牌が、透けて見えるんだよ……
概要
CV:戸谷公次
玄人が使う技の中では姑息な部類に属する識別術「ガン牌」のみを用いる。
それは、瞬く間に使用牌136枚の全てを見破る人智を超えた観察眼と集中力で己の意のままに場を支配するまでに技を極めている。
モデルは、色川武大による小説作品『左打ちの雀鬼』に登場する作中屈指の強敵『印南善一』。
変遷
邂逅
以前から結核を患っているために満足に仕事に身が入らないこともあり、昼の仕事はタネ(賭博の元金)を稼ぐ程度に抑えて夜の仕事である無法賭博に生きる日々を送っていたが、とある運送会社に就職したその夜に寄宿舎の賭場で耳にした哲也の腕前に惹かれ、賭場に出向いた哲也に事実上の一回勝負に臨む。
胴元を取る自身のおいちょで幕を閉じるはずが、哲也が都合良くかぶで返した一件からそれが卓越したイカサマによるものだと見抜き、お互いに本物の勝負師として認めた上で「哲ちゃん」「印南」と呼び合う仲になる。しばらくの後、麻雀で充分な日銭を稼ぐ確信を得た哲也が会社を去るのと同じくして自身もさらなる真剣勝負の場を求め、顔を合わせることなく別れ別れとなる。
再会
新宿で房州との運命的な出会いを果たし、数々の試練と涙の離別を乗り越えた哲也が「黒シャツ」「坊や哲」の異名を取る超一流の玄人となった約一年後、噂を聞き付けて「オヒキにしてくれ」と付き纏うダンチと足を踏み入れた雀荘で期せずして再会を果たす。
しかし、哲也がその才覚を認めたほどの勝負師であるが故に玄人となっても衰えぬ技量が災いして出入りを許される雀荘を次々と失い、条件付きで短時間の入店を許されても卓を囲めないために「読み屋」となって助言を与えた者から僅かな手数料を得るというしがない身となり、読みの精度と体力を支えるために常用しているヒロポンの副作用、それに伴う結核の悪化から血色の悪い肌に痩せ衰えて常に血走った目玉が飛び出た異様な姿(ダンチ曰く「死神」)に変わり果てていた。
あまりに落ちぶれた姿に落胆し、同情を寄せた哲也を騙し討ちにしてまでもヒロポンを買う金を求め、後日にはかつて金を毟り取った闇ブローカーから金を借りようと土下座をしてすがり付く醜態に意を決した哲也から持ち掛けられた一晩限りの勝負の申し出に乗る。
すでに評判の悪い高利貸しからも金の借り入れを断られるため、一日に一割という桁違いの利息が付く「カラス金」に手を出し、その貸主である悪名高い金貸しの信(しん)を同伴して現れた上、体力の関係から「半荘3回・差しウマ(上位ボーナス)で有り金の3分の1を取る」、即ち3連敗で無一文になるという短期決戦ルールを申し込むが、その代わりに一足遅れで雀荘に現れたダンチが持参した背の黒い練り牌(プラスチック牌)による勝負を強いられる。
開眼
常人の域を超えたガン牌の正体が、従来の麻雀牌で当たり前となっていた「背中の竹の筋目の違い」にあると見破った哲也の対抗策で窮地に陥るが、ふとした閃きから黒練り牌ならではのメリット(裏面に全て、形の違う指紋による識別が可能)に気付いて息を吹き返し、一勝一敗の最終戦にもつれ込む。
遂に卓上の136枚を間違いなく見通せるようになり、最終戦に際して「差しウマを有り金総取りにする」という変更ルールで哲也を追い詰めるが、あり得ない逆転劇によって敗北を喫する。
自身のガン牌が完璧であったにもかかわらず敗北した理由を「勝利に目が眩んでガン牌を止めたから」と口にした哲也からそのからくりが明かされ、自身が左利きだったことで利用して、一瞬の隙を突いた右手芸及び左手芸とダンチとのエレベーター(牌の交換)を駆使した5枚入れ替えを行った手口に感服して、雀荘を去る。
階段を降り切った所で体力の限界を迎えて酷く咳き込み、その様子を心配した哲也が追いかけた時には浅く積もった雪の上に大量の血痕を点々と残して忽然と姿を消す。
末路
すでに余命が危ぶまれる体にムチを打って故郷の函館に戻り、命が尽きるその時まで玄人、ひいては最高のライバルである哲也に認められた勝負師の矜持を貫いて壮絶な生涯に幕を下ろす。
死に際し、函館で知り合った玄人の鬼伊庭に自身の埋葬を頼み、いずれは自身を訪ねて哲也が足を運ぶであろうと予想して財布を唯一の遺品として託した。