「悪役令嬢」の原意に関しては、悪役令嬢の項目を参照。
悪役令嬢ものとは
物語の設定(物語のパターンや、世界の運命として、あるべき姿)において本来悪役令嬢とされるべき存在(人物・キャラクター)が主人公ないしはヒロインとして登場する作品。悪役タイプの造形のキャラ自身が主人公・ヒロインの場合と、小説・ゲームの悪役令嬢キャラないしその周辺人物に読者・プレイヤーが転生してしまうものの二種に大別される。結果的に悪役令嬢とは名ばかりの令嬢となることも少なくない。
2010年代以降、小説家になろうに代表される小説サイトで隆盛を得てより以降、新たなるメインストリームとして支持を得て定番化したキャラクター類型であり、同様の文脈の作品が増える事で「悪役令嬢もの」としてテンプレ化およびジャンル化に至った。
ただし悪役令嬢を主人公に据えた作品は少女小説の方で早く登場していて、森奈津子のお嬢さまシリーズ(1991年~1995年、GAKKENレモン文庫※新装版はエンターブレイン)が該当する。悪役令嬢ポジションの主人公とヒロインポジションのライバルが対立する巻もあり正に先駆者と言えるが、読書対象が小学生向けだけあって苛烈な報復劇は無く、転生・逆行要素も導入されていない。なお同作は、悪役令嬢をタイトルに採用した悪役令嬢ヴィクトリアシリーズ(2009年~、ルルル文庫)にも影響を与えている。
小説サイトでジャンルを引っ張る旗艦作品として有名になったのが『謙虚、堅実をモットーに生きております!(謙虚堅実)』だろうか。こちらは異世界転生(平成令和の現実的な現代日本→昭和の少女漫画的な現代日本)との複合ジャンルだが、「謙虚」がブレイクした事によりなろうでの悪役令嬢物が増え始めた。ただし同作以前にも有名な悪役令嬢作品が存在しなかった訳ではなく、以下の作品が挙げられる。
後発としても様々な作品が存在する。
- 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…(はめふら)』
- 『公爵令嬢の嗜み』
- 『起きたら20年後なんですけど!』
- 『お前みたいなヒロインがいてたまるか!』
- 『悪役令嬢は、庶民に嫁ぎたい!!』
基本的な世界観は、中世~近世ヨーロッパの文明レベルを基準としたファンタジー世界の封建貴族社会が中心(上述の出例では、はめふら・公爵令嬢の嗜み・20年後・庶民に嫁ぎたい!!、などがこのタイプ)だが、あえて時代物や非ファンタジータイプ(上述の出例では、謙虚堅実・お前みたいな、などがこのタイプ)の作品も散見される。
また、悪役令嬢ものは同時に婚約破棄ものであるパターンも多く、「婚約破棄を言い渡された悪役令嬢を主人公に据えた逆転劇」という展開が人気パターンの一つとなっている。
いわゆる従来の(親記事に解説されている)「悪役令嬢の課す試練に耐える、純朴で健気な主人公」という「古典少女向け作品の伝統的テンプレ」に対するアンチテーゼの側面を持ち、作品によっては恋愛による達成譚(男女の協力による成功を是とする物語)やシンデレラストーリー(いわゆる昭和時代ないしは平成時代前期までの少女向け作品において「これこそは女の子の夢であり憧れ」とされてきた要素)を全面否定するヘイト創作(恋愛否定)としての要素も強くなりやすいジャンルである。
「悪役令嬢を糾弾した周囲の人間」や「悪役令嬢を追い落として幸せになった正ヒロイン」を邪悪もしくは愚かに描き、悪役令嬢が逆に追い落とすことで良い気になる、と言うパターンが多く見られ、こういった要素は非常に好き嫌いが分かれる(そうでない作品も当然存在するが)。
特に二次創作でこのジャンルを取り扱う場合は、原作ヒロインを正ヒロインポジションに、オリキャラヒロインを悪役令嬢ポジションに置いて、オリキャラに嫉妬した原作ヒロインが虐めを捏造してオリキャラを断罪しようと試み、捏造がばれてその原作ヒロインが破滅するというパターンになりやすく、原作者や原作ファンを不快にさせないよう注意が必要だろう。
「悪役令嬢もの」のよくある展開
下記テンプレート内容が詳細化されてきたため、こちらでは主に「悪役令嬢もの」でよく見られる展開を記述する。
状況把握
憑依転生した一般人の人格なら現状の周囲からの嫌われ具合や破滅までのタイムリミットを把握し、回避のための計画を練り始める。
時間逆行の場合は戸惑いながらも自身が破滅しないために協力する人間と斬り捨てる人間を精査し始める。(破滅時に忠義を貫いた人物と裏切り者が分かっているため)
破滅回避の種まき
破滅の未来を回避するために、周囲への対応を変えて人当たりを良くして人望の回復を図る。(主に不真面目だった勉強への態度を改めたり、転生前の知識や逆行前の記憶を頼りに領地経営をサポートするなど)突然の変化に周囲も戸惑うが、概ね演技を疑う声は少なく好意的に受け止められる。
攻略対象や周囲の妨害
将来正ヒロインに攻略されて主人公を見捨てる(予定である)婚約者が要所要所で主人公にちょっかいをかけてくる。王子本人のアクションとしては主にパーティー開催の連絡とドレスのプレゼント(これを着て自分と出席しろという命令。相手は王族なので拒否権が無い)や、自宅への凸(大体アポなし。そうして慌てる主人公を王命をちらつかせながら弄るのが好きというS要素持ち)が基本。自身の立場を分かっているならまだ良いほうで、主人公が自分を拒否しないのは王族に逆らえないからではなく純粋に自分の行為を受け止めてくれているんだと勘違いする王子だと関係を持ちたくない主人公にとっては非常に性質が悪い。また、破滅の未来を知らない主人公の家族や家臣からすれば未来の王太子妃という政治上最強のカードは絶対手放せないためどんな手を使ってでも婚姻関係を維持する。
王妃主催のティーパーティー
ほぼ確実に導入される、王妃と有力貴族たちによる茶菓子パーティー。概ね主人公は王族からの命令に拒否権が無いからと渋々参加するが、中には他貴族とのパイプ作りなど目的を持って自ら参加するものもある。勿論ただ茶を飲んで菓子を食べてキャッキャ盛り上がるだけのはずが無く、実際は扇子で上品に口元を隠しながら互いに尻尾を見せないように貶しあう悪口合戦である。所謂貴族階級の序列や身の程を弁えて他国の人間に礼を失さず、同時に目ざとく弱点を見抜く観察眼と知識を持っているかを王妃自身が見極めていることが多いため、そういう意味では選定の場とも言える。
領地のお忍び調査とスラムの洗礼
ほぼ確実に導入される、身分を隠して自身の領地に訪れる主人公の展開。転生した一般人なら堅苦しい貴族としての生活の息抜きとして、逆行した悪役令嬢なら本格的な領地経営参入の前の実態調査として、平民を装って街へ繰り出す。が、何気ない言動や仕草、身に着けた装飾品で貴族であることは周囲の平民には即バレし、概ね貧困世帯の少年にアクセサリーをスられる、または身代金もしくは人身売買目当てで誘拐される。(稀に正ヒロインが裏で糸を引いていることも)もちろん周囲は大騒ぎになるが概ねこんな事もあろうかと主人公を監視していた王国の密偵が王子と完璧なコンビネーションで救出する。婚約破棄を目指す作品なら助けられた借りが出来たせいでますます王子のアプローチを拒否できず頭を抱える羽目になる。
「悪役令嬢もの」の詳細なテンプレート
悪役令嬢ものには様々な話はあるが基本的なプロットは大体共通している。
主な前提
始まり
- もしくは、転生者ではない悪役令嬢が一旦破滅する局面に相対し、その後の身の振り方を考えるか、または何らかの力によって時が巻き戻り、過去に遡って人生をやり直す。
- この場合は尺繋ぎのために過去に自身がいかに破滅させられていったかが年単位で挿入されることもあり、その場合読破には根気がいる。(例:接近不可レディー…8回も逆行しており、過去の破滅人生8回を3年近くかけて連載中)
本編
- だが実は正ヒロインには様々な問題(後述)があり、一方の攻略対象達も様々な理由(正ヒロインの立ち回りがガチで悪魔的に上手だったり、あるいは惚れた弱みだったりなど)から、それになかなか気付けない。
- 断罪を華麗に(あるいは泥臭く、ないしは紙一重のギリギリで)かわした後は実家の権力財力と現代日本(前世)の知識を生かして大活躍。あるいはその回避に疲れた結果、隠居やスローライフに方向転換したがることもある。ただし読者のニーズもとい絶対に悪役令嬢と関わり続けたい攻略対象らの妨害で無理矢理国の危機を救う戦いに巻き込まれる。
- 当初の婚約者より良い恋人をゲット!あるいは悪役令嬢としてのマイナス面が消えたことで関係は改善して婚約破棄に至らずにハッピーエンド!
- 逆に正ヒロインやその取り巻き達は破滅してざまぁ
- もしくは本来の歴史なら敵対していた筈の正ヒロインからも慕われてしまい良好な関係に。
- 世界観として、特権階級の貴族は、権力という大きな力を与えられ、その恩恵で経済的・財政的に恵まれて裕福な生活を享受できる一方で、与えられた権力で個人の力では不可能な大業を果たして力無き人々を守るようにと義務を課せられ、それに相応しい振る舞いをもって役割(課せられた義務)を果たすことを求められる(貴族の役割)という、一般階級には縁がない制約(いわゆる贅沢な悩み)にスポットが当たりやすい。加えて大河ドラマよろしく王位簒奪の陰謀や貴族同士の派閥争いなどの政治的パワーゲームや暗殺祭りも日常茶飯事で、否応なしに他者への警戒を前提にした振る舞いが必要になる。
- 庶民感覚が強い正ヒロインから見て、不可解で不合理に思われがちな礼節や冷淡に見える振舞いに対し、元々貴族として求められる振る舞いと役割を理解している令嬢が語ることにより令嬢側の正しさを読者に伝え、証明させるため。しかしそれを書き表すボキャブラリーは作者に依存するため現代語(パニクる、ワロタなど)が混ざるのはご愛嬌。
もちろん、作品毎に細部は異なる。以下は一例。
本編開始時期
- 舞台となる貴族学園入学より数年前の子供時代。この場合は破滅の未来を回避しようと周囲の環境変化や人間関係改善に行動する。(はめふら・庶民に嫁ぎたい!!・謙虚堅実・お前みたいな、などがこのタイプ)
- 学園入学時点(原作本編開始時)。既にプライドの高いお嬢様という噂や悪名が流れているため、慎重に行動して破滅の回避を目指す。(今度は絶対に邪魔しませんっ!、はめふら絶体絶命!破滅寸前編、などがこのタイプ)
- 婚約者から婚約破棄されて破滅した瞬間。既に破滅後なので楽隠居の為に努力する(嗜み・20年後、などがこのタイプ)。
悪役令嬢自身
- 前世の記憶を取り戻すまでは本当に性格の悪い意地悪お嬢様だったが、前世の記憶を取り戻したことにより人格が前世ベースに変貌し、周囲の環境を改善しようと奔走する。
- このパターンでは上記の本編開始時期によって意地悪お嬢様だった時期が左右される。特に幼い頃に記憶が戻るパターンでは、原作に相当する時期の頃には既に善良な令嬢になっていることも多い。
- 言動がキツイだけで、別に理不尽な意地悪をしているのではなく行動に正しく筋が通っている(貴族の役割を果たすよう口うるさかったり、礼儀にこだわる様を婚約者に疎まれていただけなど)
- ただしこのパターンは異世界転生ではない方が多い(転生前から令嬢でないと説得力が無いため)。
- 正真正銘の悪役令嬢だったが、自らの行為の報いを受けて死刑となったことで深く後悔するも、目を覚ますと若かりし頃に戻っていたため心を入れ替えて善良な令嬢になろうとする。
悪役令嬢の能力
- 令嬢自身の地位と能力のみ。
- 転生前の現代知識+令嬢教育のみで、特殊能力等は無し。
- 悪役令嬢物では現代日本の料理やお菓子等を今世で再現するなど、現代知識を生かした行動は世界に大きく影響しない些細なものであることが多い。ただし、破滅後に楽隠居するパターンでは自身の周りの環境を内政チートのように現代風に整えるものもある。
- また、現代知識の中には「ゲームの知識=攻略対象の抱える悩みやトラウマ、この世界の行く末(エンディング)、世界の秘密(裏設定)」が含まれる事も多い。逆にゲーム完全クリア前に転生してしまって知識が中途半端な場合や、隠しルートや続編の追加キャラクターを知らないというケースもある。
- 知識が半端な場合、「死ぬことは知っているが、犯人が誰かは知らない」などで自らの死の謎を探るところから始めなければならないミステリ風の進行になることも。
- 領地持ちの家の悪役令嬢であった場合は「学園(王都)では高飛車な人を人とも思わぬ令嬢だと思われているが、領地(地元)では子どものころからお忍びで街中に出て遊んでいて市井の人々や領内各土地の実力者とも交流があり、情け深く庶民を守ってくれる責任感ある気高い令嬢として深く慕われている」という設定が付与されるケースも多い。
- 特に原作開始数年前覚醒のパターンの作品では「前世の平民感覚(貧乏舌や貧乏性・勤労癖)が抜けきらず、平民の暮らしが恋しくて」という理由で上記の行動(お忍びで街歩き)に出て庶民に慕われる、というケースもみられる。
- こうした事情のため悪役令嬢の破滅後に領地の人々が「ウチのお嬢にナニしてくれてやがる!」と激怒して、領民たちの中で悪役令嬢に対して恩のある有能な人物が、彼女の手足となって逆転劇のために働き戦ってくれる(そうして集まってくれた人の中に令嬢の運命の人がいる)というケースもある。(新世代前の「従来の悪役令嬢」の結末が、下手をすれば悪役令嬢本人のみならず親兄弟一族郎党縁者領民、老若男女死者赤子胎児に至るまで処罰に及ぶ過酷なものになりやすいのは、この可能性を潰すためのものでもある)
- 神や魔王とも張り合えるチート能力を得た経緯
- 転生特典として神から与えられる。
- ゲーム知識を用いての効率的な修行(弱いけれど大量の経験値をもらえるレアモンスターの無限湧きポイントでレベル上げに勤しんだりするなど)や強力なレアアイテムの収集の結果
- 原作ゲームで悪役令嬢がラスボスや裏ボスを勤めていた場合、その設定が転生後にも反映されて最初から、あるいは条件を満たすことでチート級の能力を得るケースもある。
- 前世の原作ゲームで、レベルアップやDLCがあるゲーム世界に転生した場合は、やり込みや廃課金の結果と言う理由が多い。こういったケースに対しては「やり込みによるレベル上げや廃課金して強くなるのは正ヒロインの方では?」とツッ込まれる場合もあるが、その辺は「キャラクターというガワ(操作キャラ)ではなく、プレイヤーとして鍛え上げられた魂(中身)そのものに努力(廃課金、レベル上げ)の成果が刻み込まれる」という説明が成されることも多い。中にはうっかり使うと、文字通り屍山血河か瓦礫の山を築き上げてしまうため、日常では役に立たず使い道が無いものとして敢えて本人が能力を使わない(使えない)理由付けとするものもある。(上出例で言うと『庶民に嫁ぎたい!!』が、このタイプ)
- 悪役令嬢がお忍び中などに偶然知り合った、怪我を治療するなど小さな恩を与えた小動物などが伝説の神獣や精霊王といった人外の存在の化身(あるいは眷属)で、後々その偉大なパワーで主人公に力を貸してくれる。その場合はもれなくイケメン青年に変身できる人化能力があり、恋人候補に立候補してくる。
- 中には「ゲームのジャンルを間違えてないか」「(前提となる原典の物語内容と)変わってないか」という方向に行っているものもある。
- ただし素で正ヒロインより強いと「悪役令嬢って設定いらないじゃん」となるので少数派ではある。
正ヒロイン
原作のゲームやマンガの設定では以下のパターンが多い。
- 平民や男爵家など本来なら王族との婚姻は期待できない下層の家柄出身である。
- 聖なる力を持っていた、実は上位貴族や(他国の)王族の隠し子だった、親や自身が救国の英雄である、などの理由で本来(出生時)の家柄を越えて王族や上位貴族との婚姻が可能なことについての説明をしている。
- 本来の乙女ゲーや少女漫画の正ヒロインには主人公らしく機知に長けた才女や行動力と強さを兼ね備える女傑、型破りなおもしれー女などがいるが、悪役令嬢ものの正ヒロインはだいたい優しさと美貌が取り柄の受け身タイプである。(とはいえ、「乙女ゲーの悪役令嬢」という超珍しい概念と比べたら「普通の主人公」の範疇ではある)
- 実は腹黒で、同情を買うために悪役令嬢を利用しようと策謀を巡らせる。
- 悪役令嬢と同じく転生者であることが多く、原作知識を利用して逆ハーレムを狙おうとする(が、原作と違う展開に困惑する)。(下記のバリエーション作品「婚約者が悪役で困ってます」がこのタイプ)
- 転生者の場合、世界そのものをVRゲーム、周囲の人々を、あくまでも「キャラクター(NPC)」としてしか見る事が出来ずに相手にも感情や人格がある事実を認めず、きちんとした人間関係を構築することなく、結果として周囲から電波系扱いされて自滅に向かうケースもある。
- 会話例:正ヒロイン「何で反応悪いの!?ここで私が寄りかかれば優しく抱きしめてくれるイベントなのに!」 攻略対象「(またオトメゲーとかいう遊戯の話か……)」
- また、特に悪役令嬢側と同じように原作知識を持つ転生正ヒロインの場合、様々な理由から(たとえば悪役令嬢の前世以上の原典ヘビーユーザーであるケースや、より踏み込んだ場合には「実は正ヒロインの正体は原典の原作者本人」というケースもまれに見られる)原作に関する知識が悪役令嬢(主人公側)を完全に上回っている、という場合がある。その場合は悪役令嬢が後手に回って中々周囲を味方につけられないことも。
- 若しくは正ヒロイン以外の原作知識豊富な転生者がブレーンとして正ヒロインをサポートしているケースもある。
- 実は正ヒロインは敵対国や国内の革命勢力あるいは王家の政敵より、内部から王家や国家を喰い破るために送られたハニトラだった、という場合もある。(嗜み・20年後、などがこのタイプ)このケースでは上述の「裏設定パターン」「ボツ設定残滓パターン」の合わせ技で明示される事もある。また、このケースではハニトラ要員だった正ヒロインには、その自覚が無い(正ヒロインを学園や王宮に送り込んだ者、すなわち原典となる作品内ではモブキャラや設定のみの存在であったはずの人物が、黒幕として言葉巧みに正ヒロインを操っていた)というケースもある。
- 正ヒロイン(ひいてはプレイヤー)が原典ゲームでの攻略にて用いる好感度上昇アイテム(手作りスイーツ、手作りの装飾品や衣類、など)が、実はタチの悪い未発見の麻薬や、依存や服従を促すマインドコントロールアイテムであり、正ヒロインに「攻略」されてしまった者は、のちに禁断症状に苦しんでよりヒロインに依存する事になり、攻略対象たちは最終的には人格が崩壊して廃人に至ってしまう(至らないまでも、その未来をほのめかされて物語から退場に至る)というケースもある。
- これが全面的に押し出されたタイプの例には『弱気MAX令嬢なのに、辣腕婚約者様の賭けに乗ってしまった』があり、同作の続編では「使われた麻薬の解明」によって「第1作では救えなかった攻略対象たちと、婚約破棄を免れる事ができなかった他の悪役令嬢たちを救う」という部分がテーマとなっている。
- 他に、このパターンを扱った作品には『追放悪役令嬢、只今監視中!』などがある。
- 原作通りの良い娘。なので善人となった悪役令嬢とは親友になる事も多い。(「謙虚堅実」など)
- ただし「聖なる力に目覚めた」等の理由で平民ながらも貴族社会に放り込まれた結果、貴族社会の常識とは外れた行動を取り、虐めの標的になるケースもある。この場合でも「転生前は平民だった」悪役令嬢と親友になる事が少なくない。
- 本来ならば悪役令嬢が主導して正ヒロインを虐めていたはずの場面で、逆に悪役令嬢が他の貴族たちによる正ヒロインへの虐めを見過ごせず咎めるなど真逆の展開になってしまい、結果的に悪役令嬢が後ろ盾となって正ヒロインが将来的に虐められるのを未然に防げるようになるケースもある。
- 悪役令嬢と正ヒロインが姉妹という設定のケースでは、本来のルートであれば正ヒロインが家族である悪役令嬢と仲良くしたいのに酷く嫌われていたものが、悪役令嬢が善人となったことで本当に仲の良い姉妹関係になったりする。
- 中には原作の攻略対象そっちのけで正ヒロインが悪役令嬢と親密になり、ゲーム的に見るとまるで「悪役令嬢が攻略されてしまうルート」に突入したような状況になってしまうケースもある。
- 正義感の強い善人だが、恋愛に興味がなく本来の使命のみに心身を注いでいる。
- 原作ゲームの本筋が「聖女が世界を救う」等のストーリーにて、(ゲームのようにプレイヤーの操作が介入しなかったことにより)正ヒロインは恋愛のような寄り道要素を一切行わず勉学や鍛錬に集中しており、原作における攻略対象との好感度も一切上げず興味も示さない(むしろアプローチを迷惑がる)という所謂誰ともくっつかない「ノーマルエンド」まっしぐらなパターン。
- 悪役令嬢と同じく転生者だが、悪人ではない。
- この場合は気弱だったり、正ヒロインなんて荷が重い役は嫌だ等の理由で、原作で本来行うはずの行動に消極的な場合もあり、転生者仲間である悪役令嬢が頼られたり振り回される場合もある。
- 正ヒロインがよくある「新世代悪役令嬢ものテンプレ」を既に知っており、悪役令嬢も転生者であると判断した上で自分が逆に破滅させられるのを恐れて消極的になるなど、悪役令嬢もの自体へのメタ設定のケースもある。
- 原作のヒロインの友人やクラスメイトなど別のキャラクターが転生者だった場合、この人物が原作知識を利用して本来のヒロインの立ち位置を乗っ取って上記の腹黒ポジションで立ち回り、脇役に追いやられてしまった本来の善良な正ヒロイン(原作時点で善良or善良な転生者)を悪役令嬢が助けるという、正ヒロインを善良にしたまま(悪役令嬢以外の)腹黒ヒロインも登場させると言う変則的なパターンもある。
- その一方で、別キャラがヒロインの立ち位置についていつまで経っても正ヒロインが出てこないと悪役令嬢が首を傾げていると、幼少期に転生者によって惨殺されて成り代わられたという恐ろしいサスペンス展開も生まれた。
- 転生者でない場合や「優等生の良い子」でも単に頭お花畑なバカだったり(「綺麗ごとしか言わない」事に対する嫌味の場合もある)、現実味の全く無い理想だけの正論しか言えず政治に対しては無力・無能のために悪い大臣や悪代官に良いように操られてしまったりで、ミクロ視点においては良い事をしていてもマクロ視点においては国を傾ける暗君としかいえない因子を持つ娘だったりする。(例に出すと「貧民対策として国家予算を開放しバラマキ政策を実行して城下(都会)の民たちには聖女として敬われるが、対象が都市部に限定されて地方まで効果が波及せず、地方、特に辺境地などはバラマキの煽りで重税にあえぐ羽目になり、おまけにバラマキ政策のために軍事予算まで削ってしまって国軍・騎士団の弱体化を招き、隣国に侵略の口実を与えて戦争を喚起させてしまい、地方の民には悪女として恨まれる」など。ちなみにこの「正ヒロインの施策のしわ寄せを食らって恨む地方の民」が、悪役令嬢の家が守るべき領地の民だったりする場合もある)
- せっかく悪役令嬢が原作よりも良い方向に変えていたはずの世界を、原作知識によって「原作通り」に元通りにする(悪い方向に捻じ曲げようとする)陰湿なパターンもある。
- 優等生ヒロインが良かれと思ってやったり、腹黒ヒロインがエゴで行ったり、原作との差異を絶対に許さない原作至上主義の持ち主だったりといったパターンがあるが、いずれにしても悪役令嬢や周囲にとっては迷惑な行為である。
- 正ヒロインが主人公の姉妹や義理の姉妹など、幼少期から同じ建物で生活していた場合は、主人公が苦心して信頼を得たメイドや家臣を即座に罠に嵌めて解雇または暗殺させて主人公の逃げ道を潰そうと先手を打ってくる狡猾な立ち回りを見せたりする。
- 悪役令嬢の行動により歴史が変わった影響や、正ヒロイン自体が転生者で行動を変えたなどの理由で、本来のストーリーの舞台から正ヒロインが離脱する(学園系ゲームなのに正ヒロインが入学してこない)等の変則的なパターンもある。逆にゲームの敵役にヒロインの存在を知られて先手を打たれてヒロインが殺されるなんて事も。
- ただこうした場合も所詮は赤の他人に過ぎないので主人公が間抜けな善人のように自責の念に駆られるなんてことはなく、現実逃避か、気分転換を図って終わりになる。大体パートナーとのベッドシーンの口実にされるのが通例
攻略対象
- 画面越しでは見えなかった腹黒さやバカさが露呈する(もしくは、画面越しなら可愛いで済んだ欠点にウンザリするようになる)。そして正ヒロインと共に悪役令嬢を糾弾して、共に破滅する。
- 上述した正ヒロイン腹黒タイプの作品では、顔だけが取り柄で、正ヒロインの腹黒具合をマトモに見抜けないバカ揃い、というパターンも多い。何なら例の断罪劇でもこんな心清らかな正ヒロインが嘘をつくはずがない!という盲目理論を展開する事もしばしば。悪役令嬢が優れていた事や正ヒロインの腹黒さを周囲が説明したり実証したとしても「バカな!そんなはずはない!」と叫んだり「何だと!?俺が間違っているというのか!」「何と無礼な!」と怒る反応しか返さず、一切を認めないどころかまともに話を聞いてすらいない。
- 正ヒロインハニトラタイプの作品では攻略対象の中に諜報部に繋がりの深い人物も含まれ、この人物が正ヒロインにガッツリ篭絡される事で視点が色眼鏡と化し、本来は国防のために必要な諜報活動や情報防護活動を怠ったりする、あまつさえ正ヒロインに対して無自覚に様々な機密情報を流しまくり「俺ってこんな情報も扱ってすげえだろ」とドヤ顔する(そして正ヒロインにおだれられて自尊心をくすぐられ、さらに深みにハマる)というパターンもある。
- 婚約破棄に対して、少しでも自分に有利なよう悪役令嬢に刺客や暴漢を差し向け、傷物や亡き者にしようとしたり、悪役令嬢と婚約していたことで得ていた共有財産やメリットなどの利益を破棄と同時に一方的に略取を目論む、又は悪役令嬢の復讐や出国を警戒して配下や傭兵に処刑を命じて幽閉したり、護送中に事故や強盗を装って暗殺を命じるなど、下手な悪党以上に身勝手な悪辣さを持ち合わせているパターンもある。
- 原作通りの性格だが悪役令嬢の性格が変わったことで悪役令嬢に本当の好意を持つようになり(原作では過去に悪役令嬢に虐められたなどで恨みを抱いていたが、悪役令嬢が虐めないどころか虐めから守ったことで逆に悪役令嬢に好意を持つ等)、正ヒロインへの興味が薄れる。
- この派生として、原作で彼に好かれるはずだった正ヒロインも悪役令嬢を慕っており、大好きな悪役令嬢を取られまいと、正ヒロインと攻略対象の間で火花が散るパターンもある。
- 逆に悪役令嬢の方が非常に鈍感だったり、本来結ばれるべき正ヒロインの存在を知るが故に一歩引いてしまいなかなか結ばれないケースもある。傍から見ると悪役令嬢が攻略対象と交流を深めている構図になるため、家臣やメイドなど外野が勝手に盛り上がって持て囃したり、噂を聞きつけた正ヒロインが嫉妬して過激な報復に動くこともある。
- 特に正ヒロインが悪役令嬢に力関係で上回っている場合、人を使って攻略対象の知らぬ間に悪役令嬢を拉致して娼館にぶち込む、暗殺を装い家ごと焼き討ちにする、家族を人質に取り身包みを剥いで魔物だらけの森などに放置するなど、排除に動く。この時、皇后陛下と協力関係を築いて国王などの権力者に取り入って攻略対象を遠方に出張させておき、攻略対象が事態を把握しても王命を用いて動かないように先手を打つなど、根回しが非常に上手い。
- 攻略対象が未来で悪役令嬢を破滅させる直接の原因につながる場合(断罪を行う婚約者など)、破滅を恐れた悪役令嬢が彼から距離を置くようになり、その行為が逆に(自分はモテて当然と考えている)攻略対象の気を引いてしまう場合もある(所謂「おもしれー女」)。こうしたパターンでは悪役令嬢に近づくために手段を選ばない事が多く、メイドらに「俺、悪役令嬢の彼氏だから」と吹き込んで外堀を埋めようとしたり、「王太子の頼みを断るの?そうしたら君の家の立場はどうなるかな?」と半ば脅しに近い形でデートにこぎつけたりする。立場は相手が上のため悪役令嬢は誘いを肯定するしかないが、あくまで本人に了承させたという建前が作れることからこの手法は多用されている
- 中には家名を捨て他国で人生を再出発した悪役令嬢を探し出し、職場を焼き討ちしたりデマを流して悪役令嬢を失職させたり家族を人質に取ったりして鳥籠に鳥を飼うかのように城の地下室にぶち込む危険人物まで現れる。複数攻略対象がいれば助けが入る事もあるが、もしこの危険人物が作品のメインヒーローであった場合は悪役令嬢は生涯危険人物のペットにされるヤンデレENDになる。これを純愛と呼んでときめく人達がたくさんいるというのだから悪役令嬢の世界は広い。(例:『王子様なんて、こっちから願い下げですわ!』)
- 酷いものになるとパーティーの最中にわざと悪役令嬢に強い酒を飲ませて酩酊状態にさせてなし崩し的にお持ち帰りし、既成事実をでっち上げて婚約にこぎつける現代基準なら犯罪の暴挙に出ることもある。(最も攻略対象にそんな気はないのに周りの執事やメイドが勝手に囃し立ててきたり、悪役令嬢が勝手に飲みすぎて暴走する話もある)要は早いとこ攻略対象と悪役令嬢を社会的に結婚するしかない状態に持っていくための手法である。
- 原作通りの性格だが正ヒロインも転生者だったために振り回される。
- 実は彼も転生者で悪役令嬢と共にこの世界で生きるための協力関係となる。
- しかし、作品によっては外伝として攻略対象視点の転生前のエピソードが長々と始まってしまい、1年近く本編を待たされる事も。(例:『ある継母のメルヘン』)
- または破滅しないために結ばれないよう四苦八苦する悪役令嬢に対してそんなの知るか!君は私と結ばれるのだ!と王族特権フル活用で公的に王太子に見初められた未来の婚約者に祭り上げられる。大体国王の生誕祭など公式の場に無理やりパートナーとして引き摺り出したり、これみよがしにダンスを申しつけたりするのがパターン(自身の立場から悪役令嬢が断れないのも折り込み済)この時の攻略対象は「王太子の私がバックにいるとアピールすれば周りも簡単に手は出せないはず」と考えているのだが、周りは「そうか、悪役令嬢を消せば我が家の娘を後釜にできるのか」「悪役令嬢を捕えて王太子を脅せばこの国を裏から支配できるのか」とアキレス腱を見つけたとばかりに陰謀祭りが始まる。結果、悪役令嬢の周りには毎日のように暗殺者が大挙して押し寄せ、メイドや家臣がガンガン暗殺されて成り代わられ(酷い時には家臣達の家族が人質に取られ片棒を担がされる。当然人質は脅迫の時点でとっくに抹殺済みで、所詮使い捨ての家臣なので攻略対象も容赦なく、悪役令嬢が助命を嘆願しても彼女の知らないところで秘密裏に処刑される。)食事には毎回のように毒が仕込まれて幾度も生死の境を彷徨い、ひたすら悪役令嬢の平穏を脅かす事になる。尚、攻略対象本人はその度に悪役令嬢を慰めたり看病したり助けたり実績を積めるため、この事実に気づくことも無ければ改善することなど絶対にない。
- 原作に攻略対象が複数いる場合、悪役令嬢が攻略対象の一人に好かれる一方で、正ヒロインも別の攻略対象と恋人同士になり、悪役令嬢とも良き友人関係を築く。このパターンでは悪役令嬢・正ヒロイン共に幸せなカップルとなり、ダブルデートになる場合もある。
世界設定
- 舞台となる異世界は前世で見た作品の世界観に酷似した世界で、登場人物等も共通しているが、あくまで似ているのみで「きちんとした現実世界」。
- この場合は前世の現代に存在した創作作品が似ている理由として、現代の製作者が異世界を垣間見たり天啓的にイメージを得て作った(つまり誕生的には異世界→創作作品の順)等と理由付けられている場合がある。
- 一方で、異世界と創作作品が似ている理由については特に触れない作品も多い。
- 世界に原作作品のルールが働いており、正しい展開や設定に導くような運命の強制力が発生する。
- こちらは悪役令嬢が悲劇を回避しようとしていても、世界の方が作品設定のストーリーを起こすべく悪役令嬢を追い詰めるイベントを強制発生させてくる場合がある。
- 例を挙げると「悪役令嬢が正ヒロインにぶつかって怪我をさせるイベント」を回避するためにイベント発生地点と違う場所に移動したらそこへ正ヒロインが現れて転倒。助けようとした所に攻略対象が現れ「正ヒロインに何ということを!君がそんな乱暴な人とは思わなかった!!」と非難してくるなど。
- もしくは攻略対象らに待ち受ける悲劇(多くは家族の死)を回避するために奔走するも、超常的な現象(落雷や地割れなど天変地異)や、突如現れた謎の暗殺者や魔物によって原作通りの被害が齎される。酷い時は原作より被害が拡大している事も。
- もし悪役令嬢が開始時点で子宝に恵まれていたり、聖なる力を持つ獣に懐かれていた場合、肝心なところで言いつけを破って勝手なことをしでかし、騒動を巻き起こす。大抵の場合、攻略対象に助けられて借りができてしまい、そのことを盾にされた悪役令嬢が攻略対象の手玉に取られる(例:『皇帝の子供を隠す方法』『あなたの後悔なんて知りません』)
- また、原作でキャラ設定として記述されていた特異な能力等を登場人物が唐突に発動する、状況が異なるはずなのに原作で発生していたイベントが脈絡なく同タイミングで起こる等、現実として考えると不自然な事象が発生することもある。(例えばモンスター襲撃イベントを防ぐために騎士団に命じて近隣のモンスターを狩り尽くしたのにイベント発生日になるとどこからともなくモンスターが出現して襲撃イベントが発生してしまう、友人の病気を治療して快復に向かっていたのに急変、若しくは突然暗殺者が襲撃して死亡するなど)
- こちらも世界の成り立ちの裏設定として、実際にゲームから世界が生まれていたり、神のような存在がゲームのルールを支配している等の壮大な背景が解説される場合もあるが、敢えて理由に触れていない作品も多い。尤もそんな事したら最終的に悪役令嬢が「神を倒さないといけなくなる」ため、ジャンル違いもいい所なのだが。
変則的なバリエーション
- 悪役令嬢本人ではなく、その周囲の脇役や名も出ないモブキャラに転生して、悪役令嬢を更生させる事で「巻き込まれ破滅」の回避を目指すパターンの作品もある。例としては『転生先が少女漫画の白豚令嬢だった』や『婚約者が悪役で困ってます』『転生しまして、現在は侍女でございます。』など。
- あるいは悪役令嬢のファンである主人公が正ヒロインに転生して悪役令嬢に接近する『私の推しは悪役令嬢。』のようなパターンもある。
- 転生した悪役令嬢の破滅回避の奮闘を巻き込まれた非転生者の立場から語る作品も存在する。例としては『追放悪役令嬢の旦那様』『僕は婚約破棄なんてしませんからね』などが挙げられる。
- 主人公はあくまでもゲームのプレイヤーでありながら、ゲーム内の登場人物と意思疎通が可能となって推しキャラである悪役令嬢のハッピーエンドのために助言という形で介入する『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』のような変則的な作品も挙げられる。
- また、悪役令嬢物のテンプレートを途中まで使ったもの、つまり主人公の婚約者の王子様が他の令嬢と親しくしだして、やがてその令嬢から主人公に嫌がらせを受けたという訴えがなされ、公衆の面前での断罪イベントが行われるが、実は婚約者は主人公を愛していて、令嬢の父親の不正を調査する一環としてその娘に近づいたのを本当の好意だと思い込んだ令嬢の先走りにすぎず、婚約者自身が虐めが捏造であると暴いてしまうというパターンもある。例としては『虫かぶり姫』などがある。
- 更にそのバリエーションとして鉄面皮の主人公から何らかの反応を引き出すために(要は焼きもちを焼いて欲しい)敢えて他の令嬢と親しくする様を見せつけてくるパターンもある(この場合は偽の恋人役が本当の好意だと勘違いして断罪イベントを仕掛けてくるパターンと、裏事情を察していてちょっと火遊びを楽しんだだけであっさり引くパターンに分かれる)
- 何もかもすっ飛ばしていきなり王子が「○○○○!貴様との婚約を破棄する!」と宣言するお約束のクライマックスから始まり、そこから話を広げるという作品も多数生まれている。ここまで来ると悪役令嬢物のテンプレートを使った大喜利に近い状態かもしれない。(例:『仮面の下が醜いなんて誰が言ったのかしら?』)
- 正ヒロインによる断罪イベントの最中に悪役令嬢に好意的なヒーロー(しかも攻略対象より格上)が救いの手を差し伸べ、悪役令嬢への愛を告白する、というパターン。『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』(隣国の方が大国)等。
- その救いのヒーロー自身にも実は婚約者がいて、悪役令嬢への愛を告白した結果、捨てられた形になったその婚約者が主人公という入れ子構造パターンもある。『乙女ゲームは終了しました』等。
- 原作の時点で正ヒロインが腹黒で逆ハーレム志望の悪女で、公爵令嬢の婚約者を奪うべく嫌がらせを捏造して断罪イベントを起こすが、何股もかけていることや虐めを捏造したことなどを暴かれて破滅。その破滅した正ヒロインに転生という、もはや悪役令嬢物と呼んで良いのか分からないものまで現れた。
- 特に破滅回避の為の行動をとる事もなく、善人だった(ついでに人生経験豊富な)前世の価値観や志向のまま生活していたら結果的に周りから好かれるようになったと言うパターンもある。例としては『悪役令嬢転生おじさん』など。
- 悪役令嬢物の正ヒロインに転生し、悪役令嬢に恨みを買わないような生きるというものも出た。
- そして『異世界転生した特典で攻略対象の功績を全て掻っ攫う謎の何処にでもいるやれやれ系日本人高校生』が慎重に行動する女主人公の努力をひたすらぶち壊し「あれ?俺また何かやっちゃったのか?」とすっとぼけるどこかで見たようなノリの作品も出た。
- 中には江戸時代の岡っ引きが悪役令嬢に転生して丁々発止の大騒ぎを巻き起こすなど、完全ギャグに振り切った作品もある。
派生ジャンル:悪役令息もの
悪役令嬢ものが飽和状態になったためか、上記のテンプレートを性別を変えて(男性主人公として)描写する悪役令息ものともいうべき派生ジャンルも出てくるようになった。
これも「素行不良の悪役キャラが逆行や憑依転生者によって破滅回避のために身の振り方を改め、本来なら敵対する主人公や自身を見限る婚約者に慕われる『正統派ライバル』や『もう一人の主人公』に上り詰める」流れを踏襲するものが主。
このパターンはRPGの中ボスキャラ(魔王軍に与する裏切り者の人間でラスボスの魔王ほど偉くないが行く先々で主人公に立ちはだかり、最終的には主人公に打倒されるポジション)に転生する事が多く、名門貴族で主人公以上のハイスペックイケメンであることが多い。
立場を活かして人道的な為政者となって「内政チートもの」に移行したり、あるいは主人公の仲間を(あるいは主人公が異性であったなら主人公自身も含んで)悪堕ちさせて「ハーレムもの」に移行したりするパターンもある。
「ハーレムものの悪役令息に転生する」パターンもある。
これはいわばハーレムものに対するアンチテーゼという側面が大きいパターンであり、ここでの悪役令息はたったひとりのヒロインに一途というケースが多く、逆に原典の主人公サイドが貞操観念や常識や誠意の無い外道として表現される。
主人公の構築するハーレムを乗っ取るタイプも無いわけではないが、乗っ取った後、それぞれのヒロインに「彼女だけの運命の人」を探してあげて縁結びしたり仕事など他の生きがい(第2の人生)を与えるなどして独り立ちができるように計らうハーレム解体ものへと移行するケースもある。
もちろんの事ながら「悪役令嬢もの」の「悪役令息」に転生する(つまりは原典とされるゲームや小説・漫画における「攻略対象」に転生する)というパターンもある。このパターンでは原典ヒロインへの懸想と悪役令嬢に対する婚約破棄が自らの破滅フラグとして機能するため「原典ヒロインから距離を置く」ことと「原典の自分とは異なり、目の前の悪役令嬢となる運命の相手と、きちんとした(できれば恋愛の)関係を育む」事を目的とするパターンが多い。
ただし、その逆として原典通りにヒロインと結ばれる選択をした後に悪役令嬢側から「ざまぁ」される結末を回避するために奮闘するパターンや、あるいは「破滅フラグの回避を目指す悪役令嬢」に対して「先方が破滅フラグを回避したら、こちらの破滅フラグが立ってしまうため、その回避のために悪役令嬢の破滅フラグ回避を逆に妨害する」という「正義の無い(また互いに悪意が存在せず、ただ生き残ることに必死となる)『戦わなければ生き残れない』展開」のパターンもある。
悪役令嬢の新しい婚約者がこの悪役令息というパターンも出てきた(大抵はメイン攻略対象以上のハイスペックイケメン)。
なろう以外の悪役令嬢
先述した作品の影響もあり、なろうの定番ジャンルの一つ「ゲームの世界に異世界転生」と複合した「乙女ゲームの悪役令嬢に転生した」と言うパターンは非常に多いが、「なろう」他投稿小説サイトにおいてムーブメントを産み出すまで実際の乙女ゲームには悪役令嬢なるものは存在しなかったと言われている。
例えば元祖乙女ゲー『アンジェリーク』のロザリア・デ・カタルヘナはライバルではあっても悪ではなく、続編では主人公の親友になったと明言されている。
一応、明確な悪役が存在する乙女ゲームとしては『耽美夢想マイネリーベ』が存在する。ただし本作は「美少年誘惑ゲーム」というジャンルであり、ライバルは主人公の攻略キャラを堂々と奪い、バッドエンドは悪役令嬢と攻略キャラのダンスシーンを見せつけられるという典型的な悪役である一方、主人公もそれを阻止するために悪役令嬢の家を没落させる、手紙に涙の痕を偽造する等といった悪人並みの最低な行動を行う(流石に漫画版の主人公エリカはそこまで外道ではないが)。
また、同作は発売当時それほどメジャーではなく、内容的にも乙女ゲームの中でも極稀なケースと言えるため、これが現在の悪役令嬢ものテンプレの原型になったとは流石に言い難いだろう。
原意側の項目に書かれているように「悪役令嬢」そのものは童話・児童文学(少女小説)・少女漫画においては、おおよそ2000年頃までに見られたキャラクターであり、ムーブメントの嚆矢となった「謙虚堅実」でも転生先は乙女ゲームの世界ではなく、少女漫画の世界である。
現在の形は、「同じ少女向け(という設定)なんだから、居てもおかしくないよね(居るはずだよね、いや、居ないとおかしい)」という実情を無視した勝手な先入観が「乙女ゲーの悪役令嬢」という概念を捏造させてしまった可能性が非常に高い。
一応、現在の漫画やゲームでもライバル的なキャラクターは登場するのだが、なんだかんだで善人であったり、あるいは実は本人に責任の及ばない外的要因(毒親・虐待・歪んだ家庭環境や教育・洗脳など)によってその立場に追い落とされている哀しき悪役だったりする場合が多く、また本当に悪人だったとしても改心して和解を果たす事がほとんどであり、「破滅する」ようなことは少なくなっている(あくまでも少女漫画の話であって、大友向けは別)。
また童話や児童文学におけるステレオタイプ類型でもある事から、男性(男児)向け作品であっても悪役令嬢に類するキャラクターが登場する事は少なくない。破滅しそうな時に(破滅した後に)主人公に助けられて惚れてしまうのが大方の役割だが。
ここで言う「悪役令嬢」とは、現在はなろう系および、その物語累系を引き継いでいる作品で見られる、独自の存在なのである。
→小説家になろうの「悪役令嬢」概念と「乙女ゲーム」(togetterまとめ)
悪役令嬢ものブーム
なろうにて派生作品が多く登場して、上述のようにテンプレートが整備されてジャンル化してきた事もあり、近年はこのテンプレート自体がなろうとは関係の無い場所で流用される事も増えてきた。『転生悪女の黒歴史』(『LaLa』、白泉社。無原作作品)や、前述した『悪役令嬢転生おじさん』などは、その一例と言える。
2021年~2022年はまさに悪役令嬢ブームで、2021年放送のプリキュアシリーズ『トロピカル〜ジュ!プリキュア』第9話ではゲストキャラクターの山辺ゆなが劇中作『癒されない彼女』(前作『ヒーリングっど♥プリキュア』を皮肉ったようなネーミングである)にて自身のイメージとは違う悪役のお嬢様役をする事に悩む話があったり、2022年のアニメージュ5月号の第44回アニメグランプリの告知は「アニメージュ・コクチーヌ」なる悪役令嬢断罪イベントパロディになっていたりとその影響は軽く社会現象化していた。
pixivでは、イラストよりも小説で使用されるタグであり、小説家になろうではpixiv以上に該当タグの付いている小説を発見する事が出来るだろう。
批判意見
商品化された物のほかに小説投稿サイトなどにも大量の悪役令嬢物が投稿された結果としてジャンルそのものに対する批判意見も見られるようになり下記の事例が見られる。
- 大したことをしていないのにやたら評価されたり、正ヒロインサイドはやることなすこと裏目に出たり周囲から塩対応されたり、肩書きが違うだけで結局は昔の姫巫女ラブ系の一種に過ぎない。
- 口では関わりたくないと言いつつ、ひたすら沢山のイケメンに囲まれて溺愛される様子は、作者や読者の願望の投影が露骨に見えすぎる。
- どの作品も関わりたくないけど断れば家の立場が〜と無駄な忖度をしたり(誘った王太子は自分の想いを受け入れてくれたと決めてかかり、既成事実が作られるためますます逃げられなくなり悪循環)、中には「言葉なんかいらねぇ。お前の身体に直接教え込んでやる」と過程すらすっ飛ばして肉体関係を無理矢理作られて逃げ場を失う(未来の王族と肉体関係ができた以上、婚姻を拒否すれば死罪。免れたとしても世継ぎ争いに巻き込まれて、暗殺対象になるのがオチ)
- 第1話で追放されて第2話以降は遠方の国で冒険者になって無双とか、第1話でざまぁ返しして第2話以降で新しい婚約者にひたすら溺愛されるとか、悪役令嬢要素がほぼ無い「タイトル詐欺」が多い。
- 特にタイトルで「自力で生きていく」と書いてるのに速攻で隣国の皇帝陛下に見そめられて援助されたり、「商売で生きていく」と書いてるのに勝手に追いかけてきた護衛騎士が勝手に冒険者ギルドに登録して冒険者をさせられたり、「もう知りません」と書いてるのに付きまとう元婚約者にされるがまま復縁されてあっさり受け入れるという玉の輿展開はむしろある前提で読んだ方が良いレベルで乱立している。
ただ、こうした批判意見の常ではあるが「きちんとジャンルを理解して行っているとは思えない(全体傾向の一部分のみをかいつまんで行っている)批判」や「まず批判ありきで行っている批判」あるいは「ジャンルそのものが進化しているにもかかわらず、ジャンルの初期に出された批判を何も考えずにコピペして持ち出してきた(=ジャンルの現状に合ってない)批判」も相当量に混ざっている場合もあり、そうした批判に対しては上記のジャンルテンプレートそのものの中に対応反論となる内容があるケースも少なくないので、注意を要する。
一方で当然の事ながら、前述の批判がすんなりと当てはまる作品が少なからず存在することも否定できない(でないと、そんな定型の批判は出ない)。これは悪役令嬢物に限らずあるジャンルが人気になると、特にそのテーマで書きたい訳ではないがPVを稼ぐのに都合良いなどの理由で参入する書き手が激増して、安易にテンプレをなぞっただけの作品やタイトルやタグに悪役令嬢という文言を入れてみただけの作品が大量に投稿されるためである。魔法学園物や異世界転生物もかつて通った道である。
また、ネット小説であるがゆえに、ジャンル初期で未発達の古い作品も、それらの欠点を反映した新しい作品も同一のフィールドで生き残りやすく、ジャンル発展の樹系図が追い読みにくい、と言うのも理由の一つ。そこをきちんと整理して読み込まないと批判の論点を間違えやすい。
……とはいえ、不幸にも初期にそうした「質の悪い作品」に複数当たってしまった読者に、「他に良い作品があるから読んで」と言うのも、難しい話ではある。
良くも悪くもコミカライズやアニメ化すれば一定の作品と言える(時間や人生が勿体ないけどそれでも作品を選んで読みたい場合は多少の参考にはなる)。
逆に、こうした批判を織り込んだ上で、その部分をあえて戯画(定型あるいはパターニングされた上でのパロディ)化する事で物語の効果(伏線・ギャグ・ミスリードなど)として活かしたり、あるいは批判に対応する答えを盛り込んで形にしている作品もあるので「ジャンルを批判したとしても個々の作品の批判には繋がりようもない」事には留意を要する(これ自体は、どんなジャンル・どんな作品に対しても、言える事であるが)。
一方で、「ファンから人気を得た質の高い作品ではあるが、前述の批判点自体は踏襲している」と言う作品も少なからず存在する、と言うのもまた難しい。
チートヒロイン無双や姫巫女ラブを好きな読者層も当然存在するし、作者や読者の願望の投影が露骨に見えすぎると言う事は、つまりそういった願望を抱く読者がいると言う事でもある。タイトル詐欺も、それを気にしないと言う読者は当然いる。
だが、それらは賛否が分かれるジャンル・描写であるため、作品の質以前にそれを受け付けない、と言う読者も当然少なくない。そうした読者に対して、例えば「この作品はチートヒロイン無双が面白い!」と説いた所で、全く無意味であるのは明らかだろう。
これはもう、純然たる嗜好の問題である。「正ヒロインをざまぁする悪役令嬢」が好きな読者と、そういったものを不快に思う読者の溝は、決して埋まることはない。
「安易にざまぁされるための正ヒロインや攻略対象」の存在は、ざまぁ好きにとっては何の問題も無い、むしろ高評価の対象であるが、ざまぁに興味が無い読者にとってはただの安易な展開でしかなく、ざまぁ嫌いにとってはその存在だけで低評価足り得る要素である。
また、悪役令嬢もの固有の問題として、「主人公は善性に満ちあふれていて自分を裏切った婚約者や正ヒロインを許していたが、周囲が主人公に忖度して対立相手を破滅させていく。主人公は何も知らないまま」と言う、主人公が過剰に保護されている作品も少なからず散見され、そういった点も(嫌いな人からは)批判を受けやすい。
要するに「主人公だけ何も気づかないマヌケ」になっている点が批判されている。
特に主人公が許した相手を攻略対象が秘密裏に抹殺し、それを知った主人公が咎めても「何も言うな。俺の愛で忘れさせてやる」と強制ベッドインで誤魔化すパターンは「応援できない」という声が多い。同様に主人公を守るために無関係の家臣や主人公の友人を捨て駒にして助けるという主人公唯一主義も評価されづらい傾向にある。
主人公への溺愛が過ぎるあまり他の人間の命など攻略対象にとっては石ころ同然で、主人公が激昂しても「ああ主人公、キミは怒った顔さえ愛おしい。そのままボクだけを見てておくれ」などとはぐらかして気にも留めない。
周囲も死んでしまった事実は置いといて早く攻略対象を許してイチャイチャしろという流れに物語を持っていく。何なら主人公に「いつまで腑抜けてんだ!友人は何のために死んだんだ」と見当違いの説教を始める輩まで出てくる
そして主人公もまんまと乗せられて「まあ、こんなにも愛してくださるのね!私も許しますわ!だって愛してますもの!」と強引なオチをつける。最も感想欄は「友人を犠牲にしてまで主人公を守るなんて、なりふり構わない溺愛ぶりが最高です!」と絶賛の声も半分ある訳だが。
もちろんそういった要素を極力省いている作品も存在する。ただ、「ざまぁ好きに向けた作品」が、「ざまぁ嫌いにも楽しめるように改善されること」はまずあり得ないので、偏見とも言い難い所があるのもまた事実である。
さらに、ざまぁ特化とでもいうべき悪役令嬢物も出ており、これらは肝心の悪役令嬢の出番がほとんど無く、裏切った元婚約者と彼を奪った正ヒロインが破滅していく様をひたすら描くという内容でざまぁ嫌いの読者からはより一層嫌われるものとなっている。普通の作品のざまぁが好きな読者層ですらこれは悪趣味と眉を顰める事すらある一方、当然それを好む読者層も存在し、断絶はますます激しくなる。
これに関しては「自分の嫌いな作品でも、それを好きな人がいる」「自分の好きな作品でも、それを嫌いな人がいる」とお互いを尊重し、距離を取るしか方法はないだろう。
あとは、バナー広告を無視するスルースキルを鍛えておくことが望ましい。広告の表示自体をブロックするwebブラウザやブラウザプラグインの利用を検討する手もある。
乙女ゲーとの関わり
悪役令嬢物の多くは乙女ゲーの世界に転生している。
では、実際の乙女ゲーの世界をどの程度再現しているかというと、ほとんど再現していない。
小説の表紙・挿絵やコミカライズでは、かつて乙女ゲーム関連の仕事に携わったイラストレーターや漫画家が起用される例もあるせいか、実在する商業乙女ゲームでも悪役令嬢が付き物だと誤解されがち。
だが、前述の通り、そもそも悪役令嬢に該当するキャラが登場する乙女ゲー自体が非常に稀。テンプレイベントである「お前との婚約を破棄する!」宣言に始まる断罪劇も出てこない。少し考えれば分かるし、当の悪役令嬢物でも言及されるように、政略結婚だろうと婚約者がいながら正ヒロインに目移りしたり、正ヒロインが婚約者のいる男性にすり寄ったりするのはイメージが悪い。不倫や略奪愛をテーマにしたゲームでもない限り攻略対象に妻だの婚約者だのを用意してもデメリットばかりでメリットが無いのである。(この手のキャラはむしろ男性向け恋愛ゲームに見られる。例として二木佳奈多(リトルバスターズ!)は散々妹を迫害した挙句、妹の想い人である主人公への略奪愛をやらかしている。)その上、登場したとしても悪役令嬢側の方がまともで正ヒロインや攻略対象の方が卑劣で愚か、などというゲームはまず存在しない。
また、悪役令嬢物には内政物やチート無双物の要素を含む物も有り、その場合は転生先の乙女ゲーが戦闘パートや領地経営パートが充実していて、転生者はそのゲームをやり込んでいた、という設定のものが多い。だが、そういった乙女ゲーもほぼ存在しない。
そもそも乙女ゲーの市場は非常に小さく、1万本売れたらヒット、5万本売れたら数年に1度の大ヒットといわれている。
実際にNintendo Switchでは100作以上の乙女ゲーが出ているが5万本以上売れたのは一作品(ときメモGS4)のみでほとんどの乙女ゲーが売上1万本未満でありよって、凝った戦闘要素や経営要素を入れていたら高確率で赤字になってしまうため、戦闘要素や経営要素があったとしてもミニゲームレベルの簡易的なものでそれ目当てにやり込むような物ではない。本格的な戦闘や領地経営を楽しめるゲームを作りたいなら乙女ゲーでは無い一般のRPGやSLGとして出した方がよほど売上が見込めるのである。
実際、牧場物語シリーズやルーンファクトリーシリーズなど、恋愛要素のある一般のRPGやSLGでなら10万本、20万本売れたゲームはある。特にファイアーエムブレムシリーズなどは1作毎に国内50万本、世界200万本売れているが下記の様な状態で一般的な意味での乙女ゲーとは言えない。
・主人公が性別選択式で男性主人公を選んだ場合は交際相手が女性キャラになる(※最近のシリーズでは同性とも交際可能だったりするが)
・恋愛は数ある要素の1つにすぎず告白などの重要なイベントでも会話テキストだけで処理され、専用のイベントスチルが存在しない
また、現実との比較問題を抜きにしても、「乙女ゲームとして全く面白そうではない」と言う場合が多い。よく考えればこれは当然なのだが、悪役令嬢物の基本的なパターンは「悪役令嬢に転生した主人公が、ゲームで定められた破滅を回避すべく奔走する」と言うもの。つまり、元のゲームを改変する事を前提としている。だが、「破滅を回避した結果、罪のない誰かが不幸になる」と言うのでは、読者の共感を得にくい。
よって「魅力的ではないゲームが、主人公の活躍によって魅力的な世界に変わる」「不幸になるキャラ(大抵の場合は正ヒロインや攻略対象)は愚かで罪のある存在」と言う事にになりがちなのだ。
そもそも、元の乙女ゲームが魅力的で面白そうであったとしても、それは小説本編の面白さにあまり寄与する事はない。
にもかかわらず「面白い原作ゲーム」と「それを矛盾なく改変した面白い本編世界」の2つを作るのは、2つ分の物語を作る以上の手間がかかり、コストとリターンが全く見合っていない。
結果として、「転生先の乙女ゲームはクソゲーばかり」と言う事になる訳である。
なお、この問題は男性向けに多い「MMOの世界に転生」では比較的発生しにくい。こちらのジャンルの場合、ゲームシステムや獲得したリソースが重要視され、元のシナリオが小説本編に深く絡む事はほとんど無いためである。
ただし代わりに、「特定プレイヤー(=主人公)を無双させるために、他のプレイヤーが踏み台にしかならない最悪のゲームバランスになっている」と言う問題は発生しやすい。
これは乙女ゲー転生界隈でも、前述した「戦闘パートや領地経営パートがついているゲーム」の世界に転生するタイプでは発生しうる問題である。例えば「回復職の悪役令嬢」などは、主人公に無双させるために序盤で比較的容易に購入可能な装備品がチート級の性能だが、転生者である主人公以外は誰もそれを使っていない、という不自然な状況になっている。
当然、作者によってはこの問題に気づいており、「原作の乙女ゲームはクソゲーだった」とか「好きな原作ではなかったけど友達に押し付けられるなどしてプレイした」とかの理由付けがなされる事もある。
だがその結果余計に「乙女ゲー=クソゲー」と言うイメージになってしまう。乙女ゲーのファンの中には、こういう風潮を嫌う者も少なくない(もちろん割り切って楽しんでいるファンも多いが)「創作だから混同するな」と言う声もあるが、例えば仮に「悪役令嬢モノのつまらない小説を改変する」と言う作品が別界隈で流行すれば、やはり悪役令嬢ファンも良い気はしないだろう。
そもそもこのジャンルは「執筆者がイメージ先行で都合良く作ったもの」である。
悪役令嬢物のほとんどは実際の乙女ゲーとはかけはなれた内容で、作者・読者ともに乙女ゲーを知らないままに書いたり読んだりしているケースが非常に多いということは留意しておくべきだろう。特に、悪役令嬢物に出てくる頭が悪くて下衆な行いばかりする正ヒロイン(主人公)や攻略対象を見て、実際の乙女ゲーもそういうものだと思い込むのは厳に慎むべきである。
悪役令嬢ものにのめり込みすぎたことで、半可通な知識で現実の乙女ゲームジャンル全体を批判する、小馬鹿にするなどといった残念なファンも見受けられるが、「自分のジャンルを偏見で批判してほしくない」と言いながら、「他のジャンルは偏見で批判する」などと言う行いは断じて許されるものではない。
作者・読者とも、利用させてもらっている側として、元のジャンルには敬意を払うべきであろう。
悪役令嬢もの作品
詳しくは → 悪役令嬢もの作品
関連タグ
悪役令嬢 小説家になろう 主人公 ダークヒロイン アンチヒロイン
転生ヒドイン:悪役令嬢ものにおける原典の女主人公に憑依転生した悪人等を指す語句。
モブ転生:主人公がゲームのモブキャラに転生する作品で、悪役令嬢が作中のメインヒロインとなるケースも存在する。
知識チート:悪役令嬢ものでは主人公が備えていることに定評のあるチート。詳細は個別記事を参照。
月光条例:キャラクターが物語の枠から外れたところで、一個人としてその境遇に思い悩み、行動すると言うコンセプトをもった作品