放流
ほうりゅう
放流とは魚類や貝などの水生生物を河川や海などに放つことである。陸生生物の場合には放流ではなく、対象に応じて放獣や放鳥、放虫などが用いられる。全て纏めて放生とも。
一般に善行とされがちだが、近年では生物多様性などに深刻な悪影響をもたらす可能性が高い事が分かってきており、多くの場合には推奨されず、善意の放流であっても取り返しの付かない悪行となりうる(後述)。
別の意味として、ダム等から治水や利水、河川環境の維持などの目的で下流に水を流す操作のこと。放水とも。
SNS上などでは、電子の海や市場に流すイメージから、イラスト等の作品や不要になったシリアルコード、チケット、電子データ等を不特定多数へ公開、譲渡する行為に対しても使われる。
放流は「なんか手っ取り早く環境に良いっぽい事をしている雰囲気」を醸し出せるため安直に多用されている行為であるが、実態としてはこれらの安直な放流が環境へ不可逆的な悪影響を与えている例が多く、素人が行うべきではない。
放流による悪影響としては、外来種や外来個体群の侵入による生物多様性や地域性の喪失などが挙げられる。
ブラックバスなどの放流が悪影響を与えているのはもはや常識であるが、近年問題となっているのはむしろ、日本に元から居た在来種や国内外来種の放流である。
「日本に元から居た種類なら良いんじゃね?」と思われるかも知れないが、ダメである。
詳しくは素人が書いたピクシブ百科事典のこんな記事より、日本魚類学会が出している「放流ガイドライン,2005」を読んで貰ったほうが良いのだが、
ようは寄生虫や感染症を持ち込んだり、遺伝的に偏った個体ばかりが殖え環境への適応力が下がったり、同じ種類であっても遺伝的に異なり各地域に適応していた個体群が交雑で滅びたりと、目には見えないが種を絶滅させかねないほどの悪影響をもたらす事があり、ある意味では目に見えるブラックバスなどよりも気付き難く対処も難しい厄介な問題を抱えているため、極めて慎重に実施すべき行為なのである。
放流による悪影響を指摘した研究としては、サクラマスの放流事業がサクラマスやそれ以外の生物に対して負の影響を与えているとした北海道大学他の研究や、放流サケの繁殖力は野生のサケの3分の1程度であるしたアイルランドでの研究などがある。
そもそも生息環境の悪化などの要因で生息数が減少した場合には、生息環境の状況を改善しない限りはいくら種苗を撒いたところで生き残り難く、生息環境を改善すれば放流しなくても増加する場合が多い。
悪影響の実例
サケマス類
イワナやアマゴなどの日本在来のサケマス類は、複数の亜種や河川ごとに遺伝的に異なる個体群が分化しており高い地域性を有している事が知られているが、内水面漁業や釣りの対象として人気が高く、漁協や釣人により盛んに養殖個体の放流が続けられており、その結果として殆どの河川で養殖個体との交雑が進み地域性を失いつつある。
例えば、琵琶湖西部の河川ではナガレモンイワナと呼ばれる特徴的な模様を持つイワナが知られていたり、紀伊半島にはキリクチと呼ばれる顔が特徴的なイワナが居るが、どちらも漁協や釣人が持ち込んだ養殖魚との交雑が進み、ごく狭い範囲の支流に僅かに残るのみで絶滅が強く危惧されている。
また同様にイトウも河川ごとに大きな遺伝的差違がある事が判明しているが、釣り人や市民団体により別河川で捕まえた個体が盛んに放流されており、地域性の喪失が危惧されている。
ヒナモロコ
ヒナモロコは九州北西部に分布する淡水魚であるが、生息環境の開発等によってほとんどの生息地で絶滅したとされ、残された生息地から捕獲した個体を人工的に増殖し放流する活動が行われていた。
ところが、飼育されていた個体を遺伝子解析したところ、その全てが鑑賞魚として流通するよく似た台湾産の近縁種との交雑種である事が判明した。累代飼育の過程で外来種が混入し気付かないうちに交雑が進んでいたと思われるが、ともかく放流種苗の種親が交雑種であったことから交雑種を放流していた形になり、同時に最後の生息地でも全ての個体が交雑種と判明した事から純粋なヒナモロコは絶滅したとされる。
アユ
アユも漁協や釣りの対象として人気の魚種であり盛んに放流されているが、種苗には湖産アユと呼ばれる琵琶湖で採捕された稚魚が用いられる事が多かった。
湖産アユは遺伝的な差違による問題だけでなく、冷水病と呼ばれる感染症を保菌しており、放流された河川のアユやサケマス類が冷水病に感染し死亡する例が続出した。
さらに、稚魚に混じったハスやブラックバスなどの肉食魚や、オイカワなどの遺伝的な地域性が知られている魚種が湖産アユの放流とともに拡がり、外来種問題や遺伝的撹乱を招いた。
ドジョウ
ドジョウは良く知られた日本在来の魚であるが、食用や釣り餌としては良く似た中国産のカラドジョウと呼ばれるものが多く出回っている。これらが逸出や放流によって拡がった事で、在来ドジョウとの競合や交雑が多くの地域で起きており、在来ドジョウは絶滅が危惧されるほど数を減らしているとされる。
現在では問題が認識され注意喚起されているものの、かつては放鳥したトキのエサとして外来のドジョウやアメリカザリガニを水田などに放流した例があるとされ、冒頭で述べた「なんか手っ取り早く環境に良いっぽい事をしている雰囲気」で悪影響を与えた例の一つである。
ゲンジボタル
「なんか手っ取り早く環境に良いっぽい事をしている雰囲気」を出すために放流されがちな種の代表格であり、生息地ごとに発光間隔が異なるなどの地域差があるにも拘らず、餌のカワニナとともに乱放流され遺伝的な撹乱をもたらしている。また交雑個体は発光間隔が異なるため、求愛行動に影響を与え繁殖率の低下の危険性があるとされる。
ニュースなどでも善行として報道されやすいが、近年では一般にも放流の悪影響も認知されつつあるため、記事のコメント欄やリプがプチ炎上する事も多い。
ダム等の大規模な放流は水位を急激に上昇させ、人や財物に対して危害を加える可能性がある事から、河川法によって自治体の長や警察署等への通知、近隣への周知が求められる。
河川で遊ぶ際には上流のダム等の放流による増水に注意し、放流を知らせるサイレン等が鳴った時には、直ちに川辺や中洲からの退避するべきである。