それまで大映→徳間大映に所属していた看板怪獣ガメラが、前社が角川グループに併合されたことにより、キャラクター性を一新して転身した。便宜上、俗に平成ガメラとして知られる種類とは(一応こちらも平成の出身なので)区別するためにここでは角川ガメラと称する。
概要
大映が角川グループ入りし、社名を「角川映画」に変更してからの作品『小さき勇者たち~ガメラ~』では「アヴァンガメラ」と呼称される個体と「トト」と言う愛称をつけられた個体が登場。2015年に初公開された個体とは体表や甲羅の質感、体色などが非常に似ているものの、それ以外の外見や鳴き声、必殺技などが大きく異なる。また、2006年版も2015年の個体も成体のギャオスよりも巨大という意味で歴代と逆転している。
タイトルでの表記が両方とも「GAMERA」なのも共通。
作品のスタンス
この作品では金子版という呪縛からのガメラの解放が意図されており、「ガメラ=子供の味方」というスタンスが再び強調された。ただし、手のひら大の子亀から急速に怪獣化して子供たちの協力により状況を打破する(しかも体長20m前後)というのは金子版の最初期に練られた構想でもあった。ちなみにこれは昭和ガメラの第一作目と『宇宙海獣ガメラ』、つまり大映と徳間大映のそれぞれの第一作目にも共通することであり、もはや版権元が変わる度に発生するお決まりと言えなくもない。
伝説の怪獣映画『ダイゴロウ 対 ゴリアス』にも繋がるストーリーラインであるため、現代版のこれともいえなくもない。また、金子版に携わっていた上層陣からは前シリーズとはまったく異なる方向性でいかないと協力を断るという姿勢があったのも事実であるようである(『平成ガメラ パーフェクション』より)。また、モチーフは''バンビ''であり、これがそのまんま制作陣でもコードネーム的な呼称で使われていたらしい。
予算が歴代と比べて破格だったとされるが、実際は自治体や企業などとの様々な宣伝やタイアップ(悪意ある言い方をすれば利権)のために消えていったので、実際の製作費はそれほどでもなかったのかもしれない。当時はかつてない怪獣映画の氷河期であり、また当時の子供たちへのガメラの知名度、上記の通りの製作事情、母親達や女児が入りやすいファミリー路線などを狙った結果のタイアップや作風である。つまり、歴代の例に洩れず製作には多大な試練と苦労があった。
特徴
「巨大生物審議委員会」が挙げた他に見られる、ガメラが通常の生物と違うとされる点は火球を吐き空を飛ぶ、圧倒的な巨体、栄養摂取の方法、自らの命を懸けて利他を行うなどである(現実ではザトウクジラなどで顕著に見られる)。
身長 | 不明(全高よりは大きい数値になると思われる) |
---|---|
全高 | 35m |
甲羅長径 | 29m |
甲羅短径 | 22m |
体長 | 55m |
重量 | 1200t(平成ガメラの10倍) |
年齢 | 不明 |
飛行速度 | 不明 |
水中潜航速度 | 不明 |
歩幅 | 不明 |
出身地 | 火山帯のどこか |
(データはアヴァンガメラの数値に準拠)
エネルギーの摂取量的には成熟したはずのトトがアヴァンガメラよりも小さいので、エネルギーの回収が完全には出来ていない可能性がある。または、自爆する度にエネルギーを失い小さくなってきた可能性も…。
モチーフには初めてリクガメが用いられ、所属社が大映から変わったのを象徴するかの如く、前2シリーズと比べてより個性が強い。体躯は昭和ガメラの半分前後になったものの、体重は15倍!にまで増加している(軍艦の重量を元に再計量された)。今までの系譜だと昭和ガメラは(一応ウミガメとされているが)形態的に淡水ガメ、平成ガメラはウミガメ、今回のはリクガメで、『GAMERA』の個体はリクガメと淡水ガメのミックスを思わせる。
- リクガメだとあんまり日本的な感じがないが、沖縄には現在でもセマルハコガメなどがいるし、化石時代には大型の「オオヤマリクガメ」も存在していたので、決して非日本的とは言い切れない。また、在来種のニホンイシガメに体色も造形も近い。
頭頂部のトサカは目立たず、リクガメの特徴を大きく残した体型(上下顎先の嘴、細い歯列、頭と体のプロポーション、成熟個体に見られる腕と足を覆うトゲ状の突起)や茶色い体色、成熟時に露出する下あごの牙までの歯肉なども昭和・平成シリーズと比較して非常にユニークであるが、全体的なイメージは昭和と平成の中間的な印象が強い。
鳴き声も伝統の吼え声が廃された点でゴジラシリーズ(日本製作の作品に限る)とは異なる。時々、某火炎を吐く亀大王の声も混ざっているように思えるが、実際はかのピーター・カレンが演じた、1976年版のキングコングのオリジナル・ヴァージョンの声を修正したものである。なお、この吠え声は実際の大型の動物の吠え声に非常に近く、ある意味では以前よりもリアルになっている。
幼少時は巨大な火炎を、成長後は火球を主要な武器としている。
火球は平成版と同様に強力な爆発力を有し、成体のオリジナルギャオスを一撃で撃墜できる。平成版と違うのは火球が炎の代わりに煙の尾を引いて飛んでいくこととプラズマや放電とは違うエネルギーを使用している点である(角川ガメラでは通常の炎とは別に赤いエネルギーを纏っていて、下記の必殺技同様に赤いエネルギーを使っていると思われる)。
腹部に「炎」の文様を持ち、「自爆」または「トトインパクト(超威力の火球)」(一般公募による命名)を使用する際にゴジラの背びれよろしく発光する(色は間逆)。自爆の際は全身が赤く発光し、眼の虹彩が小さくなり炎を宿す。
※「トトインパクト」に該当する技を他の個体が使用できるかは不明。
火球よりも回転ジェットが必殺技的な感じもあり、彼らの回転ジェットは尾を引くのが特徴。ただし、子亀時代は手足を出したまま胴体直下に空気を噴射するホバーのような感じで浮いていたため、どこから噴射しているのかは原理は不明。子亀時代には牙も生えていないし、完全に四足歩行の形態をしているので、どのタイミングで怪獣型に変化したのは不明。
その他描写が少ない事も関係しているが、下記の点も当亜種にだけ見られる。
(歴代3種(社)別の比較)
- 判明している飛行方法は回転ジェットのみ(昭和と平成の両中間的な様相)
- 種族の出自が一切不明
- 複数の個体が存在(「宇宙怪獣ガメラ」と平成版でのガメラの墓場はプロトタイプの集合なので除く)
- 誕生方法が判明している(卵から孵化)
- 通常の生物のサイズをもつ時期が存在する
- 軽すぎない
- 身長が不明なかわりに全高と体長が判明している
- 伝統の下あごの牙が噛み合わせの奥ではなく中ぐらいの位置にある
- 成長に必要な養分とアイテムが存在する
- 炎や熱エネルギーを養分とする描写がない(設定上はある)
- ヒートマッスルと呼ばれる筋肉により、熱エネルギーを変換して筋力の増大が可能(設定上)
- 自爆が可能
知られる個体
ある筋の話によるとアヴァンガメラとトトは同一個体であり、効果的な戦闘の継続が難しくなったアヴァンがギャオスを巻き込んで肉体をリセットする為に戦略的に自爆したらしい(公開から10年後に明かされたとか)。その後は自ら放出したエネルギーを再摂取して大きくなると思われる。
- これが事実だとしたら、ガメラという怪獣のテーマのいくつかである「何度も立ち上がる不屈の闘志と正義感」、「圧倒的で神秘的な生命力」を、違うベクトルでとことんまで突き詰めた形になる。
トトが、10mの時からジーダスの意表を突く形で奇襲したり、遥かに巨大な相手に臆せず、無駄のない立ち回りや感情の動揺も見られなかった事、いきなり火球や飛行に成功していたなど、トトの幼体とは思えない落ち着きにも納得がいくし、自爆と再生がこれが初めてでない可能性もある。
トト
後述のアヴァンガメラの自爆した跡地で、2006年に少年により発見された個体。
卵から孵り、短期間で手のひらサイズ⇒30cm⇒ゾウガメ大(1m)⇒(体高)8m⇒30m(体長50m)と急成長を遂げた。名古屋決戦時で体重は900tに達しており、先輩方が数十体で掛かっても余裕で吹っ飛んでいく重さ。
知能が高く、機転が利き、志摩でのジーダス襲来時には5倍以上の大きさの敵を、敵の武器を利用して退けた。また、名古屋での決戦時における描写(子供たちによる赤い石のリレー)かから、テレパシーあるいは人間の子供の精神に働きかける能力を持つのかもしれない。テレパス能力自体は平成ガメラにも通じる。
かわいらしい見た目が特徴であり、ゴジラシリーズにおけるミニラやリトルゴジラに通じる雰囲気がある(こっちの方がよりハードコアだが)。特に口元から目にかけてはミニラと良く似ており、本作が東宝に対する何等かのメッセージを込めて作られたのとの関連性も考えられなくもない。
アヴァンガメラ
1973年に出現したガメラ。その詳細は殆ど不明。
全高35m、全長55mと昭和ガメラに配慮してか(60mを超えないなど)、ガメラ族では小柄な方だが、歴代でも随一にマッシブな体躯であり、何より体重は1200tと文句なしの最重量。
- なお、人間側はアヴァンガメラの体躯の数値のおおよそを推測していたが、身長35m(つまり体高ではない)、甲羅長径29m、甲羅短径22m、体重40tとしていた(つまり30倍も目方違い)。ただ、こちらの体重の方がガメラっぽいが。
全体としてトトに似ているが、強面で、体は岩のように刺々しくゴツゴツしている。腕と足を覆うトゲは平成版の比ではなく、現生の陸ガメの特徴が良く出ている。というか、嘴や甲羅など、ガメラ史上もっとも実際の亀に忠実な造形である。なお、頭部とくに目の位置&嘴と口、腕の造形はケヅメリクガメにも忠実だが、むしろアカウミガメなどのウミガメやガラパゴスゾウガメにも似ている。特に正面から見た顔はこれらに近い印象を受けるが、露出する下あごの牙までの歯肉が歴代でもアヴァンガメラだけに見られる特徴でもあり、印象深い。ウミガメをモチーフとした亜種よりもウミガメっぽいのは少々皮肉的だが。トリケラトプスやアンキロサウルスなどの意匠もあるという意見も。
- 歴代一、リアルな亀に近いので、「ガメラの原種」と見る人もいる模様。
ガメラのスタイルの弱点の一つに地上戦で甲羅を活かしにくいというのがあるが、角川ガメラは
- 幼体は四つん這いで甲羅を活かせる
- 成熟すれば手足がトゲで守られる
という利に叶った戦略になる。
アヴァンガメラの肩口にトゲが生えていないのは、手足の収納に差し支えがあるからだろうか。いずれにしろ、ギャオスの超音波メスはアヴァンガメラの腕のトゲで弾かれていた。
暗闇で素早く飛び回るギャオスに先読みで火球を命中させるなど、歴戦の経験が見て取れる。
飛行シーンを披露していない唯一のガメラであり(パラレル世界での昭和の二代目をのぞき)、ありとあらゆる意味でも歴代でも異色の個体である。ただし、資料によるとアヴァンガメラも飛行していた姿が人間によって記録されてはいた。
オリジナルギャオス4体と三重県志摩で死闘を繰り広げる。
長年の激戦により疲弊した感があり、鳴き声をあまり挙げず、片目が潰れる寸前で、下顎の牙も一本が折れ、全身が傷だらけになっている。右肩にはおそらくギャオスに喰われたと思しき、骨まで露出していそうなほど深くて大きな傷が二つ走っており、歴代のガメラに勝るとも劣らずの× M体質 ○ ド根性の持ち主である。疲弊の為か超音波メスを数発被弾して倒れ込んでしまい、最期は自爆を選んで4頭のギャオスもろとも命を絶った。
上半身、とくに肩口や首の肉をギャオスによってついばまれても殆ど身動きがとれず、非常に老衰していたと思われる描写がある。
- 上記に加え、コミックス版で明かされた設定では当時の日本国の自衛隊の全勢力の17%がギャオスによって失われており、ギャオスたちによる攻撃が広範囲かつ一日・二日どころの話ではなかった可能性がある。いかに大規模な事件であったかが伺えるだけでなく、当時の被害が「日本国内だけに限定されているとも言及されていない」ため、アヴァンガメラは波切に上陸する以前から日本列島のどこかあるいは海上や海外など国内外で戦闘を強いられてきた可能性がある。
- 自爆した理由は不明だが、作中の描写を見る限り老衰または衰弱が激しかった or 死期が来たとも思えるが、小説においては自爆の直前にギャオス達の超音波メスによって下あごが切り落とされてしまい火球を吐く事ができなくなっていた。ガメラ族の超常的な回復・再生力があってもアゴの再生はできないのか、または再生が完了する以前に出血多量で命を落とすか、または自身の回復を待っていたらギャオス達に地球が蹂躙されると考えて利他的行為で自爆した、などの理由が考えられる。
自爆のエネルギーの破片は緋色の真珠として近辺に散らばった。これらの真珠および赤い石が、後代(子供?)のガメラにとって非常に重要な栄養源となる。
余談
- 角川のガメラ族とオリジナル・ギャオス族は体色の対比がそれまでのシリーズと真逆になっているのも特徴である。また、成体のギャオスよりも体躯が大きいのも歴代初であった。
- 後年に確認された個体はこのアヴァンガメラの特徴をよく受け継いでいる。
- いちおう、平成シリーズの初期デザインではたとえばセマルハコガメをかなり推していたらしく、そのほかにもアンキロサウルスやドエディクルス(グリプトドンの亜種)をモデルにした、センザンコウのような甲羅とモーニングスターを持った尻尾にするアイディアもあったらしい。この時、甲羅のデザインには沖縄の亀甲墓とそのルーツである古代中国文化の意匠も実験的に取り入れられたとか(昭和ガメラに関係のあるエスキモーと古代中国文化は非常に似ているらしい)。ちなみに「モーニングスターを持った尻尾」のアイディアは後に同監督のGMKにおけるアンギラスのデザインにも応用された。余談だがガメラとアンギラスはゴジラ・ザ・シリーズにてシリーズ最強の敵として(合体したかのような奴が)登場した。
- 田崎清隆が特技監督として参加した園子温製作の映画『ラブ&ピース』に登場する巨大な亀「ラブちゃん」はこのトトになんとなくだが似ている。
- トトの幼体時の撮影は本物の生きたケヅメリクガメを何匹も使用しているが、その内の数匹が撮影時のストレスから衰弱死してしまい、作品のイメージに大きく響いている。
動画
(ガメラ達の声に利用された1976年版のキングコングの吠え声)