アリアカシアとはマメ科のネムノキ亜科の中のVachellia属(ヴァケリア、アラビアアカシア)の中でも、蟻と共生できるように進化した植物のこと。仲間共々葉にタンニンを蓄えたり棘を生やすが、蟻との共生でより捕食の危険から身を守れる。メキシコなど中央アメリカにあるグループと、ケニアやタンザニアなど東アフリカにある種とが存在する。
以前はアカシア属に含まれていたが最近は別の属とする研究者も多くVachelliaに分けられた。だが今もアカシア属とする人もそれなりにいる。
中央アメリカのアリアカシア*
メキシコを中心に中央アメリカを主な生息地とするグループ。学名Vachellia sphaerocephala種が和名をアリアカシアとして掲載される他にアリノスアカシアと呼ばれ、Vachellia collinsiiもアリノスアカシアと呼ばれる他Vachellia cornigeraも同じような生態で知られる。棘が肥大化してまるで動物の角のように見える。
この植物は花や実とは別にBeltian body(ベルティアン体)と呼ばれる物を羽葉の先端に実らせる。これは脂質、糖質、そしてタンパク質に豊富である。一見、恰好の餌で多くの生物に狙われそうなものだが現実ではそうはいかない。
この植物には学名Pseudomyrmex ferrugineaのアカシアアリ等のクシフタフシアリ属の蟻の仲間が住んでいる。この植物が襲われようものなら植物が警報シグナルを放ちこの獰猛な蟻がワラワラと現れ攻撃してくる。棘のみであればそれを避ければいいだけの小さな昆虫はもちろん解体され、体が大きく棘があまり痛くない大型哺乳類も蟻の攻撃で追い払われる。また、蔓等で登ってくる植物も蟻が駆除する。
この蟻はアリアカシアの肥大化した棘の中に住んでいる。棘は中が空洞になっていて蟻が入り込む絶好の巣作りスポットになっている。そしてこの蟻の主食が前述のBeltian bodyである。他にも蜜を与えており、蟻達はアリアカシアが与える栄養が無いと生活できないレベルでアリアカシアに完全に依存し、これを供給してもらう代わりにあらゆる敵から守るのだ。ただ栄養のやり取りは単に一方的とは言いにくく、蟻がもたらす残骸が土壌を良くし、アリアカシアの栄養となっている可能性もある。
一見敵なしといった感じだが、一部のカイガラムシはこの木に取り付き吸った樹液を濾して出す甘露を蟻に提供するので、アリアカシアに害を成しながらむしろ蟻に守ってもらえる。また、ハエトリグモの一種のバギーラ・キプリンギはこの蟻の攻撃を躱しながら美味しい餌だけを頂戴することで生きている。なお、普通蜘蛛は基本肉食であるにもかかわらずこのバギーラ・キプリンギもアリアカシアが出す栄養を食べ続けた結果体が草食動物のそれになってしまった(同位体比調べ)。
また、アカシアアリが居ないとこの木は襲われて被害を受けやすく、他の植物にも競り負ける。
東アフリカのアリアカシア*
東アフリカの学名Vachellia drepanolobiumの種もアリアカシアと呼ばれる。棘の根本が虫こぶのように膨らんでおり、こちらも空洞で中で蟻が住める空間となっている。ベルティアン体は生成しないが蜜による栄養供給は行っている。
この木の虫こぶは早い者勝ち形式でシリアゲアリ属のうちの3種とナガフシアリ属のうちのTetraponera penzigiという種で取り合いになる。若いうちは虫こぶも柔らかく蟻が噛んで中に入れるが、成長するにつれこの虫こぶは硬質化する。蟻が開けた穴の上を風が通ると笛を吹くような音が鳴ることからフルートアカシアなる呼び名もあるらしい。
この木をよく食べる動物としてはキリンが知られる。キリンはこの木の葉っぱを食べるが、食べ続けると蟻がやってきて攻撃してくるのでわずか一部だけ食べてすぐに別の木へ移る。
大型草食動物がいるうちは蟻もこの木を守るが、蟻達は大型草食動物がいなくなると植物を食害する昆虫を保護するようになる。理由として、アリアカシアは襲われることが多い時期は蜜を多く出して蟻が護衛するように促すが、大型生物に襲われなくなると蜜の提供を怠る。そうなってしまうと、他の昆虫が食害することによる副産物を利用する方が蟻にとってメリットになるのだ。植物を襲う生物が減ることで結果的に植物がダメージを受け弱っていくという奇妙な状況が発生する。
ちなみにこの木は他の植物が育ちにくい粘土質のような土でも育つ。また再生力が高く、伐採したり山火事に焼かれたりしても残った部分から生えてくる。そのことから細身ながら木材として安定して利用できる一方で、生態系を変化させ得る脅威の種として注視もされる。
関連タグ*
アカシアアリ:アリアカシアとの共生関係で知られるアリ。
バギーラ・キプリンギ:現在知られる中で唯一草食動物とされる蜘蛛。一応共食いもするが主食はアリアカシアが出す栄養。
植物とアリの共生の例
セクロピア:アリとの共生で有名な植物。ミュラー体と呼ばれる物がアリの餌になり、茎にある区分された空間がアリの棲家になる代わりに草食動物から守る。
アリノトリデ:属名Myrmecoidaはそのままアリ植物の意味。他の植物に引っ付いて成長(引っ付かれた植物に対し基本害をなさない)し、複雑に空洞化した茎の中でアリが生活しアリがもたらす残骸から栄養を得る。
エライオソーム:一部の植物の種に着いてる取り外し可能な栄養の塊。アリはこれを目当てに種を探して巣まで運び、栄養を取って種を捨てる。こうして種を遠くまで運んでもらっている。