「一度あったことは忘れないものさ、思い出せないだけで」
概要
スタジオジブリ『千と千尋の神隠し』に登場する魔女・銭婆の台詞(CV:夏木マリ)。
一度あった出会い・思い出・交流……これらの記憶は心(いのち)に残る。
でも、全てを何度も思い出せるわけじゃない。
けれど、ふたたび〝あの夏(とき)〟が訪れたと解かるような機会(きっかけ)で思い出せるもんさ。
きっと、お前を暗いトンネルから抜け出す助力(ヒント)になるよ。
婆には分かる「縁の絆」
主人公の少女・千尋は瀕死の恩人・ハクに代わって、彼が犯した強奪-大事な「魔女の契約印」を盗んだ-の謝罪と救命の懇願へ向かう。
この選択は、たとえ持ち主・銭婆の元へ行っても許されないかもしれない、そもそも相手は恐い魔女であり何をされるか分からない、そして行けたとしても帰りはないかもしれない道程という危険極まる冒険に等しい行為だった。
しかし、被害者の老婆は寛容-まるで来訪者が邪念はなく誠意・仁の心持ちを有してる事を知ってたかのよう-に迎えてくれた。此処は彼女の住家、家主の御厚意もあってお茶の席へ着く千尋と付添たち。
ゆったりした雰囲気で、話題はこれからの事。依然として危機的な状況は続く。
「お前荻野千尋を助けてあげたいけどあたしにはどうすることもできないよ」
「この世界の決まりだからね」
「両親のことも ボーイフレンドの竜のことも」
「自分でやるしかない」
「でも あの ヒントかなにかもらえませんか?」
「ハクと私 ずっと前に会ったことがあるみたいなんです」
じゃ 話が早いよ
〝一度あったことは忘れないものさ 思い出せないだけで〟
助けを望んで此処に来たわけではなかったが、話相手は世界事情に熟知している女性、そして不可思議な世界にも精通している魔女。自然と求めた助言は、答えでない答えみたいな曖昧の返答だった。
それでも10歳の少女は、生きる事へ甚大な経験者の言葉を熟考するように、曇りなき眼でいまだ行く先みえないトンネルの奥へ対峙するような、純粋な強い意志が燈っていた。
備考・余談
銭婆の格言
老婆(おばあちゃん)の格言は、作品鑑賞者へ色々と考えさせられたり、物語の世界を深読みすれば特異な生活圏ならではの背景が感じれる一幕。
参考例として―
超年配者の知恵袋
本項を閲覧している方々で、
ふとした瞬間に「なぜか覚えがある」の奇妙な感覚
何気なく見聞きした時に蘇る「あの思い出」……
こんな事を感じたり、近似した事柄を知ってたりは多いのではないか。
銭婆が語った「一度あったことは忘れないものさ、思い出せないだけで」は、ふとした時に蘇る「思い出」や、体験した事は精神へ残ってる生物の理へ触れてると考えられる。
因みに医学的な話では「作業療法の回想法(※)」など関連分野がある。これらの根拠に「昔の記憶は忘れていない生体の仕組み」があり、そしていつも何度でも思い出せず機会が鍵になる性質を有している事実。特に視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった五感へ働きかける段階が要で、簡易に思えるが注意する部分もある手法でもある(なお実践には、その注意事項を事業者から受講や専用の資格などが必要)。
銭婆は高年配者として長年の生活や交流などで、これら記憶の感性を分かってたのかも。
※参考資料
💭 回想法とは|認知症に対するリハビリ効果や注意点・実践方法についても解説 - 学研ココファン
💭 「初恋の人です…また逢えた」仮面ライダーコスプレが生んだ感動エピソードに「泣きそう」「いい話だなぁ」 - BuzzFeed
縁の理
魔術的な話。参考実例に千尋も受けた「自身の一部」へ作用する魔法。つまり「いつも在る何か」に影響を及ぼす専門分野がある証左。
仕組みは不明だが、効果を発揮するため対象の『理解』へ秀でる領域に関連して、千尋が「何か」を自覚ありという回顧から、魔法の専門家である銭婆は既に「答えはある」の確信を神秘眼から察していたという見方ができるかもしれない。
世界の理
銭婆たちがいる異界の話。
彼女や双子・湯婆婆は他者よりも特異な立場・肩書である魔女。特殊な立ち位置へいる者として何かの制約なのか、銭婆は「助ける」が出来ない立場らしい。だけど「補助的な事は残せる」というような中間領域の言葉遣いで遠回しな助言とも思える発言をしている(銭婆の秀でた器量・才知を感じられる)。
どこか見覚えが…
少し野暮な話。
「玉葱風の髪型をした女性」「テーブルを挟んで椅子に座り対面」「悩みごとの相談」………
場面を言語化してみると尚更に、あの部屋を連想してしまう…
引用例
前述した事柄「記憶の名残」や本作の鑑賞者なら既に知ってる〝あの場面〟へ由縁し―
何処か懐かしい感覚
あの「思い出」が蘇る瞬間
転じて交流・出逢い・仕合わせ等の「一度あったこと」を忘れないような場面
といった創作・作品・内容へ活用(タギング)ができるだろう。
関連項目
銭婆の家では、成り行きで付いてきた者たちがいる賑やかさもあって、心温まる時も過ごせた千尋。
しかし依然として、これからの不安は残るが、束の間を共に過ごし縁が出来たお婆ちゃんや彼らと紡いだ「思い出」は、ちょっぴ少女へ歩む力を湧かせてくれた。
すると屋外で強風が窓を揺らす。家の扉を開けると、目の前にはすっかり元気となったハクが-この時は魔法で白竜の姿に変身して-出迎えていた。
千尋たちは銭婆へお礼を告げ、ハク竜の背に乗って油屋へ帰る。
月夜の海原を飛ぶ千尋たち一行。鈍い蒼が広がる世界、少し冷えるであろう夜空、落ちないようにハク竜の背へ張り付く姿勢、そのためより相手の存在を体で感じる千尋。
これらの要素「まるで水の底を流れるような感じ」からか、ふたたび『あの感覚-川の中にいるような感じ-』が深く強く濃く蘇る。
千尋はポツポツと、忘れていた「思い出」を語る。
これは母に聞いた話。自分が今よりも幼かった頃に川へ落ちた事があったらしい。その川はもうマンションになって、埋められてしまった事。
" その川の名は… "
" その川はね コハク川 "
『 あなたの本当の名は コハク川 』
理屈ではなく、心で思ったままを告げる少女。
この瞬間、自身の背に貼りつく千尋が語った「川へ落ちた女の子がいた話」「その川の名前」を耳にしたハクは、一度あった事だが忘れていた「思い出」を取り戻す。
そう、はっきりと思い出した。
思い出せずにいた「命の名前」と共に。