概要
ケアシハエトリ(学名:Portia fimbriata)とは、アミカケハエトリグモ属(Portia)に属するハエトリグモの一種である。他の同属種と同様、他の蜘蛛を主食として捕食する蜘蛛であり、狩りのテクニックに優れることで知られる。
オーストラリアや東南~東アジアに分布し、日本では奄美大島から西表島にかけて生息する。
形態
他のハエトリグモと同様、四角く盛り上がる頭の正面に発達した目を持つ。他のハエトリグモではかなり退化的な頭頂部の後中眼もそこそこのサイズだが、これはアミカケハエトリグモ属を含めて比較的古い系統のハエトリグモの特徴である。
全身が枯れた植物の破片と似た茶色や暗褐色で、名前の通り脚の途中がブラシのように毛が生えている。性的二形で、オスは脚が細長く、黒い頭の左右の白帯が目立つ。メスは比較的丈夫な体型で、触肢と牙の付け根がおじいちゃんの髭のように白い毛が目立ち、腹部左右の毛束や、後頭部左右の後側眼の所が猫耳のように毛が盛り上がるのも特徴的。
生態
歩く時の動きが個性的で、脚を体に近づけ全体の形を悟られにくくし、脚を動かすタイミングをバラけさせる。触肢を牙の下に隠し、進んだり止まったりを繰り返す一見不規則なこの歩行は自然に溶け込み他のハエトリグモにも存在を感知されない効果があるとか。なお、他のハエトリグモではなく同種と対峙する場合はこの独特の歩行を行わない。
ハエトリグモの中でも特に視力が発達しているが、他のハエトリグモと同様に一度にちゃんと確認できる視界の範囲には限界があり、大型の天敵が見えていない場合がある。
蜘蛛は通った場所に糸を残し、その匂いから他の蜘蛛や同種を特定するなど嗅覚も役立てるが、本種の場合は後述の独特な食性により、同種同士で獲物を取り合うのを防ぐのにも役に立っている。
交接の際はオスの方からメスに近付くとされる。他のハエトリグモが数分、時には数時間掛けるのと比べてケアシハエトリが交接に掛ける時間は100秒近くと短い。また、メスとオスが合意した際にメスがまだ成熟してない場合は成熟するまでメスの巣で同居することもある。
スパイダーハンター
とにかく他の蜘蛛を捕食することに長け、優れた視力とテクニックでそれを捕まえる。難しい状況の獲物に対しては作戦を立てて行動していると思われ、最短距離を進まずに回り道で死角に移動し上から糸で降りていき獲物に襲いかかるという行動が見られる。途中で相手を見失う事になっても最終的に望ましいポジションにちゃんと行き着く。
蜘蛛の網に近づくと脚でわざわざ網を弾き獲物が掛かったと思わせ網の主を誘き寄せる。見たことが無い蜘蛛に対してもその巣で発生する振動のパターンを観察したり、巣に最初に近寄る時は風が吹いて自身による振動が相手にわかりにくいタイミングを選んだりもする。口から糸を吐き他のハエトリグモすら捕まえるヤマシログモに対してもその姿を確認し背後から回り込んで捕まえる。居るであろう他のハエトリグモの姿が確認できない場合にはわざと跳び相手が反射的に動くのを確認して襲うこともある。
もちろんある程度は本能に従っての行動ではある。が、自然では絶対にあり得ない状況に置いても、脳の神経の数が脊髄動物と比べて格段に少ないので考えるのには若干時間がかかるようだがちゃんと計画的に行動する。過去に覚えたことを記憶し続けることが可能なのも確認されており、とにかく蜘蛛にしてはその知能は優れている。
なおこのような複雑な戦術は多種多様で失敗すれば自分が死ぬ可能性のある蜘蛛に対して行うが、ハエのようなシンプルで危険性の低い獲物に対しては行わない。蜘蛛の牙が刺さりにくい外殻や、昆虫より蜘蛛に対して効果的な毒を持つなど、多くの特徴が蜘蛛に特化している。脚や触肢が取れやすいのも蜘蛛に捕まりやられるのを防ぐ為と思われる。また、餌として蜘蛛をある程度食べないと成長に弊害があるらしく昆虫のみ食べて育った個体は蜘蛛を食べて育った個体より小さくなる。
関連動画
関連タグ
アゴダチグモ:蜘蛛ハンターな蜘蛛仲間。
センショウグモ:同じく蜘蛛を襲う蜘蛛仲間。
タコ:頭がいい無脊椎動物代表。
コウイカ:同じく頭がいい無脊椎動物。