概要
左頬にあり十字の傷と強面が特徴的な隻眼の男性軍人。階級は軍曹。
ちなみに作者いわくコンドルのジョー(科学忍者隊ガッチャマンのキャラ)がモデル。
来歴
ひとりぼっちの鷺
彼の過去は番外編『鷺草物語』にて語られている。
小倉にほど近い山間の小さな村の出身だが、元は芸者の子で、家のメンツと家内労働力のために「望まれない養子」として、その村にあった母方の本家(伯父の家)へと引き取られた過去を持つ。実父は生存しているが認知そのものを拒絶され絶縁状態にある。
そのため村からは「貰われ子」「芸者の子」として謂れのない差別を受ける、という苛烈ないじめに遭っていた。また引き取られた本家の方も決して裕福な家とは言えず、継母となる義伯母からは事ある毎に面と向かって堂々と「本当は引き取りたくなかった」「迷惑なごくつぶし」と言われ続けていた。これらの事情から村では誰とも馴染めず、何もないときにはひとり村の峠道に佇む、ただひたすらに孤独な愛の無き日々を送っていた。
しかし、あるとき峠道にて優しい女性と出会う。彼女は隣町の遊女屋にて働く「ゆきの」という女性だった。幼い鬼島は彼女と様々な話をするようになり、そしてゆきのに母の面影を見てしまい惹かれるようになっていってしまう。彼女が語る話のひとつに、死してなお離れる事の無い「つがいの鷺」の話があった。
幼い鬼島はどんどんゆきのに惹かれるが、しかして彼女は将来の約束をした人を待つ身でもあった。それは根拠のない約束にもならない口だけのものであったが、しかしゆきのはそれを一途に信じていた。が、それをあざ笑うようにゆきのは病気になってしまう。
結果、紆余曲折の中で、ゆきのは命を落とし、幼い鬼島は片目を失った。そして彼は「ひとりぼっちの鷺」になり、傷が癒えた頃に「ゆきのを追い詰め自分の目を奪ったやつらを、残った目で見ていたくなどない」と村を飛び出し、生きるためにならず者の道へと入り、最終的に軍へと行きついたのであった。
上層部も恐れる兵隊やくざから忠実な部下へ
「そんなので手なずけられるほど、おれたちゃ甘かねぇぜ! 」
鬼島の所属する小隊は「新人(エリート)潰し」の「兵隊やくざ」などと呼ばれ(彼自身の荒々しい気性から、荒くれ者しかついてくる事ができなかったし、そうして集まった者は腕っぷしに自身があるゆえにキャリア組を「力(体力・腕力)も無いのに威張るやつ」「自分たちと同じ場所に立つ資格も無い(ケンカもできない)臆病者」と嫌っていた)軍の中でも忌み嫌われていた。忍がこの小隊を引き受けざるをえなかったのも印念の圧力からだった。
当初はエリートである忍を嫌い、何かにつけて反発。しかし忍は婚約者が引き起こしたトラブルの件で精神が鍛え上げられていたために、それをものともしなかった。だがそれゆえに忍は鬼島たちを今までのエリート以上により強く(無自覚に)苛立たせる。それどころか忍は逆に鬼島と同じ舞台に立ってやりあい、最終的に忍に対する度重なる挑発は乱闘騒ぎにまで発展。上層部から処分を受けそうになるはずのところを他ならぬ忍に庇われる事となった。ただ、この騒動が原因となって忍と鬼島は小隊ごとシベリア出兵の最前線へと送られることになってしまう。だが鬼島たちは、その男気あふれる忍の性格を気に入り「自分たちを解ってくれる小隊長どのがやっと来てくれた」と喜び、徐々に打ち解けていく。
「不肖鬼島、小隊長どののおともなら、どこへでもついていくであります! 」
鬼島たちは「これこそは自らの力を示す好機、自分たちを庇ってくれた小隊長どのの恩に報いるべし」とばかりにピンチをチャンスに変えて奮迅の活躍を見せようとする……が、その行動は印念と繋がりのある中隊上層部にとっては目障り以外の何者でもなかった。彼らが一番望んでいたのは鬼島たちが忍を何らかの形で身体的にも精神的にも再起不能にしてしまい、のちに中隊の管理者層がその責任を取らせるためとして鬼島たちを処分する、というあわよくば一石二鳥の外道なシナリオだったのである。
本国の裏切りと敬愛する上司を喪う悲劇
「小隊長どの……! やめろ! こっちへ来るな! 俺のことなんかほっとけええぇ! 」
自らが目論んだシナリオが破綻した事を悟った中隊の上層部は、結果として忍を筆頭とする小隊の抹殺という次善の策の決行を決意。その姑息な策によって忍たちの小隊は友軍より敵兵を引き付ける囮として利用され、見捨てられてしまう。その中でも忍は部下を守らんと奮戦するが、戦場の混乱の中、鬼島だけがはぐれる事に。忍は乱戦直前に部下と交わした「皆で生きて本国に戻る」という約束を守るため、生き残った部下の静止を振り切って鬼島の救出行動に打って出て、見事に合流を果たす。
しかし合流直後、二人は会敵し、忍は不意を突かれて背部から銃剣の刺突を喰らい、敵から袋叩きに。直後、流れの榴弾が着弾し炸裂。敵も味方も吹き飛ばされ、再び二人ははぐれてしまう。
奇跡的にかろうじて生きながらえた鬼島は必死に忍を探すも、シベリアのブリザードがもたらしたホワイトアウトの中へと嘆き叫びながら消えていく。
「……ばかだよ、あんた……きっと恋人のもとに帰ると言っていたのに……っ! 」
逃亡兵から馬賊の頭領へ、そして再び動く運命
忍を探し続ける放浪の果て、いつしか鬼島は馬賊の頭となり恐れられる存在へと身をやつしていた。かつては守るべき母国であった大日本帝国は彼にとってみれば兄弟にも等しい小隊の仲間を見捨て、自らが敬愛する小隊長を奪い去った、もはや憎々しくも恨み骨髄の怨敵以外の何者でもなかった。
「あんないいやつを死なせた軍隊に……もう、あいそが尽きていたからだ……」
その結果、鬼島は満州域で日本軍やその支援者を相手に略奪を繰り返し続けていた。その活動の中、日本軍の駐屯する村に対して村長の娘をさらい身代金を奪おうとしていたが、そこにある女性雑誌記者が「人質なら自分がなる」と名乗りを上げて人質交換を申し入れた。鬼島は記者のクソ度胸に感服してそれを受け入れるも、結局のところ記者は村と軍より見捨てられてしまう。その記者の名こそ花村紅緒といった。彼女は婚約者である忍を探す目的で、馬賊の取材にかこつけて、この地まで来ていたのである。
紅緒より子細を知った鬼島は、この奇縁こそを天の采配と知り、紅緒と共に村への奇襲を行う。実は村に駐在する日本軍の責任者こそ他ならぬ、大佐へと昇進していた印念であった。奇襲の結果、印念の不適切な行動を白日の下に晒してその面子を見事に潰しきった上で正気まで奪った紅緒と鬼島は見事に忍のカタキを討ち、印念との因縁に終止符を打つ。
しかし忍の死という現実に直面してしまった紅緒は情緒不安定に陥り、酒ガメや洗面器を用いて自殺衝動を繰り返す。鬼島は「敬愛する少尉どのの愛した人を死なせるわけにはいかない」と幾度となく彼女を助け、少尉の真意を紅緒に思い起こさせながら励ますことに。そしてついに立ち直った紅緒は東京に戻る決意をする。そんな彼女を鬼島は静かに見送るのだった。
…………が。
それから数日後。鬼島は再び奇縁により、とんでもない出会いを果たす。
ロシア革命から落ち延びてきて森で行き倒れていた貴族の奥方を拾ったのだ。
奥方は家族とはぐれて一人きり。看病をするも、やがて衰弱して死に至る。
奥方の名はエリナ=ミハイロブナ(ミハイロフ侯爵夫人)で大元の出身はドイツ。彼女は結婚前に、とある日本人と結ばれて産んだ息子を頼ろうと日本へと向かっていたのだった。
奥方が頼ろうとした息子の名は「シノブ」であり、向かっていた先はなんと伊集院家。
彼女は伊集院忍少尉の実母であったのだ。
彼は事の次第を紅緒へと報告するため、馬賊を解散して身軽となり日本の伊集院家へ赴く事となった。
帰国から運命の騒動へ
紅緒に事の次第を報告した鬼島は、日本に既にエリナが落ち延びる途中ではぐれたという家族が入国している事実を知る。鬼島は紅緒と共に、その家族であるところのサーシャ=ミハイロフ侯爵(忍の弟)に子細を報告するため面会に赴く。
しかし鬼島はそこで紅緒にも言えないとんでもない秘密を知ってしまう。その結果、鬼島は紅緒を見守るため、そのまま伊集院家の下宿人として居つく事となり、彼女の周囲の人たちとも面識を持つようになる。が、ある程度は鳴りを潜めたとはいえ生来持つ荒々しさのせいで紅緒の友人である北小路環とは幾度となく衝突が繰り返された。
そして紆余曲折の果てに巻き起こる大騒動の果て、鬼島は紅緒たちの顛末を見届けたのちに満州へと戻ることを決意する。
「あばよ。元気でな! はいからさん! 」
その後を追わんと息巻く、かたわれの白鷺の存在を夢にも思うことなく。