概要
兇刃・兇賊「黒傘」として主に政府要人を対象に暗殺活動を行っている人斬り。
二階堂平法と呼ばれる剣術の使い手で、その奥義である「心の一方」(後述)を使いこなし、これまで数十回にも及ぶ凶行で一度も仕損じることが無かった。暗殺の前に必ずその対象となった人物に斬奸状を送るのが特徴で、それによって警備を厳重に強化した相手を如何に暗殺するかを愉しんでいる。
刃衛は幕末で人斬りと称される人物らのように大儀、政治的信条のために人を斬るようなことは無く、ただ己の殺人欲を満たすために殺人を繰り返す非常に危険な人物である。
幕末時代
幕末のころはもともと新撰組隊士であったが、任務に関係のない殺人を繰り返したことで隊を追われ、粛清のために差し向けられた追手を返り討ちにして一時姿をくらます。
そして再び幕末の京都に現れた時は、いかなる藩閥、組織にも属さず金によって暗殺を請け負う「浮浪人斬り(はぐれひときり)」となって暗躍した。
明治以降
維新後も刃衛は一度落ちた修羅道から抜けられず、また抜けたくもなく、かたや明治政府の政治家も自分にとって邪魔な存在を抹殺する人斬りを必要としたために双方の利害が一致、兇賊「黒傘」が誕生した。
剣心とは、陸軍省要人谷十三郎の暗殺の際に警護していた彼と鉢合わせ、かつて京を騒がせた「最強の人斬り」としての剣心の強さに興味を覚え、標的を剣心に変更した。
剣心との死闘
「不殺の流浪人」としての剣心は腑抜けているとうそぶき、怒りによって彼を往年の人斬りに立ち戻らせようと、薫を拉致して剣心の怒りを煽った。半ば抜刀斎に立ち戻りかけた剣心と刀を交え、互角に斬り結ぶが「背車刀」で剣心に深手を負わせ、「今のお前は煙草三本吸う間に殺せる」と余裕を見せる。
しかし、尚も怒りを煽ろうと薫に「心の一方」を強めにかけ窒息死寸前にした上、「尿や糞を垂れ流し最も苦しく醜い姿で死にゆく」と煽ったことで剣心が完全に抜刀斎に覚醒。手強いと見て奥の手である「心の一方影技・憑鬼の術」を使って己の潜在能力を最大限に発揮して挑んだが、飛天御剣流・双龍閃によって右腕の筋を断たれて敗れた。そのまま剣心に切り捨てられそうになるが、自力で心の一方を破った薫に止められる。
しかし刃衛は刀を握れなくなったことに加え縛に付くことを認めず、人斬りとして依頼人の秘密を守るために自害する。その際に剣心に言った一言「人斬りは所詮死ぬまで人斬り 他のものになど決してなれはしない」という台詞は剣心の心に重くのしかかることとなった。その証左として自ら命を絶った時さえもその感触に酔い痴れていた。
同じ人斬りとして活動しながら剣心とは正反対の道を辿った、剣心に対するアンチテーゼとしての存在。また、劇中で初めて登場した幕末の強豪であり、斎藤一が登場し京都編が開始するまでは作中で最強の敵であった。
のちに刃衛を含む暗殺者達の元締めである元老院議官・渋海が登場しており、彼が仲介役となって明治政府内の要人から暗殺を請け負い刃衛らを使って暗殺事件を引き起こしていた(同じ暗殺者集団の一員に赤末有人がいる)。
その渋海は剣心との死闘に敗れ死亡した刃衛と入れ替わる形で接近してきた斎藤に、
ある政府要人から依頼されたという剣心の暗殺を実行させようとした(本来は赤末が受ける仕事だったらしい)。
だが、斎藤は大久保利通・川路利良の密命を帯びて動いており、渋海の組織はその任務を遂行する過程で利用されていたに過ぎなかった。斎藤にしてみれば渋海らは政府を食い物にするダニに過ぎず、最期は真意を告げた斎藤に「悪・即・斬」の元に赤末もろとも切り捨てられ、暗殺組織そのものも壊滅したと思われる。
人物
血の味に魅入られた殺人欲の塊のような男で、ただ己の愉悦のために人を斬り続けたイカれた男。
「うふふ」という独特な笑い声(大笑いのときは「うふわはは!」となる)が特徴で、その言動は狂気を滲ませている。
一方で、わざわざ斬奸状を事前に相手に送りつけて警備を強化させたり、剣心に対しても怒りによって人斬り抜刀斎に立ち戻らせるために薫を拉致するなど、人斬りという行為をより愉しいものにするために様々な考えをめぐらす一面も見せる(この点、作者は「クレイジーなようでいてマッドな奴」と表現している)。
同じ人斬りでも、「平和な新時代を築くため」に人斬りとなった剣心、権力を得る手段の一つとして人斬り活動をしていた志々雄真実らはあくまで人斬りという行為を「目的のための手段」としていたのに対し、刃衛が人斬りとなったのは人を斬ることそのものが目的であるためその意味で前述した二人とは一線を画す。
相手を不動にする「心の一方」も、攻め手にかけるのではなく戦意を失って逃げる者にかけるなど、かなり外道な使い方をする。剣心との戦いも目的は勝利というより「最強と呼ばれた男との殺し合い」を愉しんでいたようである。
作中でも特に狂気的な一面が強いキャラクターであるが、人斬りとしては他の人物に劣らぬ独自の美学を貫く人物として描かれている。「人斬りは自分の意志で人を斬る。だが、相手を自分で選びはしない」と劇中では語っており、剣心との戦いはそれを無視してのいわば「私闘」であったが、剣心に敗れた時は自身の人斬りとしての信条に従い自害している。
外見は白目と黒目の色が反転した「白黒逆転の目」が特徴。
白装束(アニメ版では白ではないが)に黒い陣傘、
そしてこの時代あったか不明な全身黒タイツという一種異様な出で立ちである。
実力は不殺の流浪人となった剣心を劇中で初めて抜刀斎に覚醒させるまでに追い詰めたほどであり、作中全体で見ても十指には入るであろう実力者。
憑鬼の術を用いてもなお抜刀斎には及ばなかったが、ある意味「不殺の剣心」には完勝したともいえる人物で物語のテーマ的にはかなり重要度の高い敵だった。
人を斬り殺すことが楽しくてたまらない殺人鬼であるが、抜刀斎に覚醒し、本来の動きを見せるようになった剣心に全く反応出来ず一撃を貰った直後「うほおぅ」と歓喜の声を漏らしたり、自害する際に自分の胸を刀で貫きながら「この感触、いいねえ」とか呟いたりもするのでドMの気質もあるのかもしれない。
二階堂平法
刃衛が使う剣術で、実際に存在した流派。
斬撃の型が「一文字(横薙ぎ)」「八文字(払い)」「十文字(横薙ぎ、唐竹割り)」の三つで構成され、一、八、十の漢字を組合わせると「平」の字となることで「平法」と呼ばれる。
ちなみに作中での二階堂平法の解説図では本来刀を2本用いて斬撃を繰り出すようだが、
刃衛は左之助からも「速い」と評されるほどの剣速を活かして刀一本で「平」の字を描いて見せた。
また、元新選組隊士である名残か、作中では新選組特有とされる片手平突きも剣心との戦いで使用している(斎藤と同じく平突きから横薙ぎの連続技として使用)。
- 背車刀
刀を背後に廻し、持ち変えるなどして相手が予測できない方向から斬る。実写版でも再現されている。
心の一方
奥義として伝わっている「心の一方」は、一種の瞬間催眠術のような代物で、自分の高めた剣気を相手に目を通して叩きこむ。原理は不明だが、人間の「思い込み」を利用する技である。
- 『いすくみの術』
相手を金縛りにする不気味な技である。強めに掛けることで相手を呼吸不全に追い込むことさえ可能で、劇中では薫を窒息死寸前にした。
簡単に言えば気合いの勝負で使い手と同等以上の剣気を持つ者であれば自力で解除可能であるため、剣心には通用しなかった(左之助もそれなりの剣気を備えていたのか掛けられても身体が重くなるだけで不動にはならず、剣心の説明で解除法を知るや即座に自力で解くことも可能だった。また、薫も剣心に人斬りをさせてはいけない一心で、その直後は疲弊したが解除した)。
また基本的には相手の目を通して剣気を叩き込むことが前提になるので、完全に盲目である宇水には通じる通じない以前の問題と思われる。
- 『影技・憑鬼の術』
刀に自分の顔を映り込ませ、それを通して自分自身に心の一方を用いて「自分が最強である」と暗示をかけ自らの潜在能力を限界まで引き出す技。
これを用いると刃衛の白黒逆転の目が普通の目に変わり、膨張した筋肉により体格も大きくなる。新撰組の追手を始末する際や抜刀斎に覚醒した剣心と戦う時など、強敵との戦いにのみ使用する刃衛のいわば切り札。
身体能力を大幅に向上させることが可能であり、劇中では斬撃で岩をボロボロに砕くほどの力と、抜刀斎の抜刀術をかわすほどの反応速度を身につけていた(通常状態では抜刀斎の動きに全く反応出来なかった)。
余談
人物像のモデルは岡田以蔵。
ビジュアルのモチーフはX-MENのガンビット。白装束に黒傘といういでたちは作者曰くとある新撰組漫画の芹沢鴨を参考にしたらしい。
実写版の俳優は吉川晃司。
特徴的な白黒逆転の目は黒いカラーコンタクトで再現していた。
吉川氏の当たり役の一つであり、中でも剣心との最終決戦で披露した背車刀はNGなしの一発OKとなった程の完璧な完成度であった。
また、映画に際して新たにリメイクされた漫画『るろうに剣心 キネマ版』では、抜刀斎との戦いで穿たれた掌に空いた穴に柄の無い刀を差し、敵を切り裂くという極めてグロテスクな戦法を取っていた。
なお刃衛は連載が短期打ち切りになっていた場合はラスボスになる予定だったそうである。
キネマ版ではその構想を基に、実際に刃衛がラスボスとなって剣心に立ちはだかった。
また、連載終了から5年後の舞台である北海道編の前日譚において、刃衛と剣心の死闘が行われた場所に「うふふ」と笑う幽霊が現れるという噂が立っているという・・・成仏してください。
CV担当大塚明夫氏はPSゲーム維新激闘編では大久保利通役を担当。