玄人
くろうと
本来の字は『黒人』(くろひと)であり、「白より濃く深く染まった人」の意味を以って専門家を指し示すものであったが、いつからか「か細い糸がどうにか見える」「黒よりもなお見通しが容易ではない」という意味を持つ「玄」に変わって『玄人』の字となった。
元来は熟練の職人の敬称として用いられたが、時代を経るに連れて客商売の世界にも広く浸透し、特に 娼婦を指す隠語として用いられるようになる。さらに時代を経ると、ヤクザとは密接な関わりを持たないが命の危険と隣り合わせの闇賭博に身を置いてその名を轟かせる名人、達人を表す尊称としても用いられるようになる。
以下は、上記の用法が転じて闇賭博、特に麻雀で日銭を稼ぐ行為を商売とする裏プロを指す『玄人』(バイニン)について説明を記述するものである。
法外な賭け金や非常識なルールで行われる裏の麻雀においては勝利こそ絶対であり、そのためにはイカサマすら辞さない麻雀専門の博徒の総称。「玄」を「バイ」とする読みは漢字圏に存在せず、「麻雀勝負で大金を毟り取る専業商売人」または「並外れた麻雀の腕前を商売道具とする人」を略した「売人」(ばいにん)を、その世界の達人を表す「玄人」(くろうと)の読みに当てて二重の意味を持たせている造語。
ただし、「四角形の手狭な遊戯卓を4人で囲む」という麻雀の性質上、最低でも常に他者3名の目が光っているために中途半端なイカサマは自殺行為に繋がり、これが玄人同士の勝負であからさまに発覚した場合には相応の身体的、精神的、金銭的報復を受けるリスクを負わなければならない。
そこで、「イカサマを現行犯で摘発出来ない限りはイカサマではない」という暗黙の了解を逆手に取り、あらゆる研究に基づいて導き出した盲点、血の滲むような特訓の成果、または超人的能力を利用した裏技を編み出し、麻雀打ちに必要とされる三大要素の「理」「勘」「運」に第四の要素「力」を加えた玄人を玄人たらしめる麻雀に臨む。
玄人の呼び名を世に広く知らしめた漫画作品『哲也-雀聖と呼ばれた男-』に登場する用語。
牌操作系統
様々な手段で牌を操作して意図的に有利な展開に持ち込む裏技であり、「積み込み」と「握り込み」の2系統に大別される。
積み込み
山を積む段階で行う技。自分に有利な牌を引くように選別しつつ仕込みを行うが、その大半は必要な賽の目を正確に振り出す技術との併用が前提となる。
- 元禄積み
「千鳥積み」の別称。自分のツモ順で必要牌を引けるように、自山を作る際に順番を考えて手牌を積み込む。その性質上から汎用性が高い反面、一々何を積み込んだか確認すれば見咎められ、チンタラしていれば必要な牌が取られてしまう為、誰よりも先んじて必要牌を見極める選別眼と山積みの速度が求められる積み込み技の基本形。
- ドラ爆
「ドラ爆弾」の略称。王牌(カン山)のドラ表示牌とそれに対応した手牌を積み込み、表示ドラに加えて裏ドラやカンドラを異常な枚数で重ねる積み込み技の応用。
名前の由来は、凄まじい攻撃力を爆弾の強烈な発破に例えたものからだが、一部においては振り込んだ側が爆弾の被害に遭った様子を「ドラ爆撃」と位置付けており、共通の略称を喰らう側、仕掛ける側のそれぞれの意味で用いる場合がある。
- ツバメ返し
自山下段に天和確定牌14枚を仕込み、相手の一瞬の隙を突いて1打目を打つ前に手牌と自山下段の14枚をそっくり入れ替える究極の積み込み技。少しでも相手の注意が山に向いていれば極めて不自然な動作を即座に見破られ、そもそもヤマを不安定な形で持ち上げ移動させなければならないため、力加減を間違えれば浮かせた山が弾けてバラバラになったり、中央の牌が落下してバレる危険性がある。
技を行う正確な技術は無論の事、相手の一瞬の隙を見落とさない集中力や観察眼の鋭さ、堂々と技を行う胆の太さなど心技体の全てを求められる。
名前の由来は、手牌と山が交錯する姿を滑空するツバメが急旋回する動作に例えたものから。
握り込み
局前、あるいは局中に牌を手中に忍ばせ、相手に悟られないように局面を意図的に操作する。
- ギリ
握り込み(に"ギリ"と、ギる=盗むの掛け詞)の略称。手中に不要牌、または上がり役の当たり牌を忍ばせ、山から牌を取ると同時に手中の牌を入れ替える握り込み技の基本形。通常は1枚を操作する(1枚握り込み上下段の揃った山を2枚ともギりつつ手牌から握った一枚を置く)技だが、時と場合に応じて2枚を操作する(2枚握り込み、上段が無い山と隣の上下段を"3枚ギり"、2枚置いてくる)場合もあり、入れ替えを行う枚数や場所によってバレない様に置きつつギる難易度が上がり、自身の手元に対する相手の注意力を的確に判断する必要がある。
- 左手芸
「ぶっこ抜き」の別称。手牌のうち不要牌2枚を右端に寄せておき、自山の崩れを直す、または相手が牌を取りやすいように自山を動かすマナーの盲点を突いて山の右端に不要牌2枚を送ると同時に、山の左端に仕込んだ必要牌2枚と入れ替える握り込み技の応用。
自身に有利な牌に入れ替える他、相手に有利となるであろう牌を絶対的不利な牌に入れ替えるなど幅広い運用が可能だが、これを一線級の玄人相手に対して疑われずに行えるようになるまでには相当の訓練を要する。
手中に牌を複数枚握り込み、相手の捨て牌に応じて上がり形を組み替える握り込み技の応用。この裏技は、コンビ打ちで使った際には恐るべき真価を発揮するものであり、卓下での牌交換によって変幻自在の上がり操作を可能とする。
名前の由来は、卓の下で牌が上下に行き交う姿をエレベーターの動作に例えたものから。
コンビ技系統
卓を囲むオヒキ(パートナー)との連携で局面を操作する。通常は2対2のコンビマッチとなる場合が多いが、時には3対1、さらには周囲の関係者まで介入する場合もある。
- 通し
コンビ打ちで多用される隠語。他者からすれば何気ない発言や仕草(髪をいじる、指を折り曲げる)の中に、コンビだけにわかるような行動の指示や牌の情報が隠されており、熟練したコンビに掛かれば通しだけで会話が成立する。
…とはいうものの、登場人物でコンビを組んでいるもののソレは完全にテレパシーであり、実際にはあそこまで自由自在な会話は不可能(オンラインゲームであらかじめ用意した事前入力テンプレートのみで自由入力と同等の世間話をしている様なものといえばわかるだろうか)
※通しを飲食物の注文に置き換えた用例
- 「コーラを1つ。」→「コーラ=萬子」、「ひとつ=1」→「一萬」
- 「お茶をくれ。」→「お茶=筒子」、「く=9」→「九筒」
- 「やっぱり酒にする。」「や=8」、「酒=索子」→「八索」
- 「何かツマミをくれ。」→「"な"にか=南」、他には「"と"りあえず=東」「"じゃ"あ=西」「"べ"つの=北」の様に言い換えて使う
- 誘い出し
一方が場を操作するトス役、一方が勝ちを収める上がり役を分担し、トス役のリーチによって相手から上がり役の当たり牌を安全牌と見せかけて誘い出す。
この場合にトス役が行うリーチは、本来であればリーチ不可能な手牌を完全に無視したブラフなのだが、「流局時点でテンパイしていなければ手牌を見せる義務は無い」とする基本ルールの盲点を突いた技であり、流局までに相手が振り込む、もしくは上がり役が当たり牌を引けば発覚しない上、「序盤から中盤にかけての速攻リーチ」という精神的プレッシャーが相手の判断を狂わせる格好の材料となる。
ただし、裏を返せばブラフであってもリーチをした以上は流局を迎えてしまえば手牌を相手に晒さなければならず、その時点でイカサマが発覚してしまうため、いかにして相手に「何が最も安全牌として切れるか」の選択を迫り、上がり役の当たり牌を巧みに誘い出すトス役の動きが重要となる。
卓に参加しないオヒキ、あるいは場に集う仲間が観戦を装って相手の後ろに回り、通しを使って仲間に情報を送る。
- 2の2天和
上がり役が親番を迎えた際、上がり役とトス役がそれぞれの山に天和確定役14枚の分配積み込みを行い、さらに両者とも正確に賽の目2(1ゾロ)を出して初めて完成する究極のコンビ技。
完全に合致したコンビ同士の息と間、信頼関係は言うに及ばず、どちらも高度な積み込みを行えるほどの牌選別と賽振りの正確な技術、2の2を行うべき状況を的確に察知する判断力を必要とするなど玄人としてのあらゆる才量が問われる。
その他
上記2系統の特徴を持たない別の手段を講じた裏技。
- ガン牌
牌に付いた傷や印の特徴を記憶し、それを手掛かりに牌を見破る。物資不足の著しい終戦前後は汚れ、欠けが目立つ牌であっても平然と麻雀に用いていたために通用していたが、使用素材の品質向上や効率的問題などから現在では非現実的な裏技に属する。
通常は数枚の牌にのみ用いるが、印南の場合は汚れや欠けではなく、牌の背に使われている竹材の目の特徴を記憶して使用牌136枚を正確に見破る驚異的な技術を持つ。
この裏技の正体に気付いた哲也が牌の背に黒いプラスチック材を用いた練り牌を用意して勝負に臨んだ際も、対局の途中で「背中が黒い牌」という特徴から何らかの打開策を見出して完璧なガン牌を披露して見せたが、遂に作中で「黒練り牌のガン付け」の秘密が明かされることは無かった。(「指紋をつけて行った」と説明されて一旦は納得したものの、直後"そもそも誰のものかわかりゃしない指紋が大量についている"ことから指紋でのガンは非現実的であると結論付けられた)
- 拾い
相手の捨て牌に必要牌があった場合、ポンやチーを行って鳴いた牌の回収時に、または相手の死角を利用して不要牌と必要牌を入れ替える。
この他にも「キャタピラ」という山積みの際ドラ表示牌を手牌の任意の二つに操作するイカサマや、「弾き」という河の頭を弾いて捨てた牌を錯覚させる(一列目右端に中があり、次の捨て牌を置くのが二列目右端の場合に捨て牌を中の上に置きしたに"弾く"事で中を切った様に見せかける)技等、他にも他作品で使われた等で有名なイカサマは存在するが哲本編では使用されていなかったり、当時はまだ開発されていなかったりする。