ブレードチルドレン
のろわれたこどもたち
『スパイラル~推理の絆~』におけるキーワード。
正確には「ブレード・チルドレン」と単語の中に中丸がつくが、pixivタグとしては中丸を省いた状態となっている場合が多い。
物語当初に「警視庁の名探偵」と呼ばれた鳴海清隆警部が、弟である鳴海歩に残した謎の言葉。
全文は「ブレード・チルドレンの謎を追う。まどかにも伝えてくれ」である。
ファンの間ではブレチルと省略される事もある。
※以降、本項目では『スパイラル~推理の絆~』に関する盛大なネタバレを含みます
本作内の世界観において、ある特定の特徴を持つ子どもたちの通称。
その特徴とは「全員が生後すぐに外科的施術によって肋骨を一本だけ切除されている」というもの。ちなみに切除部位は問わない。
そして、この特徴を持つ子どもたちは、将来において必ず殺人鬼となる宿命を負っているとされている。そのため「呪われた子どもたち」と称されている。
「 我が意志は人間の駆逐。我が血はこの意思を伝える 」
その正体は、かつて世界最大の黒幕(フィクサー)として君臨し、そして鳴海清隆に滅ぼされた「悪魔」にして「新人類」ミズシロ・ヤイバの血統を様々な形で受け継ぐ子どもたち。全部で80人存在し、全員がほぼ同年齢である。
外科手術で肋骨が切除されたのは、ミズシロ・ヤイバが生まれつき肋骨を一本持たずに生まれてきたためで、その血統を表すための処置だった。ブレード・チルドレンの名も「ミズシロ・ヤイバ(ブレード)の子どもたち(チルドレン)」という意味で称されたもの。それは当初は偉大なる血を受け継ぐ者の誕生を寿ぐ祝福の名だった。
つまり、ブレード・チルドレンは全員がミズシロ・ヤイバを「父親」とする「きょうだい」たちである。
だが、やがてミズシロ・ヤイバは「悪魔」の本能をむき出しにして「善意」と「秩序」の名のもとに法には触れぬ形で「やむなき犠牲」の大義の元、大量の殺戮者を出すようになる。
それを疑問に思った側近が問いただして帰ってきた答えが、本節冒頭の言葉である。
ミズシロ・ヤイバは「悪魔」の放った「現生人類を駆逐するための新たなる人類の祖となるべき存在」であった。そして、彼の血を継ぐ者たちは、かつてヤイバがたどった道を、そのように追い行動する、と。
それは「当初は害意を持たぬ優れた子どもとして育ち、人間社会の中枢に入ってのちに本性と害意に目覚めて、社会を動かし破滅に導く」という、とんでもないトロイの木馬だった。
かくてブレード・チルドレンは呪われた子どもたちの名前になった。20歳になった時、人類の駆逐に動き出すといわれる彼らの処遇を巡ってヤイバの組織は分裂。彼らを皆殺しにしようとする「ハンター」、彼らを観察して様子を見る「ウォッチャー」、彼らを救わんとする「セイバー」の3つの組織が成立した。彼を倒した鳴海清隆にさえ、その処遇と救いを打ち出すことはできなかった。
暴走した彼らを救うことが出来る者は、「神に似て神に非ぬ者」歩ただ一人であるという。アイズたちは、そのために清隆と共謀して歩に試練を与えていったのだった。
実は、これは元をただして突き詰めれば、ヤイバの主張と言説「のみ」を根拠とした科学的にも理論的にも一切根拠がないオカルト理論に過ぎない。劇中においてすら事の子細を聞かされた鳴海歩より本来なら一笑のもとに伏されるべき眉唾ものの話だと評されている。
しかしヤイバの示した圧倒的な説得力と、それを裏付けうる様式美ともいえる状況証拠(注:関係者による「こじつけ」あるいは、ヤイバ本人による「マッチポンプ」を含む)が、多くの人々に、この眉唾もののオカルトを信じ込ませてしまった。
それは、まさに「真実」ならぬ「信実」。多くの人が、この「信実」を信じ込んだあげくに行動を起こした結果として「信実」は関係者にとって絶対たる「真実でなくてはいけないもの」となり、最終的に殺戮と犠牲を招き誰も引き返せない地獄絵図を作り上げ、そしてブレード・チルドレンはヤイバの言葉の通りの「悪魔の子」へと貶められてしまっている。
そして、この「信実」が覆される事は、関係者にとってみれば「自らがこれまで行ってきた事の一切が間違った無駄な事」である事を認める事である。しかし、人間は「努力をすれば叶う事を期待する」がゆえに、そして「それまでに費やした犠牲を無駄にしたくない」がゆえに「間違いを認めない」生き物でもある(コンコルド効果)。この間違いを関係者たちに迂闊に認めさせる事は、本作の世界観においては、すでに「世界の秩序を瓦解させる」も同義と化していた。
すなわち「ブレード・チルドレンを守る戦い」とは、いわば多くの人々が信じ込んでしまい、それに逆らう事が許されない「常識」となった「異論を唱える事が許されない」という「規範化してしまった間違った幻想(ファンタジー)」とすら言える強固な集団現実への戦い(存在しないのに作られてしまった世界のルールへの反逆)を意味する。
そのため火澄編以降における歩の戦いは、鳴海まどかから「信仰」を相手にする戦いであると表現されている。
しかし歩はミズシロ火澄を殺す使命がある故にブレードチルドレンを救うことが叶わなかった。そもそも歩と火澄は20歳まで生きられない運命であり、彼らはブレードチルドレンより遥かに救われない残酷な運命に置かれた存在だったのだ(これに関しては鳴海歩の項を参照の事)。
最終的には上述の「ファンタジー」を穏当な結論に軟着陸させるため、歩により「ブレードチルドレンの誕生は人類とブレードチルドレンに与えられた共生への試練である」「いずれ人類にもブレードチルドレンにも解決ができない困難が訪れた時に、共に手を繋ぎ戦う必要を持つ時が来るだろう」「ミズシロ兄弟と自分たち(鳴海兄弟)は、そのための導き手である」という対抗(レジスト)ファンタジーが構築され、最終的にそのファンタジーより「自分(ブレードチルドレン)を救うのは自分自身だ」という提言が出された。
生き残ったブレード・チルドレンは20歳になった時に訪れるであろう「呪い」に立ち向かうべく、あるいはその「呪い」に負けてなおその時には「歩が自分たちのために組んでくれたファンタジーを現実のものとする礎として」いつでも殺されてもいいように、それぞれの人生を歩み始めるのだった。
原作者の城平京氏は、こうしたヤイバの生み出したファンタジーが、「現実社会がしばしば直面するリアルな問題」にも置き換えられると示唆しており、すなわち「ブレードチルドレン問題」とは「際限なく過激化する宗教戦争」や「人を惑わせてしまうカルト宗教事件」あるいは「恐怖や将来的な不安あるいは過去の因縁を殊更かつ無制限に煽り善意と正義あるいは道徳や権利を標榜(悪用)して敵意や対立を誘発させる政治家および国家」もしくは「都合の良い事実と隠したい事実を織り成し、同じ事実を別側面から見た上で事実の検証なく証言のみを鵜呑みにして過激化させて伝え、国民の求心力として利用し続けた結果として、国家間の論争や衝突に至る歴史認識問題」などを念頭に意識して作られた設定である可能性が高い。
科学的根拠がないとされるヤイバの呪いも、ヤイバの築いてきた説得力や、それを真に受けたブレード・チルドレンを追い詰めてしまった、組織の大人達の過激行動によって、「本当にそうかもしれない」と植え付けられた暗示と考えることも不可能ではない。
もっとも劇中では、そうした可能性には言及されていないのだが、ヤイバの力が自然と目を背けさせてしまったのでは……と考えると、また恐ろしい話であるとも言える。
最初の構想では真実は地に足のついた現実的な内容を予定していたが、それでは問題を解決する者が歩である必要はないという理由でファンタジーな真相になったと後書きで言及されている。あまりに強固に作りあげられた「信実」に立ち向かえるのは、「何も信じない」という歩のような人物だけだったのである。
コメント
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