『栞と紙魚子』は、諸星大二郎によってネムキに不定期連載されているホラーマンガ。
様々な怪奇現象に見舞われながらも、のほほんと日々が過ぎていく不思議な街・胃の頭町に住む二人の女子高生、栞と紙魚子の日常を描く。
登場人物
・主人公
栞
実家が書店を営む女子高生。
誰もが認める美少女でありながら、かなりフワッとした理由で、公園に遺棄されていた生首を家に持ち帰る等、妙に狂った倫理観の持ち主であり、周囲からの評は散々な、所謂“残念な美人”である。
かなりの巻き込まれ体質でもあり、本人としては不本意ながらも、胃の頭で起きる怪異現象に通じる専門家と思われている節がある。
とはいえ、それなりに好きなアイドルがいるなど、年頃の少女としては、至って普通な感性を持っており、お人好しな性分も相まって、人間関係も基本良好である。
かなりの弟思いでもあり、仲は良いものの、度々姉のとばっちりを受ける章という弟がいる。
紙魚子
胃の頭の古本屋「宇論堂」の一人娘。
古本屋の娘なだけあって、割合に博識な少女。怪奇現象に巻き込まれても、臆せず向かっていく豪胆さを持ち合わせており、むしろ栞よりも主人公をしていると言える。
一方で、親譲りの稀覯本マニアでもあり、希少本、珍本を一目見れば、是が非でも手に入れようと、普段の冷静さからは想像できない程の暴走っぷりを見せる。
そもそも栞と気が合うだけに、彼女も彼女で、妙に倫理観が狂っている一面もある。
普段は髪をおさげにしているが、下ろして、眼鏡を外した素顔はかなりの美少女。
・段一家
段一知
面長の顔が印象に残る壮年の男性。
ゲロゲロノベルズという文芸誌に連載を持つ作家で、該博な知識に裏付けされた、本格ホラーが専門。ただ、かなりの遅筆家。
奇行で有名と言われるが、温和な人柄と社交的な性格からも、至って普通の紳士である。いたずら好きな一面もあり、初対面の人間には、人形の振りをして驚かせることも習慣としている。
若い頃は、どこぞのTRPGの如く、悪の魔導士と対峙し続ける、破天荒な生活を送っていたらしい。
夫人とは、この時に邂逅し、その縁で結婚。今でも仲睦まじいおしどり夫婦であり、なんと種族の壁を超えて、クトルーという一人娘も設けている。
しかし、何かと忙しい作家生活では、構ってやることも一苦労な様子。その為、よく娘の面倒を見てくれる主人公二人組には、夫人ともども感謝しており、彼女たちが本当に洒落にならない事態に陥った際には、快く助力した。
割合にスケベな人物でもあり、それが祟って、字義通りの天罰が降ることもしばしばである。
段夫人
段先生の奥さん。
何処か遠くから来た“外国人”らしいが、常人よりも遥に大きな顔に、得体の知れない体つきをしており、明らかに“人”ではない。
正体は異界の神であり、しかも由緒ある魔神を遠縁に持つ、かなり高位な神性であるらしい。
とはいえ、当の本人は、自らの出自に頓着していないようで、寧ろ普通の人間の主婦のように、その日の天気や夕食の献立に、日々気を揉んでいる。
種族の壁を越えて一人娘を設けており、先生との仲は相当な物であるが、反面、一度でも疑ってしまうと、自らの権能をフルに活用して、その真偽を猛烈に問いただす。
側から見ると、かなりしょうもない理由で振るわれるもの、その力は実際相当なものであり、文字通りの“嵐”を身に纏って、鉄筋コンクリートの廃ビルを、一撃で崩落させた。
これ以外でも、折々でその尋常ではない力の一端を披露しており、何気に胃の頭で起きる怪奇現象の元凶の一つでもある。
とはいえ、彼女をよく知る周囲からは、親しみを込めて「クトルーちゃんのお母さん」や「段先生の奥さん」と呼ばれており、胃の頭の日常風景の一つとして受け入れられ...るのは、まだ先の話のようではある。
クトルー
段一家の一人娘。
「テケリ・リ」という言葉がお気に入りで、よく食べ、よく遊び、よく寝る、超・健康優良児である。
しかし、その元気のレベルが問題であり、一度、彼女が公園へ遊びに出かければ、遊具が壊れるのは序の口で、挙げ句の果てには負傷者が出てしまうほどの被害をもたらしてしまう。
結果、人間社会からは事実上の出禁を食らう羽目になったが、そんなやんちゃ娘を両親はいたく可愛がっており、何くれとなく面倒を見てくれる二人組(特に栞)も現れ、意外と本人は幸せそうである。
母方の血が濃いせいか、まるで映画のエクソシストの如く、体が滅茶苦茶に入れ替わっても、果ては一部の部位がもげたとしても、変わらずピンピンとしている。
ヨグ
段一家のペット。
本当ならば無いところに頭が生えているトカゲのような怪生物。
元はクトルーの遊び相手として、奥さんが故郷から連れてきたのだが、今では気になるライバルが出来た事で、本業をサボりがち。
体をバラバラにされても、再び繋ぎ合わせる事で蘇ったり、なんなら放っておいても自力で再生出来るという、既存の常識を超えた奇っ怪な生態をしている。
知能も相応に高いが、性格は粗暴なのが玉に瑕。様々な陰湿かつ殺意の高い罠を仕掛け、時には得物(?)の包丁を振り回して、本気で殺しにかかってくる。
栞と紙魚子にとっては、初遭遇から恐怖の対象であり、クトルーの方が遥にマシであると思われている。
・栞たちの同級生
早苗、マチ子
栞たちの同級生たち。
二人とも仲が良いクラスメートではあるのだが、友人たちのホラー体質には、かなり恐れを抱いている模様。
怖いもの見たさで首を突っ込むこともあるが、根は至って普通の一般人であるため、怪奇現象に巻き込まれると、栞たちに後を丸投げして逃げ出すのが定番となっている。
特に委員をやっている早苗は、自分の手には負えない案件が出てくると、その道の専門家として、二人組に押し付ける事もしばしば。
洞野
紙魚子と親しい男子学生。
文芸部に所属しているものの、筋金入りの映画マニアでもあり、暇を見つけては、自主制作を熱心に続けている。
しかしその嗜好にはかなりの偏りがあり、大抵はSFホラーを軸にした、エド・ウッド寄りのはちゃめちゃな作風で、どれもこれも濃厚なポンコツ臭が漂う逸品ばかりとなっている。
ただし、機械仕掛けのロボを自作したりと、中々に凝った一面も。
本人は、何の変哲もない一般人なのだが、脚本の執筆に使用しているワープロが、かなりの曲者であり、たびたび妙な変換を起こしては、怪奇現象を引き起こす元凶となっている。
鴻鳥友子
栞たちとは同学年の女学生。
いつも柔和な表情を浮かべ、言葉遣いも丁寧なお嬢様であり、実際裕福な生まれ。
自らの手で料理することを趣味としており、第一線を張れるほどの腕前である。
しかし、それが災いしたのか、かつて美食で身を崩した先祖の霊に取り憑かれたことで、人肉料理(!)への飽くなき執着心を目覚めさせてしまう。
以降、騒動がある度にその悪癖を爆発させており、今では完全に持ち芸と化している。
家族も、彼女の本性には薄々勘付いているようなのだが、「ご飯が美味しくなるから、放っておこう」(意訳)と、危機感が欠如しているのか、妙に寛容である。
・マレビト
菱田きとら
各地を彷徨う流浪の女流詩人。
血と臓物滴る猟奇的な作風を得意としており、その筋では、ニッチな人気がある模様。
顔立ちはお世辞にも美人とは呼べないが、見る人に忘れ難い印象を与える。例えるならば狐の様な異貌の持ち主。
女性らしい細身のスタイルからは想像出来ないものの、過去に何度も暴力沙汰を引き起こしており、挙げ句の果てには、殺人事件までも引き起こした、文字通りの危険人物。
すこぶる情熱的な一面も持っており、ひょんなことから一目惚れした段先生を追いかけて、胃の頭町にわざわざ襲来して来た。(帰ってくれ)
段先生に対する愛が募るあまり、その奥さんへの対抗心は凄まじく、さまざまな策を弄しては、せっせと殺害計画を練ってはいるが、そもそものレベルが違いすぎるため、まず土俵にすら立ていないのが現状である。
かなり諦めの悪い性格も手伝って、そのまま胃の頭の土地に居着いてしまうものの、むしろ本人としては刺激の多い、今の生活を楽しんでいるらしい。(帰れ!)