「どうしましたか?」
「今はもう無い心臓が脈打つような気さえする」
「これが恋というやつかなぁ」
「可愛いねしのぶちゃん」
「ねぇしのぶちゃん。ねぇ」
「俺と一緒に地獄へ行かない?」
「とっととくたばれ糞野郎」
概要
十二鬼月×鬼殺隊の柱の組み合わせであり、胡蝶しのぶから見ると童磨は姉の仇という図式でもある。
今際の際で童磨は、自分の死を待っていたしのぶと再会する。
「できることなら自分の作った毒でお前を葬りたかった」
「だけど私は満足ですよ。結果万歳です」
「まだ鬼の始祖も残っていますがきっともう大丈夫」
「仲間の誰かが必ずやり遂げてくれる。私はそう確信している」
と、穏やかな笑顔で語るしのぶに、童磨は今までに無い感情を抱く。
「今はもう無い心臓が脈打つような気さえする」
「これが恋というやつかなぁ」
「本当に存在したんだねこんな感覚が」
「ねぇしのぶちゃん、俺と一緒に地獄へ行かない?」
頬を初めて紅潮させてしのぶの名を呼び、一緒に地獄に行かないかとしのぶを誘った。その誘いを「とっととくたばれ糞野郎」としのぶは一蹴する。
カナヲに「心に感覚がないから変わらない」と指摘されていた童磨の顔色が作中で初めて変わった瞬間である。そして童磨に感覚を与え、変化させたのはカナヲの姉のしのぶだったことはカナヲからみれば痛烈な皮肉である。
なお、しのぶは一度も自分の名前を童磨に名乗っていない。そのため童磨は、しのぶの名前を呼ぶときに「しのぶちゃん?カナエちゃん?」と一度間違えている。
その後童磨は自身の高い知性をフル回転し、以前一対一で朝まで戦闘し殺害したものの喰いそこねたカナエとの出来事、無限城で戦ったカナヲとの会話、及び伊之助の発言、死の間際の好きになった女の子との再度の出会いから目の前の女の名前が胡蝶しのぶであることを導き出したと考えられる。
童磨と胡蝶しのぶの戦い
無限城の戦いで鳴女により他の隊士と分断されたしのぶは単身童磨と相対した。
童磨にしのぶの蟲の呼吸は通じず、また童磨の血鬼術の特異性からしのぶは肺を壊死させられ、その実力差は明らかで勝敗は決したかに見えた。
自らも斬られ心折れそうになるもカナエの幻影に励まされたしのぶは決死の突き技を仕掛ける。
狙い通り頸の急所に刀を突き立てるも毒は効かず、逆に捕まり童磨はしのぶの様に感動したと口にし涙を流す。
「全部全部無駄だというのにやり抜く愚かさ」
「これが人間の儚さ人間の素晴らしさなんだよ」
この時、部屋に乱入してきたカナヲを確認した瞬間、童磨はしのぶを抱きしめ殺し、カナヲの攻撃を避けながらしのぶを吸収し喰らう。
高濃度の藤の毒
戦いの前に、姉を殺した上弦の弐と巡り合った場合、第一に自分が童磨に喰われて死ななければならないとしのぶはカナヲに打ち明けていた。
カナエの仇討ちの為、しのぶは一年以上に渡り自らの体に藤の毒を摂取し続けていた。無限城の戦いの際は、血液・内臓、爪の先に至るまで高濃度の藤の毒が回っている状態になっていた。
しのぶの刀が一度に打ち込める毒の量は五十ミリ、けれどもしのぶを鬼が喰った場合その鬼が喰らう毒の量は、しのぶの体重37kg分、致死量の700倍になる。
しのぶは自身を毒の塊とし、童磨を倒す為に喰われる覚悟をすでにしていた。
しのぶが童磨に殺され喰われた後も、カナヲと伊之助が相対し戦いが続き、ついにしのぶの毒が童磨の全身に回り効き始める。
急速に弱体化した童磨はカナヲと伊之助に頸を落とされることになる。
作品に散りばめられた対比
「わぁ」
「凄いですね。手の平から糸を出しているんですか?」
「こんばんは」
「今日は月が綺麗ですね」
※第41話のしのぶのセリフから
「やあやあ初めまして」
「いい夜だねぇ」
「わあ!」
「速いねぇ。柱なのかな?」
※第141話の童磨のセリフから
童磨としのぶの発言には似通ったものが多い。
会敵した時に、敵対した相手に対し挨拶をし褒める発言、他者に対し助けてあげるといった傲慢ともとれる発言、贖罪・詫びの行動として目玉などの部位に関する発言も似通っている。
また、本心とは裏腹に常に笑顔で体裁を保っている所は完全に一致している。
「助けてあげます」
「だから救ってあげただろ?」
「目玉をほじくり出したりお腹を切って内臓を引き摺り出したり、その痛み苦しみを耐え抜いた時あなたの罪は許される」
「どのように御詫び致しましょう。目玉をほじくり出しましょうか。それとも…」
余談だが、童磨は戦いの最中にカナヲに腹を切られ内臓がこぼれ落ち、しのぶの毒が回った時に目玉がこぼれ落ちる。奇しくも、しのぶがかつて累の姉鬼に語った言葉になぞらえている。
また、二人が扉絵を飾った時も対比的な表現が見られる。
第41話「胡蝶しのぶ」では、黒い背景の中、背を向けるしのぶの姿と足元には童磨の血鬼術を彷彿とさせる睡蓮の花が咲いている。
第161話「蝶のはばたき」では、白い背景の中、正面を向いている童磨と眼前にしのぶを彷彿とさせる蝶が舞っている。
背景の黒と白、顔を見せないしのぶと顔を見せる童磨、足元の睡蓮と頭上を舞う蝶と対比的な表現がされている。
童磨の母としのぶの類似点
信者の女に次々手を出す父と心中した童磨の母、姉に手を出した童磨と心中したしのぶ。
夫を殺害する際に彼をめった刺しにした童磨の母、童磨に復讐するために彼の体を何度も刺したしのぶ。
半狂乱になりながら服毒自殺した童磨の母。カナエが亡くなった後、勝気な性格から姉のような行動をする人格に変わってしまい、そして仇の鬼を殺すために藤の毒を溜め込み続けたしのぶ。
状況は違えど両者の間にはいくつかの類似点を見ることができる。そのため童磨がしのぶを好きになったのは童磨が無意識化でしのぶと母親を重ねた結果、彼女を好きになった意見がある。
更にネタバレ(最終話)
最終話において、胡蝶しのぶと胡蝶カナエの生まれ変わりのような人物が鶺鴒女学院の生徒として出てくる。
鶺鴒<セキレイ>は、日本書紀の中で性交がわからなかったイザナギとイザナミに性交の仕方を伝えたと言われている鳥である。
このことから、「教え鳥」や「恋教え鳥」と呼ばれるようになった。
「カナヲも好きな相手が出来ればきっと変わる」と語ったカナエ、童磨に恋をさせたしのぶに似た人物が鶺鴒女学院という学校に通っていることも、童磨がしのぶに恋をしたという出来事を暗示しているように受け取れる。
余談
2020年12月4日に鬼滅の刃完結巻発売記念で、全国の新聞で鬼滅の刃の広告が出された。
その際に胡蝶しのぶも一面で笑顔を飾ることになるのだが、その笑顔は童磨に対して「とっととくたばれ糞野郎」と言い放った時の笑顔である。
https://natalie.mu/comic/news/407307
また、完結後に発売された公式ファンブック「鬼殺隊最終見聞録」内に収録されている鬼から見た各呼吸の印象インタビューにて、地獄に落ちた童磨はしのぶから受けた蟲の呼吸についての印象よりも「いいじゃない可愛いんだから許してあげなよ」と満面の笑みでしのぶについて答えている。