開発経緯
第二次世界大戦以前までイタリア軍が使用していた制式小銃は口径6.5 mmのカルカノM1891が主力だった。しかし1936年のエチオピア侵攻でエチオピア兵と戦っていたイタリア軍兵士からの報告で「6.5 mm弾では遠距離から射撃してもエチオピア兵がなかなか倒れない」「数発敵に喰らわしたのにラクダに乗って突っ込んできた」など威力不足の指摘と改善を求められた。そこでイタリア軍上層部もそれを聞き入れて、新型小銃の開発に乗り出した。
ただし、エチオピア侵攻時のイタリア軍は練度が低く、相対距離が狭まってくるにもかかわらず、照尺を調整しなかった等、射手の技量未熟に起因する命中率の低さが苦戦の原因であり、銃の威力と性能は直接の原因ではなかった、と後に分析されている。
開発
開発に当たっては、まず威力と射撃性能の向上が要求された。しかし機関部に関しては変更はなく、6.5mm弾と同じ腔圧で撃つように計画された。弾丸は6.5mm弾をスケールアップした7.35mm弾が採用されたが、装薬の燃焼圧力が以前のままなので初速が下がり、弾道はよりドロップ(沈下)することとなった。そこで弾丸のチップ(先端部分)にアルミを使用し、重量を6.5mm弾と同じにするという方式を取った。弾丸の先端が軽いので弾丸の重心が後部に偏り、命中すると弾丸が横転することで対人殺傷能力は向上した反面、装甲目標に対しての威力が低下することになった。
使用弾薬の口径変更に合わせて各部を改設計した以外は銃本体の構造はカルカノM1891とほぼ同じだが、M1891に対する「全長が長すぎる」「長すぎて取り回しが不便」という現場の不満から全長を短縮した「カービン」様式とされ、全長はM1891の1290mmから1020mmと大幅に短縮された。また、照尺が簡易な固定式に変更された。そのため命中率は期待できなかった。
こうして新型小銃の仕様は一応の完成を見たが、カルカノM1891が大量に配備されていたことや第二次世界大戦の始まりなどが重なり開発は延々と進まなかった。上層部では新型のライフルを開発するよりカルカノM1891をボアアップするべきとの意見も出たが果たせず、イタリア軍は基本的に口径6.5 mmのカルカノM1891ライフルで連合国軍と戦う羽目になった。
採用年度は諸説あり不明であるが、正式名称がM1938であることから本銃が計画された1938年が最も有力である。
カルカノM1938には、バリエーションとして、木製前床部分を銃身の途中までにして、折り畳み式スパイク銃剣を付けた短騎兵銃型があった。
運用
実際の戦闘に投入された結果、歩兵用小銃としての対人戦闘においてはまったく問題ないとされたが、装甲車両や戦闘機に対しての戦闘も多かったため威力不足が問題となった。
部隊への配備にあたっても、戦争中に規格が異なる2種類の弾薬を使用することは補給兵站と装備の管理を混乱させ、実用上の問題を多々発生させることとなった。そうした中、カルカノM1938の使用弾薬を6.5 mm×52に変更したカルカノM91/38も開発された。しかし結局カルカノM1938は弾薬も含めて戦時中は生産数も少なく、わずかに配備されただけで、1943年9月にイタリアは連合軍に降伏することとなった。
フィンランドでの運用
約94,500挺のカルカノM1938がフィンランドに送られた。現地ではそれらはTemi騎兵銃の名で知られた。 それらは冬戦争(1939年~1940年)の間、主に警備部隊と兵站部隊で使われた。
いくつかの前線部隊では兵器不足の問題があったが、フィンランド兵はこの小銃を嫌っていた。 7.35 mm×51という標準的でない口径の弾薬を使用するので、前線部隊への弾薬補給の維持に問題があったことと、リアサイトが調整不可能な300m固定照準なので、様々な距離で生起する遭遇戦での精密射撃に用いるには全く適していなかったからであった。
またフィンランド兵はこの弾薬が標的に対して散布界が広過ぎることにも不満があった。
いつでも可能ならば、フィンランド兵は戦場で鹵獲した兵器を使用する方を好んだ。それには敵であるソ連の標準小銃である、モシン・ナガン小銃も含んだ。少なくともモシン・ナガンには7.62 mm×54R弾薬を使用できる有利さがあった。
継続戦争が勃発したことによって、フィンランド陸軍首脳部は、残っているM1938を、対空用、沿岸防衛用、その他、第二戦級(民間防衛)部隊用として、フィンランド海軍に譲渡した。
第二次世界大戦後、フィンランドは残った約74,000挺のM1938小銃の全てを売却した。
基本データ
全長 | 1020mm |
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銃身長 | 530mm |
重量 | 3400g |
口径 | 7.35mm×51 |
装弾数 | 6発 |
カルカノM1938の長所・短所
長所
ボルトハンドルが比較的大型で操作しやすかった。
銃本体の重量が2.95 kg(空弾倉状態)と各国のもの比べて軽量。
対人殺傷能力が高い。弾頭が軽いアルミであるため重心が後方にあり、体内に突入後、前後にスピンする。
反動が少ないためほぼ「一秒に一発撃ち」が可能。
ライフルグレネードの装着が可能。
短所
照門が固定されていたため、射程距離が違おうと同じ照準で射撃しなければならない。
ライフルグレネードの装着位置が銃本体の右側面だったため重心が右に移動して非常に撃ちにくい。
ライフルグレネードを使用する時は、銃本体のボルトを外して、グレネードランチャーに取り付けるので、銃が撃てない。
ボルトの引きが極端にかたく、狙って連射することができない(逐次ターゲットから完全に照準を外さないと引けない)。
その後
イタリア降伏後、倉庫には多くのカルカノM1938が眠っていた。その大半は各国に転売され、特に銃マニアが多いアメリカに輸出されていった。そして、このカルカノM1938のバリエーションであるカルカノM91/38(カルカノM1938の6.5 mm×52弾仕様)は第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの暗殺事件の犯人であるとされるリー・ハーヴェイ・オズワルドが通信販売で購入し、日本製の4倍率スコープを装着して狙撃に使用したとされたことで有名である(犯人及び人数については異論があり、実際に使用された銃はこの銃ではないとする説もある)。また北アフリカ戦線に派遣されたイタリア軍の主要装備であった本銃は戦場に大量に遺棄され、現地住民に回収されてアルジェリア独立戦争における民族解放戦線(FLN)側の主要武器となった。
カルカノM1938の登場するメディア作品
映画
- 炎の戦線エル・アラメイン
ゲーム
- メダル・オブ・オナー アライドアサルト リロード2ND (Windows用ゲーム)
- コール オブ デューティ2 ビッグ レッド ワン
- レッド・デッド・リデンプション