タール15mg・ニコチン1.0mg。かつてはフィルターのない「両切り」であったが、2016年6月から(一般的な)フィルター付きの煙草になった。
香りは洋酒(ラム酒)で、煙は甘い香りがする。
いわゆる「旧三級品」と称する安煙草の一種で、味に雑味とばらつきがあるのが特徴。
タール10mg以下が主流の現代では極めて強い煙草であるが、発売後多くの人々、それも作家や詩人たちといった人々を魅了し、今も長く根強くファンのいる煙草である。
また後述する通り、日本最古・最安の銘柄としても名を馳せている。
概要
煙草が国家専売となり、大蔵省専売局が発足した明治39(1906)年に発売されたもので、中国への輸出用として作られていた銘柄を一般商品にしたものである。商品名が「ゴールデンバット」=「金のコウモリ」なのは、コウモリが中国で縁起物とされていたためであった。
それ以降、同時期に発売された銘柄やそれに続く銘柄も出ては廃止を繰り返し、長くても戦後までしか持たず、さらに戦後発売の銘柄も昭和50年代頃に廃止されて行く中で命脈を保って来ているという、とんでもないロングセラー商品である。当然既に発売から100年を超えており、日本最古の煙草の地位を不動のものとしている。
同時に安価な大衆煙草としても知られている。これは発売当初からで、他の銘柄よりも安めに抑えられて来た。戦後もその原則は踏襲され、税法が改正された後も税率が据え置かれるなどした結果、1箱290円という値段になり、日本最安の煙草としても知られるようになった。
なお、太平洋戦争中にはいわゆる「敵性語追放」により、「金鵄(きんし)」と改名していた。これは『日本書紀』の神武天皇東征伝説において、生駒の豪族・長髄彦(ながすねびこ)と兄の仇を取るため対峙した際、金の鵄(とび)が天皇の弓に止まり敵の眼をくらませたという故事による。
なお、ゴールデンバットは2019(令和元)年10月にわかば、エコーと共に在庫分をもって廃止された。
パッケージ・煙草本体
パッケージは緑地に金色のコウモリをあしらったもので、そのデザインは特に他の銘柄の中でもレトロなものとして眼を引く。
当初は箱で売られており、ピースのように10本入りであった。昭和14(1939)年からはコウモリとただ「ゴールデンバット」と書かれた斜めの帯が互い違いに入る単純なデザインとなり、昭和15(1940)年の「金鵄」改名ではコウモリに代わり鳶が入るようになった。
その後物資不足により箱からただの巻紙へと変化、印刷もどんどんと色が白黒に近くなるなど暗黒時代を迎えるが、昭和24(1949)年の「ゴールデンバット」への復名でコウモリのデザインが変則的に復活、昭和28(1953)年から戦前と同じデザインに復した。この時20本入りとなっている。
このデザインは現在も踏襲されているが、注意書きの増加により変更が行われ、現在では箱半分まで天地が縮んでしまっている。その代わり、それまでただ紙でくるんだだけだったパッケージが銀紙でくるんだものに変わるなど、やや扱いやすくなった。
平成28(2016)年、旧三級品の軽減税率段階的廃止に伴うリニューアルにより、フィルム包装が追加された。
煙草本体はフィルター部分に"GOLDEN BAT"と金色の文字で書かれている(リニューアル前は本体に沿って薄灰色の文字で書かれたシンプルなスタイルであった。)。煙草の長さはエコー、ホープなどと同じレギュラーサイズ。現在の一般的な煙草より短い。
昭和14(1939)年から巻きが細いままで、シガレット・ホルダーなどを使用して吸うと脱落の危険性があったが、パッケージの変更とともに巻きが太くなりリスクが減っている。
愛飲者
ゴールデンバットを語る際に、その愛飲者について語らないわけには行かない。冒頭にも書いた通り、安い大衆煙草であるが作家など文人に大変に愛されたことで知られており、芥川龍之介・太宰治・中原中也といったそうそうたる顔ぶれが揃っている。特に中原中也は本銘柄をことのほか愛したと言われ、詩にまで詠み込んでいるほどである。
ゴールデンバットがただ古くて安いだけでなく、その銘柄自体に箔がついているゆえんでもある。
俗説
「ゴールデンバットは屑煙草を集めたもの」という説が広くまかり通っているが、これは誤りである。実はどのような煙草にもきちんとしたレシピが存在し、そのようないい加減な作り方はしないからである。
このような俗説が出るのは、異常な安さと味にばらつきが大きいことによるが、これは使用する葉が低質であるためという理由だけである。
特に安さは、葉の質だけでなく法律にも根拠がある。ゴールデンバットは使用されている葉の性質上、「製造たばこ定価法」と呼ばれる法律で「三級品」と称されて税率が元々低かった。この法律が廃止され「たばこ税法」となった後も、特例で三級品を「旧三級品」として以前の税率のままに存置することになった。このために今も290円という安値を保つことが出来るというだけの話である。
なお愛好者はむしろ雑味の強さや、不安定さを楽しんで喫む者も少なくない。
幻のボックスとメンソール
平成9(1997)年にボックス版、平成16(2004)年に宮城県限定でボックス版とメンソール入りが発売されたことがある。
しかし中身は今時の煙草で全くの別物とあって、当たることなくすぐに廃止されてしまった。
ゴールデンバット・シガー
すでに述べたとおり、元祖ゴールデンバットは廉価品(旧三級品)に対する特別税率の完全撤廃に伴い2019年の10月を以て廃止されている。
一方で、現在はその名を受け継いだ「ゴールデンバット・シガー」が北海道地区限定ながら発売されている。
ゴールデンバット・シガーは、第三のビールよろしく税金対策を講じて従来どおり廉価品として存続させたもの。カラクリは、巻紙をタバコ葉で作って、名目上は税金が安い葉巻(シガー)としている。
ゴールデンバットとともに廉価な銘柄の代名詞であった エコー、わかばも似たような手法で存続しているが、包紙の色がゴールデンバットが緑から紫に、エコーとわかばはそれぞれ薄橙、薄緑から褐色へ変わってしまった。
皮肉にも、パロディデザインであるメイン画像に似た雰囲気の意匠になってしまったのである。
但し、よく見ると元の荘厳な印象は薄れて、結構ポップな意匠になってしまった。
関連項目
蟹工船:脱走した労働者を捕まえた者に報酬としてバット二個が支給されたという記述あり。