概要
江戸時代前期の文人・山岡元隣によって書かれた怪談本『古今百物語評判』巻之三「比叡の山中堂油盗人と云ふ化物 付 青鷺の事」において紹介される怪火。
かつて比叡山が最も栄えていた時代、延暦寺根元中堂との間に大きく油を取引きしており、その油料で財を成していた近江(滋賀県)の商人が没落し、失意のうちに他界した。
するとそのころから根元中堂へ向かって、近江から怪火が飛んでいくようになったので、その噂を聞きつけて仕留めて武勇を見せてやろうとした若者たちが見張っていると、怒りの形相の坊主の生首が炎を吐きながら飛んでいったのだという。
この怪火が油盗人と呼ばれるのだが、『諸国里人談』によると比叡山の油を盗んだ坊主が化けた油坊(油坊主)、兵庫県の伝承には中山寺の油を盗んだ者が化けた油返し、新潟県の滝沢家には柳田國男が同一視した、油を粗末に扱うと現われる油なせ(油を返せという意)という怪異が伝わっている。