アイテム番号:8001
メタタイトル:世界の端(The Edge of the World)
オブジェクトクラス:Euclid
概要
SCP-8001は地球の端として存在している。地球が球体であることは科学的に証明されているが、この異常な場所はその常識に反する存在である。SCP-8001は南太平洋を南北に走る巨大な断崖であり、その端から太平洋の水が際限なく落下している。この水は測定不可能な深度の虚空へと流れ込んで消失している。
ラストウォッチ島と呼ばれる小島がSCP-8001内に存在している。この島には、サンセット塔という歴史的かつ異常な建造物が建っている。塔は灯台とライブラリの役割を果たしており、SCP-8001や周辺地域に関する数世紀分の探検記録が保管されている。
SCP-8001、及びラストウォッチ島へ到達するには、様々な環境的条件のほか、特定の経路を通る必要があり、この経路の入り口にあたる部分はアクセス地点「アレフ」と呼ばれている。なお、この経路以外でSCP-8001に接近した場合、激しい水流に飲み込まれ、断崖を超えて虚空へ無限落下することになる。
ラストウォッチ島
ラストウォッチ島はSCP-8001内に位置する面積約1.2km²の小島である。島には保護された湾があり、船舶でのみアクセスが可能である。島の西側にはSCP-8001の端へ突き出た岩礁があり、木製の頑丈な歩道が設置されている。この歩道を使用することで、危険を伴わずに端を観察することが可能である。
島の中央と北部には平坦な森林地帯が広がり、様々な種類の植生が見られる。南部には小さな墓地があり、その墓地を囲むように低い丘が広がっている。これらの特徴が島全体に歴史的な雰囲気を与えている。
サンセット塔
サンセット塔はラストウォッチ島の中心に位置する石造りの建造物である。この塔はギリシャ、ローマ、メソアメリカ、中国、ヨーロッパなど、複数の時代や文化の建築様式が混在している。塔の主な役割は、灯台としての機能とライブラリとしての役割である。
灯台の光源は18世紀に作られた自動再照明システムによって維持されている。このシステムは時代を超えた技術で作られており、現代的な要素も含まれている。一方で、ライブラリには数千点以上の文書が保管されており、その中には紀元前2300年のエジプトの平板や20世紀初頭の海図が含まれている。
特別収容プロトコル
SCP-8001は世界の端と呼ばれる異常な場所であり、そのアクセスには特殊な条件が必要である。そのため、SCP-8001自体は自己収容状態にあると見なされている。財団はアクセス地点「アレフ」付近の監視を行っており、周囲25kmには浮体式研究プラットフォームK-162と巡視船が常駐している。この体制により、偶発的な民間船舶の接近や進入が防がれている。
SCP-8001への進入には、特定の日時、気象条件、航路が必要である。これらはプロトコル8001-105に詳細が記されている。(実際の記事にはプロトコル8001-105の詳細が記載されていない)この条件を満たせなかった船舶はSCP-8001に到達せず、単にその地点を通過するだけである。再挑戦が必要な場合、船舶はK-162に戻り、再度条件を整える必要がある。
航空機や潜水艦はSCP-8001への進入が不可能である。特に、周囲の水蒸気の雲は視界を完全に遮るため、飛行中の高度や速度に関係なく接近が不可能である。また、SCP-8001はレーダーや画像装置にも深刻な干渉を引き起こすため、追跡が困難である。潜水艦に関しては、浮上しない限り進入が不可能であり、直接視界でラストウォッチ島を確認する必要があるとされている。
補遺8001.1: 発見の経緯
SCP-8001の存在は、古代から断片的に文献に記録されてきた。中国の文献や中世ヨーロッパの探検記録にも類似の記述が残っているが、その正体が確認されたのは財団が関与した20世紀半ばである。
1943年、財団はロシアの探検家ボリス・コズロフによる海図を手がかりにSCP-8001の存在を確認した。この海図にはサンセット塔の詳細が記されており、その後の調査でラストウォッチ島への到達に成功した。なお、ラストウォッチ島への探検にあたり、財団は数多くの船舶と財団職員を亡くした。彼ら、彼女らへの慰霊碑がラストウォッチ島の墓地の近くに設置されている。
補遺8001.2: SCP-8001-A
ラストウォッチ島にはオーレリーと名乗るSCP-8001-Aが存在している。SCP-8001-Aは知的な機械構造体であり、16世紀のフランス人探検家の知性を再構成したものであるとされている。彼はサンセット塔とライブラリを維持する役割を担い、また島全体の管理人として活動している。
オーレリーは流暢なフランス語を話し、島での活動や探検家たちとのやり取りについて多くの知識を持つ。彼の存在は、島の歴史を記録し続ける重要な役割を果たしている。
なお、オーレリーが管理人となる前には別の管理人が島に居住していた記録があり、記録されているだけでも計63人の管理人が島で生活し、亡くなったことがわかっている。
補遺8001.3: ライブラリの記録
サンセット塔内のライブラリには、SCP-8001や周辺地域に関する膨大な記録が保管されている。以下はその一部である。
- エドゥアルド・ジュネーブの日誌(14世紀)
「...この場所に立つと、人間の定命性を超えた神聖な力を感じる。この景色は、地上における神の存在を目撃するようなものだ。...」
- ビザンツ帝国のテキスト(4世紀)
「...この地は人間の限界を示すものであり、それを超えることは神聖さを冒涜することである。...」
- ジョン・ラッセルの記録(17世紀)
「...この場所は人類の探検の終着点であり、全ての物語が収束する場所である。...」
補遺8001.4: セオドア・トーマス・ブラックウッド卿の記録
セオドア・トーマス・ブラックウッド卿(SCP-1867)とは、探検家、博物学者、そして「未踏の領域の征服者」を自称する知性を持ったウミウシである。ウミウシである彼がどのようにしてそのような功績を成し遂げたかは不明だが、彼は世界中の秘境に関する膨大な記録を残しており、現在は発見されたほとんどの記録、標本、模型を財団が管理、研究している。
サンセット塔の図書館内で、ブラックウッド卿の手記と思われる文書が発見された。以下が発見された文書についての担当職員イヴァン・マン博士とブラックウッド卿とのやり取りである。
マン博士: SCP-1867、私に会うために時間を割いていただき感謝します。
SCP-1867: なあに当然だとも、この数年私は部屋に篭り切りで、その間他に追求するようなものもそうなかったものでね。
マン博士: 最近私は航海を-
SCP-1867: あぁ! 外洋か。若い頃の私自身のお気に入りだよ。
マン博士: それで集まったんです、はい。目的地に到達すると、そこでこれまで我々が見たことがなく、過去にあなたも言及していないと思われるあなたの日誌を見つけたんです。
SCP-1867: そうなのか? あえて言えば、私は君やその仲間たちと共に、私の様々な過去の出来事についての調査を徹底的にやり尽くしたはずなのだが、見過ごしていたものがあるとは想像し難い。その文書を見せてもらえるか?
マン博士: ええ、実際に - ここにいくつか本文をコピーしてきました-
マン博士はSCP-1867に原文の転写を提示する。SCP-1867は水槽の端に移動し、しばしの時間をかけて日誌を読む。
SCP-1867: あぁ。本当だ。
マン博士: では、これはあなたが書いたものですか?
SCP-1867: その通り。
マン博士: いくつかイレギュラーに気付きました…… 文中、この節から始まるところです。お尋ねしたいのは、別の人にこの節を書いてもらったのかもしくは-
SCP-1867: いいや。この日誌は私の手で書かれたものだ。
マン博士: では書きぶりの変化は?
SCP-1867: (休止)もしここに秘められた新事実を期待しているのなら、残念だがそれには応えられないと伝えておかねばならない。
マン博士: 単に妙だと思っただけですよ。あなたの文章は基本非常に…… 豊かですが、ここではあなたは文字通り世界の端を見つけ、その説明に僅か数段落しか割けていません。
SCP-1867: より沢山を期待していたのか?
マン博士: 認めねばなりませんが、そうです。
SCP-1867: 私だってそうさ。我々をかの地へ導いた遠征は、あらゆる場面で危険を孕んでいた。我々は激しい嵐に勇敢に立ち向かい、荒波の上で恐ろしいクラーケンに遭遇し、海賊と反逆者の襲撃を退けた、全ては心より追い求めた目的地 - 存在の縁を見んがために。そしてその時……
マン博士: その時どうしたのですか?
SCP-1867: それはあった。我々は端に到達し、そこから先に道はなかった。
マン博士: 理解できません。あなたは存在するはずのないものを発見しました。あなたはそこから戻ってきましたが、それはかつてはほぼ不可能だったと聞きました。あなたのあらゆる物語や話したこと、あなたが見たり経験したというあらゆる事物の中でも、これ以上に重大なことがありましょうか。
SCP-1867: 確かに、それが問題の肝なんだろう、博士? 永遠に別の物語が待っていて、別の生物を打ち破り、別の乙女を救い出し、異国の政権を転覆させるのだ。私の存在は遥か遠く離れた地平線の一つであり、それらを熱烈に追い求める中で、目覚ましい偉業を目撃し、達成してきた。だがしかし、あの岩の上に腰かけ、ベールに包まれた向こう側に広がるものを見つめた瞬間に私が感じたのは…… 虚しさだけだった。
マン博士: 何も感じなかったのですか?
SCP-1867: (休止)あの場所、唸る水と霧、あれが最後の地平線なんだ。そこから先には何もない - 君にとっても、私にとっても、他の誰にとっても。それは地図の端で、越えることのできない場所なんだ。そこにそれ以上伝えられる物語はない。
SCP-1867は再度休止し、振り返って水槽の奥へ戻っていく。
SCP-1867: 正直に言うと、博士、私はあの場所を見たとき、ある深遠な感情を覚えたんだ。世界は私がかつて夢見ていたほど大きくないことに気付いたんだ。
ブラックウッド卿の記録は他のSCPにも登場するが、どの記録でも彼の更なる未知の領域を求めて突き進む強い意志と探求心が描かれている。そんな彼が文字通り「世界の端」に到着したとき、彼が感じたものは達成感ではなく、世界の端を知ってしまったという虚無感と、もう探索する意味がなくなったという一抹の哀愁だったのだろう。
補遺8001.5: 塔の管理人の日誌
ラストウォッチ島には過去の管理人アダン・ゼダノの日誌が残されている。その日誌の一部には、彼がどのようにして彼の一つ前の管理人から役割を受け継いだかが記されている。
補遺8001.6: SCP-8001-Aとの対話
1948年、イヴァン・マン博士はSCP-8001-Aとの対話を記録した。オーレリーは人間の探究心と物語の終わりについて深い考察を語った。以下がその対話の記録である。
マン博士: さて、準備できました。何をお考えで?
SCP-8001-A: 考えていたんです - あなた方はここでアーカイブの研究にたくさん時間をかけたのかと。私はあなた方よりもずっと、ずっと長い時間をかけて同じことをしました。私は今、あなた方がテキストをどう要約したか考えているんです。私の分析が何らかの形で生物学的な人間に及ばないのか確かめたいんです。
マン博士: あなたにそのような欠点などあるのか、と私は心から疑問に思っています。これらの本については、何とも言い難いです。多くの本は同じ結末を迎えます。妄想に囚われて端を越え死に至る準備をするか、あるいはこの場所が何なのか、それが何を意味するのかについて取り乱すかのどちらかです。
SCP-8001-A: 何が言いたいのですか?
マン博士: その…… このような場所を見つけるのはどのような人ですか?
SCP-8001-A: 船乗りです、一般的には。
マン博士: いえいえ、言いたいのは…… このような場所を捜し出す人はどのような性情の持ち主なのですか? 誰が地図の端を見て、そこに旅したいと望むのですか?
SCP-8001-A: 勇敢な精神を持つ人です。冒険家とか、探検家とか。
マン博士: そうです。物語を書きたい、自分の物語を知ってもらいたい人。彼らは私とそれほど違いません - 多くの点で、私がここでやっていることは一種の冒険でもあります。収集している情報は違うかもしれませんが、それを行う理由は同じです。地図の一部が塗りつぶされていないのを見て、そこに行って欠けているものを見つけ出すのです。
SCP-8001-A: なるほど。
マン博士: それで彼らはここに来て、この場所を見つけて、そして理解するんです…… これで全部だと。この点より先に旅することはできない。現代技術のある今でさえも、まさにこの場所の本質は人知の越えることができない壁として立ちはだかっています。全ての物語、全ての語り手にとって - この場所は受け入れがたいものなのです。それは本の裏表紙なのです。
SCP-8001-A: 理解しました。私はよく彼ら、私の出会った人たちについて考えていました。私はかなりの時間をここで過ごしてきましたが、これまでに目を向けたのはこの塔を、ライブラリを、この土地を維持することでした。丘の上の墓を維持し、木や草を手入れするんです。認めねばなりませんが、私はあまりこの場所の意味、あるいはこのような場所がそれを見つけた人にどのような意味を持つかということは考えていませんでした。以前、私が宿っている形態の構造に欠陥があるのではないかと考えたことがありますが…… 恐らくそうではありません。
マン博士: どういうことです?
SCP-8001-A: 以前あなたに、どうやって私がここに来たか、そして友人のアーモンドについて話しました。実を言うと、私の変容以前、私たちは友人以上の関係だったと考えています。というのも、私の新生活初期に彼が見せてくれた優しさは、今にして思えば異常に誠実なものだったからです。オラダポが亡くなった後、私は最初十分に動けず、島中でのアーモンドの仕事を手伝うことができるようになり始めるまで何年もかかり、彼と話せるようになるまでさらに長い年がかかりました。しかし彼は毎日私と一緒に時間を過ごし、私を生かし続けるメカニズムに取り組み、以前の私に近付けてくれました。夜に私たちは外で一緒に座り、彼はかつて私が大好きだったに違いない歌を歌ってくれました。夢の中からやって来たような歌を。(注:オラダポとは、オーレリーが管理人になる前の管理人である。オーレリーが重傷を負って島に到着したとき、彼がオーレリーを、人間の肉体から現在の機械人形の姿に変えることを提案した。)
休止。
SCP-8001-A: 私が話せたとき、彼は私が失ったものを教えるのを手伝だってくれました。私たちは本の中で、古代の巻物や目録に没頭しました。アーモンドはその時、私がその後しばらく理解できなかったこと - 私に与えられた時間は彼に残されたものよりも遥かに多かったということに気付いたのだと思います。私たちの仕事は熱中したものでしたが、彼は決して不親切であることはありませんでした。彼は全ての終わりに、私と一緒にここにいられたことがどれほど幸せだったか話してくれました。彼は、たとえ永遠に一緒にいることができないとしても、今私と一緒にいる機会があったことに満足していると言いました。
マン博士: 彼に何が起きたのですか?
SCP-8001-A: 正確なことを説明することはできません。ある日、私は彼が年を取っていたことに気付きました - 彼は起き上がるのが遅く、目が見えにくくなっていました。しかし彼は、変わらず優しく親切でした。ある日私たちは一緒に座って、この場所がどうやって存在するようになったのかよく話していたのを覚えています。彼はしばらく黙っていましたが、それからはっきりとは分かりませんが、かつて世界にはこのような場所 - 地図上で未探索の場所がたくさんあったと信じていると語りました。いずれは全部埋まるだろうけど、ここだけは埋まらないと彼は言いました。「なんて奇跡なんだろう」彼は言いました。「次に何が起こるか分からないなんて、なんて奇跡なんだろう。これより大きな謎があるだろうか?」
休止。
SCP-8001-A: ある夜、彼は埠頭の端を通り過ぎて歩いて行きました。私は落ちるのではないかと心配して駆け寄りましたが、決して落ちることはありませんでした。彼は一歩、また一歩と歩き、太陽が目の前に沈む中で歩き続けました。太陽が下の暗闇に沈む前に彼はもう一度振り返り、ほんの一瞬、彼は若返っていたと断言できます。彼は私に微笑んで手を振り、そして行ってしまいました。
休止。
SCP-8001-A: 多分この滝の先には何もないのかもしれません、イヴァンさん。多分これは本当に物語の終わりなのかもしれません。とても沢山の人たちが、それが真実だと信じています。ですがもしかしたら…… もしかしたらこれは本の裏表紙ではないのかもしれません。もしかしたらこれはただページの捲りなのかもしれません。もしかしたら、この世界の端ですら、まだ書かれていない物語が残っているのかもしれません。
終わりに
SCP-8001は、人間の探究心と未知への挑戦を象徴する存在である。地球の端という物理的限界と、それを超えようとする冒険家たちの物語は、科学と哲学の交差点に立つ。SCP-8001は、答えが得られない謎でありながらも、人々を引きつける究極の探検の目的地であり続けるだろう。そして、断崖の向こうへ消えていった数多くの冒険家たちも、もしかしたら我々がまだ見ぬ新天地で物語を紡いでいるのかもしれない。なにせ、「地球の端」を超えた場所はまったくの未知なのだから。
余談
SCP-8001はSCP-8000コンテストに最遅投稿された記事である。これは、財団のSCP-8000コンテスト特設ページの雑学の部分に掲載されている。