鳴女(タカマガハラ)
たかまがはらのなきめ
同作における「夢の世界」(異世界)である「高天原」に生きている少女であり、同世界の管理を請け負う神域「天珠宮」に住んでいる。
自らの住む「天珠宮」においては、宮(ひいては高天原世界)の最高執政者である巫女「天照」の側近である「思兼神(オモヒカネノカミ)」の職にあり、天照の意向に沿って行動(仕事)をしている。
しかし「高天原」の地上世界、ひいては表裏をなす「中ツ国(現実世界)」が、人の欲にまみれて淀んでしまったため、天照は世界の怒りに触れすぎて自らの力を弱め臥せってしまう。
そのため天照の指示により、高天原世界の緊急救済システム「天の岩戸計画」を発動。
計画の要となる「中ツ国の少女」若狭結姫を、伝説の救世主「光の少女(ホル・アクティ)」として見出し、彼女を高天原へ召喚して天珠宮へと導く旅に誘うことで世界の浄化を行い、天照に元気を取り戻してほしいと目論んだ。
そして、そのために結姫本人と彼女を守る4人、計5人の「天ツ神」を召喚する儀式「宝珠降臨」を発動。結姫に「天ツ神」を探させパーティーを組ませて天珠宮へと導かんとする。
基本的には主人公たちを導くお姉さんポジの人で、登場人物たち(およびファン)からの通称は「鳴女さん」。
少女漫画の女性キャラには珍しく、生年月日不詳(公式)。辛うじて、血液型だけがA型と設定されている。
世界のトップの側近を務めているだけはあり、清楚かつ凛としていて有能ぶりが身から滲み出ており、やるべき時はやるお方。
しかし登場当初から真面目ポンコツで、迂闊が過ぎる描写がとにかく多い(結姫側の迂闊っぷりや、警戒心の無さも原因だが)。
他ならぬ作者からすら「頭は良くいつも冷静沈着ですが、かなりぬけているところがあります」とまで断言されてしまう始末。
なにしろ結姫を召喚するのに、自身の目的である「天照さまを助けてほしい」という説明はしたものの、彼女を安心させるために緊張を解かせてしまったため、結姫の寝オチを許してしまい、結果として結姫は天照を助けるために何が必要で何をすればいいのかを説明されないままで高天原へと異世界召喚されてしまった(挙句、結姫は「天照さまの元へ行き、私と連絡を取れるアイテム」として鳴女に託された神獣鏡を、隆臣率いる盗賊団に同行する内に落として失くした)。
挙句の果てには結姫たちに対して「都の王である月読は天照の兄だけど、危険な男だから気を付けて」というアドバイスをするにあたり、当の月読の城のド真ん中でやらかす(しかも、それをやらかした後に結姫たちに「ここ、どこです?」と尋ねるというオマケつき)という失態まで演じ、敵側に情報が筒抜けになって対処までされてしまう事に。
その様は、まるっきりのちに出てくる某キュアの王女さまのごとし(鳴女の方が先発であり『なかよし』キャラ的にも先輩なので、たとえとしては逆ではあるが)。
しかし、それでも本人はなんとか役目を果たそうと必死であり、そのいじましいポンコツぶりが彼女のえも言われぬ魅力であったりもする。
実際、このポンコツぶりは彼女の双肩にかけられた「天の岩戸計画」執行者としての重責によるプレッシャー(失敗できない緊張や、天照の衰弱を目の当たりにして計画遂行を急ぐが故の焦り)によるものでもある(しかも極秘の計画であるために補佐も無い)ので無暗に鳴女の責を問う事も賢明とは言えない。
素の状態では、真面目で責任感の強い寂しがり屋。昨今のブラック企業あたりなら、真っ先にやりがい搾取で喰い物にされるタイプかもしれない。
のちに結姫を守るために選ばれた「天ツ神」の一人である泰造に、一目惚れされてアプローチを受ける羽目になる。本人的には天の岩戸計画遂行の役目があるために、恋愛に目を向けるような余裕など欠片も無いのだが、それでも泰造の自身に向けてくれる一途な思いは、好ましいものとして思っている素振りもある。
深森聖良…怪盗セイント・テールの登場人物。外の人繋がり(作者繋がり)で、ある意味、先達。聖職者(鳴女は巫女、聖良はシスター)である事も共通。
※ 以下、物語の核心に至るネタバレのため、要注意 |
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——— 古ヨリ 思兼神ヲ ツイダ 者ノ
最大ニシテ 最期ノ役目
ただ、のちにその行為には「天の岩戸計画」の真実もろともに、(案の定)とんでもない裏がある事が明かされた。
「何千年かに一度…世界が病み すさんでしまったとき」
「思兼神をついだ者は六つの勾玉の封印を解き」
「中つ国より六人の天ツ神を呼びよせます」
「世界を『再生』するために」
「破壊神が汚れきった世界を滅ぼし」
「もう一度新しく(世界を)作り直すために」
そう。
実は「天の岩戸計画」とは、世界を浄化して天照に再び活力を取り戻してもらう計画…ではなく、弱った天照ごと世界そのものを生贄にして滅ぼし、滅んだ後に新しい世界を造るための計画だった。
鳴女が呼んだ天ツ神は、実は結姫を中心とした六人。
ひとりは計画の要「地平線(ホル)より生まれ出でる、新たなる太陽にして次代の天照(アクティ)」結姫。
そして四人は、計画の妨害者から結姫を守り天珠宮まで導くための護衛たる能力者たち。
最後の一人が結姫が作る新たなる世界の地均しのため、現在の世界を破壊し尽くし虚無へと還す「破壊神・太陽を呑み込む魔竜スサノヲ」であった。
つまり鳴女は(同時に上司である天照も)世界を救う側ではなく、世界を滅ぼす側の存在だったのである。
役割的にはアレやソレやコレのあいつらの同類と言っていい立場だった。
ただし件のあいつらと異なるのは、鳴女自身はメンタル的にはごくごく普通で真っ当かつ真面目(時に杓子定規)な心優しい人間の少女でしかなかった、という事である。
鳴女は、世界の摂理に追い詰められたがゆえに泣く泣く真面目にその役回りを演じねばならなかっただけであり、実はしっかりと人間としての良心の呵責と神としての役割の板挟みで苦しみ、嘆き、もがき続けていた。
しかし鳴女が苦しみながら築き上げた「天の岩戸計画」は、ある一つの齟齬によって綻びを見せる。
それは、結姫が「破壊の天ツ神・スサノヲ」の化身である隆臣と愛し合ってしまった事だった。
全てを明かし、そして自らが敷いた計画の齟齬、結姫を残酷な運命に導いてしまった事に気付いた後、鳴女は人としての痛切な悔恨を抱き滂沱の涙さえ流した。
そして結姫は、鳴女が明かした「天の岩戸計画」の真実を前に、一つの決断を下す。それは「天照ではなく、自らが世界の身代わりにスサノヲに呑まれる(事で愛する人と同一化する)」という決意だった。
しかし、鳴女の思惑も結姫の決意も越えて、破壊神・隆臣は結姫への愛ゆえに「天照を喰らい世界を滅ぼせば結姫が悲しむ。しかし、世界の代わりに結姫を喰らい喪う事もしたくない」という二律背反を抱き、その結果として「結姫が信じているこの世界を自身も信じ、自ら滅ぶ」という決断を下す。
しかし、鳴女は結姫への償いとして、自らの存在(命)を投げ出して隆臣の命を繋ぎ、高天原から消え去る事となった。
泰造と絆を結び、互いに結ばれる事を望みながら、それをも叶えられぬ悲恋となる事すら覚悟して―――。
※ 以下、鳴女と泰造に関するネタバレのため、超・要注意! |
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ひとつ…だけ
お願い…きいて もらえますか……?
どうか「わたし」を探してください
中ツ国のわたしを探してください……
わたし ひと目で……
「あなた」だと わかりますから……
本編中(高天原)では互いに死に別れて悲恋に終わった鳴女と泰造の恋愛だが、その直前、鳴女は泰造に対して願い事をしていた。それが上記の台詞である。
親記事にもある通り、この作品の登場人物は「高天原」と「中つ国」の双方に体を持ち、両方の世界で一つの魂が輪廻転生を繰り返す。
鳴女は、そこに希望を見て、泰造に託した。
「中ツ国のわたしを探してください」と。
かくて単純バカは中学になってから(鳴女を探すために)ご町内(隣接する複数中学区)全女子ナンパという、とんでもねー大記録を打ち立てる事となった。
が、結局、泰造は鳴女をきちんと見つける事はできず、7年後に高校教師となった。
教師となった泰造は、グラウンドで一人たたずむ新入生の女子生徒を見つける。
慌てて生徒を呼びに行った泰造だったが―――。
女子生徒を見た瞬間、泰造は既視感に硬直した。
彼女は微笑んで言う。
「…ね 必ずわかるって… 言ったでしょ?」
そこには「中ツ国の鳴女」が立っていたのだった。
夢渡の夢巫女
中ツ国での鳴女は結姫や泰造たちよりずっと年下。
同人誌版での設定から逆算すると、結姫たちが冒険を繰り広げていた頃には5歳ほどという結果になる。
夢占いを得意とする「夢渡神社」の一人娘で、家では夢を通してお告げ(予言)を成す「夢巫女」の立場にいる。そして、この「夢巫女」の能力により高天原の鳴女の記憶を、ほぼそのまま受け継いでいる。
泰造がご町内ナンパキングとなってまで彼女を見つけられなかったのは、「高天原の鳴女」が結姫への償いのために隆臣に自身の命を渡してしまった結果、その後遺症で下半身不随となり引きこもりになってしまったため。
幼くして自らの半身を失くした事に絶望し、数年を引きこもって過ごした夢巫女だったが、ある日、偶然にも神社に一人の少年がやってきた。それはご町内ナンパキングと化していた日向泰造だった。
そして夢巫女は知る。愛する人が自分を全く諦めておらず、むしろ、その愛の炎は時とともにより強く燃え盛っている事に。
絶対に諦めない、不屈の泰造の姿。夢巫女は絶望の暗闇の中、自らの内に、それを照らす小さな魂の火が点った事に気付く。
「…あたし 歩けるように なりたいな」
泰造の愛の炎が、一人の少女の希望を灯した瞬間だった。
こうして少女は地獄のリハビリを超え、愛する人の元へ戻ったのであった。