概要
英単語「fish」のスペルを可能な限り読みづらくしたもの。英語におけるスペルと発音の滅茶苦茶な対応関係を揶揄するジョーク。
なぜフィッシュと読めるのかわからないと思うが、「gh」と「f」が、「o」と「i」が、「ti」と「sh」がそれぞれ対応しているのである。
「gh」は「laugh」、「enough」、「tough」など、[f]として発音されることがある。通常は[f]として発音されるのは語末のgh(特にuが前にあるもの)のみである。語頭のghを[f]と読むことで不自然と感じられる。
「o」は「woman」の複数形「women」に限り、[i]として発音される。「なんでウーメンじゃなくてウィミンなの!?」と思った人も少なくないはず。これは完全に不規則である。
「ti」は「nation」などの「-tion」の付く単語では[ʃ]と発音される。通常はonが後ろにないと[ʃ]と読めない。
通常の英単語は複雑な規則で発音が変化している。それを無視して可能な発音を恣意的に割り当てると「ghoti」と書いて「フィッシュ」と読むという意味がわからない発音となってしまう。
歴史的な変遷
当然、何の理由もなく発音とスペルの関係が滅茶苦茶になったのではない。歴史的な理由があるのだ。
通常、話し言葉における発音は時間をかけて変化するが、書き言葉は変化しにくい。時間をかけて発音と書き方がずれていくのである。
日本語の場合、昭和時代末期まで発音と仮名はずれていた。1986年に公布された「現代仮名遣い」によって、発音と仮名のずれが修正された。一方、英語は昔の日本語以上に発音がずれているのにもかかわらず、スペルは全く修正されていない。それはなぜだろうか。
「gh」はなぜ「f」と読むのか
もともと「gh」は[x]の発音であり、そのまま「h」として綴られていた。現代ドイツ語の「ch」に近い。
ノルマン・コンクエストの影響により、英語に大量のフランス語が輸入される。
フランス語では当時から「(何らかの文字)+h」によって異なる発音を表す場合があった。その表記法が英語圏にも輸入されたのである。(「ch」などはフランス語にあったが、「sh」や「wh」は英語側で作ったとされている。)その潮流によって、語中や語末の「h」として綴られていた部分が「gh」に変化した。
一方、発音はどうなっていたかというと、語中や語末の「h」が発音されなくなったり、[f]になったりといった変化が起きた。
この2つの変化が組み合わさってしまった結果、「gh」を「f」と読むことになってしまったのである。
「o」はなぜ「i」と読むのか
womanはかつて「wifmann」という単語であった。発音が省力化された結果「wuman」へと変化した。
しかし、「wum」の並びを筆記体で書くと見づらい(縦棒が連続するため)という理由から、「u」を「o」に差し替えられた。(「move」も同様と思われる。)
なぜ単数形の「woman」は「ウーマン」と発音されるのに、複数形の「women」は「ウィミン」と発音されるのだろうか?
「woman」は第1音節にアクセントが置かれるため、第1音節が全く同じだと聞き分けづらい。そのため、母音を「u」と「i」で対立化させることによって聞き分けやすくしている。単にその違いがスペルに表れていないだけ。という説がある。
この2つの変化が組み合わさってしまった結果、「o」を「i」と読むことになってしまったのである。
「ti」はなぜ「sh」と読むのか
「-tion」はかつては「-cion」と綴られており、「-スィヨン」や「-スィオン」のような発音であった。こちらも発音が省力化された結果「-ション」へと変化した。
近代の綴り手がラテン語に憧れ、「-cion」を「-tion」に変えてしまったのである。(他にもラテン語に憧れて変化した綴りはある。)
こちらは発音の変化にはあまり関係なく、スペルを勝手に変えたせいで「ti」を「sh」と読むことになってしまったのである。
正書法改革
現代英語の綴りは理不尽なほど不規則であるため、改正を望む声がある。これは「表音文字は表記と発音が1対1に対応しているべき」という「表音主義」という立場の主張である。このジョークを考案したと言われる(本人は否定)「バーナード・ショー」も支持している。
しかし、未だに実現していない。反対派の主張としては「多くの単語の語源的関係性が失われる。」といったことが大きい。これに関する意見交換を本記事のコメントでしてみてはいかがだろうか。
余談
「ghoti」のもう1つの発音として「沈黙」というものもある。
「night」「people」「ballet」「business」のように、英語には「黙字」と呼ばれる発音しない文字がある。それを繋ぎ合わせると「ghoti」のすべての文字が黙字となる。
「fish」の関連語「fisherman」は、「Colonel」「bomb」「meringue」「sign」を組み合わせ、「ghotiolombign」とすることもできる。
他にも、「ghach」と書いて「fxxk」となどもある。
日本語では「子子子子子子子子子子子子」と書いて、「ねこのここねこ ししのここじし」と読むという言葉遊びがある。「子」は「ね」とも「こ」とも「し」とも読めるからである。(「の」は助詞であるため書かれていない。)