概要
「エミが望んだ「レミリアの幸福」をわたくしが取り戻すわ。」
「わたくしのエミを絶望させたその罪は死で贖うことすら許さない」
『悪役令嬢の中の人』の舞台となる乙女ゲームアプリ『星の乙女と救世の騎士』(通称:オトキシ)の悪役令嬢。
ゲーム内においては「親からの愛も満足に得られず、婚約者だったウィリアルドにすらも疎まれた挙げ句、ヒロインである星の乙女にウィリアルドを奪われてしまい、その絶望から世界を破滅に導く災いを引き起こした末に討たれる」という設定の、いわゆる哀しき悪役に位置付けられていたキャラクターであった。
しかし、幼い頃高熱を出した時、現実世界において命を落としたエミの意識が憑依した結果、この世界の真実やエミの記憶を知覚して以降、本来のゲームから逸脱した生き方を歩むようになる。
レミリア
突然宿ったエミの意識に身体の主導権を奪われ、エミを含む外界との交流が途絶してしまう。
当初こそ憤っていたものの、内側からエミの言動や感情、記憶を見ているうちに(創作という形とはいえ)彼女が自分を深く愛し、「破滅の未来から救いたい」と心から願ってくれていた本心を知ると共に、自分が生まれてからこれまで欲してやまなかった「家族の暖かさ」をエミから感じとる事で心を開き、最終的には「このままエミの幸せを見守り続けられるならば、他には何もいらない」とまで考えるようになった。
しかし、エミと同じく異世界からの憑依転生者であるピナ・ブランシュの罠に嵌められ、エミがショックから心を閉ざしてしまったのを契機に入れ替わるように肉体の主導権を取り戻すと、エミを失った哀しみと、貶められていくエミをただ内側から見続ける事しか出来なかった無力感と憤りを胸に、己の幼稚で身勝手な欲望の為に愛するエミを傷つけ、その願いを踏みにじったピナと、ピナに乗せられエミを裏切った者達への復讐を決意する。
なお、レミリアの復讐劇のターゲットはピナの策略に乗せられていたか否かに関係なく、裏切った全ての者達を復讐の対象としている。とりわけ主犯格たるピナに対しては「簡単には死なせない」「死を希うほどまでに苦痛を与えてやらなければ気が済まない」と断言している。
ピナのことを心底憎悪しており、エミを踏みにじった報いを「一瞬だけの苦痛よりも泣いて生まれてきたことを後悔するほどの地獄を味わわせる」と宣言するほどに深い憎悪を抱いている。
そのためピナ絡みになると裏の顔が出ることもしばしば……。
行動・性格・能力
エミを信奉と言って良いほどに敬愛しており、彼女の行動はほぼ全て(※完全に『全て』ではない)がエミのため。
「エミの精神が表に出ていた頃のレミリア=『エミのレミリア』の名誉を上げる(恢復する)こと」「エミを貶めた者・裏切った者達への復讐」の為に行動している。
復讐対象達に対しては慈悲をかけず、取れる手段は全て徹底的に行って復讐を果たしていく。
一方、復讐対象以外に対しては「エミならきっとこうした」という考えの元、極めて善良かつ献身的に振る舞う。
元のゲームで悪役だった為か、本質は狡猾で冷酷、計算高い。
目的のためには人間だろうと魔族だろうと使えるものは何でも利用しながら、ほぼ打算で行動している。
だが、「エミのレミリア」のイメージを壊さないよう、卑劣な手段は一切使っていない。
エミの記憶から得た現実世界の知識(ゲームの攻略情報、作中世界の文明に合わせた科学技術)と自分自身の計略を基に、他人に対して奉仕と善行にほぼ全振りするという真っ当なやり方で目的を果たそうとしている。
そのためにエミを陥れたピナ(転生者)よりも先手を打ち、先んじて世界の窮地に立ち向かい彼女には一切の手柄を与えぬように各地の国や村をめぐり村人や民の信頼を集めた。
その本心はどうであれ、彼女の行為は客観的に見れば善行そのものであり、回りまわって想定外の幸運や人の縁に恵まれることも多い。
さらに、彼女の目的こそ復讐であるが、その根本にあるのは「大切な人に幸せになってほしいという願い、それが崩れてゆく様をただ見ていることしか出来なかった己の無力と悔悟」であるため、「レミリア」としての本音が零れ出ても、その上で尽力を惜しまんとする者も少なくない。
さらに言うなら、「エミの憑依したレミリア」でも「本来のレミリア」でもない「エミのために、エミの憑依したレミリアを演じるレミリア」だからこそ力を貸した者も存在することも作中で描写されているフシがある。
また「他人を利用する」 と豪語しつつも、エミの言動を見ていたお陰か他人から寄せられる感謝や好意に対して素直に喜びを感じられる感性は持ち合わせている。
(ただし、その様子は「エミならばきっとそうする」という感覚が介在しているようでもあるが……)
また打算抜きの情や想いが皆無という訳でもなく、はしゃぐ子供や周囲に対して微笑ましさを感じ笑みを浮かべるなどの一般的な感性も持ち合わせている。
…というより、そもそも『エミの想いを想起させてくれるもの』、具体的には純真な人間、献身的な人間、正しくあろうとする人間に対しては相当なチョロ甘という方が正確。
特に「エミのレミリア」を真心で愛してくれる者には過剰なレベルの施しをしてしまう悪癖がある。
しかし、己やエミを害する者に誰の目にも届かない場所で相対した場合は豹変し、本来の性格を露にする。
レミリアが相手に己の本性を見せるということは、「死に追いやられるだけならまだマシ」、悪ければ「人としての尊厳を徹底的に踏み躙られ、死すら許さぬ、死ねたとしても未来永劫赦されぬ無間地獄へと堕とされる」事を意味する。
数少ない欠点としては、エミの「他者を幸福にしようとする愛情」を至高のものとするあまり、一般的な恋愛感情や、それに伴う異性への独占欲に対して理解はしていても実感がないという点がある。
この価値観から、エミが心を閉ざしたそもそもの元凶であるピナは当然としても、秘薬の効果で感情を歪められたウィリアルド達については情状酌量の面で些か過剰に酷評している節がある。
ちなみに、エミに対して深い愛情を持っているのは上記の通りだが、その愛情が些か強すぎる(=他者から注がれる愛情を何よりも重視している)点についてはゲーム本来の設定からほぼ据え置き。
エピローグ後に描かれた、エミの魂に対する『ある行動』は読者間でも肯定・否定で少々評価が分かれている。
また、対外的には「エミのレミリア」として振る舞うものの、レミリア自身がエミの思想に感化されたというよりは「エミならきっとそうした」とエミの模倣やエミュレートをしているに過ぎず、ロールプレイの範疇を出ていない。
故に復讐行為が「傷つく者がなるたけ少ない世界であってほしい」というエミの願いを無視していることは自覚つつも「そうしなければどうしても気が済まない」として自身の復讐心を優先させ、ウィリアルドなどエミの断罪に関与した者、レミリアの父親のような不誠実な人物には容赦なく制裁や破滅を与えていく。
また、「もしエミが断罪された際に「こんな世界に生まれ変わるんじゃなかった」と後悔していた場合、レミリアは「じゃあこんな世界はいらないわね」と言わんばかりに躊躇なく世界を滅ぼしていた」ということが作者から明かされている。
これらの点を総合すれば、愛情や優しさに絆され悪事は働かなくなったものの「方向性が若干変わっただけで悪役キャラクターとしての本質は一切変化していない」と言える。
能力、才覚については、エミ曰く「公式チート」「何でも出来る完璧令嬢」。
オトキシ内では物語の黒幕として、独力で古代文明の文献を読み解き、古代遺跡を踏破して悪魔召喚の儀式を独学で再現、自分の魔力だけで起動に成功させる(この際に「滅ぼした後の国(土地)を魔族に譲り渡す」ことを条件に魔王と契約し、世界に災厄をもたらすことになる)。
これだけでも大概だが、ありとあらゆる場所に神出鬼没で現れる転移魔法、主人公たちを惑わせる幻惑・変身魔法、魔物を操る魔法と、まさに天才と呼ぶに相応しい多種多様な魔法を使いこなす。
それだけでなく、疫病の特効薬の材料を先んじて破棄させる医学・薬学の知識と根回しの手腕、毒物に呪術の知識と、魔法以外の知識や搦手の手腕も一級品。
その前段階として、文字通り世界中に無数の使い魔をバラ撒いて情報を収集……に留まらず、使い魔を介して夢を操る魔法等を使った内部工作や離間策までやってのける。
さらに直接戦闘においてもその強さたるや、剣術一つとっても「魔術師型でありながら、物理最強メンバーであるウィリアルドを軽く凌駕する」というレベル。それ以外にも当然のように各種攻撃・強化、治癒魔法も完備しており、「レミリア1人vs主人公PTのバトルでありながら、真面目に育成していないとあっさり負ける」という凄まじさ。
地道なレベリングを厭わないプレーヤーだったエミをしてこうまで言わせる辺り、ゲーム中屈指のボスであったことがうかがえる。
本編中においても、「前世チート(エミ談)」と呼ぶレベリングで魔法を扱う力についてはずば抜けており、ティータイムの片手間で超一級品の魔晶石を大量生産(※常人なら1日3個が良いところらしい)したり、冒険者として各ダンジョンを苦も無くクリアしつつ大量のレアドロップを収集するなど、その力量は超一流。
加えて、最初の断罪時点でざわつく周囲の声の主を個々人で識別して復讐すべき対象を特定するなんてこともやっている。聖徳太子でも多分ここまではできない。
さらに、領地経営や商談における交渉・人心掌握術、情利硬軟を織り交ぜた情報工作や経済政策・市場操作もお手の物。魔族との交易と流通を独占的に掌握し、魔族の市場価値を認めさせた上で感情面の忌避感を和らげるための文化政策(ミュージカル等)もプロデュースし、さらにそれらを取り扱う貴族の取り込み体制も万全。
果ては、嘘を見抜く瞳を持つアンヘルを相手に「嘘を吐かずに自分に都合の良い情報だけをピックアップして伝え、思考を誘導する」という、詐欺師或いは熟練TRPGプレイヤーめいたことまでやってのけている。
なお、戦闘能力についても本人曰く、作中でアンヘルとともに「堕ちた創生神」(おそらくオトキシラストダンジョン)を攻略する時点でオトキシでのレミリアの最終ステータスを軽く凌駕していたという。実際、表ボスであるアンヘルと、超強化されたレミリアのタッグでは本編ラスボス程度では相手にならなかったようで、手の内を明かすまでもなくアッサリと勝利している。
その上で、体系そのものがまるっきり異なる魔界由来の製薬技術については現地の研究者に協力を仰ぐなど、「自分にできないこと(やって出来ないことはないだろうが、時間がかかりすぎること)は素直に他者に任せる」という柔軟性も持っている。
……オトキシ内であれ本編であれ、これだけの才覚を秘めた娘を真っ当に育てられていたならば、それだけでグラウプナー公爵家も王国自体も相当な繁栄を享受できていただろうに、遣る瀬無い話である。
そんな彼女の在り様についてファン曰く、何時しか誰かが呼んだか「推しへの愛を知った(知ってしまった)白面の者」。
善悪を問えば悪であると万人が答えようとも、そのために己の在り様を曲げることは有り得ず、信ずる道をひたすらに突き進む以外の選択肢を持ち得ない彼女にとって、相応しい呼称ではあるのかもしれない。
エミ
フルネームは小林恵美(こばやし えみ)。
前世は日本の女子大生だったが、交通事故で他界し、「オトキシ」世界のレミリアの身体に宿る形で異世界転生した。
レミリアのことはレミリアたんと呼ぶ。
その性格は、端的に言えば『善良な人格に基づいたハッピーエンド至上主義者』。前世では家族に恵まれ、優しい性格だった。
フィクション作品の哀しき悪役に深く感情移入して滂沱の涙を流してしまうほどで、愛情に恵まれなかったが故に破滅の道を辿ってしまったレミリアにも強い憐憫と悲しみの情を深く抱き、救済シナリオが一切なかったことに憤っていた程であった。
いざレミリアとなったエミは彼女を破滅から救うべく、前世の知識や憶えている限りのゲーム攻略情報を基に断罪回避に奔走。
他人の生死などシナリオの修正力らしきものが働く事象こそ変えられないものの、ゲーム本編開始前に攻略対象達との関係を良好なものに変え、いつレミリアが身体に戻っても大丈夫なよう整えていた。そのため本来のルートとは違い攻略対象者たちや学園内の他の生徒から非常に好かれていた。
しかし、私欲の為に全キャラとの逆ハーレムルートを狙っていたピナ(転生者)にとっては「あるべきシナリオを捻じ曲げてゲームの進行を妨げる邪魔者」でしかなく、好感度アップのアイテムを使った策略によって冤罪を着せられてシナリオ通り断罪され、それまで信頼関係を築いてきたはずの者達からも、悉く裏切られる仕打ちを受けた絶望の果てに精神が崩壊。激しいショックにより意識を失い深い眠りに落ちてしまった。それをきっかけに本来のレミリアが体の主導権を取り戻すこととなった。
これによってエミとレミリアとの関係が逆転し、レミリアは「エミが安心して戻ってこられる世の中を作る」べく、裏切った全ての人間達の排除に奔走するようになる……。
エミのたどる顛末(ネタバレ注意!!)
復讐を果たし終えた本編終了後の番外編にて。彼女が意識を失ってから15年の月日が経った頃、レミリアとの直接の邂逅を果たす。
その際にはかつてと変わらずに世界や周囲の心配をしたり、レミリアによって世界が救われたことを喜んだ。
また、レミリアがピナ達の減刑を願ったことに対しては心の綺麗さを感じて「マジ女神」などと称していた。しかし…
エミの心の綺麗さや他者を思う気持ちは本物であり、それは冤罪による断罪劇を受けてなおも変わってはいない。
しかし信頼していた者達に言われなき罪で責められたショックはトラウマになっており、幸せだった頃の記憶さえも辛くなるほどで、今後について問いかけてきたレミリアに内に秘めていた心の痛みを吐露している。
その後はレミリアの子として転生することで辛い記憶を忘れられることや、自分の身体を乗っ取られた挙句望まぬ悪行と汚い感情を見せつけられ苦しんでいた本来のピナがレミリアの息子として既に転生して救われていることを知り、「今度はエミと幸せになりたい」というレミリアの言葉を受け入れてレミリアの娘として転生することを選択した。
余談
・漫画版では肉体的には同一人物でありながら
「悪役令嬢たる本来のレミリア」
「エミのレミリア(通称「エミリア様」)」
「「エミのレミリア」を演じるレミリア(通称「エミュリア様」)」
の三者三様で表情(特に笑顔)が細部で異なる様子がしっかり描かれており、非常に芸が細かい。
・レミリア(エミ)を断罪へと至らせた原因はピナの使用した秘薬の存在の他にも、実家であるグラウプナー家の素行・評判の悪さが影響している。グラウプナー公爵が家の体裁を良く見せる為に人格・気質に問題のある下級貴族の次男、次女以下の人間を家来として登用し続けていた事が、レミリアを貶める工作に利用されてしまったわけである。
なお、レミリアは自分達の世界を「ゲームのストーリーに基づき、何もしなければ星の乙女(ピナ)に救済される様に作られている世界」と推測しており、グラウプナー家の悪性は「悪役令嬢レミリアを生み出す元凶」として運命付けられた天性にして必然のものであった事が推察される。
(なお、書籍版ではその裏付けか、この作品の犯人役に出てきそうな物凄く安直で適当な名前をした悪徳地方領主が存在している。)
そもそもエミもグラウプナーの両親とは関係改善に臨むような様子を見せなかった辺り、設定レベルで救いようのない人間である事が分かりきっていたのかもしれない。
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祠ネタ:コミカライズ連載当時に流行ったミーム。エミの断罪から始まるレミリアの復讐劇と関係者の転落の仕方から、本作は「祠を壊された邪神を主人公にした作品」と例えられる事もある。
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