概要
仏教用語の1つであり、仏教の教義におけるこの世の真理『法(ダルマ)』の中の一つとされ、『苦』とも呼ぶ。
この世における一切の形成された全てのものは、自分の望む通りにはなることはなく、上手くいかず不満で苦しいものであるという意味。
誤解しないでほしいが、これは何も善人・善行に限ったことではなく、悪人や悪行に対しても同じことであり、善悪を問わず自身の行いは思い通りにはそうそうならず、上手くいかない苦しいものとされる。
『諸行無常(無常)』『諸法無我(無我)』と同じく大乗仏教にも上座部仏教にも存在する思想。
『苦』の原因と解決法
仏教では生きることの苦から脱するには、真理の正しい理解や洞察が必要であり、そのことによって苦から脱する(=悟りを開く)ことが可能である(四諦)とする。そしてそれを目的とした出家と修行、また出家はできなくとも善行の実践を奨励する(八正道)。
このように仏教では、救いは超越的存在(例えば神)の力によるものではなく、個々人の実践によるものと説く。釈迦の実体験を最大の根拠に現実世界で達成・確認できる形で教えが示され、それを実践することを勧める。
釈迦は、死後の世界よりもいま現在の人生問題の実務的解決を重視していた。
即ち、苦悩は執着によって起きるということを解明しそれらは正しい行ない(八正道)を実践することによってのみ解決に至るという極めて常識的な教えを提示することだった。
原因
三毒
仏教で最も克服されるべき対象である人間の諸悪・苦しみの根源とされ、可能な限り取り払うべき煩悩であり、『貪』(とん) 『瞋』(しん) 『癡(痴)』(ち)の三つに大きく分けられる。
解決法
四聖諦
釈迦が悟りに至る道筋を説明するために、現実の様相とそれを解決する方法論をまとめた苦集滅道の4つ。
- 苦諦:苦という真理
- 集諦:苦の原因という真理
- 滅諦:苦の滅という真理
- 道諦:苦の滅を実現する道という真理(→八正道)
中道
極端を避けること。快楽に浸ることも、(インドでは一般的な)苦行を行うことも、悟りを得るのにふさわしい手段ではない。
妙覚
空の概念よりも根本的な思想にして、インドの釈尊が菩提樹の下で悟ったとされる境地。
戒定慧(三学)
戒律によって心身を惑わす世俗の物事から離れ、禅定により心身をコントロールし鎮め、智慧を定めることこの世の真理を見極めることで心身に平穏をもたらすことを目指す。
八正道
釈迦の説いた悟りに至るために実践手段。正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念および正定からなる。戒定慧が悟りに至るための目的別の分類であるのに対し、八正道は修行を実践するにあたっての行動別の分類である。
正語、正業、正命、正精進を実践する術が戒律であり、正思、正念、正定を実践する術が禅定であり、正見は智慧にあたる部分である。
- 正見:正しいものの見方、考え方をもつこと。
- 正思惟:怒りや憎しみに左右されることなく、正しい意思で判断し、心の行いを正しくすること。
- 正語:嘘や悪口を言わず、正しい言葉を使うこと。
- 正業:殺生や盗みなどをせず、正しく生きること。
- 正命:行儀良く、規則正しい生活を行うこと。
- 正精進:善いことに向かって、正しく努力すること。
- 正念:正しい意識・思いをもつこと。
- 正定:正しい心を保つこと。
関連タグ
法(ダルマ)