魔王(シューベルト)
しゅーべるとのまおう
ゲーテの書いた詩にフランツ・シューベルト(当時18歳)がわずか1日で書いた曲をつけた歌曲(リート)。ト短調だが、へ短調で演奏されることが多い。
馬に乗って走る親子と、子供を狙う魔王の物語が描かれる。
特徴的なのは、歌手による父親、子供、魔王の3役(ナレーション含めれば4役)の歌い分けと、右手でひたすらオクターブを3連符で連打するピアノ、曲中で徐々に転調してキーが上に上がっていくことで表される緊張感の高まりである。特にピアノはプロでもかなり難しく、初心者や素人がやろうものなら手がつるのは避けられないだろう。この求められる技術力の高さから、「伴奏」「引き立て役」といった概念に止まらず、ある意味歌手や登場人物を差し置いて曲における主役の地位を確立しているとも言える。このオクターブ3連符の連打により、馬が疾く駆ける様子と、迫り来る不気味さを表現している。
ある夜、馬に乗り子供を抱き抱える父親がいた。子供は父親の腕の中で、追ってくる魔王に怯えている。魔王は甘い言葉で子供を誘い、父親は怯える我が子を優しく諭して宥める。しかし、必死に抗い続ける子供に痺れを切らし、本性を表した魔王は力ずくで子供を捕まえてしまう。そして父親が家に着いた時、子供は腕の中で既に死んでいた。
……という恐ろしくて悲しい話なのだが、日本では中学1年生の音楽の教科書に載っており、多くの学生が履修することになる。教科書用に書き下ろされた日本語歌詞の「おーとーさんおとーさん」のインパクトが強く、たびたびネタにされている。ちなみに、元の歌詞の「mein Vater」も、英語の「my father(マイファザー)」とさほど変わらないため覚えやすい。
また、中学1年になると思春期や中二病を拗らせる人、人によってはオタクやネット民になる人が多く、
- 「魔王」と言うワードからゲームやマンガのボスを連想する
- 「小さい男の子を付け狙う魔王」が大抵は男の老人の姿で描かれることが多いためか、「ショタコン変態ホモ親父」のイメージがついてしまう。特にこれがその手のプロの方々にかかれば妄想は止まらない。
- 誘い方やかけてくる言葉が色々な意味で危ない
- 小学校を卒業した直後であり、魔王が小学生の時に散々教え込まれ注意喚起された不審者や変質者にしか見えない。※
- 歌詞には魔王の娘たちも登場している。「娘と踊ってお遊びよ」→おねショタ、R-18、ハーレム(なお、魔王自身が美少女や美女なお姉さんだったらと言う妄想もされるかもしれない)
- さらに魔王の母親も登場する。金色の服をたくさん持っている。→きせかえ
などという想像が働いてしまうのもネタにされる要因であろう。まぁネタにすることで恐怖や悲劇性から来る精神的ダメージを抑えるというのもあるかもしれないが……。
※もっとも、不審者とはそれこそ魔王と同じかそれ以上に本当に怖いものだが、実際に襲われてみないとその恐ろしさがわからず、教えられた小学生はその時までネタにしていることが多い。現実では襲われてニュースになれば悲しい結果に終わることは少なくないが、もちろん無事助かる児童もたくさんいる。
なお、実際は重病で危篤状態の子供が死神の幻覚を見ているだけと思われる。
終始理性的な父親は子供が語る魔王の言行を冷静に捉えて息子を諭している。
しかし一方で子供が見ているのが幻覚に過ぎないと一蹴するのが必ずしも正しいかといえばそうでもなさそうで、理性万能主義のニュートン自然観に異を唱えた(疾風怒濤)ゲーテの自然観の現れでもある。
実際ゲーテも友人宅で夜中に病気の息子を抱え馬に乗って病院まで急ぐところを見ており、そこから着想を得ている。
シューベルトとほぼ同時期にカール・レーヴェも同じ題材で曲を描いていたが、シューベルトのと比べると悲劇性や曲の盛り上がりに欠ける。ただし、シューベルトは相手にされなかったのに、レーヴェはゲーテとの面会を果たしており、レーヴェの描いた「魔王」を聴いたシューベルトは酷く激怒したという。
なお、魔王と邦訳されているが、別に閣下のような堕天使の類でもなくデンマークなどに伝わる「ハンノキの王」の事を指す。
教科書以外でも、ピエール瀧プロデュースのゲーム「バイトヘル2000」にこの曲を題材にしたミニゲームが収録されていたり、デーモン閣下がライブで披露するなど日本ではクラシックの中でも人気が高い。
そのためか、カラオケに行けばJOYSOUNDには収録されている。歌詞はドイツ語なので、興味がある人やドイツ語が話せる人は歌ってみると良いだろう。(欲を言えばDAMにも収録して欲しい。)
アニメ「坂本ですが?」で主人公がこの曲を熱唱している。
鍵盤型のデバイスで演奏する音楽ゲーム『ノスタルジア』にも本楽曲が収録されている。上位の難度「Expert」「Real」では、ご察しの通り休みなく鍵盤を連打することとなり、まさに魔王のごとくプレイヤー達を苦しめた。
クラシックを題材とするゲーム『takt op.運命は真紅き旋律の街を』にも本楽曲が収録されている。このゲームはクラシックを擬人化、及び兵器として扱う作品であるがそこまで酷い物ではないため、ぜひ1度聴いて頂きたい。
演奏はキーピアニストのまらしぃ氏による(アレンジも同様)。
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