激突せよ。
2012年JRA CM「天皇賞(秋)」編より
※:メイン画像は2012年天皇賞(秋)優勝馬・エイシンフラッシュのウマ娘化イラスト。ちなみにイラスト内で彼女が取っているポーズは、優勝後に鞍上のミルコ・デムーロが下馬して行った最敬礼が元となっている。
基本データ
概要
日本中央競馬会(JRA)が年2回開催する天皇賞は、旧八大競走の一角に数えられるもののうち秋に東京競馬場芝2000mで行われる格式の高いGⅠ競走である。
1905年に、明治天皇より日本レース・クラブに「菊花御紋付銀製花盛器」が下賜されて開催となった「エンペラーズカップ」(The Emperor's Cup)を起源とする。
1936年に国内各地の公認競馬倶楽部が日本競馬会に統合され、1937年より春は鳴尾競馬場(阪神競馬場の前身施設)、秋は東京競馬場で「帝室御賞典」が開催されることになった。
秋の帝室御賞典は1944年には戦局悪化で中止となったが、1947年からは「天皇賞」という名称で引き続き東京競馬場で開催されている。
かつては春開催と同様に3,200mの長距離戦で、開催時期も11月下旬であった。
1981年、同じく東京競馬場開催のジャパンカップ創設により天皇賞(秋)の開催時期が10月下旬~11月上旬に変更。
1984年以降は2,000mに短縮されて秋の中距離王決定戦としての位置づけになり、いわゆるマイラーからも優勝馬が数頭出ている。
ちなみに、3,200m時代にトウメイ(1971年)とテンメイ(1978年)が史上初の母子での天皇賞(秋)制覇を成し遂げている。
現在は春季の大阪杯(阪神競馬場開催)と並ぶ古馬の中距離最大のレースとして知られており、2000年以降はジャパンカップと有馬記念(中山競馬場開催)と共に秋古馬三冠競走の初戦として位置づけられている。
3歳世代でも、距離適性などの問題から菊花賞を回避した実力馬が古馬との初対決のレースに選ぶことが多い他、春天に比べると牝馬の出走や優勝も多い。
優勝馬に当レースへの優先出走権が付与されるステップレースとして、オールカマー、毎日王冠、京都大賞典が指定されている。
秋の府中には魔物が棲む
秋の天皇賞では1965年の”五冠馬“シンザン以降、一番人気は負けるというジンクスが有った。
改装前の東京2000mコースはスタート直後にカーブがあるため、特に外枠の先行馬が不利になりやすいコース形態だった。具体的にはシンボリルドルフ(1985年・8枠17番)・トウカイテイオー(1992年・7枠15番)親子が共にハイペースを先行した結果、人気薄の差し馬に強襲を許したり、メジロマックイーン(1991年・7枠13番)に至っては6馬身差をつけながらスタート直後のカーブで進路妨害を取られて降着の憂き目に合っている。対照的に内枠の人気馬はビワハヤヒデ(1994年・2枠2番・5着)、サイレンススズカ(1998年・1枠1番・競走中止)がレース中の故障で勝利を逃している。
前述のほかにもマーチスやトウショウボーイ、カツラノハイセイコ、シンボリルドルフ、ミホシンザン、オグリキャップ(3年連続)、ナリタブライアンetc...と、ここまでのメンツが揃って勝てていないのだから凄い。
そんなジンクスを最初に破った馬は84年の“破天荒”ミスターシービー。その後、“マイルの帝王”ニッポーテイオーも86年に勝利するが、またしても勝てない時期が続いた。
そして世紀末の2000年、第122回天皇賞。フジテレビ中継で実況した塩原恒夫が
「今世紀中に止めておかなければならない不名誉な記録があります」
と実況したこのレースで、“世紀末覇王”テイエムオペラオーが”府中の魔物”を粉砕。
そのおかげかどうなのかは定かではないが、21世紀に入ってからは一番人気のジンクスは消え去り、その後は1番人気の勝率も他レースと大差ないレースとなっている。
なお、1番人気がこれだけ撃沈してきた原因だが、理由の1つとして中距離レースながらステイヤーからマイラーにも十分勝機があるレースなためというのが上げられる。
歴代勝ち馬を見ると春天を勝ったようなゴリゴリのステイヤーからどう見てもマイラーまで揃っているレースなため、分かりやすい人気馬(主にクラシックホース)が人気したものの実際にはマイラーが激走して勝利……といったことも割と頻繁に起こる。
21世紀に入ってから一番人気の撃沈が目立たなくなったのは、そのあたりについて馬券を買う側も学習しだした……ということかもしれない。
過去の優勝馬
※2000m開催になってからの記録。馬齢は現行表記。勝ち馬名の太字は1番人気。
※1984年以前の優勝馬は天皇賞を参照。
開催年 | 馬名 | 性齢 | 騎手 | 備考 |
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昭和 | 距離変更・東京芝2000mで施行 | |||
1984 | ミスターシービー | 牡4 | 吉永正人 | 19年ぶり1番人気が勝利 |
1985 | ギャロップダイナ | 牡5 | 根本康広 | レースレコード(1.58.7) |
1986 | サクラユタカオー | 牡4 | 小島太 | 芝2000mJRAレコード(1.58.3) |
1987 | ニッポーテイオー | 牡4 | 郷原洋行 | |
1988 | タマモクロス | 牡4 | 南井克己 | 史上初の天皇賞春秋連覇。2着オグリキャップとの芦毛対決。 |
平成 | ||||
1989 | スーパークリーク | 牡4 | 武豊 | 翌年春も制し史上初秋春連覇 |
1990 | ヤエノムテキ | 牡5 | 岡部幸雄 | レースレコード(1.58.2) |
1991 | プレクラスニー | 牡4 | 江田照男 | メジロマックイーンが1着入線したが、18着馬の進路を妨害したため18着(最下位)へ降着。 |
1992 | レッツゴーターキン | 牡5 | 大崎昭一 | 日本ダイナースクラブ(後のサンデーレーシング)初GⅠタイトル。 |
1993 | ヤマニンゼファー | 牡5 | 柴田善臣 | セキテイリュウオーとの接戦。現制度初のマイルGⅠ優勝馬の制覇。 |
1994 | ネーハイシーザー | 牡4 | 塩村克己 | ビワハヤヒデとウイニングチケットがレース中に屈腱炎を発症した。 |
1995 | サクラチトセオー | 牡5 | 小島太 | |
1996 | バブルガムフェロー | 牡3 | 蛯名正義 | 3歳馬による初制覇 |
1997 | エアグルーヴ | 牝4 | 武豊 | 現制度初の牝馬制覇 |
1998 | オフサイドトラップ | 牡7 | 柴田善臣 | 1番人気サイレンススズカはレース中故障。「沈黙の日曜日」と呼ばれている。スピードシンボリ以来となる8歳馬(旧表記)によるGⅠ競走優勝。 |
1999 | スペシャルウィーク | 牡4 | 武豊 | 春秋連覇/レースレコード(1.58.0) |
2000 | テイエムオペラオー | 牡4 | 和田竜二 | 春、翌春制し史上初3連覇/この年から外国産馬再解放 |
2001 | アグネスデジタル(USA) | 牡4 | 四位洋文 | 再解放後の外国産馬初勝利 |
2002 | シンボリクリスエス(USA) | 牡3 | 岡部幸雄 | 東京競馬場改装で中山で実施。岡部最後のGⅠ勝利/3歳制覇 |
東京競馬場改装、コース改善 | ||||
2003 | シンボリクリスエス(USA) | 牡4 | O.ペリエ | 史上初の秋天連覇達成、外国人騎手初優勝。 |
2004 | ゼンノロブロイ | 牡4 | O.ペリエ | O.ペリエ現制度初の連覇。 |
2005 | ヘヴンリーロマンス | 牝5 | 松永幹夫 | 「エンペラーズカップ100年記念」として明治以来106年振りの天覧競馬として施行。勝利騎手の松永幹夫はレース後鞍上から最敬礼。 |
2006 | ダイワメジャー | 牡5 | 安藤勝己 | |
2007 | メイショウサムソン | 牡4 | 武豊 | 春秋連覇 |
2008 | ウオッカ | 牝4 | 武豊 | 大接戦ドゴーン!(by青嶋達也)」が繰り広げられた末に、1着ウオッカ・2着ダイワスカーレット・3着ディープスカイと、1着から3着までは人気通りの決着。またハナ差の4着にカンパニーが入る。レースレコード(1.57.2) | 「
2009 | カンパニー | 牡8 | 横山典弘 | 中央GⅠ最年長勝利記録 |
2010 | ブエナビスタ | 牝4 | C.スミヨン | |
2011 | トーセンジョーダン | 牡5 | N.ピンナ | レース・芝2000m日本レコード(1.56.1) |
2012 | エイシンフラッシュ | 牡5 | M.デムーロ | 天覧競馬として実施。ミルコ・デムーロ騎手、貴賓席の天皇皇后両陛下に下馬して敬礼を行った。 |
2013 | ジャスタウェイ | 牡4 | 福永祐一 | |
2014 | スピルバーグ | 牡5 | 北村宏司 | |
2015 | ラブリーデイ | 牡5 | 浜中俊 | |
2016 | モーリス | 牡5 | R.ムーア | |
2017 | キタサンブラック | 牡5 | 武豊 | 春秋連覇/史上2頭目の天皇賞3勝。レース最遅レコード(2.08.3) |
2018 | レイデオロ | 牡4 | C.ルメール | |
令和 | ||||
2019 | アーモンドアイ | 牝4 | C.ルメール | |
2020 | アーモンドアイ | 牝5 | C.ルメール | 牝馬初の連覇かつ騎手3連覇 |
2021 | エフフォーリア | 牡3 | 横山武史 | 3歳制覇 |
2022 | イクイノックス | 牡3 | C.ルメール | 3歳制覇かつ史上最短のキャリア5戦での勝利 |
2023 | イクイノックス | 牡4 | C.ルメール | 天覧競馬として実施/史上3頭目の連覇かつレース・芝2000m世界レコード(1.55.2) |
2024 | ドウデュース | 牡5 | 武豊 | 武豊現制度最多の同レース7勝目・JRAGⅠ勝ち馬における上がり3ハロン最速記録(32.5) |
主な出来事
年 | 出来事 |
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1985年 | 当時の絶対的な皇帝シンボリルドルフを伏兵ギャロップダイナが差し切り、ルドルフにとって国内最後の黒星となった。「アッと驚くギャロップダイナ!」 |
1991年 | 1着入線したメジロマックイーンが審議により進路妨害が認められて降着処分となり、2着入線したプレクラスニーが繰り上げ優勝となった。 |
1997年 | 先に抜け出した前年覇者バブルガムフェローを紅一点エアグルーヴが差し切り、距離短縮後の牝馬初優勝。 |
1998年 | 断然1番人気のサイレンススズカが3コーナーで故障し競走中止、予後不良となった。関連馬券227億円が紙くずになり、勝ったのは3度の屈腱炎を乗り越えた6番人気の7歳(旧8歳)馬オフサイドトラップ。当時GⅠ最高齢タイの勝利だった。 |
2001年 | 前年から再解放された外国産馬枠は前年2着のメイショウドトウの他に当初クロフネが登録していたところ、アグネスデジタルが登録し賞金額で下回るクロフネが除外。アグネスデジタルが前年覇者テイエムオペラオーを差し切り、45年ぶりに外国産馬が勝利。 |
2002年 | 東京競馬場改修工事のため中山で実施。3歳馬シンボリクリスエスが前年のアグネスデジタルに続き外国産馬勝利を果たし、鞍上の岡部はこれが最後のGⅠ勝利だった。 |
2005年 | 106年ぶりに天皇皇后両陛下がご観戦された天覧競馬として実施。14番人気の伏兵ヘヴンリーロマンスが低評価を覆し勝利。鞍上の松永が馬上より最敬礼を行った。 |
2008年 | 逃げたダイワスカーレットと後ろから上がってきたウオッカが激しいたたき合いの末大接戦のままゴール。写真判定が長引いた結果、わずか2cmのハナ差でウオッカに軍配が上がった。この時の勝ち時計1.57.2は当時のレースレコード。 |
2009年 | 5番人気の伏兵の8歳馬カンパニーが前年覇者ウオッカ等9頭のGⅠ馬の追撃を振り切り勝利。JRA平地GⅠ最高齢勝利記録を達成。 |
2011年 | シルポートの大逃げによりハイペースで展開。伏兵トーセンジョーダンがダークシャドウの猛追を振り切り人馬共にGⅠ初勝利。この時の勝ち時計1.56.1は当時の芝2000mの日本レコード。 |
2012年 | 7年ぶりに天覧競馬として実施。最内から抜け出したエイシンフラッシュが逃げたシルポートをとらえ差し切った。7年前同様鞍上のデムーロが下馬し最敬礼を行った。 |
2020年 | アーモンドアイがキセキ、クロノジェネシスといったメンバーを抑えシンボリクリスエス以来、牝馬初の連覇を達成したと同時にシンボリルドルフ以来多くの名馬達を阻んだ芝GⅠ7勝の壁を越え史上最多となる芝GⅠ8勝目を挙げた。 |
2022年 | パンサラッサが大逃げ戦法を取り、1000m57.4の超ハイペースとなった。直線でも粘っていたパンサラッサに対し外から強襲した1番人気イクイノックスがゴール前で差し切った。 |
2023年 | 11年ぶりかつ令和初の天覧競馬として実施。ジャックドールが1000m57.7のハイペースで飛ばすもこれに喰らいついていたイクイノックスが2着のジャスティンパレスに2馬身半の差をつけ連覇達成。この時の勝ち時計1:55:2は芝2000mの日本・世界レコード(2023年10月現在)。鞍上のルメールが馬上より最敬礼を行った。 |
主な記録
レースレコード |
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馬の親子制覇 |
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騎手の勝利数 |
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騎手の親子制覇 |
関連項目
(秋古馬三冠)