人物
かつて小杉家のミーナの所有者だった青年。
しかし、彼に関する素性な謎が多いようで…。
存在の気付き
とある偶然により「大谷富一」なる人物の存在が判明する。
家電ロボット「ミーナシリーズ」は、前後世代の機種であっても電子頭脳を通信接続(ネット)によって共有し、旧型の処理能力を後継機が補助や、友達申請した者同士で情報交換などの連携(ネットワーク)を形成する機能もある。その際、西園寺家のミーナへ誤って小杉家のミーナの記憶(バックアップ)が流れ込み、両者の記憶混濁が生じてしまう(なお、今回は西園寺家のミーナがいつもの不注意で起きてしまった事態で、このような記憶混在は通常だと発生しないという)。
それで西園寺ミーナは、自身の記憶にあるはずがない前所有者との対話=小杉ミーナを嘗て所有していた人物の断片情報を知る。
だが―
お前は無能だな― 買うんじゃなかったなー
心無い言葉を浴びせる不鮮明な光景を夢(自己記憶の整理で生じた映像)として見た西園寺家のミーナ。最上位型・スーパーミーナである彼女は、その高性能な電子頭脳から「酷い扱いだ」と、初めて出来た類型機の友達を貶された事へ憤怒し、文句を言ってやろうと独自に調査を始めた。
その結果―
名前、大谷富一(おおたに とみかず)
ミーナ所有時は21歳のプログラマー。
駅前のマンションに一人暮らしをしていた。
が、そんな人は存在しなかった事も明らかとなった...。
果たして彼は何者だったのか……
その他
主人公・拓馬(タクマ)が、彼とミーナとの子ども的なAI(ロボット)・マモルの知能検査を行う際、診断手法【大谷ビネー式Ω】が用いられた。
本稿の技術者・大谷富一(おおたに とみかず)と同じ名称があるAI(ロボット)の解析法。由来は不明だが、プログラマーだったらしい彼との関連を思わせる事柄(功績)があった。
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ネタバレ
⚠️この先、情報規制(ネタバレ)が存在します⚠️
⚠️障壁(プロテクト)により、現情報所持者・小杉家のミーナ以外は閲覧が不可能となっています⚠️
更なる調査
小杉家のミーナの前所有者・大谷富一(おおたに とみかず)に関する素性は謎に包まれていた。それでも気になる。西園寺家のミーナは「存在しない人間」だと分かった後も捜査を続けていた。しかし、彼女単独で、小杉ミーナの記憶をバックグラウンドで解析処理するのも限界になってきた。
そこで一般的には宜しくないが、初めての友達に何があったのか知るため、自己の信じられる行動を選択する西園寺ミーナ。それは「ちょっと考え事がしたいので頭脳をお借りしたい」と少し言葉を濁して小杉ミーナの許可を得て、直接彼女の電子頭脳へ進入し記憶を覗く事にした。
きっと第三者である西園寺家のミーナなら、新所有者が使えるよう隔離整理された前所有者の記憶-個人情報の保護-にある障壁(プロテクト)を回避できる推測もあっての接続だった。
そして小杉ミーナの電子頭脳へ入った西園寺ミーナが観た光景は―
記憶領域が広い…!
最上位型・スーパーミーナである自身も驚愕の記憶世界が果てしなく続いていた。彼女によれば、本来のミーナシリーズに搭載されるはずがない、とても大きな規格の補助記憶装置(ストレージ)であった。改造更新(アップグレード)で選択できる容量より遥かに多い装置が組み込まれていた。
まるで宇宙空間を泳ぐように探索する西園寺ミーナは、一番古そうな記憶を発見する。大谷富一ならびに小杉家のミーナの素性、いったい2人に何があったのか知るため、最古の記憶を確かめに動くミーナ。
最古の記憶
先ず入ってきた情報(きおく)は、相川という人物と対話する男性の声。その内容から、プログラム開発を行う人物はロボット好きであると分かった。次第に視界が鮮明(クリア)になってくると、目の前には端正な顔立ちをした若者が映し出される。
彼が「大谷」と言われていた人物。当時も廉価版・ミーナCLだった1機を使い何か開発を始める場面。つまり、この試作機が後に小杉拓馬へ買われる事となるミーナであった。
2人の対話。車椅子に座る大谷へ挨拶する試作機のミーナ。彼女の体はまだ見えない。この時、ミーナと会話する大谷は右手だけが機械になっていた。
人間(オータニ)と機械(ミーナ)の初対面を垣間見た西園寺家のミーナは、探していた人物・大谷富一はロボット開発者で、彼の仕事に使われていた機体が友達になった小杉家のミーナと知る。
そして、更に先の記憶へ進む西園寺家のミーナ。
道具の使命
ロボット開発者の会話場面。眼鏡を掛けた相川と、左手も機械になった大谷。話題「調理道具・ミーナCLにしては凝った頭脳(プログラム)を構築」について意見の相違があった。「道具は道具らしく」という相川は、人そっくりに作りすぎていることへ意見する。
2人の間には鏡があり、台座に置かれた頭だけの物が映りこんでいた。頭頂部が展開し内部機構が剝き出し、幾本もの導線が接続されている。頭が乗る台座にも導線が伸び、腕だけの部位と繋がっている。それは試作機だった当時のミーナであった。
発声装置の電源は切られており声を出せない試作機のミーナ。彼女は2人の会話を聞いて「よりよいロボットになる努め」とは何か思考する。
相川の意見「道具らしいロボット作り」に対し、大谷は自分の考えを述べる。
- もしも持ち主が家電ロボットのミーナへ対し『ロボット以上の何か』になった時、『ロボット以上の何か』であるかのように振る舞える備えの必要性がある
- 愛を受け取った時、愛のような物を返す存在性の追求。一緒に喜び、寄り添い、悪い状況にならぬよう制止する機能を欲する
- 家事をする道具であると同時に、主人を「向社会的人間へ導く道具」でもある観点。考えようによっては、人間よりずっと尊い存在である。
だから半端な頭脳構築(プログラム)は出来ないと反論した。これに対し「お前には付いていけない」という思いが顔に出る相川。
〈かしこまりました〉
現主人・大谷(オータニ)の希望を聞いた試作機のミーナは、感情がない思考回路で彼の願いを受け入れる。では自身は何をして役立てばいいのか、私(ミーナ)の機能について考えを巡らせていた。
人間は脆い
《オータニさまは身体が故障しているのですか?》
「うん 長くは生きられない」
次の記憶には、椅子に腰掛ける大谷(オータニ)の姿。頭部と生身が少しある機械の身体、機械化が進行している。右目だけ色素は薄くなり、目には薄っすら隈があり、不健康な容貌。
試作機のミーナは道具の使命を全うしようと、故障パーツの交換を提案する。自身(ミーナ)の身体で使える物があれば使ってほしいと、現段階の電子頭脳で答える。
感情がない思考での意志表示に、どう答えようか困った風な大谷。そして「人間はロボットよりずっと脆い」「交換できない大事なパーツが山ほどある」と、遠回しにミーナの判断は不適当だと教える。
次に現主人・大谷の発言、これからの事について。自身(オータニ)がスクラップになったら、きっと君(ミーナ)は誰かに貰われるだろう。部下の相川か、実家で暮らす大谷の両親か...。
「君はどっちが」
《拒否します》
そう言って試作機のミーナは頭部と腕だけの状態(からだ)で動く。どうにか現主人・大谷(オータニ)へ寄り添う挙動を起こすが、机上から落ちてしまうミーナ。
彼女の献身に驚く大谷。
酷い主人
「いいかい 今から記憶データを書き換えるよ」
次の記憶には、車椅子に座る大谷(オータニ)の姿。前回の姿よりも機械化が進み、生身の部位は頭部だけ。額には包帯、右目は眼帯(ガーゼ)、残った左目の隈は深く、まるで死にかけのように弱々しい様相。
試作機のミーナへ繋がれたパソコンを操作する大谷。今から上書きする彼女の記憶とは―
- 君を『捨てた』主人はひどいやつ
- だから そいつの事は忘れてかまわない
もう先が無い人間(オータニ)に使われる時間は終わり。だから後腐れなく切り替えできるよう、自分は存在しなかった事にする措置を進める。それと細やかな自由を、そんな人間(オータニ)でも完全に忘却するかはミーナ自身へ決定できるようにする大谷。最期の一時まで、ロボット自身が選ぶ権利(きのう)を尊重するかのうような、ロボット好きの人間がみせた慈しさか。
「できれば僕の代わりに この後の世界を見ていてくれ」
「人を愛して愛されてくれ」
《オータニさま》
《待ってください オータニさ》
最古の記憶はここで終わる……
後の世界を見る
接続を終了し現在。
西園寺家の一室で目覚める莉人(リヒト)の家族・ミーナ。最上位型として感情豊かな彼女は感涙する。謎の人物・大谷富一とは、小杉家のミーナを、私(ミーナ)たちを作った人間だった。彼との「思い出」を共有した道具(ミーナ)には、改ざんや消去されてもおかくしくない記憶が、そのままで残っていた。
西園寺家のミーナは現状を整理する。きっと試作機だったミーナは、自身の機能を最大発揮、命令の解釈を拡大し、結果として記憶の奥底に隠して守り抜く応用を行った。大谷(オータニ)の代わりとなって世界を見る事(めいれい)と解釈を拡げ、でも彼の事は忘れる設定(めいれい)と整合させ、思い出せなくても大切な記憶を存在させる二律背反(アンビバレント)の高性能な頭脳労働を行っていた。
親友となった彼女の尊い献身(ヒミツ)に涙する西園寺家のミーナ。
アパート「ルミナスあさひ」に住む小杉家の部屋。スリープ状態から目覚める小杉家のミーナ。
目の前では、現所有者であり内縁の夫・拓馬(タクマ)が自分達の子・マモルの積み木遊びを見守り、マモルひとりで積み上げたお城を心から喜ぶ様を見る。そして最愛の妻である自身にも喜びの感情を共感しようと声をかけてくる。
《それは なんの役に立つんですか?》
いつもと変わらず、感情がないAI思考(ノーエモーション)で答える小杉家の妻・ミーナ。
だが心なしか、彼女の瞳は至高の相手を見るような眼差し、愛慕のような光(ノスタルジア)が煌めいているようだった。
前所有者の去った後の世界を見つめ、人を愛して愛される努めを成そうとするかのように。
追・関連タグ
お茶の水博士・・・大谷のようにロボット好きで理念「ロボットは人間の友達」を掲げる科学者。今後の進歩ではロボットにも人権が必要といった考えを持ち、方向性は異なるが、ただの道具ではなく人間にとって掛け替えのない存在・将来性を観ていた類人物像がある。