事故概要
発生日時 | 2015年2月4日21 11時頃 |
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発生場所 | 台湾 台北市 基隆河 |
機材 | ATR72-600 |
乗員 | 5名 |
乗客 | 53名 |
犠牲者 | 45名 |
台北の寒空の上で
2月の寒空の中松山空港を飛び立ち金門島に向かったトランスアジア航空235便が台北市上空で突然エンジンを喪失して失速、機体は左側に傾きながら高速道路の橋の側面に翼を接触させ、そのまま基隆河に墜落しコクピットにいた三人を含む(機長・副操縦士・ATR72の勉強中の老パイロット)45人が犠牲となった。一歩間違えたら都心のど真ん中に墜落して崩落や火災を起こし更なる犠牲者が出る恐れもあった。
また、降下していった同機は高速道路を走っていたタクシーのボンネットに接触し、タクシーに乗ってた二人が軽傷を負った。
何故エンジンが両方喪失したのか
トランスアジアは数か月前にも事故を起こしていたというのもあり調査官も衝撃を受けたこの事故の調査は、一つの映像から始まった。丁度事故現場の高速道路で事故に巻き込まれたタクシーの後ろに居合わせた車に搭載されていたドライブレコーダーが同機の墜落してゆく場面を撮影していたのである。
そして、調査官たちは左側の第一エンジンがアイドリング状態で殆ど停止していたこと、更には右側にある第ニエンジンのプロペラがフェザリング状態(プロペラの角度を進行方向に対して垂直にし抗力を減らす状態で、本来はエンジン停止でプロペラが止まったまま飛行する際に用いる)になっていたことを発見する。そのため同機は推力を殆ど得ることが出来ずに失速し、バランスを崩しながら降下していったことが判明した。
まずフェザリングになった第二エンジンを調べると、エンジンそのものに故障した形跡はなかったが、フライトレコーダーに記録されたトルクの値が滅茶苦茶なことからトルクを計るセンサーに異常があった(センサー回路のはんだが破損していた)ことを発見する。つまり、正常にエンジンが動いているにもかかわらずトルクのセンサーが推力が下がったと誤認しフェザリング状態にさせてしまったのである。
ATR72はエンジンが一基機能していれば安全に飛べる設計であるため、これだけなら即墜落とはならない。だが、実際にはセンサーも含めて全然異常が無かった第一エンジンはなぜか推力を絞られ実質的な両エンジン推力喪失(つまり機能しているエンジンが一基もない状態)状態になってしまったのである。
そしてコクピットボイスレコーダーを聞いてみたところ、さらに驚くべき事実が判明。
第二エンジンが推力喪失という緊急事態に、機長は何故か緊急時のチェックリストに従わず、いきなりオートパイロットを解除し第一エンジンを止め始める(つまり自分から操縦しにくくした上に正常な方のエンジンを止めてしまう)という不可解な行動に出てしまったのである。それに対し副操縦士は相互確認を促し機長の誤操作を止めようとしたが、動転していた機長はそれを遮り新しい機種方位を計算させるというミスをやらかし、その間に同機は完全に推力を喪って失速。
慌てた機長はエンジンの再始動を命ずるが、離陸直後の高度があまりない状態では再始動の為の時間もあるはずが無かった。なすすべのなくなったコクピットの中で機長は呆然としながら呟いた。
「違う方を止めた…!?」と。
トランスアジアの過ち
原因は”一時期は事故を起こした機体を市街地に墜落させるのを避けようと奮闘したと見られていた”機長の早合点によるパイロットエラーと判明した。機長がきちんとチェックリストに従っていれば、防げた事故だったのだ。
そこで機長の経歴を調べてみたところ、ATR72-600の先端システムに不慣れだった上に、”緊急事態にパニックになりやすく早合点して先走った行動をしてしまいがち”というパイロットに向いていない性格だったのである。そのため前の職場は解雇されていたのだが、事業拡大にともなう人員の確保に躍起になっていたトランスアジアはリスクを無視して雇ってしまっていたのだった。
一年足らずで立て続けに事故を起こしてしまったトランスアジアの赤字は急激に膨れ上がり、事故の翌年に同社は運航を停止し解散することになってしまった。
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フィクションじゃないのかよ!騙された!←用語等はこちらに
エア・フロリダ90便墜落事故・・・主に機長のミスで離陸直後の機体が失速し橋の上の車両を巻き込みながら川に墜落し乗員乗客が多数死亡した、この事故がきっかけで会社が倒産したという共通点がある。
アエロフロート821便墜落事故・・・メーデー!の総集編である「惨劇の全貌3」のCMでは本事故の原因である違うエンジンを止めた事に「正気じゃない」と調査官が呟くシーンから、「正気じゃない」という字幕が映ったままアエロフロート821便の機長の引きつった顔が映る。実際この機長は本事故の機長とは別の意味で正気じゃないので全く違う事故のシーンを繋げているのに本質を突いた編集となっている。