鳴海清隆
なるみきよたか
―― 警視庁に「名探偵」と呼ばれる男がいる
誰もが彼に不可能はないと信じ、ひとたび彼が立つなら
たとえ悪魔でさえも、真実の裁きに倒れると思われた
彼は何よりも強く、何よりも高い――
(スパイラル・アライヴ 第1巻・序節より)
鳴海清隆は『スパイラル~推理の絆~』シリーズの登場人物。同作の主人公鳴海歩の兄にして、本作の物語の根源を握る人物。
CV:井上和彦
言うなれば完璧超人。
本作の作品世界内で彼にできないことはなく、彼を地に伏せさせる者はどこにもいない。
ただ人格的には刹那的で悪ふざけを好み、悪ノリが過ぎる。そしてシリーズ屈指の着ぐるみ師でもある。事あるごとに着ぐるみを着る。そらもーアライヴでは好き勝手放題に着まくりである。
幼少期は、ピアニストとして活動し神童と呼ばれ将来を嘱望されていた。しかし、とある事情(本人曰く「他にやることができた」「飽きた」「自分のピアノは下らないものだ」から)で自らピアノの天板で指の骨を折り、治療後に日常機能を最低限取り戻した後で、回復を超えるリハビリを拒絶して音楽界から姿を消した。(それでもピアノにのめりこんでいたころの歩を驚愕させて地に伏せさせる程度の圧倒的な実力は保持している)
その他にも歩が興味を抱くものは全て、かつて「清隆がやっていて後に無価値と放り出した事」であった。そのすべてを当初は楽しんでやっていた歩だったが、実力がつくと兄に及ばぬことを自覚してしまう事を繰り返した。そのため無自覚に、歩に自分に対する劣等感を植え付け続けた。
そのため、歩は事あるごとに「兄ならもっとうまくやる」と言い、自らの行動を「無価値」だったと常に評価する卑屈な人間になってしまった。
基本的には誰にでも優しく、何者にも公平であり、身内に対しても同様に優しさを忘れず接している人物であるが、その事が逆に歩を苦しませているフシもある。
つまり、単純に人間としてなら尊敬できる人格者であるため、憎みたくても憎ませてくれない人物。歩が清隆を憎めば、その憎しみが自身に跳ね返り、自分自身の卑屈さや矮小さが自覚できて(より惨めになって)しまうことが容易となってしまう相手と言える。
そのため信望者は非常に多い。ただし一部の「本質を見ることが出来る者」たちからは「完璧すぎて気持ち悪い」「あれは人間ではない」と評される事がある。(アライヴの斉木警部や小説3巻に出てくる柚森家の大婆様などが代表例)
※以下、ネタバレ
ちなみに無精子症(いわゆる種ナシ)である。
存在理由(後述)からして、自分の子供を遺してはいけないためであるようだ。
その正体は、本作の物語世界において造物主とされる一対の「神と悪魔」のうち「神」と称される者によって遣わされた「神の駒」のひとり。というか、その中でも「最強」とされる者であり、すべてを無にする宿命をもって遣わされた者。
悪魔によって遣わされた「現生人類を駆逐する駒」にして人類社会史上最悪の黒幕(フィクサー)である突然変異の新人類ミズシロ・ヤイバと対をなす存在であり、その影響を世界から消し、自らの痕跡も消し去るために行動する。事情を知る者たちからは破壊神とすら称される。
その究極の目的は、自身の「最愛の弟」である歩に自分自身を殺してもらうこと。
つまり『スパイラル~推理の絆~』の物語は、とどのつまりは鳴海清隆の世界を巻き込んだ壮大な自殺計画である。
―――正直に言おう。自分でも恐ろしい。
それを企める心が、それを成せる両手が。
このおぞましきそれらから解放される日を、どれだけ渇望したか―――
清隆は自身の使命に従いヤイバを屠るが、その後のモラトリアムを生きる中で「自分には共に歩めるものがいない」事に愕然とする。
その高い才と力は、確かに彼を万能にしたが、同時に彼を孤独へと堕した。
彼と同じ場所を見る事が出来る者は、結局、自身が殺したヤイバ以外にはいなかったのである。
彼が愛する者はいるし、彼を愛してくれる者も、確かにいた。
だが、彼らは清隆の抱える事情や視点を理解してはくれない。たとえ理解しえたとしても「自分には解決できない。清隆のしたいようにするしかない」と匙を投げてしまう。
世界を救った彼を待っていたのは、孤独という絶望でしかなかった。
神たる自分を他人が殺すことはできない。殺そうとしても類稀なる強運により生かされてしまう。これは悪魔であっても例外ではない(「悪魔の弟」ミズシロ火澄は過去に清隆抹殺を図ったが果たせなかった)。更に言えば、自殺を図っても強運が発動してしまい、自死すら許されない。
神である自分を殺せるのは、「神の弟」たる歩ただ一人だった。
そして清隆は神の仕組んだ最後のプログラムを従順に実行する。
すなわち歩を利用してすべてを無にする計画の最終段階に乗り出したのだ。
まず自身の部下を歩の元に送り込み弟が最も信頼するであろうキャラクターを演じさせる。
ブレード・チルドレンたちを操り、歩に困難を乗り越えさせて、手ごたえを与える。
そして、最後に火澄を歩に会わせて信頼させながら、最後の最後に敵対するように操り決断を迫る。
そして。
その全ての決断が、全て清隆の手の上で踊っての事だった事をバラして、歩の憎悪を掻き立てて殺してもらう。
それが彼の立てた計画の全て。そして、そうする事が「自分がすべてを奪ってしまい、何も持てない歩が、全てを取り戻す唯一の手段」と信じた。それだけが歩と自分が救われる、たった一つの道であり、全て歩のためだと信じた。
だが。
歩の理論と理想は清隆の思惑を超えた。
歩は、自身の絶望こそが世界を救う希望になると看破。最後の最後で清隆の思惑を外れて彼を殺さずにとどめることに成功する。
「たとえ、この先悔やむとしても、昔のように悔やみはしない 」
歩の強い「決意」の前に、清隆の論理は敗れた。
そして清隆は「自らの操れない者」の存在を知り、彼の論理に力を貸すこととなるのである。
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