概要
フランス語とは、フランス、ベルギー、スイス、カナダなどの公用語。
フランスでは、ブルターニュの大半でブルトン語、低バスクの一部でバスク語、ルシヨンでカタルーニャ語、ニース辺りでイタリア語、コルシカでコルシカ語、ロレーヌ東部とアルザスでドイツ語(アルザス語など)、最北端のダンケルク辺りでオランダ語も使われる。ベルギーでは北部でオランダ語が使われるが、北部でも上流階級ではフランス語を母語とする事がある。スイスではドイツ語を使用する地域が多く、フランス語は西部の州で主に使われる。
ヨーロッパの外でも、フランスからの移住者の子孫がいる地域(カナダなど)、現存する海外領土(タヒチなど)、旧フランス領が多い西アフリカなどで使われている。
元はローマ帝国時代のラテン語ガリア方言から変化したもので、同系統のイタリア語やスペイン語とはやや似ている。ただし、標準語が北部のパリの言葉から発生したため、ガリア人の用いていたケルト系の言語やフランク人が持ち込んだゲルマン系の言語からの音声的・語彙的影響が強く、イタリア語やスペイン語との違いはそれなりに大きい。
中世以降フランス王国がヨーロッパにおける大国として台頭したため、ヨーロッパ貴族の社会や言語はフランスに多大な影響を受けることになる。貴族社会における国際あるいは宮廷公用語はもっぱらフランス語であり、20世紀初頭までフランス語は第一の国際公用語であった。
現在でもその恩恵を強く受けており、フランス語は法解釈などにおいて英語よりもより細かく的確に論ぜられることができ、また国際連合の事務総長は慣例として英仏に堪能であることが必須条件になっている。
英語と共通の単語が多い(フランスのノルマンディー地方の領主がイングランドを支配していた時期があったため)が、英語とは違いラテン語発祥なので文法や言語体系が大きく違う。フランス王国は西ヨーロッパ最大の大国であったため、18世紀にはヨーロッパの共通語のような地位にあった。英語がヨーロッパの外で幅を利かしている21世紀でも、英語を公用語とする国がヨーロッパの大陸部分に存在しない事もあり、ヨーロッパ内部では広く通用している。
発音
SoundHorizonやローゼンメイデンなどのサブカルチャーでもしばしば使われる言語だが、いざ喋るとなると発音も読み方もややこしい。あの石原慎太郎さえ難しいという趣旨の発言をした難物である。但し、ややこしいというのは、極論を言えば発音方法が英語のそれと大きくかけ離れているだけである。加えて単語ごとにルールが異なり、一つ一つ覚えるしかない英語と異なり、綴りと発音の規則がほぼ例外なく決まっているために、法則さえ掴めば大体の単語は読めたりする(不規則に発音するのも存在する)。むしろ黙字が多いために結果的に別の綴りで同じ発音となることが非常に多く、読むことよりも聞いて書き取ることのほうが困難である。
母音
文字 | 発音(IPA国際発音記号) | 備考 |
---|---|---|
a | [a] | |
ai,ei, | ɛ e | |
au, eau | ɔ o | |
i, y | i | |
ou | uかw | wは次が母音の時 |
oi | wa | |
u | y | 「う」の唇で「い」 |
eu, oeu | øかœ | øは「う」の唇で「え」、œは「お」の唇で「え」 |
é | e | 日本語の「え」よりも口を広げる |
è, ê | ɛ | 日本語の「え」 |
e | ə ɛ | əは「え」の口で「う」 |
ill | ij | 「イユ」と発音する。 |
am, an, em, en | ɑ̃ | ※1 |
om, on | ɔ̃ | ※1 |
im, in, ym, yn, aim, ain, eim, ein | ɛ̃ | ※1 |
um, un | œ̃ | ※1 |
※1鼻母音。鼻息を吐きながら「ん」と発音する。
子音
文字 | 発音 | 備考 |
---|---|---|
c | kかs | a, o, uの前だとk、e, iの前だとs |
ç | s | |
ch | ʃ | |
g | gかʒ | a, o, uの前だとg、e, iの前だとʒ |
gn | ɲ | 「にゃ」 |
h | - | 発音しない。 |
ph | f | |
qu | k | |
th | t | |
r | ʁ | 後舌と口蓋を接しながら「ら」。うがいのように聞こえるとも。 |
末尾の子音 | - | 発音しない。但し、huitのような発音するものもある |
マスターすると結構かっこよくしゃべれるのでいかが。
英語との関係
よく、「英語とフランス語は方言程度の違いしかない」とうんちくを垂れる人間がいるが、ものを知らないにも程がある。言語学的に、英語はドイツ語や北欧諸国語とともにゲルマン語であり、フランス語はラテン語ガリア方言の末裔であるため、イタリア語やスペイン語により近い。この英仏の差は、一応語族は違うものの、共に語順などの文法が似ていて、かつては(日本由来のものも多いが)漢語の、今はカタカナ語の語彙がたくさん共通している日本語と朝鮮語の差に匹敵すると言える。後述するように、(琉球語はまだしも)朝鮮語が日本語の方言であるとは断じて言うことができない。
とはいえ、どちらもゲルマン語とラテン語のクレオールである点では共通しており、英語はゲルマン語をベースにラテン語から多くの語彙を外来語として借用して成立した言語、フランス語は逆にラテン語ガリア方言にゲルマン語由来の語彙を多数外来語として借用して成立した言語である。すなわち、英語とフランス語は近縁にある姉妹言語ではなく、全てにおいて対照的なライバル関係にある言語である。
結果として共通する語彙は多いため、英語のネイティブはフランス語を、フランス語ネイティブは英語を、互いになんとなく意味が理解できる程度には理解できることはあるが、これは日本人が中国語の繁体字文や朝鮮語の漢字ハングル混じり分を見てなんとなく意味が理解できるという程度のものであり、相互理解性としては程遠い。
このような歴史的経緯もあって、フランス語話者の中には英語をことさらにライバル視し、英語が国際共通語になっているのはけしからん、フランス語こそ国際標準語たるべきだと考える人が非常に多い。そのような人間は外国人相手にも平気でフランス語を話したり、英語で話しかけられても一切返事をしないことも多いため、よく「フランス人は英語を話せない」と言われる。しかし、多くのフランス人は日本人以上に高度な英語教育を受けており、実際には英語に堪能である。「能力的に話せない」のではなく「個人的信条により話したくない」のである。どうしても英語でなくては話が通じないと理解した途端、苦虫を噛み潰したような顔で英語を話し始めたりするので、英語での呼びかけに答えないからと安易に諦めず、何度もしつこくアタックしてみることが肝心である。
自動翻訳ソフトなどで日本語をフランス語訳、もしくはその逆をしたい場合、いきなり日本語とフランス語のコンバートを試みてもまともな訳にならないことが多い。このような場合、英語に堪能な人は一度日本語を(ソフトに頼らず自力で)英訳し、その英訳を自動翻訳ソフトに投入するとより自然なフランス語ができる。また逆に、フランス語を和訳する場合は一度英語に自動翻訳し、その英語を自力で和訳すると自然な日本語訳になる。
これも、フランス語と英語の間には共通する語彙が多いことにより成せる技である。
習得
前述の共通する語彙の多さにより、学習に取り掛かる前に英語を実践レベルまで習得しておくと、拍子抜けするほど簡単に学習が完了する人が多い。逆に英語を全く理解できない人間が先にフランス語を実践レベルまで習得してから学習を開始すると、学習難易度を大幅に下げることも可能。
英語の学習に躓いている人は、物は試しに先にフランス語を攻略してみるのもいいかもしれない。
(無論、効果には個人差がある)
オック語とオイル語
フランス語はヨーロッパの言語としては珍しく、地域ごとの方言差が非常に多様な言語であるが、これらの方言はその文法・語彙の共通項の多さやそれに伴う相互理解性から大きく二つに分けられる。このうち、フランス本土の北部で使用され、いわゆる標準語を含むグループを「オイル語」、南部で使用されるグループを「オック語」という。オック語とオイル語の差異はイタリア語やスペイン語など、他のラテン系言語との差異にも匹敵するものであり、オック語は言語学上標準フランス語以上にイタリア語やスペイン語に近い言語である。
歴史的にはオック語はフランス語から派生した一方言ではなく、フランス語やイタリア語などのラテン語の各方言から派生した諸国語が成立する過程において同時期に発生した姉妹言語であることがわかっている。オック語を独自の言語ではなく、方言と見做している背景には、フランス共和国における方言迫害・標準語への言語統一主義思想が影響している。すなわち、オック語を別言語であると認定してしまえばそれは許容されるべき多様性の一つであり、その言語の話者に対して使用を控えるよう矯正教育を行うことはできなくなる。しかし、方言とみなせば「誤った」「下品な」「汚い」言葉であるとみなして、話者に対する懲罰的な指導・教育をもって強制的に標準語のみを話すよう指導することが正当化できる。これは、言語学的には日本語と琉球諸語は同系統だが、先史時代(日本語が文字で書かれるより前の時代)に「日琉祖語」という共通祖先から分岐した姉妹言語とでも言うべき関係である。にもかかわらず琉球諸語は日本政府により日本語の「方言」とみなされ、矯正教育の対象とされた歴史に似ているかもしれない。
民衆の団結により王政を打倒して成立したフランスという国は、それゆえに民衆の精神的・文化的同一性を過度に重要視しすぎるきらいがあり、近年の帰化者に対するヒジャブ着用禁止措置などにもそれは如実に現れている。オック語はその大衆文化の犠牲となった哀れなラテン諸語であると言え、行き過ぎた管理教育によって話者を喪失しつつあるこの「言語」をどうやって後世に保存するかというのは、欧州の言語学者たちの悩みの種となっている。
一例(日常のあいさつ)
- Bonjour. ボンジュール(こんにちは)
- Bonsoir. ボンソワール(こんばんは)
- Au revoir. オーヴォワール(さようなら)
- Bonne nuit. ボヌ・ニュイ(おやすみなさい)
- Merci. メルスィ(ありがとう)
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東北弁 …北奥羽方言の鼻音が似ているという話もある。