概要
逸話など
- 髪結いの妻・お崎が亭主・八五郎の愛情を確かめようとする噺。
- 孔子の「論語」より郷党篇「廐焚 子退朝曰傷人乎 不問馬」を元にした根多。書き下すと「厩焼けたり。子、朝より退きて曰く、人を傷(そこな)えるか、と。馬を問はず」。
- サゲは「考え落ち」(少し考えてからニヤリとさせられるオチ)。「がっかり」にも「ほっこり」にも受け取れるようになっており、その解釈も聞き手に委ねられる。
あらすじ
髪結いのお崎とヒモ状態の亭主・八五郎は日頃から口喧嘩が絶えない。ある時、お崎は仲人の旦那の所に駆け込んできて「愛想が尽きた、別れたい」とマシンガントークでまくし立てる。しかし、旦那が八五郎のダメな所を散々指摘して「あたしもあいつのそういう遊び癖の悪さにはいい加減腹に据えかねてたんだ。そんなダメな奴とは別れっちまいな」というと、「そんなに言うこと無いじゃありませんか!」と、お崎は何故か亭主を庇い出し、はては惚気まで始める始末。
呆れた旦那が「一体お前さんはどうしたいんだい」と問い質すと、お崎は亭主の気持ちが知りたいという。「友白髪まで添い遂げられるものか、アタシが患ったときに捨てられてしまうのか…」とボヤくお崎。そこで、旦那は「なら一つ、八の了見を試してみたらどうだい」と提案し、2つの話を紹介する。
1つは、むかし唐土(もろこし)にいた孔子という偉い学者の話。弟子が留守番をしていた家で火事が起き、馬小屋も全焼。弟子はみな無事だったものの、孔子が大事にしていた白馬は焼け死んでしまった。弟子はこの事態をどう説明しようか頭を悩ませた。孔子が帰宅してその惨状を目の当たりにするや「弟子に怪我はなかったかい?」と何度も訪ねた。馬のことは一度も口にせず、一切責めなかったため、弟子は「命を捧げても師父を守らねば」と忠心を厚くした。
もう1つは麹町にいた“さる”旦那(お崎は「猿がどこぞの旦那さんなんですか」と問うたところ、仲人の旦那曰くさすがに名前は出せないらしい。演者によっては「殿様」ともされる)の話。奥さんが家宝の皿を運んでいた時に階段を踏み外してしまった。奥さんは皿を傷つけないようにと守りきったが、旦那は顔色を変えて「皿はどうなった」「皿は大丈夫か」と何度も問いただし、奥さんの体は全く気にしなかった。結局、旦那は奥さんに愛想を尽かされて離縁され、生涯独り身で過ごした。
2つの話を紹介した旦那は、「八が大事にしている瀬戸物を目の前で割って、試してやれ。一言でもお前の身を案じるようなら、まだ見込みはあるぞ」とお崎を焚きつける。
お崎は家に戻ると、八五郎が大事にしている皿を棚から取り出す。「今出す必要はないだろう、いいものなのだから丁寧に扱え、気をつけろよ」と慌てる八五郎。お崎は「ああ、やっぱり麹町の猿か」と不安を感じながら、八五郎の目の前で手を滑らせ、皿を割ってしまう。すると八五郎は残念な顔をした後に「おい、お前の手は大丈夫か?ケガはしてないか?」とお崎の心配をするのだった。
「ああ、猿かと思ったがお前さんはヤッパリもろこしの幸四郎だったよ」と喜ぶお崎。「お前さん、瀬戸物よりもアタシが大事かい?」すると八五郎、すかさずこう返す。
「当たり前だ。お前がケガでもしてみろ。明日ッから遊んで酒が呑めねえ」
関連項目
髪結いの亭主:妻の働きで養われている夫をたとえていうことわざ。
めぞん一刻(「一の瀬氏の失業」で一の瀬さんの台詞に厩火事のサゲが使われている)