前史
イギリス海軍では1935年から翌年末に失効するロンドン海軍軍縮条約後を見据えた新型戦艦の検討作業を始めた。
しかし1936年3月に第2次ロンドン海軍軍縮条約が締結されたことにより、新型戦艦の建造条件が「基準排水量3万5千トン、主砲14インチ以下」に設定されてしまった。折しもヨーロッパでは条約締結前にフランス・イタリアに加えてナチス・ドイツが新型戦艦の建造を開始しており、建造条件の緩和(エスカレータ条項、排水量4万5千トン、主砲16インチ以下まで拡大)が行われる1938年まで待っていたら戦力不足に陥ることを憂慮したイギリス海軍は、やむなく現状の条件で新型戦艦の建造を始めることになった。
結果から言えば、この新型戦艦「キング・ジョージ5世級」は第二次世界大戦のアメリカ参戦前(1941年12月)の一番厳しい時期に3隻が竣工し、その後1年以内に2隻が竣工したことで大きな戦力となり、イギリス海軍の判断は正しかったといえる。
新型戦艦第2弾
ただイギリス海軍もキング・ジョージ5世級の見劣り感は認識しており、他国の新型戦艦に勝てる戦艦は必要であると考えた。そこで既存の15インチ砲を搭載し建造期間を短縮した戦時急造戦艦と既存のドックの大きさを考慮して、排水量4万トンに抑えた16インチ砲搭載戦艦の建造を行うこととした。
ライオン級はこのうちの後者にあたり、主砲はネルソン級戦艦が搭載したMkI16インチ砲をより重量が増した新型砲弾を打ち出せるMkIIとして性能を向上させた。(後にさらに新型のMkIV砲に変更予定だった)
防御力は対16インチ弾防御を施しており問題ないレベルとなっているが、肝心の主砲塔は16インチ砲搭載艦では最も薄くなっており、また水中防御も当初は難ありとされたキング・ジョージ5世級と同等とされていたが、水密区画の拡充により一応の解決を見た。
イギリス戦艦の終焉
ライオン級は4隻の建造が決定され、1番艦「ライオン」と2番艦「テメレーア」が1937年に起工したものの、第二次世界大戦勃発後の1939年9月に建造停止となった。その後は空母や護衛艦艇の建造が優先されたことで建造再開はされず、航空戦艦への改装案や戦訓を取り入れる形での改正も検討されたが、1945年に建造中止となった。
一方の戦時急造型戦艦「ヴァンガード」も「戦時急造」の役目を果たせず、大戦後の1946年にようやく就役。10年後に予備役に編入され、1960年に解体されたことでイギリス海軍の戦艦史にも幕が下りることになった。