概要
東方Projectに登場する射命丸文と宇佐見菫子の二人によるカップリング。
文は『東方花映塚』(または『東方文花帖』)、菫子は『東方深秘録』に初登場した。
二人は『東方香霖堂』(『東方外來韋編』連載版)で出会っており、後にこの出会いを通して文は菫子の独占取材を敢行している(『東方文果真報』)。
『香霖堂』
『深秘録』の騒動以後、夢を通して幻想郷へと訪れるようになった菫子は博麗神社などをその活動拠点とする傍ら森近霖之助の営む香霖堂では茨木華扇と独自に接触を持っていた。
霖之助によれば元々文も新聞の宣伝を主目的に香霖堂を訪れることがあるようで、さらに文は外の世界からの来訪者である菫子が香霖堂を訪ねているという情報もつかんでおり、文は菫子に取材を行うべく香霖堂を訪ねる。
冬のとある日、この場所で文と菫子は出会うこととなるのである。
ただしこのときの幻想郷は大雪に見舞われていたため見慣れぬ光景に菫子は周辺を見失っており、いつもの時間に現れない菫子が雪道で遭難したのでは、との霖之助の予想を受けて飛び出した文と博麗霊夢の二人に救助されたのが菫子と文の実際のファーストコンタクトである。
そして香霖堂へと菫子が無事保護された後、あらためて文は菫子への取材を開始する。
しかしこの日の取材は興奮した菫子のパワフルな様子に文が押されており、文は日と機会を改めることを決意する。文が押される様子を見ていた霖之助や霊夢などはその様をこっそりと楽しんでいる。
この際菫子は霊夢から文が天狗であることを警告も込めて教えられるのだが、むしろそれが菫子にとっては興味を喚起させるものであった。
「 凄い、凄いわ! 何か大物に会った感じです! 幻想郷万歳! 」(菫子、『香霖堂』)
この日は霊夢の指示で後日博麗神社を取材場所として借り受ける約束をしてひとまずお開きとなっており、二人のエピソードは続く「文々春新報」でのインタビューへと結ばれてゆく。
「文々春新報」(『文果真報』)
先の『香霖堂』でもその存在が語られていた文による「文々春新報」創刊号誌面では、菫子はトップスクープとして取り上げられている。
巻頭第一ページも菫子の後姿をとらえた写真(実際の書籍『文果真報』としては挿絵)であるなど、文にとっても初めての試みである「週刊誌」において菫子は大きく取り上げられている。
誌面中では複数の菫子の写真も多数掲載されている。
特に誌面中では文は菫子と華扇の「 密談の現場 」をとらえた写真が雑誌制作に挑むきっかけとなった、としている。ただしそれは主に外からの干渉に対する危機感によるものであり、文は誌面の複数の機会を通して外来の「 女学生 」に対する強い警戒感を文字にしている。
そして先の『香霖堂』での約束の通り文は菫子のインタビューを行うのであるが、この際は霊夢が同席するものとなった。
「 ほら、あの人、何というか、非常識だから 」
(霊夢、菫子に対して。『香霖堂』。文中では「非常識」の部分に黒丸のルビがある)
インタビューでは菫子の過去や菫子が来訪する様子についても話が広がり、菫子が夢を通してここにいるという実感を確かめるためか、文は実際に菫子に触っているなど身体的接触もみられている。
文は先述の通り外来の物品や文化が流入することを快く思っておらずインタビューでも直接菫子にそれを問うのであるが、菫子に悪意がないことや幻想郷への来訪も不可抗力であることなどが間に入った霊夢によってフォローされている。
また文は菫子本人への取材だけではなく関連する人物への取材も行っており、多角的に、幻想郷を訪れる存在である菫子に迫っている。ただしいずれも文が期待する幻想郷への向き合い方の回答は得られていない。例えば菫子の来訪に一片の不安も見せない八雲紫、菫子が一度懲らしめられた(深秘異変)ことを理由に問題ないとする霧雨魔理沙、菫子の来訪と同じタイミングで熟睡する霊夢やそれでも有事となった際の霊夢は妖怪から信頼がおかれているから心配ないとする華扇など、いずれも文の主張する外来人脅威論を支持するものではなかった。
ただしそれが逆に文の反骨的な危機感を力づけてもいる様子で、誌面中の文の菫子脅威論は、博麗神社周辺の人物や紫が抱いている(と文が想像する)「 陰謀論 」にまで予想を広げつつ、より筆が乗っていくものとなる。
インタビューなどでは文は菫子に対して一方的に警戒感を投げかけることが多かったが、その一方で菫子が外の世界で幻想郷の情報発信をしており、それが快い反応を受けていないことを聴くと、「 同じ情報発信者 」としての同情を寄せる一幕もある。
文は「天狗」の人間に対する「個」の捉え方について語り場面によって対応を変えていくメンタリティをもつことを語ってもいる(『東方鈴奈庵』)が、この場面でも幻想郷の妖怪と外来人という枠組みではなく文と菫子の個人同士にみる情報発信者という共通点から共感する一面を見出している。
「曝く」者たち
文と菫子はそれぞれ隠された真実や神秘を「 曝く 」ことを求めることに志向しており、いずれも自らを「曝く者」であるともしている。
「 私は真実を曝く者、記事にするなと言われてしないわけが無い 」
(文、『香霖堂』)
「 私、秘封倶楽部初代会長として最後の大仕事をします 」
(菫子、『深秘録』。作中では「秘封倶楽部初代会長」の部分に「 ひみつをあばくもの 」とのルビが付されている)
それぞれが目に見えない、あるいは実態の裏に隠されている「何か」を追い求める探究者としての一面も持ち、そのために行動し、時には危険も冒すなどアクティブな方向性も共感するものを持つ。
二次創作では
『深秘録』において菫子が初登場しそれ以後も幻想郷との縁が続いたことで、二次創作でもこれまで原作に登場した様々な幻想郷の住民たちとの交流が想像されており、先述の『鈴奈庵』によるもの以前にも文と菫子の交流を想像するものもあった。
幻想郷の新聞記者である文が菫子を見逃すことはないだろうと想像されたのである。
例えば取材を通して現在の外の世界にあり方に興味を惹かれ、やがてそれを語る菫子に、当初こそ取材対象という位置づけであったはもののこれまでにない新鮮な風を感じてやがて菫子という個人への興味に移っていくといった心情の変化を描くものもある。
文にとっては興味の深い外の世界も菫子にとっては好ましくない場所で、逆に菫子が興味を惹かれてやまない世界である幻想郷は文がすでに熟知するところであるなど、相互の住まう世界に見る心の交錯は、菫子と文ならではの交流の姿ともいえる。
時には「容姿には自信がない」(『深秘録』)とする菫子を上手くプロデュースして外の世界のミステリアスも含んだ幻想郷の新たな華に仕上げたりといった新聞記者とはまた別の文のメディア手腕が描かれることもあるなど、これまで文に関連して積み上げられてきた二次創作的アプローチも加味したあやすみの在り方も想像されている。
『香霖堂』では天狗としての文に物怖じせず、それどころか目の前にある不思議に爛々と心を弾ませる菫子に、普段の飄々として時には相手に深い恐れさえも感じさせるような文も押されていたが、二次創作でも菫子の勢いに文が押される様子も想像されている。
文が菫子のペースに慣れるかどうか、あるいは菫子を自身のペースに引き込むことができるかどうかについては創作ごとにパターンがある。
時には菫子が『深秘録』で垣間見たような妖怪としての脅威を文からも教えられることがあるなど、種族の違いに由来する様もまた想像されている。
文と菫子については、『香霖堂』や『文果真報』での交流の後もそれぞれの物語が続いており、例えばそれらの二つの作品も発表された2017年には、文は『東方天空璋』、菫子は『東方憑依華』でさらにそれぞれの物語が語られる。
休まることのない幻想郷の動向にそれぞれのスタンスから関わる二人の物語は、さらなる展開を見る可能性も持つものである。