概要
小説は1963年9月から1965年6月にかけてサンデー毎日(当時の版元は毎日新聞社)に連載された。 なお、続編も存在し、こちらは1967年7月から1968年6月にかけて、やはりサンデー毎日に連載されている。
浪速大学医学部附属病院の医局を舞台に、医学界に渦巻く権力闘争と医療従事者の義務を、財前五郎と里見脩二という二人の対照的な人物を中心に描く。
膨大な資料を綿密に調査して描いた緻密な描写は評価が高く、山崎氏が「社会派作家」としての地位を確立する作品となる。
インフォームド・コンセントという言葉が定着する前から、医者から患者への説明責任について触れているなど先進的な部分もある。
これまで7度映像化されているが、特に著名なのは田宮二郎主演の1966年版映画(大映東京撮影所)及びその続編の1978年版テレビドラマ(フジテレビ)と、唐沢寿明主演の2003年版テレビドラマ(これまたフジテレビ)であろう。
映像作品はそのどれもが細部で微妙に異なる点が見られるが、大筋として、第一外科助教授の財前五郎が様々な裏工作を駆使して教授の地位に昇り詰めるものの、患者である佐々木康平の診察に対して医療ミスを問う裁判を起こされ、最終的に敗訴した後、自らも癌に侵されこの世を去るという流れになっている。
主な登場人物
主人公。浪速大学医学部第一外科助教授、後に教授。
若くして名医と評価される高い実力と、それを後ろ盾とした強い野心を秘める。教授選への立候補を機に、周囲を利用しては切り捨てる冷酷な人物へと変貌してゆく。
浪速大学医学部第一内科助教授。
財前の医学生時代からの同期で親友。根っからの学究肌で、財前とは対照的に権力に対して無欲を貫く。
浪速大学医学部第一外科教授。財前と里見の恩師。
教え子である財前の増長を快く思わず、教授選で対抗馬として菊川を推薦する。
浪速大学医学部長。
権力の権化のような狡猾な人物。教授選以降は政治的な利害の一致から財前と蜜月となる。
浪速大学医学部病理学教授。鵜飼の前任の医学部長。
「奈良の大仏のような堅物」と評される、厳然とした雰囲気を放つ老医師。陰ながら里見の姿勢を高く評価する。
浪速大学医学部第一外科医局員。
財前に尊敬と憧れを抱く若手医師。次第に医局の政治的体質に疑問を抱くようになり、ついには医療裁判で財前からあらぬ責任を擦り付けられるが…。
金沢大学医学部教授。
東の伝手により、浪速大学の教授選に財前の対抗馬として立候補するも僅差で敗れる。
作中では珍しい実在する大学の人物だが、1990年以降のドラマ版では大学名が架空のものに変更されている。
大阪にある民間企業の経営者。
教授に就任した直後の財前により癌の手術を受けるが、奢りと慢心から合併症を見落とされ、術後ほどなくして死亡。後に不信感を抱いた遺族が財前に医療裁判を起こす。
タイトルの意味
原作には「外見は学究的で進歩的に見えながら、その厚い強固な壁の内側は『封権的な人間関係』と『特殊な組織』で築かれ、一人が動いても、微動だにしない非情な世界」と表現されている。
また、ファンの間では白衣を基本とした医者の「白」のイメージと「象牙の塔」を混ぜたのではないのか考察されている。
余談
- 舞台となる浪速大学のモデルは大阪大学である。
- メイン画像は唐沢寿明主演による2003年版テレビドラマのもの。一度は対立した里見に哀願し、真の病名を知らされた後、自身が死にゆく運命について「里見、僕に不安はないよ。ただ…すまん…ただ…無念だ!」と本心を吐露する名シーンである。
- 発表から50年以上を経てもなお語り継がれる名作であるが、その間に現実の医療技術が進歩しているため、「財前が癌で死ぬ」というストーリーを貫く必要性から、映像化の度に彼の死因が変更されている。
- 当初は前半部分「一審敗訴」で完結する予定であったが、読者の反応が大きかったことから「二審勝訴」という続編を書き足した。
- 財前が部下を引き連れて廊下を行進する総回診のシーンは世代を問わず有名であり、パロディにされることが多い。
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振り返れば奴がいる:本作の影響を強く受けて制作されたテレビドラマ。