概要
アリグモとは、ハエトリグモ科の中のアリグモ属(学名:Myrmarachne)に分類される蜘蛛の総称、もしくはその中の一種「Myrmarachne japonica」の名前。
名前の通り蟻そっくりな蜘蛛であり、学名もそのまんま蟻(myrma)蜘蛛(arachne)の意味。
220種以上が知られ、ほとんどが東半球(オセアニア、アジア、アフリカ、ヨーロッパ)に分布する。アメリカ大陸の種は少ない。
蟻擬態の達者
そもそも蟻と言えば、集団で獲物に襲いかかり、仮に1匹仕留めたとしてもその姉妹が群で集まってきて最終的に敵を葬る。そのことから小さな虫はもちろん大きい哺乳類ですら逃げ出す場合もある。
そのため蟻に手を出そうとする動物はごく僅かである。手を出そうものなら痛い目を見るのだからそりゃそうだ。食べても大して腹の足しにならないし。蟻酸とかあるし。
そんな恐ろしい蟻に擬態することは、あらゆる敵から襲われなくなる優れた防御的擬態と言える。
改めて紹介しよう。アリグモはその名の通り蟻に姿を似せた蜘蛛のことである。
蜘蛛といえば体は頭胸部と腹部(実際は「頭部と胴部」)の2つに分かれ、頭胸部から脚が生えている。だがこのアリグモは頭胸部の途中で首のように括れ蟻の頭部と胸部に、腹部の途中で括れ蟻の腹柄節と腹部に見えるようになっている。また、前脚は蟻の触角を思わせるように周囲に振り回している他、歩き方も通常のハエトリグモより蟻に似ている。体色も蟻っぽい。
このように蟻に擬態する蜘蛛は何もこのアリグモだけではなく、蜘蛛の中で70回以上、ハエトリグモの中で10回以上進化したと言われている。蟻への擬態は人気なのだ。でもアリグモが一番よく知られており、擬態の再現度も特に高い種類の一つである。
他の蜘蛛であれば襲う蜂などの捕食者も、このアリグモは襲わないケースが多い。だってこいつどう見ても蜘蛛じゃなくて蟻だもん。
ただ、蟻に擬態することで通常のハエトリグモより細っそりした体は時にはデメリットとなる。例えば、通常のハエトリグモより一度に産める卵の数が少ないとか。通常のハエトリグモより跳躍力も低い。
そして何より周りの動物が蟻を脅威と見做していないと防御として機能しないことがこの擬態の欠点でもある。蟻を脅威と思わない動物はあまりいないが、アリグモ側にとってこれは要心しなければならないことの一つ。
雌雄
このアリグモは性的二形で、オスの鋏角(牙)が肥大化し前に突出してることも特徴的。オス同士はこれをクワガタムシの顎のように使って喧嘩する。
そのためオスはメスと比べて蟻っぽさが劣るが、オスは蟻単体というより、発達した鋏角で「物を運んでいる蟻」に擬態するとも言われている。
最初に交接したオスだけ受精できるからか、オスは成体に脱皮する直前のメスの巣の周りに滞在する習性があり、他のオスが寄ってくると喧嘩して振り払おうとする。
また蜘蛛として例外的に、オスの鋏角はその大きさに反して毒を注入する機能が無くなり、嚙む力だけで獲物を仕留める模様。