入ったら死ぬ風呂
はいったらしぬふろ
待てェ!その風呂に入ったら死ぬぞ!
『K2』第219話、『フライング』にて登場する風呂場。その風呂場に入ったものは意識を失い、最悪死に至ってしまう。
かつてドクターKこと神代一人が治療した老人5人。彼らが作り上げた手作りの銭湯が遂に完成し、招かれたKと看護師の麻上夕紀もその出来栄えに感心する。
「村の皆の為になる物を作りたい」その思いで団結した老人五人。元大工の勲(いさお)は木材の調達と設計を、元左官の道夫は山から石を切り出し、岩風呂の湯船に仕立て、かつて配管工をしていた正造は湯を沸かすボイラーを作り上げた。
「折角なので湯を張って一番風呂に入らないか?」正造は他4人へ提案する。しかし他4人は首を横に振る。「ここは村の皆の為の風呂だ」「わしらだけ特別扱いだなんて許せねぇ」
他4人は土地も管理する正造へ事前に湯を張るよう頼み、それぞれの家へ帰宅して行った。
夜、正造はひとり酒を飲みながらぼやく。「ちっきしョォ・・・松吉の奴らめ、堅苦しい事言いやがって・・・」自らの管理する土地にある銭湯。だが明日午前9時の落成式までは使う事は許されなかった。
正造は納得がいかなかった。ならば湯を張るついでに、入ってしまおう。「一番風呂はワシのもんじゃあ!」正造はそう叫び湯船へと浸かった。
パチッ。まだ夜も明けぬ深夜に松吉は目を覚ましてしまった。嫌な予感がしたのだ。ひとり懐中電灯を持ち、銭湯へ向かう。その途中、松吉は道夫、茂、勲達とばったり出くわす。彼らも同じ事を考えていたのだった。
銭湯にたどり着いた四人は、風呂場の明かりが点いている事に気づく。「正造のヤロォ─!」「やっぱりぬけがけを!」憤怒の勢いで風呂場に乗り込む四人が目にしたものは、意識を失って倒れた正造だった。
老人達は正造を抱え、ドクターKの診療所へ運び込む。急ぎ正造に酸素を吸入させるK。神経調節性の失神、そして心筋梗塞や脳卒中を疑ったが、酸素吸入から程なくして正造は意識を取り戻す。バイタルや血圧も安定していた。
「一番風呂を独り占めするからバチが当たったんじゃ!」四人の老人は口々に正造に喝を浴びせる。徹夜で付きっきりだった四人は疲れ切っており、頭痛を訴える者もいた。
Kに安静にするよう言われていた正造を除き、冴えない体調のまま、老人達は落成式の為に銭湯へ向かっていった。
一件落着かのように思えた矢先、Kは30分前に採取した正造の血液からある事に気づき叫んだ。「いかん!とにかく止めなくては!」
老人達が風呂へ入ろうとした矢先、Kが大声で彼らを制止する。「待てェ!その風呂に入ったら死ぬぞ!」
驚く老人達。Kは採取した正造の血液から逆算して、正造の血液には一時COHb(一酸化炭素ヘモグロビン)が40%近く含まれており、一酸化炭素中毒になっていた事を話す。救出した四人の頭痛も軽度の中毒症状だったのだ。更に村の職員の調査によって、ボイラーの配管が間違っていた事実も明らかになった。
一歩間違えれば死屍累々の風呂となっていたその風呂だが、ボイラーを改修した後は「正造が死ななかった」事から「不死の湯」と名付けられ、連日行列が出来る人気の湯になってしまってしまう。その様子にKは呆れ、麻上も引きつった表情で苦笑いするのだった。
ストーリー・症例自体はいつもの単発エピソードと大差ないのだが、以前までコメディリリーフを務めていた富永が物語から退場していたこともあり、普段はクールなKがギャグマンガのような動作で疾走したり、微妙な表情で佇む(隣に立つ麻上も顔芸を披露している)ラストシーン、「その風呂に入ったら死ぬぞ!」というパワーワードの存在など印象深い要素が多く、読者からネタにされる事が多い。
2021年にコミックDAYSで行われた『K2』20巻分無料公開時には、本エピソードまでが公開されていたので、なおさら読者の印象に残った面もある。更に週刊モーニング2024年No.6号で『K2』出張掲載が予告された際にも、何故か「その風呂に入ったら死ぬぞ!」の一コマが大きく取り上げられていた。
似たような話に第416話 『死の臨床』がある、こちらはある男が自然にできた秘境の湯に入り硫化水素中毒で死ぬというエピソードが描かれており、こちらも入ったら死ぬ風呂に近い。
双方のエピソードでは行政などの許可を通らず、きちんとした処理をしない温泉に入ってしまうとどうなるか、という教訓的なエピソードになっている。
この記事を見ている人は何もないところに温泉があっても自分が作ったとしても、検査していない温泉は決して入らないように、入ったら死ぬぞ!