概要
海外では頭文字を取った「T.I.N.A」で定着しており、直訳すると「(これしか)選択肢はない」。更に詳しく言うと、自分が出した提案より優れた対案が出せない奴は黙ってろという考え方。
サッチャーはこの常套句により反論意見を黙らせていた。
日本だと2013年にサッチャーが亡くなった時、当時の安倍晋三首相が彼女とこの発言を支持しているのを明かした事で有名になった。
更に翌年末の第47回衆議院選挙ではこの発言に影響された「改革この道しかない」をキャッチコピーに選挙に勝利した。
問題点
一見すれば「民主主義なんだから民衆が決めた指導者に追従するのは当然」「民主主義なんだから有権者も対案を出せるくらいには知識があって当然」というのは間違ってないように見える。
だがこの考え方には「投票した有権者は全員政治について勉強しているだろう」という一方的な思い込みも甚だしい前提がある。
現実は全くそんなことはなく、マニフェストには目もくれず政治家の副業先のスポンサーというだけで投票している有権者も数多くを占めているのが社会問題化しており、「いっそF1みたいに政治家にもスポンサーロゴを縫い付けてはどうか」という皮肉まで出るほどマニフェスト無視の有権者の票により当選している政治家が多いのが現状である。
この問題は2022年にあろうことか安倍の死をもって自民党と統一教会との関わりが発覚した事案によってより表面化したがもちろん氷山の一角でしかなく、この情勢を正さない限りT.I.N.Aは詭弁でしかない。
そして、そもそも議論というのは提案に対し問題点などを指摘して改善し、より良いものにするのが目的であり、勝ち負けを争うものではないことも付け加えておく。
また、こんなこと言われる背景として「対案もないし改善案すら無いけどとりあえず対立政党の邪魔をしたいがためだけに挙げ足取りや重箱の隅つつく目的のみで異議を唱える」というねじれ国会の問題も当然ある。
完全じゃないにしろ最終的にはどっかで妥協をしなきゃならないことを承知の上でただ政策決定や法案制定を妨害してるだけにしかならないなら、そりゃ「他にいい案も無いなら黙ってろ」になるのは当然である。
すなわち論破どころか論の妨害はさらに問題外というのも付け加えねばなるまい。
著名人でもかなり前からT.I.N.Aに批判的な者は存在し、その中でも小沢健二が有名。小沢は2008年ごろから自身の著書でこの問題に触れ、2012年夏に「日本でも『対案』という言葉が出て来たので」と再びこの問題を取り上げている。
彼は自分の本業が歌手なのを引き合いに「痛い原因が分からないから病院に来た患者に『他の治療法があるなら言ってみろ』なんて言う病院があったら問題」「自分だったら『このアルバムは駄作だ!』と批判されて『なら自分より良いアルバムを作ってみろ!』なんて言わない」とこの考えを真っ向から否定している。
また注目してもらいたいのが、この発言の時期が2012年夏という点。この時期はまだ第二次安倍政権ですらなく、野田佳彦政権だった頃である。つまり日本でT.I.N.Aが定着したのは何も安倍政権が発端という訳ではなく、民主党政権時代からすでにそうだったと言う事になる。
この発言が原因なのかどうかは定かではないが、2014年3月に小沢健二が「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングに出演した際、フジテレビは小沢に安倍晋三を次のゲストに紹介させるという行動をとっている。