本項では 3. について記述する。
解説
乳袋とは、普通の材質の服を着ているはずなのに、布地がおっぱいにボディスーツのように貼りついて谷間や下乳、時には横乳に至るまで乳房全体の輪郭が露わになっている様。
「まるで服におっぱいの形をした袋がついているようだ。」という発想に由来して作られた言葉である。
広義には「重力に逆らって胸の下が引き絞られた服装」という意味も含まれている。
仮にこのような状態となった場合、服の上からでもボディラインがどうなっているかはっきり識別できるので、巨乳の人でも胸より下の胴体を細く見せることができ、また胸の形がダイレクトに伝わるためセックスアピールが強くなる効果がある。(詳しくは後述。)
現実世界でも胸や下着の形、服の素材によっては多少張り付いて下乳のラインまで浮き出る場合はある。(ボディコンなど伸縮性の高い生地を用いた小さめの服がわかりやすい。)
またコルセット等の胸の下部を締め付ける衣服を使用すれば、擬似的に乳袋の視覚効果が得られる。
また乳袋のような構造を有する服は立体裁断などによって実現されており、胸が大きくてもお洒落を楽しみたい女性達の需要を確立している。
ただし、一般的には現実には存在しづらい二次元特有の事象、表現法の一つであると認識されている。
「おっぱいアーマー」もボディラインがはっきりと出ているという点では乳袋と同じではあるが、硬い金属等で作られる為、重力と無関係に胸の形に形成できる点を考えると似て非なる物である。
乳袋の表現が生まれた理由
これには二つあり、
- あまりに現実的に描いてしまうとボディライン全体の見栄えが悪くなるから
- 画力不足(服や胸の構造の認識不足を含め)により無意識に乳袋を描いてしまうから
という理由である。
見栄えを良くするため
心理学、精神分析学において対象の悪い部分を無視する、全てを肯定的に認知することを理想化という。乳袋は、いわば人体描写の理想化(デフォルメ)である。
絵画は、目が三次元で捉えている情報を二次元に落とし込む技術であり、精緻な描写を重ねても違和感は必ず起きる。従って絵の技術の進歩は、理想化と共にあったと言っても良い。
現実の日用の衣類は乳房に限らず、全てが肌に密着することは少なく、多くの場合はゆとりと重力によってたわみ、空気を含んで膨らんでいる。
特に乳房(厳密にはそれを包むブラジャーなど)においては、布地は鎖骨~乳房上部~乳頭付近の膨らみの最前部までは前方に飛び出すが、あとはそのまま重力に従って自然に垂れ下がることになる。
また布製でなく弾力のある水着などを着用した女性においても、柔らかい乳房は下に垂れ下がりつつ押しつぶされるため、下縁のラインがくっきりと現れることはない。
以上のことから、立っている女性の乳房を着ている物越しに見た場合、実際は房や袋の形ではなく、鎖骨付近に始まり最前部を峠とする連続性の山なりとして視認される。
そのため、胴周りは乳房の膨らみが前に飛び出ているほど、すなわち乳房のボリュームが大きいほど広がり、筒状の服の径が大きくなることになる。
つまり乳房のボリュームがある人ほど、実際の身体の腹囲とは無関係に服の胴周り全体が太く見え、胴体が太いように錯覚させることになってしまうのである。
それゆえ胸の大きすぎる女性は似合う服が限られることが悩みの種となっていることが多いが、これはイラストに落とし込む際も全く同じである。
それどころか、現実世界の人間であれば動作によって服のたわみが一時的に解消する様子などが見えるため実際の胴回りが太くないことは何となく認識可能であるが、一枚絵ではそれが難しく、大きい胸に被さった服のラインをリアルに描いてしまうと意図した身体の胴回りとは関係なく、胴回りが太い人物であるかのように読者に錯覚させてしまう。
要は、現実と違う描き方をしなければ、むしろ違和感を無くすことが出来ないという課題がイラストにはより重くのしかかるのである。
これを解決し、乳房のボリュームを残しつつ、身体の胴回りが太いわけではないことを明示する表現手法としてたどり着いた先の一つが「乳袋」だった、というのが「乳袋」が成立した根拠の一つ目の説明である。
そもそも「画法」とは、美しい絵を描く技術である。
突き詰めれば、現実の物理法則に符合するか否かに拘泥するよりは、現実と異なる描写であっても美しく見えることの方が重視される局面も多い。
このために実際より大きく描く、角度を着ける、暗くする、取り去る(描かない)などの手法は様々なジャンルの絵画において普遍的に取り入れられてきた。
そのような画法の理想化(=現実の不快な部分を取り去る)が辿り着いたのが、古代エジプトの壁画、日本の浮世絵、カートゥーン調、漫画絵(アニメ絵)である。
これらはいずれも現実から大きくかけ離れた描写をしているが、美しく、より違和感なく認知されるように発展した技術なのである。
「玄人の描く乳袋=リアリティこそ無くとも、より不都合なく絵を見せる為の技術」なのである。
画力及び理解不足のため
人物を描くとき、まずは裸の状態を下描きしてから、その上に服を描くという手順の人は多い。
その際、巨乳キャラの胸周辺は布がピーンと張っているか、幕のように垂れるかの状態になる。
しかし服を着た時の構造を理解していないと、ほぼ裸のラインそのままの状態で仕上げまで行うことになる。
その結果、意図せずに乳袋が生じてしまうのである。
このため、一部では「乳袋=リアリティが無くて気持ち悪い、下手な絵」と認識されている。
問題点
乳袋には使用に至る二つの理由が混在している。
一つは上記でも述べられている胴回りをスッキリと見せるための視覚効果。
大雑把な段階分けとしては、
- コルセットなどの胸の下部を締め付ける衣服を使用せず、それらと同様の効果が確認できる(締め付けがスカートやズボンの位置で起こった場合は乳テントとなる)。
- 二つの乳房を一つにまとめて包んだ形になる(谷間は確認できないか、ごく自然な凹凸やシワのみで確認できる程度)。
- 一つの袋から完全に分かれているわけではないが、二つの乳房の形が確認でき、谷間はしっかりとした凹凸や輪郭線で描かれ、脱いだ時の乳房の形が想像できる(男性向けはこの段階の物が多い)。
- 想像しなくとも裸の乳房とほぼ変わりない、ボディペイント状態。
等が挙げられるのだがこの内一番上の段階ではセックスアピールの意味合いはほぼ無く女性向けでも見られる事もある。
対して一番下になると視覚効果よりもセックスアピールの意味合いが強くなり卑猥な表現となる。
人によってどの段階の事を指すかバラバラなため、話し合いの上で誤解を招く原因となっている(中には1.の段階の作品を卑猥な使用法ではないにもかかわらず乳袋と言う言葉で一纏めにし、
4.に対して発言するかのように卑猥な存在として批判している事例もある)。
結局のところ
様々な性癖に代表されるように乳袋が好きな人もいれば嫌いな人もいるので「乳袋はリアリティが無いからダメだ!」とか「リアリティが無くとも綺麗に見えればそれでOK!」と一方的に押し付けず、各々上手いこと棲み分けをすることが大事である。
余談
2022年のパリコレにて、「特殊な素材をスプレーで吹き付け素材が固まることで制作される服」というものがお目見えした。
その服は、登場したパンツのみをまとったモデル(当然ノーブラであるため手ブラで隠している)の体に直接素材を吹き付けその場で制作する過程をみせるというものであり、その結果現場では立体的で立派な乳袋がついたドレス(乳首もばっちり浮き出ている)が披露されることになった。