悪役令嬢の中の人
あくやくれいじょうのなかのひと
乙女ゲームの好きな平凡な少女、小林恵美は目を覚ますと乙女ゲームアプリ「星の乙女と救世の騎士」の悪役令嬢レミリアになっていた。
世界の滅亡と自身の破滅を回避するために恵美は奔走する!
……その努力も虚しく、同じく転生者であるヒロインの「星の乙女」に陥れられた恵美は婚約破棄された上で星の乙女の命を狙ったと断罪された。
そのショックで意識を失った恵美の代わりに、中から見守っていた「レミリア」が目を覚まし、可愛い「エミ」を傷付けた星の乙女と元婚約者の王子達に復讐を行う。
本編完結済みで、その後は番外編や後日談のみの更新になっている。
一迅社ノベルスより書籍化、Pixivコミックより「悪役令嬢の中の人〜断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします〜」というタイトルでコミカライズされている。
所謂「悪役令嬢もの」であり、「ゲームの悪役令嬢に乗り移った元プレイヤーの転生者が破滅回避のため奔走する」展開は他作品と相違ない。
が、本作は作中では「転生」と表現されているものの実際には「憑依」による肉体乗っ取りをテーマにした作品であり、主題は漫画版サブタイトルから読み取れるように「ヒロインキャラの嘘によって断罪された転生者の仇討ちのため、深層意識に沈んでいた本来の悪役令嬢が表に現れ、転生者の行った善行を続けつつざまぁ展開に持ち込む」という異色の作風となっている。
その作風の都合上、直接的ではないがピカレスクロマン要素を持つガールズラブ(※)作品に分類されている。
なお、漫画版では残虐な描写が多いため注意。
※ただし本編内ではレミリアもエミも男女での恋愛を成立させており、筆者自身も「ガールズラブタグは『人によってはガールズラブ要素を感じる』程度の描写です」と明言しているため、厳密にはロマンシスと言うのが正確かもしれない。
ゲームの世界の悪役令嬢レミリアに転生したエミは来る自身の破滅を回避するため、そして何より攻略キャラクターたちを悲劇から救うために奮闘し、彼らと確かな絆を作り上げた。しかし、同じく転生者であるヒロインピナの奸計に嵌められ、婚約者である王太子ウィリアルドから婚約破棄を宣言されてしまう。
親しかった人たちから向けられる敵意の目にエミは失意のまま意識を失ってしまい、入れ替わるように本来のレミリアの人格が目を覚ました。
自分を嵌めた者たちを、そして何より心優しいエミを貶めた者たちを生き地獄に落とすため、レミリアは復讐を開始する。
主要キャラ
本作の主人公。乙女ゲームアプリ『星の乙女と救世の騎士』の悪役令嬢として配された公爵令嬢。
家族にすら愛を与えられずに悪へと堕ちた令嬢で、身体を乗っ取られた当初こそ「体を返せ」とエミに憤慨していたが、エミの前世の記憶や行動、そして彼女の果てのない善性と愛情に触れ、初めて愛を知る。遂には「レミリアとなったエミの幸せ」を心から望む様になっていった。
それだけにエミを理不尽に傷つけた者たちへの憎悪は凄まじく、表向きは静かながらも苛烈な策謀による復讐を企てていく。
同じ肉体を共有しているためエミが持っているゲーム内での知識や今までのエミの記憶も全て共有する事が出来、エミの知識を駆使して復讐の手段として様々な問題を解決していく。
- エミ
本名は小林恵美。乙女ゲームアプリ『星の乙女と救世の騎士』の世界に転生(憑依)してしまい、自身がゲームの悪役令嬢であるレミリアになっていることに気が付く。
そんな異常事態においても、元の世界に残してきた家族や身体の本来の持ち主であるレミリアのことを気に掛けるなど、自分よりも他人を想うことができる心優しい性格。
前世からレミリアの大ファンで「レミリアたん」と呼んで寵愛しており、家族から愛を受けず悪女へと堕ちてしまったレミリアを憐れみ、憑依転生した自分が代わりにレミリアを幸せにしようと奮闘する。
しかし同じ転生者でありヒロインの立場であるピナから執拗ないじめを受け、果てには彼女の策略により親しくしていた人々から軽蔑されたばかりか殺人未遂の罪を着せられ断罪されてしまい、全てに絶望して意識を失ってしまう。
乙女ゲームアプリ『星の乙女と救世の騎士』の主人公であり正ヒロイン。茶髪のショートボブ。
レミリア(エミ)同様に中身はゲーム愛好者である転生(憑依)者リィナ。だが、心優しい性格のエミとは真逆で自分の欲求のためなら手段を選ばず、複数の攻略キャラと関係を持ち他人を蹴落とすことも厭わない醜悪な性格。
憑依前は他人を貶める行為が周囲にバレて家族にも呆れられて引きこもっていた。
ゲームとは違うレミリアや攻略対象の様子などからレミリアも転生者であることを見抜き、一方的な敵意を向ける悪女キャラ。チンピラさながらの顔芸キャラでもある。
本来のピナはレミリアのケースと同じく「星の乙女(ピナ)の中の人」の状態で身体をなすがままにされしまい、リィナの憑依したピナによる醜悪な行いや心理の数々に深く傷つき、リィナを止められないことにも傷つき、肉体に留まる力を失ってゆく。
攻略対象
- ウィリアルド
第二王子で王太子。レミリアの幼馴染で婚約者。夜会でレミリアとの婚約の破棄を宣言する。
転生者であるため非常に博識で様々な問題を解決しているレミリア(エミ)に嫉妬していたが、レミリア(エミ)もまた苦手なことがあったり、すべてウィリアルドに相応しい王妃になるための行動であることを知り、お互いに心を寄せ合い、将来を誓いあっていた。しかしピナが仕込んだ惚れ薬にかかり、彼女の嘘を信じてレミリアを拒絶し断罪する。
裏では自分よりも上の才能を持つレミリア(エミ)への劣等感と嫉妬が消えず、そのためピナの介入後に落ち込んでいくレミリア(エミ)が「自分への愛故に嫉妬して常にない行動を取っている」という優越感からピナを庇護していた。(これはレミリアに早い段階で見抜かれていたことに加え、番外編で詳細に描写される。)
- デイビッド
騎士の家の産まれ。夜会でピナを支持した。
自身の兄シルベストの剣技やレミリア(エミ)の魔法に劣等感を感じ、自分も強くなろうと一人で森に入って魔物と戦い、危うく命を落としかけたところをレミリア(エミ)に助けられた。
目的のない強さを求めることの無意味さを知り、それを教えてくれたレミリア(エミ)に心の中で忠誠を誓っていたが、ピナが仕込んだ惚れ薬にかかって彼女の嘘を信じ、ウィリアルドとほぼ同じ理由でレミリア(エミ)の訴えを拒絶する。
その後はピナの護衛騎士に就くがピナを不審に思ったスフィアから縁談を破棄され、さらには好感度アイテムの副作用によってピナに振り回される日々を過ごすことから剣技の腕が堕ちるなど散々な目に合っている。
- ステファン
王宮魔導士長の父を持つ。夜会でピナを支持した。
本人は音楽に強い興味を持っていたが、将来は父の跡を継ぐものだと周囲に期待されており、実際に魔法の才覚にも恵まれていたため、音楽については誰にも相談できずに半ば諦めていた。
レミリア(エミ)と出会い、様々な助言や励ましを受け、彼女が褒めてくれた音楽の道と彼女を支えるのに役立つ魔法の道を両立させることを決意していたが、ピナが仕込んだ惚れ薬にかかって彼女の嘘を信じ、ウィリアルドとの仲が拗れた後の弱ったレミリア(エミ)の心を射止めるつもりで放置した。
その後はピナの浪費の皺寄せで人件費削減の煽りを食らった同業者達から白眼視され、魔術師としても音楽家としても表に出られずにいる。
- クロード
レミリアの義弟であり、次期公爵。夜会でピナを支持した。
実の父親である子爵とわだかまりを抱えており、原作では死後に星の乙女(ピナ)が見つけた謝罪の手紙により誤解が解けるが、レミリア(エミ)の活躍で子爵の死期が延びたことにより生きて和解が実現。子爵が病死し公爵家に養子に入ってからもレミリア(エミ)が構い、仲の良い姉弟となっていた。
実はレミリア(エミ)に淡い思いを抱いており、そのことをひた隠しにしていたが、ピナの登場でウィリアルドとレミリアの婚約が解消される可能性を考え、ステファンと同様に傷心の姉を射止めるつもりで放置した。
魔族
絶大な力を持つ冷酷な魔族の王。言わば魔王であり、ゲーム内では隠し攻略対象だった。頭には羊角が生えている。髪色は青色で、嘘を見抜く金色の瞳を持つ。
最初はあらゆる知識を持つ人間のレミリアを警戒していたが、レミリアの(エミとして演じた)心優しい人柄に触れ、長年自身や魔族達が苦しめられ続けていた「狂化」という凶暴化する呪いをレミリアの活躍で浄化された後は彼女に心を許すようになり、やがて親密な関係となっていく。
番外編では、「狂化」に家族や人生を狂わされた彼が、レミリアと出会ったことで徐々に本来の明るさと優しさを取り戻し、幸せを掴んでいく過程がアンヘル自身の視点で描かれている。
- ソーン
レミリアが最初に接触した魔族の商人。
元々は孤児だったが、約20年前に狂化した孤児院の職員からアンヘルとミザリーによって助けられ、人間国に逃がされた。
その後は王都の裏通りで魔族由来の薬やアイテムを売る店を開き、その利益で祖国に援助をしていた。『オトキシ』の世界では課金アイテムを販売する商人として登場しており、本作でもピナは彼の店でそれらを調達していた。
人間国に避難する際、狂化した職員たちをアンヘルが文字通り泣きながら斬り捨てる姿と、最期に理性を取り戻した際に交わした言葉から、魔王として同胞の命を奪う己の責務から逃げずに向き合い続けるアンヘルに対して深い感謝と敬愛の念を抱いている。
レミリアから魔国復興のパートナーとして協力の申し出があったため手を貸し、共に行動するようになる。
それに伴い一度店を畳んだことで、直後にピナが発した「アイテムを作らせる道具(奴隷)として地下牢に監禁する」という計画から間一髪で逃れる(一連の流れのほぼ全てがレミリアの計画通りではあるが)。
最初はレミリアを信じていなかったが、彼女の大胆にして緻密な行動力や計画性に心酔し、彼なりにカリスマ性を感じ取り、改めて本気で支持するようになる。
入植直後時点で読み書き、計算、物資の管理をこなせる唯一の村人だったため入植村の村長を務めるが、本人はあくまで商人が本分としている。
良くも悪くも商人として、魔族の一国民として真っ当な感性を持つが、それ故に常識を斜め上に突き抜けた思考や感性を持つレミリアや他の人物に振り回されることもしばしば。
- クリムト
アンヘルの末の実弟で側近や魔王城の料理番を務める。
兄を支える一方、アンヘルが狂化した時は自らの身を捧げて暴走を止める、という残酷な使命を持っていた。ゲームではこれが現実となりアンヘルが人間界侵略を決意する要因となったが、本作ではレミリアによって回避された。
クリムトも最初はレミリアを警戒していたが、新鮮な食糧を提供されたことで徐々に信頼するようになった。
基本的には穏やかで我慢強い性格で、アンヘルとレミリアの親交を温かく見守っているが、兄の奥手な言動にはしばしば呆れている。
魔国探索に来たスフィアの案内役を務め、親交を深めていった。
狂化の原因が瘴気であるという仮説を、実際に地域ごとの瘴気の濃淡と照らし合わせることで統計的に裏付けるなど、内政の才に優れる。
- ミザリー
アンヘルの実妹で、彼に次ぐほどの魔力を持つ優秀な魔術師。番外編の記述によると長兄アンヘルに次ぐ2番目の妹。
転移魔法の才能があるため、父の遺した狂化の解決策についての研究を引き継ぎつつ、瘴気の影響の受けやすい魔族の子どもたちを、瘴気の少ない別の大陸に逃がしていた。
(※転移魔法は術者単独での使用以外は想定されていないのか、術者よりもずっと魔力の弱い者としか同時に転移することが出来ない。それでもなお術者はしばらくまともに動けなくなるほどの消耗を強いられる)
穏やかで理知的、情愛が深く涙もろい性格で、殺害以外の狂化の解決手段を見いだせない己の無力さに、それでも魔王アンヘルに救ってもらった感謝を伝える子どもの言葉と力強い決意に、そしてそんな子どもたちが立派に成長して祖国を支えられるほどに成長した姿を見て、何より魔族を救ってくれたレミリアに対する感謝と敬意、その心根に触れたとき等、作中で何度も涙を流している。
なお、レミリアと対面した際には感極まった余りに(きちんと許可を取った上で)ハグしてしまい、それを横で見ていたアンヘルは驚愕のあまり硬直していた。
魔術師としても、転移門の材料としてレミリアが持ち込んだ素材から構造や概要を理解した上で「理論上は可能」と判断できるなど、転移魔法についての造詣が深いことを踏まえても相当に優秀である。
その他
- スフィア
貴族令嬢の女性騎士であり、デイビッドの元婚約者。
聡明な頭脳と果断な気性、清廉にして高潔ながら堅苦しすぎないさっぱりとした性格。加えて中性的な顔立ちから同性からの人気が高い。性格に加えて学園在籍時代から他の女子から黄色い声を浴び続けてきたこともあってか、「男女の恋愛というものが向いていないタチ」と自己分析している。
人となりを肩書きや評判ではなく、自身の目でその人のありのままを見て判断する傾向が強く、その上でレミリア(エミ)に対して騎士として忠誠を捧げる理想的な主君として最上級の敬意を払っていた。
そのため、レミリア(エミ)の悪評や罪状に対し最初から疑問を持つと同時にピナの怠惰な行動を不審に思い、独自の調査によって真相に辿り着く。王妃の外遊に同行していたため、断罪の現場には居合わせていなかったことも彼女の違和感を強める要因だったと思われる。
その後、一連の事件についての再調査を「王太子の婚約者を貶める明確な犯罪行為」として上奏しようとするも、ピナのみならず魑魅魍魎渦巻く王宮に握り潰されてしまう。
それでも父を通じて正式な上奏として通そうとするも、保身のためにレミリア(エミ)を見捨てる態度を取られ、王国を取り巻く全てに失望。実家を見限って絶縁し、同様にデイビッドとの婚約も破棄して出奔する。
その後、レミリアの治めるルグラーツェ村で彼女と再会、改めて騎士として忠誠を誓うことを約束し、以降は村や魔国でレミリアのサポートをしながら冤罪を掛けたピナを断罪するために証拠を集める。
ネット上では名前を間違われがちだが「ソ」フィアではなく「ス」フィアである。
ウィリアルドの腹違いの兄。
国王の長男であるが、正妃が生んだウィリアルドと違い、側妃が生んだいわゆる庶子であるため王位継承権は低い。
ゲーム上では攻略対象ではないモブに近い存在で、側近とよく街へ遊びに行き、周囲からは道楽王子と呼ばれていた。実は母親は魔族でハーフ。
弟の凋落を受けて行動を起こすことを決意し、求心力を高めていく。
初出のweb版ではほぼ名前だけ存在しているモブキャラ同然だったが、コミカライズ版でのビジュアル公開とオリジナル描写を皮切りにみるみるその背景と周辺人物設定が肉付けされていった本作きっての出世頭。
???「えっ!?ビジュの雰囲気違わない!?よくない!?」
- ドレリアス伯爵夫人
ソーンが裏通りに店を構えていた頃からの顧客。
かなり整った顔立ちだが恰幅も良く、そのため彼の取り扱う痩身薬を愛用していた。
慎重だが好奇心旺盛な性格と評されており、自身の領地でソーンの店の再開を打診された際も「旨味はあるが権力に楯突く気は無い」として一度断っている。
業務提携を結んだ後は魔族の製品を積極的に広めるなど、元々の影響力を駆使して社交界を席巻していく。
- ロレーヌ子爵
「芸術と美の貴公子」と称される、道楽者の貴族。「人生エンジョイ勢」とでも形容できそうな陽気で享楽的な性格。
ソーンが裏通りに店を構えていた頃からの顧客だが、主に何を購入していたかは不明。
呼び名の示す通り芸術や美しいものをこよなく愛しており、魔族の持つ人間には無い身体的特徴も「美しいもの」としてかなり好意的に受け入れた。
レミリアの提案する「魔族が広く人民に受け入れられるための策略」の拠点として、自身の領地での新事業展開を快く許可した。
コミカライズ版の読者からは動きがうるさいともっぱらの好評。
- グラウプナー公爵&公爵夫人
レミリアの実親。ゲームでは「悪役令嬢レミリア」を生み出した元凶。夫婦揃って先代から譲り受けた地位と領地を利用して贅沢三昧に浸る、爵位の座に不相応な無能にして、権力と野心だけは無駄に大きい俗物たち。
レミリアが愛情に飢えた人間になってしまったのはこの父母のせいであり、家族の情など無きに等しく、自分たちは社交界へ根回しする為の豪勢なパーティーを連日開いている横で、レミリアの事は使用人の1人すら付けること無く離れに追いやっていた。
レミリアとウィリアルドの婚姻は、すなわちこの2人の権力拡大にも繋がる為、王家からは更なる権力の私物化を警戒、牽制の策を密かに模索されていた。
レミリアに対する断罪劇が実現してしまった原因の半分は彼等の所業と人格によるグラウプナー公爵家に付いて回った悪評のせいと言っても過言ではない。
登場人物を可能な限り救いたいと願うエミですら、レミリアと両者の親子関係を修繕しようとは思わず、精々自分の開発した魔導具の悪用や軍事転用を防ぐよう口論になったという程度な辺り、エミからも救いようの無い人間と見なされていた可能性が高い。
断罪劇ののち、レミリアの提案でレミリア製魔導具の権利譲渡を対価に辺境の廃村の自治権を求められ、それを承諾するが…
遊戯王:主人公が1つの身体を2つの人格で共有し、切り替わる。ただしこちらは両人格が意思疎通をしており、本作のように一方的なやり取りではない。互いに意志疎通しないパターンの憑依も登場する。
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