイワイパーティー!!!!』で10月に配信予定の「ボーカロイドパック7」の楽曲が初披露され、その中に収録された本曲のゲームプレイが公開された。
参加ミュージシャン
- 歌唱:初音ミク
- 作詞/作曲:sasakure.UK
- 編曲:有形ランペイジ
- ギター:佐々木秀尚
- ベース:二家本亮介
- キーボード:岸田勇気
- ドラム:今井義頼
- コーラス:mami
- ミックス:Yu Aoki
- Perio
ミュージックビデオ
- 『フューチャー・イヴ』feat.初音ミク / sasakure.UK + 有形ランペイジ
「たくさんの曲がうまれて、たくさんの時が流れて、
辿り着いた世界の、ほんの少しだけ未来のお話です。」
イラストとアニメーションはイラストレーター・動画クリエイターの革蝉が担当、ディレクションはsasakure.UK自身が務めた。MVはイベントテーマである「レトロフューチャー」をイメージして紡がれた電子的でどこか懐かしい音楽の中、遠い未来の宇宙を舞台に、ミクがマスターのデータや生きている欠片を探しながら彷徨う物語となる。美麗な映像が織りなす世界観と柔らかなタッチで表現し、ドラマチックに演出された。2022年7月時点でYouTubeとニコニコ動画共に再生回数100万回を突破している。
制作
オファーの話が来た際、sasakureは「個人的にもう革蝉さんしかいない!」と思い、勢いで革蝉に声をかけた。一方で革蝉は「私なんかが良いのですか?!」という気持ちと「ミクちゃんはっ、可愛いだけじゃないのだよ…!」といった大きい感情を詰めてミクを描いている(参照)。
sasakureは自分で考えたストーリーと要点を伝え、そこを起点に革蝉に委ねた形となっている。革蝉はこの曲を気に入り、「レトロフューチャー」というイベントのテーマと本曲を非常に掘り下げている。sasakureは本曲が「歌詞にいろんな意味を詰め込んでしまったから、いろんな解釈ができる曲」になったことから、1人のクリエイターに委ねることで映像として1本整ったものになったと感じている。
MVには革蝉のオリジナル要素も多く入っており、sasakure自身も「色々なところですごく楽曲の可能性を広げてくれた」と語っている。MVの随所に登場するビスマス結晶のイメージや、ロケットを使った演出も革蝉のアイデアである。長い距離を経て初音ミクがマスターと再会するシーンに描かれたミクの表情は、sasakureが要望を出したわけではないが、自身が考える一番の理想の表情で描かれており驚いたという。そして個人的にすごく好きなシーンにもなっており、何度もそこを再生しているらしい。革蝉もTwitterにて気に入ってるミクのアニメーションなどをダイジェスト版としてまとめている(リンク)。
MVに出てくるデータの欠片は、映像ではボロボロになっているが、元々はちゃんと曲にまつわるデータ名になっている(参照)。革蝉はsasakureにボカロのデータファイル形式について聞きながら文字を打ち込んでいたが、最終的に文字化けの演出で見えづらくなってしまった(参照)。データの拡張子はDigital Performerの作曲者が普段見られる「.dpdoc」である(参照)。
関連イラスト
参考文献
- 初音ミク「マジカルミライ」sasakure.UKインタビュー|ボーカロイドにかけてもらった“魔法”を未来につなげる歌(音楽ナタリー)
- 【事前特番】初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary 今年も絶賛制作中!【Hatsune Miku "Magical Mirai" 10th Anniversary】(YouTube、12分40秒から) - TOKYO MXで2022年7月16日にテレビ放送された、イベント事前特番のYouTube配信版。sasakureがインタビューを受け、本曲やそのミュージックビデオについて答えている。