プロフィール
名前の「ドール」はフランス語で「黄金」を意味する(英語で「人形」を意味する方と勘違いされることもあるが、間違いである)。
経歴
2歳(2020年)
2020年12月6日の中山競馬場で行われた新馬戦は斎藤新鞍上で2着。
続く12月27日の阪神競馬場未勝利戦では藤岡佑介を迎えるも2着で、2歳シーズンは未勝利に終わる。
3歳(2021年)
年が明け4か月の休養を挟んで4月25日の阪神3歳未勝利戦を勝利。
中1週を挟んでダービートライアルのプリンシパルステークス(リステッド)に三浦皇成鞍上で挑むも5着に敗れ、ダービーには出られなかった。
その後は9月11日の1勝クラス(中京競馬場)を藤岡佑介鞍上で勝利すると、続く2勝クラス浜名湖特別(鞍上は藤岡佑介の弟藤岡康太)も単勝1.8倍の期待に応え勝利。そして第41回ジャパンカップと同日に行われた3勝クラスのウェルカムステークスも勝利してオープン入りを果たした。
4歳(2022年)
古馬となった4歳初戦は白富士ステークス(リステッド)。同期でクラシックを戦ったアドマイヤハダルを破り4連勝。
そして初の重賞挑戦となった金鯱賞(GⅡ)は、レイパパレやアカイイトといったGⅠホース達を相手に果敢に逃げ切り1分57秒2のレコード勝ち。重賞初勝利を挙げた(このタイムは2007年優勝馬のローゼンクロイツと並ぶ記録で、こちらは中京競馬場改修前の記録)。
その次戦・GⅠ初挑戦となる大阪杯では、これまで通り逃げ戦法に出るも、落鉄の影響などで最終直線で力尽きて後続の馬たちに差し切られ、1着のポタジェに1馬身以上の差を付けられての5着に敗れてしまう。
陣営は次戦を札幌記念に定める。同レースでは前年度の勝者・ソダシはじめ、パンサラッサ、ユーバーレーベン、マカヒキ、グローリーヴェイズなどのGⅠホースとの対戦が実現。
本番ではパンサラッサ含む他の逃げ馬を警戒したのか、先行策に転じて逃げ馬の後続に付ける作戦を取る。ハナを切ってレースを進めたをパンサラッサを最終直線で振り切って、ソダシら後続の馬たちをもねじ伏せ、見事重賞2勝目を果たした。
次戦は天皇賞(秋)、前走に引き続きパンサラッサ・ユーバーレーベンとの対決だが、それだけでなく3~7歳までの揃う全頭が重賞勝利馬という強豪揃い。
その上でジャックドール、パンサラッサ、バビット、ノースブリッジらを始めとした前に出たがる馬が多い組み合わせであり「誰が前に出るか」が注目となった。
その一方で東京レース場の長い直線と最後の坂などから脚を溜められない逃げ馬は不利とされている難しい状況だった(東京レース場で開催される日本ダービーが「逃げて勝つことが難しい」と称される所以は正にココにある)。
スタート後はパンサラッサとノースブリッジが先頭争いには参加せず番手に位置。最終的にパンサラッサが先頭を取った中でノースブリッジ、バビットの後ろの4番手に位置取って2番手集団を作る。どんどんと後ろを突き放して爆走するパンサラッサには無理についていかずマイペースに走る…のだが、後ろとは殆ど距離が無い。
その後、パンサラッサは沈黙の日曜日でサイレンススズカが叩き出したのと同じ1000m通過タイム57秒4という驚異的なラップタイムをマークし最終直線に出た時には20馬身差以上とも言われた超大逃げを打っており、各馬は残り2ハロンでそれを追い上げる事となる。ノースブリッジとバビットが沈み、パンサラッサも徐々に速度を落とし始める中、ジャックドールは安定したスピードを維持して追い上げていく。が、後方から脚を溜めていたイクイノックスとダノンベルーガの猛烈な末脚に追い抜かれてしまう。最終的にイクイノックスがパンサラッサを残り50mほどで差し切って秋の盾を手にする裏で、ジャックドールはダノンベルーガの猛追をクビ差で退けたパンサラッサにも届かずに4着となった。
札幌記念の勝利経験とコース仕様から番手で落ち着いた競馬をした上で好位からの差し切りを試みたようだが、今度は控えめに動きすぎたことが敗因となった。結局、ジャックドールは前は自分の強みを活かした超大逃げを打つ馬と、後ろからは溜めてからの末脚を発揮する差し馬に挟まれる格好になり、前を捉えられず後ろからも差し切られるという、今後の課題が見える負け方をしたと言える。
そんなジャックドールの次走は秋天の結果に関わらず予め出走を決めていた香港カップを予定。パンサラッサとは1勝1敗からの三度目の対決となる。そして今度は逃げ馬に定評がある武豊騎手を鞍上に迎えることになった。
4歳で頭角を現してきたジャックドールは金鯱賞勝利や「逃げて差す(溜め逃げ)」な立ち回りから「令和のサイレンススズカ」と評される事があったが、そのスズカに乗った武がスズカと出会った香港カップでジャックドールに乗るという数奇な縁を結ぶ事となった。武自身も騎乗決定時に「スズカとの香港カップを思い出した」と自身の公式サイトの日記で語っている。
秋天と同日に武は阪神で2勝をあげており、それはドーブネ、アドマイヤビルゴの2頭で逃げを打って手に入れたものだった。このことから、ジャックドールとのコンビにも期待が持てると考えるに十分な実績があったと言える。
そして迎えた本番だが、ゲートで入れ込んでしまいスタートで出遅れたために12頭中5~6番手の中団に位置。持ち味を全く活かせないまま馬群に沈んで7着となった。
敗因を振り返る中で上記の出遅れの他に「香港現地の馬は短距離から順々に距離を伸ばすのに対し、ジャックドールは2000mしか走ってないのでスタートダッシュの技術で香港馬の前に出にくかったのでは?」という意見も見られる。
といっても自分の走りをしたはずのパンサラッサは陣営も首を傾げる逆噴射っぷりで日本勢5頭中ブービーの10着というジャックドール以上の惨敗を起こしているのだが…。
2022年下半期は本来逃げ馬として戦いたいのにハナが取れない状況が続き、そこでどう立ち回るかがジャックドールの課題となった。特に大逃げ馬であるパンサラッサとローテーションが被ったのも大きい。
GⅢやGⅡではGⅠ馬を倒しているため決して力不足ではないはずなのだが、大一番で結果が出てこないという歯がゆい結果を残しつつ4歳シーズンを終える事となった。
5歳(2023年)
向かえた翌年、次走は引き続き武豊をパートナーに大阪杯を選択。
今年の大阪杯はパンサラッサ、ドウデュース、イクイノックスといった直近話題となった中距離馬はドバイへ向かい、阪神巧者のタイトルホルダーもスケジュールが近い春天を見据えて回避と、スターホースが軒並み不在となっている。
だがこちらはこちらでスターズオンアース・スタニングローズ・ジェラルディーナといった前年の牝馬G1覇者の面々や、前年ジャパンカップで接戦を繰り広げ、年明けの日経新春杯で好調な滑り出しを見せたヴェルトライゼンデなど猛者が集まる。
しかし、前残り決着の傾向が強い阪神のコースに、走り慣れた芝2000mの距離という条件は、ジャックドールにとってこの上なく合っていたこともまた事実。
そのため実力を出し切れば十分勝ち目があると思われており、前走の惨敗がありながら、スターズオンアースに次ぐ単勝2番人気に支持されていた。
そしてレース本番。ジャックドールはイレ込むことなく9番ゲートに収まると、ゲートが開くと同時に飛び出し好スタートに成功。自分以外に逃げ馬がないこのレースで、1年ぶりにハナを切った。すぐ後ろにはノースザワールドやマテンロウレオなど他の先行馬がつける中、600mを35秒5で通過。これは昨年より1秒近く遅いのタイムだった。しかし、ジャックドールはそこから徐々にペースを上げ始め、1000mの通過は去年とほぼ同じ58秒9。スタート直後にスタミナを温存し、後半にスピードの持続力を利用して後続に脚を使わせるという、この馬の持ち味を活かした競馬に持ち込むことに成功。更に、武騎手はレース前に1000mを59秒で通過できればと語っており、ペース配分もほぼ完璧と言ってよかった。
結局ジャックドールは4コーナーを抜けるまで楽な手応えで先頭をひた走り、直線に入ると武騎手の鞭に応えてさらにスパートをかける。直線で2番手にいたダノンザキッドは脚を使い果たしてジリジリとしかジャックドールとの差を詰められず、後方で待機していた馬たちは軒並み伸びを欠いていた。
そんな中で、スターズオンアースだけが後方から上がり最速の末脚で追い込んできたものの、先頭をハナ差まで追い詰めたところがゴール板前であった。
後半1000mのラップは58.5と前半とほぼ変わらない数値であり、レコードタイムとの差は僅か0.2秒。武騎手の勝利インタビューで「第一・第二コーナーで力みかけたのを馬の方も理解してくれていいリズムで行く事ができた」とも述べられており、人馬一体で作り上げた走りだった事がわかった。自分のペースをしっかり掴んだ時のジャックのポテンシャルを見せつけた一戦となった。
こうしてジャックドールは「黄金ジャック」の名の通りに、悲願のGⅠ初勝利を勝ち取った。