概要
原作
フランスの俳優ジャン・ポワレが脚本・主演を務め、ピエール・モンディによって演出。
初演はパレロワイヤル劇場で上演され、フランス演劇史上最長の5年間のロングランを達成した。
1977年に1年間再演されている。
同性愛カップルとその息子が繰り広げるドタバタコメディを主軸に、自己容認と家族愛という普遍的なテーマを据えており、後述のメディアミックスにも繋がった。
ちなみにタイトルを邦訳すると、「狂女たちの檻」。
日本では宝田明が上演権を買い取り、1981年と2007年に上演された。
宝田は初演で主演を務めた。ちなみに1981年版の演出は美輪明宏。
尚、タイトルは後述の映画版の邦題を使用している。
映画
1978年に上映。監督はエデュアール・モリナロ。
1980年と1985年に続編が製作されているが、3作目のみ監督が異なる。
1作目の内容は原作とほぼ変わらないが、2作目はどういうわけかサスペンスもの、3作目は遺産相続トラブルをテーマにしている。
ポワレは出演していないものの、1作目で脚色に関わっている。
邦題はMrレディ&Mrマダム。
日本ではこちらの名前を知っている、という人も多いのではないだろうか?
吹き替えでは上述の日本版舞台劇の主演だった金田龍之介が吹き替えに参加している。
1997年に「バードケージ」というタイトルでハリウッド映画化した。
大まかなストーリーは原作と同じだが、サントロペからマイアミに舞台が変更になっている。
それなりに好評を博したのか、第69回アカデミー賞美術賞にノミネートされた。
ミュージカル
脚本はハーヴェイ・ファイアスタイン、作曲はジェリー・ハーマン。
元々はブロードウェイミュージカル「NINE」のメインスタッフによって上演が検討されていたが頓挫し、改めてファイアスタインとハーマンが採用された。
こちらも大まかなストーリーは原作と同様であるが、一部展開に変更が加えられている。
また一部の登場人物を除いて「アメリカ人の考えたフランス名」に変更されている。
1983年にブロードウェイのパレス・シアターで上演され、1987年までロングランヒットを飛ばすことになった。1984年にトニー賞の内6部門を受賞した。
クローズの理由はエイズの風評被害による人気の低迷...ではなく、パレス・シアターの改装工事のため。
2004年と2010年に再演されている。
日本では東宝とホリプロの合同製作により、1985年より上演されている。
演出家は2度変更されており、2008年以降は山田和也が演出を務めている。
振付は初演から参加している真島茂樹。カジェルのオーディションにも関わっている。
主演は岡田真澄と近藤正臣が1988年まで務め、1993年に細川俊之と市村正親に交代した。
ところが細川が上演中に体調を崩し、たまたま観劇していた岡田に交代した。
2008年に再上演が決まった際に岡田は既に鬼籍に入っていたが、市村の提案で鹿賀丈史が選ばれた。
劇団四季出身のコンビは好評を博し、何度もファイナルと銘打たれては続投するのは最早お約束。2022年の時点で5度目のコンビを組むことになった。
あらすじ
南フランスのサントロペのゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」の経営者ジョルジュと看板スター「ザザ」ことアルバンは20年来夫婦として生活しているが、アルバンは寄る年波のせいもあって塞込みがち。仕事にも気が乗らず、遅刻もしばしば。
そんなある日、一人息子のローランが恋人ミュリエルと結婚すると報告。喜びも束の間、ミュリエルの父親は同性愛に反対する保守派の議員デュラフォーラなのだ。そのミュリエルが両親との顔合わせをしたいと願っていてさあ一大事!
ローランは結婚の成就のため、「普通」の夫婦として振舞ってくれと要望。ジョルジュは快諾し、ローランの実母シモーヌに連絡するが、それを聞いたアルバンは慣れもしない男らしい振舞をして叔父として同席したいと願い出る。ところがアルバンは女らしい仕草が抜けきれず、シモーヌへのやっかみもあって女装して母親として同席。ミュリエルとその両親はアルバンのもてなしに満足するが...。
登場人物(原作/ミュージカル)
- ジョルジュ: ゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のオーナー。ショーの司会者も務める。アルバンとは20年来夫婦として過ごしており、アルバンの機嫌をとりながも心から愛している。
- アルバン: 「ラ・カージュ・オ・フォール」の看板スター。ステージネームはザザ。老いのせいか仕事に気が乗らないが、「ザザ」としてお客様を楽しませることに生きがいを感じている。女性言葉で話し、振舞も女性らしいが、私生活ではスーツを着ることも。
- ローラン/ジャン・ミッシェル: ジョルジュの実子。ジョルジュが一度女性と交際した末に産まれた。年齢は恐らく20代前半。恋人との結婚のためにジョルジュとアルバンに無理難題を言う。作中のアルバンへの態度は、当時1970~1980年代であることを考えればさもありなんだろう。
- ミリュエル/アンヌ: ローラン/ジャン・ミッシェルの恋人。保守派議員夫婦の娘。本作きっての善人。
- デュラフォーア議員/ダンドン議員: ミリュエル/アンヌの父。保守派でゲイに嫌悪感を持つ。
- デュラフォーア夫人/ダンドン夫人: ミリュエル/アンヌの母。夫同様保守的。ブロードウェイ版ではスレンダーな女優が演じるが、日本版では初演からこの方が演じている。
- ジャコブ: ジョルジュの家の執事(本人はメイドと自称)。アルバンを慕っており、いつか「ラ・カージュ・オ・フォール」の舞台に立つことを夢見ている。
- シモーヌ/シビル: ジョルジュの元妻であり、ローラン/ジャン・ミッシェルの実母。ミュージカル版は名前が出るだけで登場しない。
- ジャクリーヌ: ジョルジュとアルバンの友人。サントロペのレストラン「シェ・ジャクリーヌ」を経営している。原作には登場しないミュージカル版オリジナルキャラクター。
- カジェル: 「ラ・カージュ・オ・フォール」のキャストの総称。ミュージカル版で数が膨れ上がった。妻子持ちのキャストがいるなど、全員が全員ゲイではない模様。
セットリスト
- ありのままの私たち(We are what we are): 冒頭でカジェルたちが歌う劇中歌。正直に生きるために嘘を吐くと登場人物を暗喩している。
- マスカラ(Mascara): アルバンが舞台の準備をするナンバー。化粧をして衣装を着れば、世界で一番美しいザザに変身できる、という心意気を当たっている。
- ありのままの私(I am what I am): 1幕最後でアルバンが歌う。「ありのままの私たち」のアンチテーゼであり、アルバンの生きざまが描かれている。
余談
残念ながら原作者のポワレは1992年に逝去した。奇しくももう一人の主演ミシェル・セローと本作の3度目の再演を約束して間もなかった。
セローはポワレと長年の付き合いだったが、2007年に逝去した。2人とも既にゲイ役を演じたという共通点がある。
ミュージカル版の作曲者であるハーマンは本作への思い入れが強く、映画版を見て非常に興奮したと語っている。
本作を以て満足したのか、ブロードウェイからは引退した。
2019年に逝去し、本国では追悼の声が殺到した。
2005年版の演出はジェリー・ミッチェル。
ファイアスタインとは後にキンキーブーツで組むことになる。
日本版のカジェルは上述したように真島が選出している。
上演当初は日劇ダンシングチームの構成員が半分を占めていた。
2024年5月に真島が鬼籍に入ったため、オリジナルキャストはダンドン婦人役の森公美子のみとなってしまった。
日本版の権利はやたらとややこしいことになっている。
というのも、「ストリートプレイ版を宝田」「ミュージカル版を東宝」が上演権を持つためである。
ストリートプレイ版は宝田が鬼籍に入ってしまったため、今後日本で上演されるか危ういところがある。