概説
国産み神事に語られる神器。
『古事記』では本項の記名、『日本書紀』では「天之瓊矛」「天瓊矛」と記載される。
瓊は八尺瓊勾玉と同様に宝玉を意味し、そこから「宝石を巻き付けた矛」と解釈されることもある。
伊弉諾尊と伊弉冉尊の夫婦は、別天津神から大地の創造を命じられ、長い柄を持つ矛を渡される。
二神は共に天浮橋に立って混沌とした海を矛でかき混ぜ、矛を持ち上げると矛先に泥が付いて海へと滴り、それを幾度も繰り返すと水面へと積もっていった。
二神はこの島に降り立って結婚式を挙げ、大八洲と八百万の神々を産んだという。
天逆鉾との関連
天逆鉾は、天沼矛の別名――と単純には括れない。
実は逆鉾には、神仏習合の影響が多分に含まれており、天沼矛が神仏習合によって変質したものが天逆鉾であるというのが、現在における解釈とされる。
先述通り、瓊は宝玉を意味し、神仏習合では宝玉を「金剛石」と関連させた。
結果、習合された逆鉾には梵天の持つ独鈷杵としての側面を与えられ、「破邪の神器」として魔を祓う力を持つと信仰されるようになった。梵天の前身はインド神話の創造神「ブラフマー」であり、ブラフマーの持つ権能と沼矛の性質が混成されたものと考えられる。
よって逆鉾は、金剛杵としての面を語る「金剛宝杵(こんごうほうしょ)」と、破魔の側面を強調する「天魔反戈(あめのまがえしのほこ)」の異称を有するという。