概要
奈良県の各地や、宮崎県や高知県でも類似したものが伝わる怪火の一種で、「じゃんじゃん」と音を立てて飛ぶという特徴があり、心中した者や武将の霊が化けたものであるとされることが多い。
奈良市白毫寺町では心中した男女の霊とされ、白毫寺と大安寺にある墓地から現れた火の玉が夫婦川で合流し元の墓地に戻っていくのだが、見てしまうと近づいてくるので追いかけられた者が怯えて池の中に逃げたところ池の上まで追いかけてきたといわれる。
大和郡山市では白毫寺町と同じく心中した男女の霊で、大和郡山城主の家老の子であった亀井式部という男が、身分が違う百姓の娘・深雪と恋仲になったために6月7日に打合橋で斬首され、深雪は橋の下に飛んだ首を抱いて自害した。すると毎年6月7日になると佐保川にあるこの橋の上に東西より飛んでくるので、かつては周囲の村から選ばれた20人ずつの男女が踊って鎮めたのだという。
奈良市法華寺町では一条通北側のセンダンの古木から出たといい、まだ青々と茂っていた時代に南側の高橋堤にあるアイガエシの藪の西で雨が降ると、そこに生えたセンダンの木からも出て合戦を行った。
奈良市大安寺では兄が田植え中に投げた苗が、生田伝八郎という男に当たったために殺されたが、弟が仇を討ち兄弟の魂がこの火になったと伝わる。
天理市の柳本町、田井庄町、橿原市では、雨が降りそうな夏の夜に、十市城跡を向いて「ほいほい」と声を掛けると現れることからホイホイ火と呼ばれ、この火の玉の正体は松永久秀に討たれた十市遠忠の怨霊であると恐れられる。
「じゃんじゃん」とはこのときに殺された武士達が「残念、残念」と言っているとされ、見かけてしまった者は三日三晩熱病に冒されしまう。
天理市藤井町では残念火と呼ばれる城跡から西に向かって飛んでいくもので、見かけた者は橋の下などに身を隠さなければならないと伝わる。
天理市田井庄町の首切地蔵は、この火に襲われた武士が刀を振り回した際に首が落とされてそのようになったといわれるが、武士は丸焦げにされて死んでしまったのだという。
また十市山にはゴロと呼ばれるゴロリとした目鼻が無い太いものがおり、この火に化けるといわれている。
なお同様なものは高座(奈良と京都の境)では木津の市坂にいた源五郎という剛力の無法者が化けた源五郎火、日向(宮崎県)ではむさ火、土佐(高知県)ではけち火と呼ばれている。