概要
三島由紀夫の作になる、「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の四部作からなる長編小説。三島は1965年から「春の雪」の執筆に取りかかったが、「天人五衰」最終回の原稿が完成した直後の1970年11月25日に市ヶ谷駐屯地で自決し、同作が遺作となった。
作者は同作を「『浜松中納言物語』を典拠とした夢と転生の物語」と述べており、タイトルは月の海の名から取られている。
全体構成
「春の雪」
大正初期の貴族社会を舞台に、維新の功臣を祖父に持つ松枝清顕と、令嬢綾倉聡子の結ばれることのない悲恋を描く。話の最後に、清顕は友人の本多繁邦に「又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」という言葉を残して夭折する。
「奔馬」
昭和7年、控訴院判事となった本多は清顕の生まれ変わりである飯沼勲という青年と出会う。勲は政財界の腐敗を刷新しようと決起を計画するが、密告によりあえなく失敗する。勲は財界の黒幕を暗殺した後に自刃する。
「暁の寺」
太平洋戦争の直前、本多はタイのバンコクで、自らを日本人の生まれ変わりだという幼い姫・月光姫(ジン・ジャン)に出会う。その後インドを旅した本多は、仏教の輪廻転生へと関心を深めていく。
「天人五衰」
1970年、76歳の老境に達した本多は、三保の松原を訪れた際に16歳の孤児・安永透に出会う。透を月光姫の生まれ変わりと信じた本多は、彼を養子に迎えて教育を施そうとするが…。