ノーベル賞の部門のひとつであり平和に貢献した人物・団体に与えられる。他のノーベル賞の部門より、政治的な論議を引き起こしやすい賞である。
概要
ノーベル賞は基本的にスウェーデンで表彰されるのに対し同賞のみノルウェーで表彰される。
候補へのエントリーは。ノルウェー・ノーベル委員会(5人)に過去の受賞者や各国の政府や国会議員、指定されたジャンル(社会学や神学)の大学教授の推薦をする。
そのため、必ずしも平和に貢献した人物・団体が選ばれるわけではなく、人物・団体の将来的な理念・結果に期待して受賞者が選ばれることも多い。
エントリーされる人物・団体は良くも悪くも推薦者の趣味やイデオロギーが反映されやすく、200名を越える候補者が集まることもある。選考方法は秘密にされており、どの候補が有力だったのかは憶測でしかない。50年後に選考が公開されることになっており、その際に有力候補が誰だったのか判明する。
上記のようなシステムのため、候補者は過去に明らかなネタや皮肉で推薦された者(アドルフ・ヒトラー等)もおり、また晴れて受賞した者についても物議を醸すことが多い。
ノーベル平和賞の受賞理由自体が、まったくの虚偽であったことが判明した人物もいる。例えば「非核三原則との提唱、「核抜き本土なみ」の沖縄返還を実現させ平和外交に寄与したとされた佐藤栄作総理大臣である。佐藤氏がベトナム戦争を支持していたことなどから、平和賞の受賞に関しては当時から物議を醸したが、のちに佐藤氏が沖縄返還にあたりアメリカ合衆国と核持ち込みの密約を結んでいたことが暴露されるに至り、また極秘に核保有を検討していたことが判明した。
2009年度の受賞者である当時のバラク・オバマアメリカ合衆国大統領は、その後にイスラム国への空爆を行う、無人攻撃機の多用による民間人への誤爆の増大、核廃絶を進めないどころか核拡散の動きを傍観していると、核廃絶への取り組みを期待して賞を授与されたノーベル賞受賞者が、戦争に関与し、核拡散を放置しているという結果となっている。
2012年度の受賞者であるEUはゆるやかな連帯によって平和を保つことが期待されたが、イタリア、ギリシャの財政悪化が発覚。2017年には国民投票により有力な加盟国・イギリスの離脱が決定、移民・難民が大量に流入したことにより治安が悪化、これらの理由が重なったことで排外主義・反EUを掲げる極右・極左政党が台頭、分裂の危機にある。
1991年に受賞したミャンマー(ビルマ)の民主化指導者・アウン・サン・スーチー氏にいたっては、政権奪取後、少数民族・ロヒンギャをミャンマー国軍が弾圧することを黙認、「ノーベル平和賞を返上せよ」との声が上がるありさまとなっている。
ノーベル平和賞の受賞自体が当事国の反発・冷笑を買い、逆効果となることも少なくない。
たとえば、2010年度の受賞者である中国の反体制思想家・劉暁波氏は中国の民主化を主張、国際世論に起こして中国の自由化・民主化が実現されることを期待しての受賞であったが、中国政府は民主派の弾圧を強化、2017年、劉氏は獄中死する結果になってしまった。
これらのことからを思想を問わず「ノーベル平和賞は何の意味もないし、いらない」との批判の声が起きているのも事実である。
2021年冬、ノーベル賞選考委員会に対して行われたNHkからのインタビューではこれらの批判の対する回答として、「もとからノーベル平和賞は政治的な効果を狙ったものであり、政治的にも中立ではない」「ノーベル平和賞はこの年(該当する年度)の功績に対する賞」であることから、「受賞者の今後に問題があっても、受賞を取り消すことはない」と発言している。