ハエトリグモ
はえとりぐも
概要
ハエトリグモ科に属する蜘蛛の事で、英語は「jumping spider」("跳びグモ")。
6,000以上の種が知られ、クモの中では種数の最も多いグループ。
多くが5mm程度のの小型で、やや太短い脚と四角い頭という体型。
8つの目のうち、4つが正面にあり、そのうち真ん中にある2つの目が大きいのが特徴。
顔文字で表現するなら、(゚OO゚)のような顔をしている。
全体的に視力が低いものが多いクモの中では例外的に視力を高度に発達させ、視力を頼りにした狩りを行う特徴的なグループである。
よく走り回り、歩きながら獲物を探す徘徊性のクモである。英名の通りジャンプが得意だが、これはバッタのような脚の筋肉ではなく、体内の液圧を調節し、血液を一気に本体から脚に注いで膝の関節を弾くことで行われている。
視力
体の小ささゆえに網膜の面積に限界があるため絶対的な視力は高くないが、同程度の体のサイズをもつ動物(クモ以外も含む)と比較した場合の相対的な視力ではトップレベルのものを持つ。
特徴的な中央の大きな瞳は視野が狭い代わりに・高解像度で立体視も可能である。
正面両脇の小さな瞳は低解像度で広い視野を持ち、視野の狭い中央の目をガイドする役割を担う。
後頭部にも小さな瞳があり、これは背後から近づく捕食者の影を超広視野で監視している。
中央の眼は眼球型でではなく円筒型で頭部に深々と入り込んだ構造を持ち、その奥に視細胞が並ぶ。
このような形状では眼球運動は完全に不可能であり、視線を変える場合は体ごと向きを変える必要がある。
このため、カメラを向けると撮影者を詳しく観測しようとして、分かりやすい形で「カメラ目線」をくれることが多い。ネット上流通しているハエトリグモの写真が大抵こちらを見つめているのはこのような事情による。
中央の眼は円筒に筋肉が巻き付いた構造になっていてこの筋肉を動かすことで円筒部の長さを微調整してピントを調節することができる。これにより飛行する獲物までの距離を瞬時に判断し、距離を合わせて獲物に飛び掛かり地面に墜落させた上で捕食する。この習性が「ジャンピング」「蠅取り」の由来になっている。
ピント位置で距離を測定しているため、青色光や赤色光などの光の波長が極端に偏った人工照明下では距離の判断が狂って(光の波長によってピント位置が変化する色収差が生じるため)、ジャンプ距離が足りずに獲物の手前に落ちたり、獲物を飛び越したりという奇妙な行動を起こすようになる。実験でこの現象が確認されたことから、ハエトリグモが(人間のような両眼視ではなく)ピント位置を基準にした立体視を行っていることが明らかになった。
視覚情報を処理するために脳はかなり発達し、網膜が場所をとることも相まって頭胸部に収まりきらずに脳の一部が腹部にまではみ出している種もいる。
雌雄
視覚が発達することから視覚に訴える求愛行動を示す種が多い。
このため雌雄で外見が異なる性的二形が広くみられる。
特に雄は求愛行動などの為に体の一部が部位が外見的に特殊化した例が少なくない。中でもピーコックスパイダーの雄は雌にアピール用の扇子らしき構造があったり、アリグモはオス同士の喧嘩に使う牙が大きい等の例が挙げられる。
生態
昼行性の捕食者で、名前は「ハエ取り」だが、原則として捕らえられる虫であれば何でも食べる。
優秀な視力で獲物を捕捉し、瞬発的に飛び込んで確保する。
ただし、種類によって異なる。他のクモを専門に捕食するケアシハエトリ、アリを専門に捕食するアオオビハエトリ、植物を主食とするバギーラ・キプリンギ、など特殊な種類がある。
雄は雌に対して求愛ダンスでアピールするのも特徴である。脚と体を振ったり揺れたり、こうして雌の視線を引きながら、曲を演奏する様に地面を通じて規律的な振動を相手に伝える。
ピーコックスパイダーは踊りながらクジャクの如き腹部の鮮やかな部分を広げてアピールする。
このような急速な動きを交えた視覚に訴える求愛ダンスは狩猟能力に直結する相手の視覚能力を試すことで優秀な子孫を残しやすくする意味合いもあると考えられている。
求愛以外の場合、特に雄同士が出会うと前脚と牙を揚げてお互いを威嚇し、喧嘩する事もある。
獲物を捕らえるための網を作らないが、隅っこに小さなテント状の巣を建てて、そこに休憩をし、卵や生まれたての幼体を保護する。
アリに擬態することが有名なアリグモもハエトリグモであるが、姿・行動ともアリと似せて一般のハエトリグモから逸脱している。アリと似たスレンダー体型でほぼジャンプせずに走り回り、前脚を触角と見せかけるように振り回す。